魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~ 作:カイナベル
というわけで頑張って書いていきますよー!ゴールデンウィーク中にもう一本は出したいと思います。応援よろしくお願いします。
ご意見ご感想お待ちしております(ボコボコにいうのはご遠慮ください)。
p.s 今更ながら総合評価二千越えありがとうございます。これも皆様のおかげです。これからも精進していきたいと思います。
真由美たちから逃げ出した錬は、目的地もなく横浜の街を走っていた。とりあえず真由美たちから離れるために。巻き込まないように。別に善意ではなかった。しかし錬がどれほど他人に対して関心が希薄な人間であったとしても罪悪感などの感情は残っている。そのため、自分のせいで周りの人間が傷つくことを良しとしていなかった。そのため、錬は走っていた。
しかし、どこに行こうとはっきり決めて走っていたわけではなかったため、錬自身ここがどこであるかわかっていなかった。かなりの距離を走りぬいたところで、錬は足を止め、端末を取り出して現在地を確認し始めた。盗んだレーションを頬張りながら。
錬が歩いている場所は、横浜中華街近辺。アストラの傍受した情報では今も義勇軍とゲリラ兵との戦闘が行われているところだった。錬が端末で情報を確認し、顔を上げると付近に高い壁がそびえたち、それに囲まれた地域、中華街があった。耳を澄ませると付近では戦闘音が轟き、道には戦闘の痕跡である死体や自立戦車の残骸が転がっていた。それらを横目に見ながら、錬は徐々に戦闘地帯の方に近づいていく。
頬張っていたレーションの最後の一口を口にほおりこみ、曲がり角を曲がったところでいよいよ戦闘地帯に突入した。ゲリラ兵の一人が錬に気付くと、大声を上げ、仲間内に何かを伝える。それを聞いたゲリラ兵だが、ほとんどは錬の方を向かず、もともと相手をしていた連中の相手し続ける。しかし、士気自体は目に見えて上がっている。自分を捕えたら、何か報酬でも出るのだろうか、と余計な推測をしながら、錬は相対した三人のゲリラ兵、恐らく一人は魔法師と向き合う。
錬はハイパワーライフル用の対物障壁を発動しながら、右手に持って剣を構える。ゲリラ兵側の魔法師は、拳銃型CADの引き金をひき、古式魔法の一種である幻影を召喚する。ゲリラ兵側の魔法師はさらに幻影を増やそうとするが、錬がそれを許すはずがない。
錬は対物障壁を展開しながら、魔法師に向かって走り出す。すると残りの二人が広角的に位置を取りながら、錬に向かってハイパワーライフルを打ち出す。錬はその銃撃に対物障壁を広げざるを得なくなり、脚を止めて対物障壁を広げて、弾丸の侵入を阻止する。
その間もゲリラ兵の攻撃は止まらない。ゲリラ兵の映弾丸に混じって、魔法師の出した幻影が錬に向かって近づいてくる。今、錬の出している障壁は対物障壁、物理的攻撃に対しては強いが、魔法的攻撃に対しては無力なものだ。幻影は魔法によって構成されたものだ。幻影は錬の障壁は乗り越え、錬に向かって持っている剣を振り下ろした。
錬はその凶刃を剣でガードしようとするが、幻影の剣は錬の剣をすり抜ける。それを見た錬はとっさに後ろに跳び退り、剣を回避する。幻影を物理的に対処ができないと判断した錬は、幻影を魔法的に消し飛ばすために、汎用型CADを操作し、幻影に向かって領域干渉を発動し、干渉波を投射する。すると、幻影はもとより何もなかったかのように霧散する。
早急に魔法師を対処しなければと思った錬は、魔法師に向かって走り出そうとするが、側面から銃撃を放つゲリラ兵に妨害される。しかも、その二人は対角線に立っており、一方を相手取ると、もう一方に集中攻撃を食らってしまう位置取りをしていた。
銃撃を防ぎながら、埒が明かない、と思い始めていた錬は、幻影の凶刃を躱し、銃弾を防ぎながら、どう対処するかを考えていた。対処法を大まかに考えた錬は、思考を頭に集中し、本棚から魔法式を魔法演算領域に直接送り込む。これが錬の奥の手。図書館から魔法式を直接魔法演算領域に送り込むことで、CADを経由せずに魔法を発動するといったものだ。これはフラッシュ・キャストと同等、あるいはそれ以上の速度で、CAD以上の数の魔法を発動できるというまさに錬の切り札だった。同時発動、複数発動、遅延発動も思いのままで、かつ本棚からの発動のため、秘匿とされている魔法の発動も可能である。
しかし、こんな万能と思われるような、この技能にも弱点はある。本棚をフル活用して使うために極端に頭を使うのだ。その負担は尋常ではなく、それに合わせてカロリーもかなり消費してしまう。その量、一時間で七千キロカロリー(水泳のクロールを一時間でおおよそ千キロカロリーを消費する)。そのため、錬はこの技能を日常的に使うのが好きでなく、CADでの戦闘を好んでいた。
錬は三人のゲリラ兵に向けて、いや付近の空間に対して、魔法を発動する。発動した魔法は加重系統の魔法。半径十五メートルのすべての物体を錬の方向に向けて、引き寄せるものだ。(もちろん錬に激突しないように五十センチメートル手前で停止するようになっている)。魔法によって一定の距離を取っていた三人のゲリラ兵は抵抗を許さず、錬に向かって飛翔する。その間に錬は左手の模擬刀、いや自立戦車からもぎ取ったチェーンソーを振りかざす。
三人が同時に五十センチメートル地点で停止した瞬間、移動魔法を発動。錬は円を描くようにして回転しながら、移動魔法が付随したチェーンソーを振りかざす。その円状にいた三人のゲリラ兵はその一撃に耐えられず、三人まとめて、吹き飛んでいく。恐らく死んではいないが、行動停止に持ち込んだため、もはや錬が手を下す必要性はなかった。
三人が敗北したことと、錬の近くで戦っていた一条将輝が叫喚地獄で一般兵を屠り、魔法師を倒したことで、ゲリラ兵が中華街に逃げ込んでいく。一条将輝は追撃のために、中華街の開門を要求する。錬はその間、光学迷彩の魔法を使い、視認されないようにして、付近のビルの上からその一連の様子を注意深く観察していた。
すると、呼びかけのすぐ後に門が軋みを上げながら、開いていく。出てきたのは貴公子的な雰囲気を纏った青年。その後ろに何人かの黒服集団。彼らは拘束した侵攻軍兵士を連れている。錬はその青年の第一声、そしてその後の言葉に聴覚を集中させる。
「周公瑾と申します」
「……周公瑾?」
一条が疑問の声を上げるのも無理はなかった。周公瑾とは三国志に登場する軍師の名前。それと同名であれば、驚いてしまうだろう。しかし、その青年は慣れているのか淀みなく返答する。
「本名ですよ」
「失礼した。一条将輝だ」
それを聞いて一条も名乗る。その直後、錬の身体がびくりと震えた。周公瑾の眼が錬の方を向き、錬の眼とあったのだ。
だが、錬はびくりと震えた身体を抑えると、隣のビルに移り、本当に見えているのかの確認をする。隣のビルに移ってもなお、周公瑾の眼は錬から離れることがなかった。最終確認をするために、錬はCADを周公瑾に向ける。すると、今度は周公瑾の身体が小さく揺れる。これで確実に錬のことをみえていると確信した錬は、その場を一条に任せ、逃げるようにしてその場から離脱した。
「どうかしたか」
「いえ、問題ありません」
一条と相対していた周は体が小さく揺れたことを一条に心配される。しかし、一条もなぜ、周が不自然に揺れたかの理由は分からなかったらしく、深く考えずに元の会話に戻った。周は低姿勢で一条に接し、ゲリラ兵を一条に差し出す。
「私たちは侵略者と関係していません。むしろ、私たちも被害者です。そのことをご理解いただくために、協力させていただきました」
一条はその主張にいまいち腑に落ちないと言いたげな表情ではあるが、ゲリラ兵の受け渡しに応じる。しかし一方の周はその最中も、そのことなどすでに頭になく、別のことが頭を占めていた。
(あれが話に聞いていた少年ですか。彼の力を借りることができれば、私個人の目的に近づくことができそうですね…どうにかコンタクトを取れるといいのですが…」
周の頭の中はすでに錬とどのようにしてコンタクトを取るかでいっぱいであった。
「隊長、我が軍が後退を始めました」
「そうか」
部隊の部下の報告を聞き、陳祥山は頷く。今回の作戦の目的である機密文書の奪取。その実行部隊の隊長である陳は、魔法協会関東支部に部下たちと向かっていた。
「我々はこれより作戦案二号を実行する。呂上尉。個人的に思うところはあるかもしれんが、報復は考えるな。価値の定かでない聖遺物にこだわったのがそもそもの間違いだったのだ」
「分かっています」
呂は完全に自制のきいた声で上官に答えた。しかし、呂の内心は湧き上がっており、出来ることならばもう一度戦いたいと思っていた。今ならば勝てる。本来の装備を付けた今ならば勝てる。そうも思っていた。
その呂の内心を知ってか、はたまた知らずか、陳は呂に対してもう一つ指令を下す。
「また、ウロボロスが暴れまわっているという情報が入っている。魔法協会支部に現れた時には……、呂上尉、君に任せよう。殺さなければ何をしてもかまわない」
思わぬ合法的な復讐の機会を得た呂は、大きく広角を上げて、歓喜を孕んだ声で陳の指令に答える。
「了解」
「あっ!」
「美月、どうしたの?」
ヘリに乗ってから、率先して見張り役を務めていた水木が声を上げた直後に深雪が問いかける。それによってヘリを包んでいた重苦しい雰囲気が霧散する。
「えっと、ベイヒルズタワーのあたりで、野獣のようなオーラが見えた気がして…」
「野獣のような?好戦的で狂暴な、という意味?」
幹比古が呪符を取り出し、術を発動し、ベイヒルズタワーを視る。
「敵襲!?」
驚愕の声を上げる。
「確かなの?」
「でも敵は義勇軍が押し返しているはずよ」
エリカと花音が続けざまに問いかけるが、敵が少数精鋭であること、敵の一人がとてつもない強敵であることを伝えると、ヘリに通信が入る。その間も幹比古は敵の動向を術で見続ける。
「あれ…、おかしいな」
「どうしたのよ」
エリカの問いに幹比古は戸惑いながら答える。
「いや…恐らく一番の実力者だと思う敵がいきなり反転して、ベイヒルズタワーとは逆の方向に走り出したんだ」
「はあ?」
あまりにみょうちきりんな言葉に全員が疑問を孕んだ溜息を吐く。幹比古しか現場を見ることができていないため、他の皆は全くイメージできていなかった。
「ちなみにどんな男よ」
「やたらとごつくて、変な鎧とトンファーを装備してる。……あっ、今度は何もないところに攻撃し始めた」
「おそらくその男、呂剛虎よ。兄上から聞かされたことがあるわ」
「誰だ?そいつ」
エリカの言葉にレオが反応する。その言葉にエリカは興奮した様子で答える。
「強敵よ」
短く答えたエリカの言葉にレオは全くひるまず、どう猛さを含んだ笑みを浮かべる。
「でもそんな実力者が何であんなことを…」
だが、幹比古の上げた声で二人は現実に戻される。確かにエリカの兄、修次と同等レベルの人物がそんな意味のない行動をとるのは解せなかった。すると、そこに真由美が戻ってきて指示を出し始める。
「とにかくあの敵は私たちで迎撃しましょう。深雪さん支部のフロアを守って。責任を押しつけるみたいだけど、最後の砦を任せられるのは深雪さんしかいないわ」
ここで全員一度に対処できるのに、と思った深雪であったが、おとなしく指示に従うことに決めた。
「壬生さんと桐原君、光井さん、そして平河さんはヘリと柴田さん、そして深雪さんの護衛を。五十里君、花音ちゃん、吉田君は白い鎧以外の敵兵を抑えてもらえるかしら」
真由美の有無を言わさない、覇気のある声に皆は頷く。そして真由美は摩利の方を向く。
「摩利」
「ああ。言われなくても、あの男は私たちで倒す。エリカ、西城、お前たちにも手伝ってもらうぞ」
「いわれなくても」
エリカは短く答え、レオは黙ってうなずく。こうして全員の役割が決まり、いざ出陣といったところで、ヘリが大きく揺れた。
呂は任務のために暴れて敵の目を引き付けるとともに、錬の到着を心待ちにしていた。呂は軍人である以上に武人である。錬に対して復讐したいと腹の中で強く思っていた。特別鑑別所でも一度敗北していたが、その時は三人が相手であった。呂自身、負けの原因を人数のせいにするつもりはなかったが、数で押し切られた感はなかったとは言えなかった。しかし、錬の時はどうか。たった一人の、なおかつ学生に手傷を負わされた。そのショックは呂の中でくすぶっていた。そのため一度体とプライドに傷をつけた少年。その少年に自分の強さという刃を突き立てるため、呂は錬を探していた。
魔法協会の職員が打つ機関砲を鋼気功で受けながら、バリケードの装甲車を弾き飛ばしていく。その本来の装備は白虎甲だけであったが、今回はトンファーも装備していた。これは錬の錬成を想定してのものだった。錬の錬成が素手でしか扱えないと推測した呂は、素手以上の間合いが出せ、自身の動きに会った武器、トンファーを選択し、今回の戦闘に持ち込んでいた。その先端には刃がついており、全体は強固で軽い合金で作られていた。
すると、呂は本能的に察知し、しゃがみ込む。すると、呂の上を空気弾が通っていき、破壊した装甲車に着弾する。装甲車の状態から威力こそ高くないが、それが自身を狙ったものであることを察した呂は攻撃の方向を向く。そこには何もなかったが、動物的本能で知覚系魔法を使用し、そこをもう一度見ると、そこには片手を地面と水平に上げた錬が立っていた。錬は呂に向かって指を三回曲げ、挑発をする。因縁の相手に再会した呂は、これ以上にないほど口角を上げて、錬に向かって自己加速術式を使い、突っ込んでいく。
錬は突撃してきた呂のトンファーを右手の剣で受け止める。しかし、その一撃は想像以上に重く、錬は大きく吹き飛ばされる。がしかし、錬は空中で体勢を立て直し、何事もなかったかのように着地する。
呂は錬が着地すると同時に、距離を詰めなおし、全身を使った息つく暇もないほどの連撃を繰り出す。錬はそれを剣やチェーンソーで受け止め、合間を縫うように躱していく。こうして全力の呂を躱せるだけ、やはり錬も大概であるということだろう。
錬もタダで受け続けるつもりはなかった。錬は持ち手、傘の柄の部分で呂の腕を引き寄せるようにしてひっかけ、もう一方のチェーンソーを振り下ろす。しかし大きすぎたためか、呂に簡単に受け止められ、距離を取られてしまう。大型機械には向いていたチェーンソーだが、呂の素早い動きにはあまりに向かないと判断した錬は、形状を変えようと、錬成を発動しようとする。しかし呂の素早い動きの前にそれはキャンセルせざるを得なくなる。
呂のアッパー気味の攻撃を見切った錬は、呂の手首付近を踏みつけるようにして回避しようとする。しかし、その攻撃は錬が思っていた以上に強かった。恐らく呂がサイオンでブーストをかけていたのだろう。
錬はその攻撃の余波で空中に投げ出される。その高さはおおよそ三十メートル。いったいどれほどブーストをかけていたんだ、と悪態をつきながら錬は体勢を立て直す。が、呂は空中にとどまっている錬を待っているほど、のんきな性分ではなかった。呂も空中に身を飛ばし、錬に追撃をくらわそうとする。
しかし、今回は余裕のある錬は本棚から、スピード・オブ・Fと足の裏に小さく対物障壁をを展開する。今回の障壁は小さい代わりに対物防御であればファランクス並みに防御力を上げている。飛んでくる呂のアッパーに対して、踏みつけるようにして防御する。すると両者はその余波で、攻撃とは逆の方向に吹き飛んでいく。
上空に打ち上げられた錬は、スピード・オブ・Fの影響もあり、かなりの高さまで打ち上げられる(この間、ずっと光学迷彩の魔法を展開し続けている)。チャンスだと思い、錬は錬成を発動する。その瞬間、錬は嫌なものを背中に感じ、後ろを確認する。すると、進行方向にヘリが飛んでいた。このままではもろに激突すると判断した錬は、スピード・オブ・Fでそのヘリの側面に着地できるような体制になる。そして錬はそのまま、ヘリの側面に着地した。
「きゃあ!何が起こったの!?」
突然の揺れに驚いた真由美は反射的に声を上げてしまう。ヘリに攻撃を受けたと思った幹比古はおおよその地点を確認する。しかし、そこには傷一つなく、きれいなままであった。そのことを疑問に思い、頭をひねっていると、次に現れた光景に驚愕する。戦闘にすべてのキャパシティを割くことに決めた錬が光学迷彩を解き、幹比古たちの前に姿を現したのだ。
「錬!」
幹比古の言葉に全員が何かしらの反応を見せる。その多くは驚きを孕んでいた。すると、摩利が飛行中であるにもかかわらず、ヘリのドアを開ける。風がヘリの内部に入り込み、全員の恰好が乱れるが、そんなことを気にするものはここにはいなかった。摩利がドアの向こうに体を乗り出してヘリの側面を見ると、錬がヘリの側面に
「錬君!いったい何をやっているんだ。呂剛虎と戦っていたのは君か!?」
摩利は錬に問いかけるが、戦闘に集中している錬の耳には全く届いていなかった。
続々とドアから顔をのぞかせて錬の動向を見る面々。その間も錬は呂との戦闘のことを考えていた。
(少なくともこのチェーンソーはもういらないな。盾にでも作り変えるか)
錬は錬成を再び発動させ、チェーンソーを撫でる。すると、チェーンソーが溶けるように流動し、すぐさま意思を持ったように形を変えていく。チェーンソーの無骨な見た目は見る影もなくなり、代わりに薄く、小さいながらも頑強さが目に見えて見える盾、(その中でも目を引くのはこのような機能美重視の盾には似つかわしくないように盾がX状の造形になっていることだろうか)に変化した。
錬がヘリに立ちながら行っていた行動はもちろん摩利たちに見られており、錬の行動は摩利たちを唖然とさせてしまうこととなった。その中でも錬はさらに自身の装備を変化させていく。余ったチェーンソーの部品は錬の剣の持ち手を保護する装甲へと生まれ変わった。
「おい錬君!君は一体これからどうするつもりだい!」
「あの呂剛虎を倒すんだったら、連携して攻撃した方がいいわよ!」
「というか何だ今の!」
摩利、エリカ、レオの必死の呼びかけによって、やっと錬は一校の面々のヘリであることに気付く。錬は摩利たちの方を向くと軽く手を振る。
「おいまさか!ここ地上から百メートルだぞ!錬君!」
錬は合化魔法を解除。すぐさまスピード・オブ・Fを展開して、地上百メートルからの自由落下を始める。およそ数秒で地面に到達し、今まで小さくしか見えていなかったろの姿がはっきりと見えるようになる。
錬は風を使って安全に着地する。その間、呂には動きは無し。待っているだけなのか、いつでも屠れるという気持ちの表れなのかは本人にしかわからない。しかし錬にとってそれは好都合である。すると、呂は錬に向かって話しかける。
「待っていたぞ。貴様に借りを返せるこの時をっ!」
「貸した覚えもないし、返される覚えもないからぜひとも帰ってくれ」
一度簡単に会話を終えた二人は、同時に動き出す。錬は特化型CADを操作し、エア・ブリットを放つ。呂は自己加速術式を使い、錬に突進する。錬の空気弾が呂の突進を防ごうと呂に向かうが、呂の強固な守りによって防がれてしまう。両者の距離が三メートルになり、呂がトンファーで錬の右腕を砕こうと振りぬくが、錬はスピード・オブ・Fの速度を活かし、攻撃を回避する。
「ひとっ走り、付き合えよ」
錬はそう呟くと走り出す。その速度は自己加速術式に並ぶ、あるいはそれ以上の速度であり、今日一番の速度をたたき出した。その速度を活かし、錬は呂にヒットアンドアウェイの攻撃を放っていた。その攻撃の速度は呂でもとらえきれず、アダマンチウムの剣もあり、徐々に呂にダメージを蓄積していた。
が、ここでピンチが訪れる。一つ目が錬の身体にかなりの負担が溜まりつつあること。そもそも二百キロ以上の速度は人間の出していい速度ではない。合化魔法で誤魔化してはいたが、それもそろそろ限界に近づいていた。さらには呂にダメージを与えられていないという心理的要素もそれを加速させていた。確かに小さな傷は与えられているが、効果的にはなっていなかった。アダマンチウムの剣であるというのにだ。ここには錬も敵ながら純粋な尊敬の念を抱いていた。
それでも錬は走ることをやめずに攻撃を続けていた。が、攻撃を受け続けていた呂に変化が生じ始める。次第に連の動きに慣れ始め、反撃をしてくるようになったのだ。回数こそ少ないものの、徐々に攻撃が深くなっていく。錬も盾を使って防御するが、呂の攻撃が徐々に、盾をすり抜けるような、盾の無い部分を的確にとらえる攻撃になっていた。このままではまずいと判断した錬は、攻撃方法の変更を選択した。スピード・オブ・Fをそのままに一度距離を取り、遠距離での攻撃をメインとする作戦へと切り替えることにした。
が、ここで錬は驚きで身が固まりそうになった。見てはいけないものを見てしまった。そんな感覚だった。攻撃を受け続けていた呂がいきなり口角を上げたのだ。錬の動揺を察したかのように、呂は右腕のトンファーを手放して、近づいた錬の右手に握る剣をつかんだ。錬はそのことに驚愕するが、このまま掴んでいるのは危険だと判断し、剣を手放して呂から距離を取る。
呂は掴んだ錬の剣を放り投げると、勝利を確信したかのような顔で錬に接近して波状攻撃を仕掛ける。剣を失った錬は盾を使用しながら、防御することしかできない。また、錬の身体にはかなりの疲労がたまっており、動きはかなり鈍くなっていた。呂の攻撃が錬のガードをすり抜け、錬の身体を傷つけ始める。トンファーの刃にまだ当たっていないのが不幸中の幸いであったが、そのレベルのことが不幸中の幸いだと言わざるを得ないほど、状況はひっ迫していた。錬はCADを操作できず、本棚で攻撃用の魔法すら打てないほどの波状攻撃の前にもはや虫の息であった。
錬はなんとか隙を作ろうと盾を使って殴りかかる。この一撃が呂の胴体にクリーンヒットし、錬は手ごたえを感じる。が、さすがの錬もここまでの戦闘で激しく消耗しており、これが誘いであることに気付くのがかなり遅れてしまった。そしてそのころには退避するのが不可能になってしまっていた。
呂は錬のシールドバッシュを胴体で受けると、そのまま錬の盾をつかみ取る。錬もなんとか離れようとするが力が強く、離れようにも離れられなかった。また今回盾を模擬刀ではなくCADに直接つけているため、模擬刀だけを離して脱出という手段が取れずにいた。そのため、呂から離れることができずにいた。とっさに本棚から魔法を放とうとするが、錬が本棚に意識を持っていった時には呂は攻撃態勢に入っていた。
下から降り上げた呂のトンファーの刃は、錬の肘部分に食い込む。その痛みに錬は苦悶の表情を浮かべ、本棚に向けていた意識をそらしてしまう。刃はまだ錬の腕に食い込んでおり、呂の一存でどうとでもなる状態にあった。錬はこのままでは勝ち目がなくなると判断し、なんとか離れようと掴まれた体制のまま、呂の顔面に蹴りを加えようと体を起こす。しかし呂が掴んだ左腕を軽く一振りすることで錬の体勢が崩れてしまい、蹴りの勢いが減速する
とにかくこれ以上の腕の負傷を防ごうと、食い込んでいる刃から己が手を逃がそうと、行動しようとする。が、その思考をしている時点で遅かった。食い込んだ刃は呂が腕を引きながら振り上げることで、無残にも
錬の腕を引き裂き、肘から先を地につけることになった。