魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~ 作:カイナベル
~追憶編~
Xtreme corporation。
五年前、中小企業程度の規模であるにもかかわらず、多くのスポンサーを持ち、魔法技術研究や、ロボット機械、金属精錬などで時代を築いた企業である。その規模の大きさによらず、注目度はFLTやマクシミリアン同等とされていた。
この企業には、その研究開発に適した十個の研究室があり、その中でも最も注目度が高かった研究室は独自の魔法研究を行う研究所。その名もTEAM・MUSEUM。この研究室での研究がこの企業に最も大きく貢献していた。そのため与えられる研究費なども最も多く、会社が抱える離島を与えられ、そこに研究のための施設をそこでの研究は世界的に見ても有名であった。研究室のチームリーダーは園達冴彦、霧子の魔法師の夫婦である。
この時点で気付いた人物も多いだろうが、この両名、園達錬の実の両親である。この二人は力の弱い魔法師の二人から生まれた強大な魔法適性を持つ錬を使って、表向きは魔法師の能力向上の研究をしていた。しかしその実態は錬の魔法師としての力を限界まで高め、その力を会社のため、二人の父であり、会社のCEOをしている園達琉蔵のため、そして自分の利益のために使おうと画策していた。
この二人は強欲かつ、冷酷な人間であったため、会社で運営を行っていた孤児院から魔法師の子供を集め、その子供たちを使った人体実験を行っていた。それもすべては錬の育成のために、と思って行っていた研究であったが、父親である琉蔵が厳格かつ人情に厚い人物であったため、そのような実験を行っていることがばれてしまえば、研究の凍結、果てには会社からの追放が言い渡されると考えた二人はその研究内容を秘密にして研究を続けていた。
さて、ここで園達夫婦が行っていた実験を紹介させていただこう。行っていた実験は二名の魔法演算領域を合成させるというもの。正式名称はもっと複雑なものだが、これでこの実験の要点は掴んでもらえたと思う。
この実験は二名の魔法師の魔法演算領域を合成し、一名に集中、合成することによって魔法演算領域の大幅な拡大を行うといったものだ。これによって一人の魔法師の魔法力を人工的に上げることができる。いままで処理能力が足りずに発動できなかった魔法が発動できるようになるのだ。
しかし、この実験には多くの問題が存在していた。まず、一人に魔法演算領域を集中するため、もう一人からは魔法演算領域が消失する。そして人工的に抜き取られてしまってしまい、魔法演算領域を失ったものは命を落としてしまう。つまり、その人物は魔法師でなくなる上に、命を落としてしまうのだ。
二つ目に、これは本人たちの感覚的なものなのか、心理的に二人の仲が良くなければ確実に成功しない。二人とも命を落としてしまう。
そして、最後にして最大の問題として、魔法演算領域を合成される側の脳機能が相当強くなければ、魔法演算領域を受け継ぐことができないのだ。
この実験は成功率がかなり低い。かなりの確率で実験の被験者は死んでしまう。このようなこともあって今までにこの実験は一度も成功したことがなかった。このような非人道的な実験が世界にばれてしまえばこの研究所は、確実に研究凍結されてしまうだろう。だからこの研究を琉蔵には伝えていなかった。
だが、冴彦夫妻は研究内容と錬のことを伝え、研究のためのスポンサーを募り、スポンサーも資金援助をしていた。夫妻にとって、琉蔵に伝えることは百害あって一利なしだが、この双方の関係ではお互いにメリットがあった。夫妻は研究費を得られ、スポンサー側は錬の魔法によって精製された希少な金属や兵器を安価に得られる。そのため、スポンサーには大亜連合、UNSA、その他の民間組織と多くの国家、組織が秘密裏にスポンサーになっていた。
場所は変わり、小笠原諸島に属するとある孤島。ほとんど木々が生えていないその島には巨大な建物が立っており、その中ではせわしなく、多くの大人が働いていた。
「どう?錬の様子は」
地下のとある一室に向かった霧子は大部屋の中をマジックミラー越しに覗き込む人物に向かって声をかける。霧子がラフな感じで声をかけているあたり、この二人はある程度親しい仲なのだろう。答える研究員の女性は、真顔で答える。
「精神的にも肉体的にも安定しています。与えた本もお気に入りのようですね」
大部屋の中では五歳ほどの少年と、十四歳ほどの少女がおもちゃやぬいぐるみに囲まれた子供用の部屋の中央で本を読んでいた。仲良く本を読んでいる二人は、とても研究のための非道な実験を受けているとは思えないほどの明るい笑顔を浮かべていた。
「お姉ちゃん。これなんて読むの?」
「ん?これはね…」
その二人を部屋の外から見ている二人の研究員はその光景を見て笑みを浮かべた。しかし、それは微笑ましい、というものではなく、ほくそ笑む、という感じのものの汚らしいものだった。
「やはりあの二人は仲がいいわね」
「ええ。他の子どもたちとも仲良さそうにしていますが、中でもあの子には特になついていますね」
霧子はそれを手元の端末に打ち込んでいく。そこには彼女の細かなプロフィールが載っており、中でも目を引くのは得意魔法欄の精神干渉魔法という言葉だった。
この少女の名前は葛城葵。事故によって両親を失い、孤児として孤児院に預けられた。九歳の時、この施設に半ば強引に引き取られ、この実験施設で、テスターとして働いている。そしてこの実験のキーとなる役割をしている。両親は有名ではなかったが、優秀な魔法師であった。そのため、その二人の血を引く葵も優秀な魔法力を持っている。得意魔法は精神干渉系魔法で誕生の際、突然変異によってこの力を手に入れた。このような状況であるにもかかわらず、明るく振舞える優しい性格のため、錬のみならずこの施設で生活している子供たち全員に好かれていた。
霧子はデータを端末に打ち終わると同時に霧子は時計を確認して、部屋の前に設置されているマイクに声をかける。
「葵、そろそろ時間よ。部屋から出なさい」
霧子から投げかけられた言葉によって葵は素直に立ち上がり、部屋から出てくる。その後ろ姿を見送った錬は物悲しそうな表情をしていたが、これがいつもの事なのか、引き留めることなく再び本を読み始める。
「お疲れ様。部屋に戻って頂戴」
「はい、分かりました」
霧子は葵に気にかけるようにして声をかける。その言葉を聞いて、葵は頭を下げ、部屋に向かおうとする。その姿を見届けた霧子は入れ替わるように部屋に入っていく。
「錬」
短く錬の名前を呼ぶ霧子を見た錬は、その姿を見て表情を変えず、視線を本から霧子に向ける。
「体調はどうかしら」
「元気だよ。前みたいに頭が痛くないし」
霧子はその言葉を聞き、錬の頭を優しく撫でる。しかし、その気遣いは親としてのモノではなく、
「ねえ、お母さん」
「ん?何?」
「せーしんかんしょうけいまほうってなに?」
その言葉を聞いて霧子は内心飛び上がりそうなほどに驚く。霧子たちはそのような単語を錬に教えたことはないし、錬にそのようなことを調べる技量もなければ、調べられるような環境ではない。錬の生活は他の子供以上に隔絶されており、錬が得ることのできる情報は、週に一度与えられる本のみである。そこで得ることができるような情報ではなかった。葵の発言は規制されており、霧子たちが不利益になるようなことを言えば、罰が与えられる。そのため、葵もそれを破ろうとはしていなかった。
「ど、どうやって知ったの?」
錬に動揺を悟られないようにして逆に問いかける霧子。その問いかけに錬は快活に答える。
「えっとねえ。お姉ちゃんのことを調べてたら、そんなのが出てきて、調べててもよくわかんなかったからお母さんに聞いたの」
「どこで調べたの?」
「頭の中!」
「頭の中?」
錬から発せられた聞き覚えの無い単語に霧子は首をかしげる。
「えっとね。頭の中に本がたくさんふわふわ浮いてて、知りたいなあ、って思うことを思い浮かべるとその本が飛んでくるの。でその中に知りたいことが書いてあるの」
その説明に霧子は驚く。情報統制を無視して情報を得ることができるというのはほぼすべてがデジタル化されているこのご時世ではかなり優秀な能力になる。もしそのことが本当であれば、すでに分かっている錬成も含めて、相当の金の生る木になると考えた。霧子は高鳴る気持ちを抑えながら、錬に向かって質問をする。
「じゃあ、この研究所にいる人の人数はわかる?」
その言葉を聞き、錬は集中するように目を閉じる。その姿をじっと観察しながら、錬を口を開くのを待つ霧子。その表情には本人すらわからないほどうっすら笑みが浮かんでいた。三十秒ほど経ち、錬は眼を開いて霧子の問いに答える。
「百十二人!」
合っている。
「私たちの会社で販売している特化型CADのモデル名は?」
「プリズムシリーズ!」
これも合っている。
「汎用型は?」
「エタリナルシリーズ!」
三問出してすべて正解した。まだまだ検証の必要があるだろうが、ほぼ間違いなく錬に異能が宿っているのが霧子にはわかった。
「そう、ありがとうね」
霧子は錬の頭を二、三度優しく撫でて部屋から退出する。錬に見えないようにしてそらした顔にはにやけた顔が映っている。しかし、その顔を見られたくないと思った霧子は出てすぐのところにあるガラスを使って表情を戻す。そして、足早に夫である冴彦のいる研究室へと向かった。
「あなた」
「どうしたんだ霧子。ノックくらいしろ」
霧子は冴彦のいる研究室に扉を蹴破らんばかりの勢いで飛び込んでいく。入った先にいた冴彦は冴子の行動を見て眉をひそめながら、その行動を諫める。
「伝えたいことがあるの」
「言ってみろ」
冴彦は持っていたコーヒーを啜りながら、霧子の言葉に耳を傾ける。
「錬にはまだ能力がある。恐らく情報を司るような能力が」
「……何?」
霧子は錬の能力の推察を冴彦に伝える。すると、冴彦もそのことを聞いて口角を吊り上げる。
「そうか。もし、『錬成』と併用ができれば、この世には存在しないものが造れるかもしれないな」
「ええ。でもまずは、能力の限界値がどこまでかを確かめないと。能力が伸ばせるんだったらこの施設の全員使ってでも伸ばさないと」
「もとよりそのつもりだろう。今回発覚したのはついででしかない。ここにいるサンプルたちは王である錬の贄でしかないのだから」
「そうね。明日からはそのことを実験ではっきりさせていきましょう」
研究室で口角を吊り上げて、話し合う二人。その二人の頭の中にはどのようにすれば錬を活用できるかしかなく、研究のために使われる子供たちのことなど全く頭になかった。
この日を境に錬への実験は厳しさを増していった。錬の本棚を限界まで使うために二十四時間本棚を使わせ続けたり、錬成との併用のために、錬は自身で本棚を使って存在しない素材を調べ、その素材を作り上げる。これを五日間連続して行ったりと、まだ十歳にも満たない幼気な子供には酷な実験をさせ続けた。
また、できなかった場合、あるいはやらなかったりと命令に背いた場合は、拷問じみた行為で無理やりやらせたり、反抗した場合は薬物によって思考を鈍らせたりなどの強硬措置によって行ったりなどといった、非人道的な行為も行われた。
子にとって親の存在とは自身のすべてである。それは錬に、特に幼少期のそれにとっても例外ではなく、実父母の命令は錬にとっての法となり、鎖となった。そして実験が始まって二年が経ちようとしたころ、錬は気づいた。自分に対する命令に背くのは愚行であると。自己防衛のために、命令に背かずに従っていた方が利口であると。
錬にとって、錬への命令は行動原理の絶対へと変化していた。それは誰のものであっても同じであり、誰の命令であっても同じであり、五年間で錬は命令に従順な実験動物へと変貌していた。
魔法力は実験の課程で成長していたが、肉体面では全くの成長を見せず、手足はシャープペンシルのように細く、目はクマで覆いつくされていた。大好きだった読書も今では全くしなく、いや、できなくなるほど疲弊しており、実験後はただ死んだように眠るのみとなっていた。
しかし、そんな中でも錬が精神崩壊しなかったのは、なんとか心を支えていた精神的支柱があったからだ。それはやはり葵であった。錬が疲弊し、死人のようになっていく中、葵は錬を優しく包み込むように抱き留め、その腕の中で眠らせることもあった。やはり錬にとっても人肌というものは良いもので、その状況であれば、錬は熟睡することができた。錬にとってその優しさは癒しであり、親以上のモノへと変化していた。そしてそれは錬の中の命令と対となる絶対になりつつあった。
「……技術の確立はほぼ完了か。これで葵のことも実験対象として回せるな」
「仲がいいから、やっぱり適合率は高いのかしら…」
「そこは検査をしてみなければわからないだろう。しかし、今現在残っている子供たちは錬と仲がいい子供たちだがやはり葵との仲がずば抜けていい。適合する確率は他のサンプルよりも高いだろうな」
霧子は顎に手を当て、情報端末を眺めながらもう片方の手をコーヒーカップに伸ばす。冴彦は片手に情報端末を握りながら、冴子の情報端末を覗き込む。片手は霧子の肩に乗っている。二人の顔はかなり近くなっており、そのことに気付いた二人から甘い空気が流れ始める。徐々に顔が近づいていき、唇が接触しようかというところで部屋のインターホンが鳴り響いた。
冴彦が明らかに不機嫌そうな表情をしながら、来客に入室の許可を出す。入ってきたのは葵。その顔には思いつめたような表情が浮かんでおり、その顔を見た冴彦はさらに不機嫌になった。
「何をしに来た。今貴様に用はないぞ」
冴彦は言葉に「帰れ」というニュアンスを込めて葵に問いかける。しかし葵はその言葉にひるまずに二人に話しかける。
「……お願いがあります」
「お前に発言権はない。早く自室に帰れ」
「錬をもうちょっと休ませてあげてください!あのままじゃあの子死んじゃいます!」
「死なないようにこちらで管理している。お前が気にすることではない。用が済んだのならば部屋へ戻れ」
「でも…」
「聞こえなかったのか。戻れと言ったんだ」
「……はい、失礼しました」
葵は冴彦に背中を向けて部屋から出ていく。その姿を見て冴彦は忌々し気な視線を向ける。
「ったく、余計な真似を」
「あの子、このままだと何しでかすかわからないわよ。早めに手を打っておいた方がいいんじゃないかしら」
「そうだな。明日にも検査をして実験に使ってしまおう。実験技術の確立はもう終わっている。だからもはやあいつは用済みだ」
冴彦は無機質な声で霧子に伝え、霧子はそれを首を縦に振ることで肯定する。
「ふむ、やはりこの二人の相性が一番いいか」
「ええ、やはりこの二人の適合率がずば抜けて高いです」
冴彦の隣に立つ研究員が興奮した口調で告げる。手に持った端末には検査結果が表示されており、今までに最も高い数値が表示されていた。
「今までに何度もこの実験をしてきましたが、すべて失敗ですからね。どちらも貴重ですが、もはやそんなことは言っていられません」
「ふむ、ではどちらを残す?」
冴彦が抗いがたい圧を込めて研究員に告げる。その問いに研究員は淡々と答える。
「それはもちろんご子息です。葵の魔法が貴重なものとはいえ、ご子息の魔法には及びません。それに実験成功といったのは、錬様を媒体としたときの話ですから」
「それでは明日、この二人を使った実験を執り行う。実験開始は十一時だ」
冴彦は手元の端末から全研究員に通達が出された。
予定通りに検査が行われ、二人は過去最高の適合率をたたき出した。それは実験を行った場合、確実に成功するであろうと言わしめるほどのものだった。
その夜、実験を明日に控えた葵と錬は二人で本を読んでいた。これをする機会というものがめっきり少なくなってしまっていたため、久しぶりにこれをやった錬は楽しんでいた。
しかし錬は気づいていた。葵の顔は笑っていたが、心からの笑いではないことを。だが、このことを口に出してしまったら今の楽しい雰囲気が崩れてしまうと思った錬はそのことを口に出さなかった。
そのまま本を読み続けること一時間ほど。そろそろ葵が出てしまうと考え、寂しくなった瞬間、葵は錬に声をかける。
「錬」
錬は葵の方を向き笑いかけようとするが、葵が真剣な表情をしていたため、錬も表情を変え、葵の話に耳を傾ける。
「錬。私のこと好き?」
「うん、僕はお姉ちゃんのことが好き」
「ずっと忘れないでくれる?」
「もちろん」
そのことを告げた瞬間、葵の顔がさらに強張る。緊張が顔に出てしまい、それを見た錬は顔だけでなく身体まで強張ってしまう。
葵は大きく息を吸い込み、二、三度深呼吸をすると、口を開き、ゆっくりと言葉を紡ぎ出し始める。
「じゃあ私の最初で最後のお願い聞いてくれる?」
錬にはその言葉の意味が全く分からなかった。なぜ最後のお願いなのか、その時は全く分からなかった。
思考が停止してしまっていた、無力な錬はただ黙ってうなずくことしかできなかった。錬は首を縦に振り、応答する。
「…うん」
「絶対に守ってくれる?」
念を押すように葵は問いかける。それに対して錬は再び首を縦に振りつぶやく。
「わかった。絶対に守る」
「じゃあ私からのお願い。それはね、『私のこと絶対に忘れないで。そして私の事をきれいに忘れて』」
そういうと葵は自分の首にかけているペンダントを錬にかける。一方の錬はその矛盾したお願いを聞いて許容量をオーバーし真っ白になってしまった。その直後、部屋の内部に無機質なアナウンスが流れる。
「葵さん、ご退出願います」
そのアナウンスを聞き、葵は立ち上がって部屋から出ようと歩き出す。その姿を見て言いようもない違和感を感じた錬は葵を引き留めようと手を伸ばす。しかし、その手は虚空を切り、葵の手をつかみ取ることはできなかった。
そのまま葵は部屋から出て行ってしまう。その姿を見送った錬は葵が言ったお願いを膝を抱えた態勢で考え続けることにした。しかしいくら考えてもその答えが出ることはなかった。
「やった!実験は成功だ!」
「葵と錬の二人の魔法演算領域が合成されているぞ」
二人を使った実験後、研究員たちは声を上げて喜び合う。二人の魔法演算領域は完全な融合を果たしており、その大きさは歴史上例を見ない、それこそ常人には耐えることすらできないものへと変化していた。
冴彦と霧子は体を寄せ合い、実験の成功を喜び合う。これで錬はおそらく現在存在しているどんな魔法であっても発動できるような体になったはずだ。そう考える二人は口角を吊り上げる。「ああ、これでようやく錬を商業的に利用出来る」と心の中でほくそ笑んでいた。
研究員が奇声じみた声を上げていると、ベットに寝ていた錬が目を覚ます。錬は目覚めるとともに体中についているコードを抜き取っていく。そしてふらふらとした動きでベットから降り、どこかへ向かって歩き始める。
その光景を見た研究員たちは錬を部屋に戻そうと部屋に付いたガス噴射装置を起動させる。そのガスを吸った錬はそのまま地面に倒れこむ。その光景を見た研究員が部屋に入り、錬を部屋へ戻すために抱え上げる。間近に見ていた二人はその光景を見ておかしいと思ったが特に気にすることもなく、研究室前の部屋から出ていく。
錬は自分の部屋で再び目を覚ます。そのそばには冴彦、霧子夫婦が立っており、錬のことを優しそうな目で見降ろしていた。しかし、その眼には優しさが少しも含まれていないということが意識の虚ろな錬でもわかった。
「気分はどうだ?」
「大丈夫…」
錬は体の調子を確かめるように体を動かす。どこも動かなかったり、動きが悪いところはない。錬はベットから立ち上がり、部屋の中をふらふらと歩き始める。そして少しの間歩いた後できらりと光るものを見つける。それは葵からもらったペンダント。それを見て錬はあることを思いだす。
「ねえ、お姉ちゃんは?」
いつもであればもう来ていてもおかしくない時間であるのに来ていないことに違和感を覚え、そのことを冴彦に問いかける。すると、冴彦は顔をしかめ、口ごもる。
「お前に言う必要はない」
冴彦に突っぱねられるが、錬はそれでも問いかけ続ける。それに腹が立ったのか、それともきりがないと判断したのか、冴彦は声を上げる
「死んだ!あいつは死んでしまった!実験で魔法演算領域がなくなってな!」
「死んだ…の?」
「ああ、もうあいつはこの世にいない。お前に魔法演算領域を映したからな」
「お父さんがやったの…?」
「ああ!そうだよ」
そういった瞬間、錬の身体からサイオンがあふれ出していく。その行動に気圧され、二人は後ずさりをしてしまう。
「ああああああああ!」
錬は声を上げながら、本棚に入り、無作為に魔法式を選択する。そしてそのままその魔法式を読み込み、魔法を発動させた。
部屋の外壁に入っている鉄筋がうなりを上げながらバチバチと光り始める。プラズマに分解された鉄筋は高熱を発してコンクリートを融解させる。地下から広がったプラズマはどんどん膨張していき、広がっていく。そしてその熱はとうとう地上に達した。そのエネルギーによって地上の建物も融解され、崩壊していく。そしてプラズマは観測できるほどまで広がった。
この日、世界で初めての戦略級魔法、ヘビィ・メタル・バーストが使用され、研究所は面影もないほどに吹き飛んだ。錬が発動したヘビィ・メタル・バーストによって、研究所とその中の人間すべてが何もなかったかのように吹き飛んでしまった。そしてこの地に残ったのは錬のみだった。
そのことは本土にある魔法協会にも通達がいった。
「一体どうなっている!?」
「分かりません!突如として小笠原半島周辺の島にて、原因不明の爆発が発生しました!」
「落ち着け。すぐに調査隊を派遣しろ」
そこには十師族の重鎮、世界最巧の魔法師である九島列が立っていた。そのことに驚きつつも魔法協会の職員は、調査隊の派遣のための手続きを始める。そして烈はもう一つ職員に告げる。
「それと私も調査隊に同行させてもらおう。たまたま居合わせたとはいえ、他の十師族を招集するよりも私の方が速い。関東担当である十文字と七草には私から言っておく」
「わ、分かりました」
そういうと烈は職員ひしめくモニタールームから出ていく。その背後には衛星より送られた爆心地の映像が映るモニターがあった。
「ひどいですね…。これは」
烈達調査隊が島にたどり着くとそこは瓦礫が転がり、灰が舞う地獄と化していた。島の中心には巨大なクレーターができており、その深さは三十メートルになろうかというほどの深さであった。
調査隊が周囲を調査する中、烈はクレーターの底へと降りていく。そこに着いたとき、烈はその中央を見て驚愕した。そこには一人の少年が膝を抱えて座っており、その周りには一片のがれきもなかった。その光景に驚きながら烈はその少年にゆっくりと近づいていく。そして声をかけようと、口を開いた瞬間烈よりも早く錬が口を開いた。
「名前はなんていうんですか」
錬が話しかけたことにも動揺することなく烈は錬の質問に答える。
「九島烈だ」
その後三十秒ほど沈黙が続く。そしてその沈黙に耐えかねた烈が話しかけようとしたところで錬が再び口を開く。
「強いんですね。世界最巧の魔法師と呼ばれてるくらいですから」
「それがどうしたのかね」
「お願いがあります」
そういうと錬は烈の方に向き直る。
「僕を強くしてください。もう何も失わずに済むくらいに」
その頼みを聞いた烈は理由を問い詰めることとした。
「どうしてかね?」
「僕は大切なものを失いました。それを失うまでそのことに気付かなかった。そして失って残ったのはただの辛さだけでした。もうそんな思いをするのは嫌です。だから俺を強くしてください」
錬は烈を見据えて言葉を紡ぐ。その錬を、その瞳を見た烈はその目に真摯な意思が込められていることが分かった。自分が失ってしまった純粋さがあると思った烈はその思いに答えたくなってしまった。
「よかろう。だがその前にこの爆発の原因調査が終わってからだ」
烈はそういうと錬に手を差し伸べる。錬は警戒しながらもその手をつかみ取り立ち上がる。こうして錬は新たな一歩を踏み出した。
その後、Xtreme corporationは事故を起こした責任を追及され、社長である琉蔵は辞任に追い込まれた。そしてその後会社を引き継いだ人間もなぜか消えてしまったスポンサーに翻弄されてしまい、倒産してしまった。
一方錬はというと烈の庇護下に入り、烈のもとで学問、魔法技術の向上に努め始めた。島で起こった事故は烈の尽力によってただの事故であるとして終結した。錬の存在は数字付きには秘密のままで、国防軍の機密事項となり、このことを知るのは軍の上層部と調査隊のメンバー、そして烈のみとなった。それによって錬はのびのびと烈にしごかれることができた。
錬はみるみる実力を開花させていき、もとより興味を見せていた工学系で才能を特に開花させていった。こうして錬は高校入学までに並の高校生では得られないほどの知識、技術を手に入れた。その過程で世界最高のCADと呼ばれるようになるユグドラ・シリーズの製作をした。そして烈の口添えにより、ライセンスを手に入れた。その他にも様々なものを製作し、その都度、光宣に見せて遊んでいた。
烈の権力等をうまく使って錬は最高クラスの力をわずか五年の月日で手に入れた。その速度に烈も驚きの声を上げざるを得なかった。
「閣下、今までありがとうございました」
「今生の別れというわけではないからそこまでかしこまる必要性はない。いつでもきたまえ」
「ええ、また光宣に会いに来ます。一か月もすれば高校入学なので忙しくなると思いますが」
九島家の前で烈に向かって深々と礼をしてから背を向ける。その姿を烈はまるで孫を見るかのような目で見ていた。烈によって錬は一軒家をもらうことになっており、錬はそこに住むことになっている。烈の趣味や錬の要望が詰まったその家はまさに錬が望んだものだった。
東京行の電車に乗るために駅へ向かった錬のその足取りは軽く、まさに錬の人生の新たな一歩となった。
「……またずいぶんと懐かしい夢を見たな」
錬は目を覚まし、うつぶせに体をつけていた地面から身体を離す。目の前には運動用ロボットに入ったアストラが立っており、訓練の最中に錬が落ちてしまっていたことが錬はすぐに判断した。携帯端末を見ると、その端末の時計は始業ぎりぎりの時間を差していた。
その数字を見て錬は飛び上がり、準備をするために走り始める。まずはシャワーを浴びようとした錬は、下に転がっていた紙を踏みつけて思い切り転げまわってしまった。その光景は傍らで見ていたアストラにはとても滑稽に見えてしまった。
もはや設定はがばがばでツッコミどころ満載なのでツッコミは無しでお願いします。