魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~   作:カイナベル

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来訪者編 第二話

 冬休みも終わり、今日から三学期。A組には雫の代わりに転校生が来ることになっており、A組の教室、そして学校全体が目に見えるほどに浮ついていた。それはほのかにとっても例外ではないようで、教室に入ってきてからというものの目に見えてそわそわしていた。

 

 しかし、それに当てはまらない例外というものはやはりどこにでもいるようで、転校生が来ることに落ち着いていた人物が二名ほどいた。一人が錬、もう一人が深雪であった。二人は席に着いて端末を操作して新学期の情報を確認していた。

 

 転校生のことが気にならないのか、と思う人はいるだろうが、この二人、そういうことに淡白で、深雪は「転校生が来てもやることはいつもと変わらない」、錬に至っては「興味ない」である(ちなみにだがこの二人苗字の関係で席は隣同士である)。まあ、この方が転校生としては奇異の眼で見られないため良いのかもしれない。

 

 そうこうしていると、始業の時間になりそわそわとしていたクラスメイトが席に着く。担任教諭が教室に入ってきて、転校生の紹介を始める。

 

 教師に促され、転校生が教壇の前に立つ。その少女は金髪縦ロールの碧眼の少女であり、その可憐さは、タイプは違うが深雪と並ぶといっても差し支えないほどのものだった。現に男子生徒だけでなく女子生徒までが感嘆の息を漏らす。深雪はほとんど表情を変えなかったが、ほのかはその可憐さにため息をついていた。

 

 そして錬は、ほんの少し漏れ出した程度であるが、悲壮感が現れていた。表情こそ変わっていなかったが、雰囲気が明らかに淀んだ。錬にはその少女の姿はとても見覚えがあるものであり、ぜひとも起こってほしくないことであった。そしてこう思った。「ああ、やはり面倒事からは逃れられないのか…」と。 

 

 明らかに雰囲気が変わった錬のことを感じ取り、深雪が視線を送るが、錬はその視線に大丈夫であるという意味を込めて視線で答える。その視線を受け取った深雪は教壇に向き直る。錬は視線を窓の外に向け現実逃避に取り掛かった。が、それは敵わず、耳には転校生の自己紹介が飛び込んできた。

 

「アンジェリーナ=クドウ=シールズです。短い期間ですが、よろしくお願いします」

 

 少女の自己紹介の日本語が流暢であったことに驚きを隠せなかったのか、教室の人間からは数瞬おくれて拍手が送られる。

 

「それではシールズさん。司波さんの隣に座ってください」

 

「分かりました」

 

 担任に促されて、シールズは一礼すると深雪の隣の席に向かう(苗字の関係上、深雪、雫、錬は席が並んでいたため、シールズが深雪の隣に来るのは妥当である)。席に腰掛けたシールズは隣を向き、深雪に小さな声であいさつをする。それに対して深雪は微笑を浮かべながら、挨拶を返す。その光景を見たクラスメイトは二人のやり取りにまたため息を漏らす。その時錬は違った意味でため息を漏らしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前のカリキュラムを終え今は昼時。錬は弁当片手に一人で食堂へ向かっていた。錬が食堂に入ると目ざとく錬のことを見つけたエリカが錬を招くようにして手を振る。断る理由のなかった錬はその手招きに従ってエリカたちの集団に向かって歩いていく。

 

 向かっていく最中、達也たちの席に留学生と深雪が同席を求めていたが、そもそも二セットの席を使っているので錬の席の心配はなかった。達也たちの席にたどり着くとエリカの感嘆の声が錬の耳に入ってきた。

 

「あの二人が並ぶと迫力あるねえ~」 

 

「一校の綺麗処二人だから当然だろう」

 

「よう、錬」

 

「久しぶりだね」

 

 唐突に口を挟んできた錬に向かって、レオと幹比古が挨拶をする。それに対して錬は手を上げて答える。するとエリカはにやにやと笑みを浮かべて話しかける。

 

「錬君も取ってきたら?お皿」

 

「悪いな。俺は弁当派だ」

 

 錬は片手に持った弁当をテーブルの上に置く。すると、エリカは当てが外れたように顔をそらして不機嫌そうな表情を浮かべる。その表情を見た錬は美少女二人の中に錬を混ぜたかったのだろうとあてを付けた。すると、錬たちのやり取りを見ず、深雪たちの方を向いていたレオがポロリと言葉を零す。

 

「なあ、達也……、彼女、どっかで見たような気がすんだけど」

 

「うわっ、古い手口」

 

 レオのつぶやきにエリカが反応するが、レオの心当たりは当然のことだった。しかしそれ以上にあの不可思議な格好を覚えていないということの方が錬にとっては印象深かった。

 

 美月と幹比古が同様のやり取りを終えたところで深雪と転校生が戻ってきて、深雪たちが席に着くのに合わせて皆も席に着く。(ちなみに司波兄妹とほのか、シールズは四人掛け、二科生組と錬は六人掛けのテーブルだ)

 

皆が席に着いたところでほのかが転校生を二科生の面々に紹介し始める。 

 

「達也さん、ご紹介しますね。アンジェリーナ=クドウ=シールズさん。もうお聞きの事とは思いますけど今日からA組のクラスメイトになった留学生の方です」

 

 一人のみに対する紹介にほのかに対して、同じテーブルの付く三人には困惑の表情が浮かんだ。

 

「ホノカ、こちらの方だけでなく、他の皆さんにお紹介してほしいのだけど?」

 

「え、あっ、ごめんなさい!」

 

「……まあ、ほのかだしね」

 

「ほのかさんですしね」

 

エリカと美月に本心からの言葉を投げかけられ、ほのかは赤面し絶句した。

 

「では改めて。アメリカから来たアンジェリーナ=クドウ=シールズさんです」

 

「リーナと呼んでくださいね」

 

 深雪の二回目の紹介にリーナが金髪を揺らしながら頭を下げる。リーナが頭を上げると、達也たちが会釈を返し、自己紹介に入る。その様子を見ていた錬は、深雪に視線を送られる。その視線はまるで「一度も挨拶していないんだからお前も挨拶しろ」と言っているようだった。

 

 E組の面々が挨拶をし終わったところで全員の視線が錬に注がれる。視線を一身に浴びた錬は自己紹介せざるを得なくなり、ゆっくりと口を開く。

 

「園達錬だ。錬で構わない」

 

 錬の短い自己紹介を聞いた繰り返すようにして覚える。

 

「エリカ、ミヅキ、レオ、ミキヒコ、レンね。よろしく」

 

 自己紹介後の総勢九人による昼食はとても初対面とは思えないほど和やかに執り行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェリーナ=シールズはセンセーショナルなデビューを果たし、留学初日にもかかわらず全校生徒の知るところとなった。今まで深雪のモノであった「女王」の座が「双璧」となった。二人で行動していることが多いせいか、その美貌が強く印象付けられた。

 

 その二人の所属する一年A組はただいま実習中であり、リーナと深雪も実習に励んでいた。しかし、その他の生徒は全く実習に集中することができておらず、視線は深雪とリーナにくぎ付けになっていた。それは中に階に設置されている回廊状見学室にいる三年生も同様のようで、そこでは真由美や摩利も見学していた。

 

「ミユキ、行くわよ」

 

「いつでもどうぞ。カウントはリーナに任せるわ」

 

 二人は三メートルの距離で向かい合って立っており、その間には直径三十センチの金属球が細いポールの上に乗っている。

 

「司波に匹敵する魔法力、本当だと思うか?」

 

「ある意味、アメリカを代表して日本に来ているのだから、ありえないことじゃないと思うけど。でも、にわかには信じがたいわね。同じ年代で深雪さんと拮抗する魔法技能なんて」

 

「同感だな。百聞は一見に如かずというが、この目で見なければ信じられん」

 

「だからこうして確かめに来てるんだけどね」

 

 実習の内容は同時にCADを操作して中間地点に置かれた金属球を先に支配する、という魔法実習の中でもシンプルかつゲーム性の高いものだった。単純だからこそ力量がはっきりと表れるこの実習で深雪は新旧生徒会役員を全員負かしていた。クラスメイトも同様でこれでは実習にならないと教官が認めるほどだった。錬に相手をやらせると深雪を負かすことができるが、今度は八割ほどの確率で深雪が負けてしまうため、これでも実習になっていなかった。

 

「スリー、ツー、ワン」

 

 ワンのカウントと同時に二人が据え置き型パネル・インターフェイスに手をかざす。

 

「GO!」

 

 深雪の指がパネルに触れ、リーナの掌がパネルにたたきつけられる。その直後、まばゆいサイオンの光輝が二人を包み込み、金属球の座標に重なり合って爆ぜた。光輝は一瞬で消え、その後目に映ったのはリーナの方にころころと転がる金属球だった。

 

「あーっ、また負けた!」

 

「フフッ、これで二つ勝ち越しよ、リーナ」

 

 盛大に悔しがるリーナと、ほっとした感じの笑みを浮かべる深雪。その二人を見て二階席の真由美と摩利は感想を述べる。

 

「……全くの互角だったわね」

 

「術式の発動はむしろ、留学生の方がわずかに上回っていたんじゃないか」

 

 さすがに優秀な魔法師である二人は先ほどの攻防をしっかりととらえていた。確かに術式のリーナの方が速かった。しかし深雪が魔法が完成する前に制御を奪い取ったのだ。二人は一瞬の間に高度な攻防を繰り広げていたのだ。

 

「しかし二人ともやはりすごい魔法力だな。どちらも単純な魔法力じゃ私たちでは敵わない」

 

「お二人とも深雪に負けていますからね」

 

 心当たりのある声が突然乱入したことにより内心驚きそうになるが、視線をずらさずになぜか二階にいる人物に話しかける。

 

「馬鹿にしているのかは今は聞かん。それよりなぜここにいるんだい。錬君?」

 

 摩利たちの後ろに座っている錬は深雪たちの方を見て目をつむっている。錬は考え込むようにしてつむっていた目を開き摩利の質問に答える。

 

「普段は深雪とやっていたんですけど、今日はリーナとやっているようなので。暇になった俺は見やすいこっちに来ようかなと」

 

 錬の言葉を聞いた二人は呆れるようにして目を細め、ため息をつく。

 

「だったら転校生の相手をしてやればいいだろう。実習をさぼるのはさすがにいただけんぞ…」

 

「俺がやったら実習にならなくなると思うんですが……、まあちょうど終わったみたいなので少しはやってきましょう」

 

 そういった錬は席から立ち上がり、魔法を使用せずにそのまま二階席から飛び降りる。その様子を見た二人は血相を変えて錬の安否を確認にかかるが、錬は平気そうに立ち上がり、深雪たちの方に近づいていくのだった。

 

 自身のところに近づいてくる錬を発見した深雪は、自らからも近づいていき声が互いに届く距離まで近づいたところで深雪が錬に声をかける。

 

「錬さん、お手合わせお願いしてもよろしいですか?」

 

「喜んで」

 

 深雪のお誘いを承諾した錬は先ほどまで深雪たちが実習をしていた端末に近づいていく。すると、リーナが深雪の前に立ち塞がる。

 

「待ちなさい、ミユキ。レンとの対戦は私が先にもらうわよ」

 

 深雪は錬のことを見つめる。その意図に気付いた錬は自らリーナに対戦を申し込むためにリーナに話しかける。

 

「リーナ、対戦してもらってもいいか?」

 

「こちらこそ!」

 

 リーナは快活に応え、端末に向かって歩いていく。錬も同様に向かっていく途中で後ろから深雪に声をかけられる。

 

「やり過ぎないように」

 

 錬はそれに手を上げ、左右に振ることで答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーナは対面に立つ錬のことを鋭い視線で睨みつけていた。しかし、その視線には負の感情はこもっておらず、むしろ好奇の感情すら感じ取ることができた。

 

 今回のリーナの任務である大爆発(グレート・ボム)の術者の捜索の候補者には錬も含まれている(最初の呂剛虎戦で錬成を使った際に傍から見ると分解に見えたため)。達也や深雪はともかくとしても錬が人付き合いのいい方ではないことは、この何日間でわかっている。

 

 そのため、()()の場で錬の実力を見られるのは貴重だった。一校トップの魔法力がいったいどれほどのものかはリーナ個人としても気になっていた。深雪以上の実力者、勝てる可能性が低いというのも察していた。

 

 しかし、リーナも易々と負ける気はなかった。錬が深雪以上とはいえ、深雪と同等の自分であれば一矢報いることができるのではないのかと考えていた。現に深雪も錬には二割の確率で勝っているということをリーナは本人から聞いていた。

 

「カウント、どうぞ」

 

 錬にカウントを促されてリーナは改めて集中しなおす。目の前で無造作に手を下ろしている錬に視線を送りながら端末を見つめる。そして両者が準備したところでリーナがカウントダウンを始めた。

 

「スリー、ツー、ワン」

 

 錬とリーナは、ワンのカウントで同時に端末に手をかざす。

 

「GO!」

 

 リーナは手を端末にたたきつけ、錬は端末に五指を添えた。両者からサイオン光が爆ぜ、魔法式が展開された。

 

 リーナはこの日、世界の壁の高さというものを知ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの食堂で達也たちはリーナたちと食事をとっていた。食事の最中、リーナはぼそりとつぶやく。

 

「でも、驚いたわ。これでも私、ステイツのハイスクールレベルだったら負け知らずだったんだけど。ミユキにはどうしても勝ち越せないし、ホノカには総合力では負けないけど、精密制御では勝てないし、レンに至ってはもはや勝てる気がしないわ…。さすがは魔法技術大国・日本よね」

 

 その場の全員がこの場にいない魔法力の悪魔の顔が脳裏をよぎる。そして、その人物が突っ掛かるリーナを相手に無双している状況も浮かぶのだった。その人物をひとしきり思い浮かべたところで

 

「リーナ、実習は実習で、試合じゃないわ。あんまり勝ち負けなんて考えない方がいいと思うけど」

 

 深雪が熱くなっているリーナをやんわりとたしなめるが、リーナは衝突を恐れずに真っ向から反論する。二人の視線が交錯したその時、達也が口を挟むことでその場は穏便に収まった。

 

 再び和やかな雰囲気が訪れたその時、達也が「大したことではない」と念を押したうえで口を挟むようにリーナに尋ねる。

 

「そういえばリーナ、大したことではないんだが…」

 

「何かしら」

 

「アンジェリーナの愛称は普通、『アンジー』だと思うんだが、俺の記憶違いかな?」

 

 達也の質問はとても動揺するような質問ではなかった。しかし、その場の全員に見て取れるほどリーナは狼狽していた。

 

「いえ、記憶違いじゃないわよ。でもリーナって略すのも珍しいって程じゃないの。エレメンタリー、っと、小学校の同じクラスにアンジェラって子がいて、その子がアンジーと呼ばれていたものだから」

 

「それでリーナは『アンジー』じゃなくて『リーナ』って呼ばれるようになったのか」

 

 達也はリーナの答えに納得したように見せて、つぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、風紀委員本部。そこで錬と達也は仕事をしていた。他の風紀委員はすでに帰っており、この二人が本部から立ち去れば、今日の風紀委員の業務は終了だ。無言のままで仕事をしていた達也は急に本題に入るようにして話し始める。

 

「…リーナのことをどう思う」

 

「唐突だな」

 

 錬は目線を端末からそらさずに達也に言葉を返す。

 

「特に何を思うわけではないが…、しいて言うならば、深雪と近い魔法力だから俺の魔法実習の相手がいなくなったな。つまらん」

 

「そう言うことじゃない。リーナの正体に関してだ」

 

 達也は声色を強くして再度錬に問いかける。達也の言葉を聞いたところで、錬が初めて視線を端末から上げる。

 

「結論から言えば、あれの正体はスターズ隊長、アンジー・シリウスだ」

 

「やはりか…」

 

 達也は憂鬱そうな表情に変わり、視線を少々下に向ける。しかし、気持ちを切り替えるようにして錬に尋ねる。

 

「しかし、どうして何の見返りもなしに俺に情報を情報を渡してきたんだ?少尉に聞いたが、少尉には交換条件だったんだろ?」

 

 少尉というのが依然話した藤林であることを理解した錬は、少し間を開けて問いの答えを返す。

 

「今回の一件、俺にとっても無関係じゃないらしいからな。前に神社で情報をもらったからそれでチャラだ」

 

「あの程度でいいのか?」

 

「別に交換になっていれば何でもいいし、今は金も入り用ではないからな」

 

「お前がいいんであればいいが…」

 

 そう言った二人はほぼ同時に仕事を終わらせる。席から立ち上がり、達也は深雪を迎えに行くために直通通路へ、錬は直接帰宅するために入り口のドアへ向かい、別れて本部を後にした。

 

 帰宅のためにキャビネットに乗り込んでいる錬は、端末にアストラから送られてきた情報を確認していた。その中でも錬の目を引いたのは魔法師衰弱死の項目であった。

 

 

 

 

 




 ちなみにリーナと錬の実習の結果は十戦中、錬の十勝です。


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