魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~   作:カイナベル

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 こんなに書いたの久しぶりだ…。






来訪者編 第三話

 錬が達也にリーナの正体がアンジー・シリウスであると明かしてから数日経った。とはいってもやっていることは普段と変わらず、今日も錬は花音のもとで書類仕事に勤しんでいた。花音が年を越す前に少々書類関係で事件を起こし、花音が書類仕事を錬に禁止されてから、花音は巡回以外では生徒会室に籠もり気味であったが、今日は本部にやってきていた。その理由は隣にいる人物が関係していた。

 

「でもカノン。私が巡回の見学をするだけだったら、レンでもいいんじゃないの?」

 

 金髪を揺らしながら、花音に尋ねるリーナ。リーナがここにいる理由としては、先ほど本人が言ったとおりであるが、一校の風紀委員の活動を見学したいというもの。それが本心かはわからないが、とりあえず風紀委員会としては断る理由はなかった。

 

 事情を知らないリーナに尋ねられた花音は顔を少々ゆがめながらも質問に答える。

 

「錬君はちょっと活動内容が特殊でね…、今日は当番じゃないし、よっぽどのことがない限りは巡回には出ないのよ…」

 

「ふーん」

 

 リーナが先輩のケツを叩きながら書類仕事のやり方を教えている錬に目を向ける。先輩が後輩にどやされているこの状況を見て動揺しないあたり、順応性が高いといえるだろう(これが順応性で片づけていいものか)。

 

 リーナが納得したように頷いたところで達也が扉を開け、本部に入ってくる。それを見た花音は良い人物を見つけたという表情で準備をしている達也に近づいていく。一方のリーナはずっと錬に視線を向け続けていた。

 

 花音が元の位置に戻ってきたところでリーナが達也と一緒に本部から出ていく。それを見送った花音は指導を終えた錬に話しかける。

 

「ああは言ったけど、あなたがやってあげればよかったじゃない。クラス同じなんだから、司波君より一緒にいる時間は長いでしょ?」

 

「俺とリーナはあまり口を利きませんよ。せいぜい実習の時くらいです。だから話している時間であれば、達也の方が長いんじゃないですか?」

 

「仲良く交流をしようとは思わないの?」

 

「興味ないのでいいです」

 

「変わってるわね…」

 

「それじゃあ次は千代田先輩、あなたに教える番ですよ。また重要書類を捨てられちゃたまんないですからね」

 

「ええ!どうしてそうなるのよ。それにあの時のことは謝ったじゃない」

 

「部下が書類仕事ができるのに委員長ができないのは体裁が保てませんから」

 

 どうにも言い返せなくなった花音は他の委員に助けを求めようとするが、逃げるように本部から出て行ってしまう。本部にいるのはこれで花音と錬の二名。それでも花音は諦めず、生徒会室直通の通路から逃げようとするが、移動していた錬に道をふさがれてしまう。そして錬は花音の頭をわしづかみにして、デスクに座らせようとする。その時の花音は先輩の威厳はかけらもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 週明けの一校は明らかに色めきだっていた。理由は日曜日に公開された吸血鬼事件である。血液の一割が身体から抜かれ、殺されたというものだ。

 

 錬はすでに知っていた情報であったが、魔法師絡みの事件かもしれないというのも相まって魔法科高校も世論も非常に盛り上がっていた。そんな中、リーナは早くも欠席していた。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 錬は今、渋谷に来ていた。都合がよすぎるんじゃないか、と思うものもいるだろうが、ちゃんとした理由があってここに来ている。目的はCADの精密部品である。

 

 今錬はアズガルズ・シリーズ、第二百十五弾として指輪型CADを製作している(ちなみにストレージは三十個、ボタン操作を必要とせず、装着した方の手で操作できる。振動系統のサイオン波の干渉を防ぐ素材を使った振動系統専用のCADである)。その部品が欲しくて渋谷に来ている。ほかの地域でなく、わざわざ渋谷なのは、その素材が()だからである

 

 自分で作れよ、と思う人物がいるだろうが、精密部品を家で作るのと、購入するのでは購入する方が安くできるのである。以上の理由で錬は渋谷に来ていた。

 

 買い物を終えた錬は予想以上に早く終わってしまい、時間を持て余していた。このまま近場のラーメン店に食事にでも行こうかと考えていたところで、なかなか妙な人物と遭遇する。

 

「ん?錬じゃねえか。何やってるんだ。こんなところで」

 

「所用だ。そっちこそ何をやってるんだ」

 

 錬が遭遇したのはレオであった。二人で会話をすることはなかったが、レオの気さくさによって気まずさはなかった。レオが錬の質問に歯切れの悪い返答を返す。

 

「あー……、ちょっと癖でな。街ん中をふらつくのが趣味なんだ」

 

 それだけか?と問いかけた錬の視線にレオは動揺してしまう。しかし、錬としても深く詮索する理由はないため、視線を緩めた。

 

「まあいい。それじゃあな」

 

「あ、ちょっと待ってくれ。もうちょっと話そうぜ。二人で話する機会なんてなかったから、この機会に話しておきたいんだ」

 

 確かにレオと話をするときにはエリカや達也が間に入っていたために二人で直接的に話をする機会がなかった。錬としてもいい機会であるため、歩きながら話を続けることにした。

 

 歩き続けて三十分ほど。レオは錬に向けて笑顔を浮かべていたが気持ちが全く違う方向を向いていた。レオはレオ個人の任務をこなすために周囲に注意を振りまいていた。そして、それに錬も気づいていた。

 

 すると、路地裏を進んでいたレオたちを濃密な戦闘の気配が包み込む。二人はほぼ同時に立ち止まり、戦闘の気配を探ろうとする。錬がレオの表情を伺うと、レオは緊張した面持ちで端末を取り出しており、錬はここでレオの目的がこれであることに気付いた。

 

 レオが端末に何かを打ち込んだところでレオが口を開く。

 

「ここはまずい気がする。早いところ退散しようぜ」

 

 レオが言ったその言葉に錬は耳を貸さずに錬はその付近の公園へと向かう。レオの制止を振り切り、たどり着いたそこにはぐったりと女性がベンチに倒れていた。別に錬には助ける義理はなかったが、やはり錬でも正義感というものは多少はあるため、女性に近づいていった。脈を確認すると、かすかではあるがまだ脈が残っていた。

 

 錬はレオに手ぶりで救急車を呼ぶように促す。それを見たレオは無言のまま端末を取り出して、救急車へコールしようとする。しかし、それは錬の声によって遮られてしまった。

 

「レオ、後ろだ!」

 

 レオが後ろを振り向いた瞬間、手に持っていた端末が吹き飛ばされ、粉々に砕かれた。レオの背後には伸縮警棒を振り切った何者かが立っていた。覆面の何物かを確認した錬は即座に胸元にしまってあった仮面をとりだし、装着する。

 

 すると突然、二人の中にノイズが走る。そのノイズに気を取られてしまったレオは一瞬で距離を詰められてしまう。硬化魔法を発動することなく、レオは伸縮警棒を受け止める。

 

 レオの腕と伸縮警棒の対決。勝利したのはレオだった。伸縮警棒は折れ曲がっており、もはや使い物にならなかった。

 

「痛えじゃねえか!」

 

 その言葉を皮切りに覆面とレオの格闘戦が始まる。錬はレオの頑丈さに驚きながらもレオの援護をするためにCADを操作し、魔法を発動した。圧縮空気弾を発動しようとしたその瞬間、反射的に錬は横に跳び退る。

 

 先ほどまで錬がいたところには手刀が振り下ろされており、同じように覆面をした何者かが立っていた。錬はこの人物の相手を余儀なくされ、レオの援護に手を回せなくなってしまった。

 

 錬がもう一人の怪人を相手にし始めた直後、錬のもとにレオが相手をしていたはずの怪人が吹き飛んでくる。吹き飛んできた方向を見ると、レオが膝をつき倒れていた。

 

 そのことに気を取られてしまい、錬が相手をしていた怪人の攻撃を胸に食らってしまう。その衝撃で後ろに下がった錬は追撃を防ぐために、怪人の直突きを躱しながら、怪人の胸を押し出すようにして蹴りを繰り出し、押し出すようにして距離を取る。

 

 体勢を立て直した錬はレオのもとに駆け寄ろうとするが、怪人の奇襲を気にかけており、まっすぐに向かうことができない。しかし、怪人はもう錬の方を向いていなかった。直後、公園に何者かが侵入してくるのを錬は視界の端で捉えた。

 

 赤髪、金瞳に仮面をつけたその人物は錬たちのことを見据えている。いや、正確には錬の後ろにいる怪人を見据えていた。怪人はその人物を確認するや否や、矢のように走り出す。そのことを確認した仮面の人物はすぐさま追いかけようとするが、仮面の人物には錬が怪人に見えたのか、錬に攻撃を仕掛け始める。

 

 仮面の人物は錬に向かってスローイングダガーを投げつけると同時に拳銃を突き付ける。それに反応した錬は対物障壁を展開し、胸元から特殊警棒を取り出しながら仮面の人物に突っ込んでいく。対物障壁に防がれたスローイングダガーは重力に従って地面に落ちる。スローイングダガーを防御した錬は障壁を消し自己加速術式を発動する。これらの光景を見た仮面の人物は突き付けた拳銃を下ろし、代わりにコンバットナイフを突きつけた。

 

 錬と仮面の人物の距離が五メートルのところまで近づいたとき、仮面の人物は斜め上から斜め上からコンバットナイフを振り下ろす。そのタイミングは錬が避けることもできずにナイフの刃に曝されるタイミングだった。それを見た錬はナイフを受け止めるために警棒を間に挟み込んだ。

 

 振り下ろされたナイフは警棒にあたってその動きを止めた。二人の得物がつばぜり合いの状態になる。その最中、仮面の人物が明らかに狼狽したのを錬は見逃さず、つばぜり合いの状態のまま、錬はわき腹に蹴りを叩き込んだ。仮面の人物は腕を挟み込んでいたが、よろめいてしまう。錬は追撃をするように前蹴りを放つが、ナイフを間に挟まれたため、止めることを余儀なくされ、そのまま後ろに跳び退る。

 

 両者の緊張感がまし、いよいよ魔法戦闘に突入しようとしたその時、パトカーのサイレンが鳴り響いた。二人はその音で戦闘中止を余儀なくされてしまい、仮面の人物はサイレンから逃げるようにその場から走り去る。それを見た錬は、仮面を取り外しレオのもとへ向かった。

 

 レオのもとに着いた錬はレオの容態を確認する。衰弱しており、意識はないが脈はある。とりあえずレオを移動させようと錬はレオを担ぎ上げた。

 

 そうこうしているうちに、二名の男性警官がレオのもとに駆け寄る。

 

「君、何をやっているんだ?」

 

「レオが倒れてしまったので、その介抱を、と思いまして」

 

「君は?」

 

「レオの友人です」

 

 軽く問答していると、後ろに控えている男が錬に気付き、上司である男に耳打ちする。

 

「彼、九校戦の新人戦スピード・シューティングで優勝した子ですよ。確か名前は園達錬」

 

「ああ、あの世紀の凡戦の…」

 

 つぶやきが錬の耳にも入り、非常に不本意な気持ちになる錬。その錬を他所に警官たちはさらに錬に問いかける。

 

「それより吸血鬼は?」

 

「逃げてしまいました」

 

 すると、警官は残念そうにため息をつく。それが今一つ気に食わなかった錬は、警官たちに恨みごとのように話しかける。

 

「それより、あの連中が吸血鬼の正体ですか」

 

「え、君はレオ君から聞いていなかったのかい?」

 

「たまたま巻き込まれただけですので」

 

「そうか…。すまない、申し遅れた。俺は千葉寿和だ。後ろのは稲垣。巻き込んでしまったようですまなかった」

 

「そういうのはレオとエリカに言った方がいいですよ。千葉ってことはエリカのお兄さんでしょう?」 

 

「そうだよな。一発はもらうだろうなあ…」

 

 頭を掻きながらため息をつく寿和。その様子を見る稲垣は複雑そうだった。そうこうしているうちに救急車が到着しレオとベンチでぐったりとしていた女性がストレッチャーに乗せられ、救急車に乗り込む。寿和が付き添いということで救急車に乗り込んだ。レンもその場から立ち去ろうとしたところで寿和に止められてしまう。

 

「君もだ、園達君。吸血鬼と交戦したということは君もレオ君と同様の状態のはずだ。普通そうに見えるが一応検査しておいた方がいい」

 

 錬としてはここで帰宅できないのは好ましくなかったが、それ以上にこのまま帰ってしまう方が好ましくないと判断した。素直に指示に従うことにし、錬は寿和と同じ救急車に乗り込むのだった。その後レオは入院、錬は検査入院ということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、達也たちのもとにレオと錬が吸血鬼に襲われたという連絡が入った。もちろん寿和の妹であるエリカにも例外なく届き、エリカは中野の病院に学校を休んでやってきた。

 

 病室の事務室の一部屋で聴取を受けていた錬のもとにけたたましいドアの開閉音を立ててエリカが入室する。その姿を見た寿和は明らかにいやそうな表情をする。エリカは寿和を発見すると同時に即座に寿和のもとへ移動する。

 

「バ・カ・兄・貴~!レオに何やらせてんのよ!」

 

 エリカは右手を振りかぶり、そのまま寿和の顔面に裏拳を振りかざした。その一撃を寿和は躱さなかった。躱せなかったのではなく、躱さなかった。レオを危険に巻き込んでしまった罪の意識があるのだろう。寿和を殴ったエリカは次に錬の方を向く。

 

「錬君もごめんなさい。巻き込んでしまって」

 

 エリカは軽く頭を下げて錬に謝罪する。錬はそれを見て言葉を返す。

 

「気にする必要はない。特に何があったわけじゃないからな」

 

「そういってくれるとありがたいわ」

 

 錬の言葉がうれしかったのか、エリカは笑みを浮かべる。がそれも一瞬の話ですぐに元に戻ってしまう。寿和の方を向くと、突き付けるように淡白に言葉を放つ。

 

「じゃ、あたしはレオのところに行ってくるから、ここは任せたわよ」

 

 そういったエリカは足早に事務室を後にする。沈黙に包まれた室内に錬の言葉が響き渡る。

 

「怖いですね」

 

 エリカに殴られた頬をさすりながら、寿和はつぶやく。

 

「嫌われてるからなあ……」

 

 稲垣が寿和の言葉を聞き苦笑を浮かべる。

 

「それでは聴取の続きをしましょうか」

 

 稲垣の助け舟によって沈黙による気まずさが晴れる。そして気持ちを切り替えるようにして全員聴取を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 克人や真由美がやってきたというサプライズがあったものの錬は平和に昼を越えた。そろそろ下校時刻だろうな、と錬が考えながらエリカとともにロビーで飲み物を飲んでいると、白服の集団が病院に入ってくる。その白服の集団は錬の姿を見るとともに声をかける。

 

「錬さん、大丈夫ですか?」

 

 真っ先に錬に心配そうな声をかけたのはほのかだった。その声に続いて他の面々も続々と声をかける。

 

「体に異常はないから、大丈夫だ。それよりも早いところレオに顔を見せに行った方がいいんじゃないか?」

 

「ん?まだレオのところに行ってないのかい?」

 

「俺はな。いろいろ聴取があったもんで」

 

「それじゃあ錬の言う通りにレオのところに行こうか」

 

 達也に促されて全員が一斉に動き出す。エレベーターに乗り込んでレオの病室に向かう。その中で美月は心配そうにレオの容態を尋ねる。

 

「それでエリカちゃん、レオ君は大丈夫なの?」

 

「大丈夫よ。命に別状はないわ」

 

 その質問に答えたエリカは病室の扉をノックする。病室の中から若い女性の声で入室許可が出される。病室内にいたのはレオの姉であった。その人物は花瓶を持って病室を出て行ってしまう。美月たちが感想を述べるとともに先陣を切って達也がレオに話しかける。

 

「ひどい目に遭ったな」

 

「みっともないとこ、見せちまったな」

 

 レオは照れくさそうに答える。その回答に皆が微笑んでいると、錬のことを見つけたレオは気まずそうに頭を軽く動かす。

 

「悪かったな錬。巻き込んじまってよ」

 

「気にしなくていい。レオと話している時点で気が別の部分にそれてる時点で何かあるとは思っていたからな」

 

「あの時点でばれてたのか…。なんかちょっと恥ずかしいな」

 

 レオが恥ずかしそうに頭をかく。その姿を見た面々は緊張がほどける。

 

 話を切り替えるように達也が問いかける。

 

「そういえばレオ、見たところ外傷はないようだが、いったいどこをやられたんだ?」

 

「それがよくわからねえんだよな……」

 

 レオは達也の質問に首をかしげながら答える。その表情は心底納得いっていないといった表情だった。

 

「殴り合っている最中に、急に力が抜けちまってさ。最後に一発いいのを入れたんだけどよ。立ってられなくなっちまってよ。錬に守ってもらわなかったら、やばかったぜ」

 

「毒を食らった、ってわけじゃないんだよな?」

 

「ああ、体にはどこも問題なかったぜ」

 

 話が進んでいく中で幹比古が普通では突拍子もないことを言い始める。

 

「何か心当たりがあるのか?」

 

「多分レオたちが遭遇したのはパラサイトだ」

 

寄生虫(パラサイト)?そのままの意味じゃないよね?」

 

 純粋な好奇心で尋ねたエリカに気をよくした幹比古が解説し始める。

 

 パラサイトとは様々な名称と呼ばれるモノたちの内、人に寄生して人を人間以外の存在に作り替える魔性のことを指す。その話の最中、幹比古がレオの幽体を調べようとする。ここで出た幽体は精神と肉体を繋ぐ霊質で作られた、肉体と同じ形状の情報体である。吸血鬼がこれを生命の糧としているというのが定説であるらしい。

 

 レオが襲われた責任を感じるように言葉を濁らせる幹比古であるが、レオの二重の許し幹比古は気を引き締めなおして幽体を見るための準備を始めた。

 

 幹比古は伝統呪法具を駆使してレオの幽体を観察する。すると、幹比古が驚きの表情でレオに尋ねる。

 

「何というか…レオ、君って本当に人間かい…?」

 

「おいおい、随分とご挨拶だな」

 

「いや、だってさ……、良く起きてられるね?これだけ精気を喰われていたら、並の術者なら昏倒して意識不明のままだよ」

 

「精気が何なのかはひとまず置いておくとして、失った量まで分かるのか?」

 

「幽体は肉体と同じ形状を取るからね。容れ物の大きさが決まっているから、もともとどれだけそれがどれだけ減っているかというのも、おおよそ見当がつくんだよ」

 

 幹比古はレオの肉体を褒め称えるようにして感想を述べる。レオの力が抜けた原因が、精気が吸われたことによるものだと大方予測をつけたところで幹比古の興味が錬に向く。

 

「次は錬の番だね」

 

「さっさと終わらせてくれ」

 

 幹比古は錬の幽体を観察し始める。その様子を達也たちは観察していたが、十数秒後、幹比古がハテナマークが頭上にあるかのような表情に変わる。

 

「錬、君本当にパラサイトと交戦したのかい?」

 

「それは失礼ってもんだぜ、幹比古。俺はこの目で錬とパラサイトが交戦しているのを見てたぜ」

 

 レオが顔を歪めながら、錬の代わりに反論する。すると、幹比古はうろたえながらも弁明する。

 

「いや、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ錬の幽体が全く減っていなくて。パラサイトと交戦していたのならば確実に幽体を吸われるはず。それが全く減っていないというのはおかしな話なんだ」

 

「幹比古、もう一度見てみたらどうだ?」

 

 達也の助け舟に従って、幹比古はもう一度錬の幽体を観察し始める。すると、観察しながら言葉を漏らす。

 

「……いや、これは減っていないんじゃない…。密度がすごすぎるだけなんだ…」

 

「密度?」

 

 幹比古の言葉に反応した達也が疑問交じりの声を上げる。

 

「錬の幽体は人間ではありえないほどの精気が圧縮されて幽体に入っている。本来人間の幽体に入る精気の量は決まっているんだけど、錬は例外に当てはまるほどの精気の量だ。だから減っていないように見えたんだと思う」

 

「とにかく錬は異常だということか?」

 

「錬には悪いけどその解釈でいいと思う。レオに分け与える、なんてことができたらレオは今すぐにでも全快できるだろうね」

 

「でも、錬君が異常なんて今更だよね」

 

 エリカがにやけながら錬のことを覗き込む。それを見た錬はエリカから目をそらした。

 

「でもおかしいな。一体ここれだけの精気、いったいどこから送られてきてるんだろう…」

 

 幹比古の言葉を聞いた錬の身体はびくりと震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオの病室を後にした錬と達也は帰宅の最中に話し込んでいた。

 

「お前の幽体は人間離れしているらしいな」

 

「らしいな。今まで気にしたこともなかったが」

 

「異能の影響か?」

 

「多分な。あれは恐らく俺の精神世界の一種だ。巨大な精神世界があるからこそ、幽体の強度が尋常じゃなくて、大量の精気が送られてきているんだろう」

 

「精神世界によって、幽体は変わるということですか?」

 

「恐らくそうだろうな。おそらく達也も強度が高いと思うぞ」

 

「皮肉か?」

 

「いや」

 

「それはともかくとして、パラサイトの方はどうだった?」

 

「パラサイトは特に問題ない。ただ、その最中でリーナと交戦した」

 

「リーナと?どういうわけでしょうか?」

 

「訳はわからない。パラサイトと交戦していたら急にやって来ただけだからな。ただ。今回の騒動、USNAが絡んでいるだろうな」

 

「そうか。すまないな。今度何か奢ろう」

 

 錬は手を振ってその声に応え、達也たちと別れ、帰宅の途についた。その道中、錬は背後に何やらおかしな気配を感じ取る。胸元に手を伸ばしながら振り返る。

 

「いやいやすまない。姿を見せた方がよかったね」

 

 空間が揺らめくようにして何もなかったところから九重八雲が現れる。その姿を見て錬は胸元に入れていた腕を元に戻す。

 

「ずっと尾行ていたんですか?」

 

「いや、さっき来たばかりだよ。驚かせてみようと思ってね」

 

 茶目っ気のある八雲の言葉に錬は溜息を吐く。

 

「で、どのようなご用件でしょうか?」

 

「うーん、そうだね。個人的に聞きたいことはたくさんあるけどひとまずは三つでいいかな」

 

「パラサイトはどうだった?」

 

「特に問題になるようなものではありません。肉体が破壊できればあるいは」

 

「対処法はあるのかい?」

 

「俺の推察が正しければ」

 

 八雲はうっすらと目を開き、錬を見据える。だがその目はすぐに閉じ、次の質問に移る。

 

「仮面の人物、アンジー・シリウスはどうだった?」

 

「強いとは思いますよ。恐らくあなたほどではありませんが」

 

「おやおやお世辞かい?」

 

「本心ですよ」

 

「では、最後に」

 

「君、本当に何者なんだい?」

 

「君のことを調べなおしたんだが、本質的なことはわからなかった。でも新しいことも分かった。君が九島烈の庇護下にいるということ、貯金残高が九桁ほどあること。でも、それしかわからなかった。僕だってそれなりの使い手である自信はある。それでもわからなかった」

 

 錬はだんまりを決め込む。だんまりを決め込んだ錬を見て八雲はにこやかな笑みを浮かべて錬に話しかける。

 

「無理に話す必要はないよ。知りたがるのは僕の癖みたいなものだし、君にもプライバシーというものがあるからね」

 

「預金残高を明らかにしておいて何を言ってるんですか」

 

「そりゃそうだ」

 

「それにただより高いものはありませんよ」

 

「それは君の場合、お金じゃないんだろう」

 

「お金でも構いませんよ。言いませんが」

 

「まあ、君自身のことは話す必要はないよ。それでもご贔屓にさせてもらうかもしれないね。君の能力は有能だ」

 

「俺の能力は商業物じゃないですよ」

 

 錬がそういうと八雲が消えるようにして、錬の目の前から消える。それを見送った錬は再び歩き始める。そして十メートルほど歩いたところで無造作に振りかぶり、その手を横に薙ぎ払った。

 

「グエッ!」

 

 姿を消していた八雲からカエルが潰れたような声が漏れた。

 

 

 

 

 

 





 
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