魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~ 作:カイナベル
それではおたのしみください。
化け物認定から数日後の放課後、なぜか俺は風紀委員会本部に呼び出された。今日は非番なので呼び出される理由などなく少し首をひねっていたところ、単に事務作業が苦手で手伝いを頼みたかっただけのよう。達也に頼む予定だったらしいが、無理だったらしい。そこで風紀委員で事務スキルを持つ人物二人目の俺に白羽の矢が立ち、呼び出したとのこと。一瞬呼び出された理由に腹が立ち、そのまま回れ右して帰ろうかとも思ったが、先輩の威厳はどこへやらと言わんばかりに下手に頼んでくるので、ため息を吐きながら付き合うことにした。
「すまないな。わざわざ非番なのに手伝ってもらって。」
「そう思うんでしたら、自分で少しはできるようにしてください。あとやること無いんでしたら、少し片づけしててください。なんでたった数日でここまで汚くできるんですか。」
「む、それは私が片付けができないと言いたいのか。失敬な。」
「それは片づけができてはじめて言っていい言葉ですよ。早く手を動かしてください。」
「一応私は先輩なんだがな…。」
「頭まで下げて頼み込んできた人の言うセリフではありませんね。片付けもできないんじゃ後輩どころか彼氏さんにも愛想つかされますよ」
「そ、それは困った。ようし!片付けするか!」
俺のきつめの言葉がスパイスになったのか、息巻いて掃除を始めた。だが、根本的に苦手なのかちっとも進んでいなかった。
「はあ、達也がカウンセリングに呼び出されなきゃこんなことにならなかったのに…」
「私の見立てでは君も呼ばれると思うがな。」
「どうしてですか。」
「その目の下のクマ。いったいどんなことがあったのかは知らないが、少なくとも私には悩み事があるようにしか見えんが?」
「そんなことはありません。俺が眠れないのは体質です。」
「そうだとしても心配に見えてしまう。達也君で呼ばれるのだから君はなおのこと呼ばれるだろうな。」
そういいながら手を動かす委員長の周りは全く片付いていない。どれだけ苦手なんだ。そう思いながら、少しだけ止めていた手をまた動かそうとデスクに向き直った途端、
バキッ
不穏な音が聞こえた。音の正体を探ろうと顔をあげると渡辺先輩が立っていた。顔を真っ青にして。そしてその足元には画面の割れたタブレットが転がっていた。見せてもらうために渡してもらうと電源を押しても起動しない。何回やっても起動しない。
「ダメですね。壊れてます。捨てちゃいましょう。」
「そ、それには風紀委員会の活動報告が入っているんだ…。」
「バックアップは?」
「な、無い。」
渡辺先輩が頭を抱える。頭を抱えたいのはこっちだ。とにかくこれがやすやすと捨てられないものであるのはわかった。仕方ないので調べてみると、中が少し壊れている程度なので治すことは可能だ。ただパーツはないので壊した本人に買いに行かせようと思ったが、風紀委員は校内から出ちゃいけないのこと。仕方がないので俺が買いに行くことになった。
「えーと、ここか。」
パーツの店でのお使いも終わり、帰ろうとしたその矢先、路地裏からバイクのエンジン音がした。それも割と近くで。普通はバイクなんて入っていかないような路地から聞こえてきたので不思議に思った。ここで一般人であればスルーするところだが、俺の場合はそうもいかない。先日の件といい、俺は達也ほどではないがトラブルに巻き込まれやすい。そのためいちいち自分ではないかと錯覚してしまう。周りに迷惑をかけたいとは思わないため、自分かどうかだけでも確認するために俺は音がした近くの路地を覗いた。
私、光井ほのかは深く後悔をしていた。自分の取った軽率な行動に。何も考えずに行動してしまったことに。そしてそれに友達を巻き込んでしまったことに。私、私たちは私の友人である、深雪のお兄さん、司波達也さんが魔法攻撃を受けたところを目撃し、その犯人を見つけ出そうと行動していた。そしてその犯人、司甲の後を尾行していた。あとをつけていたら、何か有力な手掛かりがつかめると思っての行動だ。別に私たちは尾行はやったことなんてないから上手くない。けどばれてはいないと思っていた。だけどそれはまやかしだとすぐに分かった。尾行していた私たちが誘導されていたのだ。いきなり路地裏に入り、走り出したかと思ったら、姿が消えたのだ。そしてライダースーツを着た四人に取り囲まれたのだ。
「な、なんなんですか!あなたたち!」
答えない。四人はじりじりと私たちに迫り、私たちは恐怖で身を固めてしまう。
(CADのスイッチ入れて。合図したら走るよ。)
真っ先に行動を起こした雫が小声で言ってくる。それに否定するわけもなく、CADに触れ、スイッチを入れる。
「ふん、こざかしいネズミが。我々の計画を邪魔するものは…。」
「GO!」
私たちは一斉に走り出す。
「逃がすな!」
四人が追ってくる。するとアメリア=英美=明智=ゴールディ、エイミィが魔法を発動した。
「ただの女子高生だと思って舐めないでよね!」
「ぐあっ!」
「自衛的先制攻撃ってやつだよ!」
「それなら私も!」
私も閃光魔法を発動し、足止めをする。このまま逃げ切れると思ったところで、
「化け物め!これでもくらえ!」
四人のうちの一人が手に付けている指輪に触れる。すると不快な音があたりに鳴り響いた。その影響で頭が割れそうなほど痛い。
「ほのか!」
雫とエイミィが立ち止まる。二人も苦しそうな顔をしている。
「司様からお借りしたアンティナイトとこのキャストジャミングがある限りお前らは一切魔法は使えない」
アンティ…ナイト…?なんで…そんな…ものが?
「まだ効果が足りないみたいだな」
さらに痛みが増す。とうとう雫たちも倒れてしまった。
「始末するか?」
「ああ、手はず通りに。」
一人がナイフを持ち、近づいてくる。逃げたくても頭が痛くてそれどころじゃない。
「我々の計画を邪魔するものには消えてもらう。この世界に魔法使いは必要ない!」
いやだ、死にたくない。涙が自然と溢れてくる。
ナイフが私の頭上で光る。否応が無しにこれから起こることが予想できてしまう。現実から目をそらすために私は目をつぶって祈った。
(助けて…)
ナイフが私に向かって振り下ろされた。
「ほのかっ!」
「なにやってんだ?」
聞こえてきたのは聞き覚えのある男の声。その声に驚いたのか男たちの行動が止まる。
「錬…さん…?」
立っていたのは同じクラスの錬さん。なぜここにと思ったが、まず危険であるということを伝えなければと思い、口を開こうとする。けれど痛みでしおれた声は男の声にかき消されてしまう。
「だれだ!貴様は!」
「一応、あんたらが襲っている女子の学校の風紀委員だよ。」
「ということは魔法師か!これでもくらえ!」
錬さんに向かってアンティナイトの波動が撃ち込まれる。そしてナイフを持った男が錬さんに向かって襲い掛かる。
「危ない!」
このままでは錬さんが傷付けられてしまう。またこれから起こる未来が予想され、目をつぶってしまう。だけど現実は違った。
「あぶねえな。なんなんだよ全く。」
何をしたのかはわからなかったが、錬さんの前には襲い掛かった男が倒れていた。残った男たちがうろたえている。
「く、くそ!もっと出力を上げろ!」
さらにアンティナイトの出力があげられる。頭がさらに痛くなる。が、錬君は平然としている。
「な、なぜキャストジャミングが効かない!」
「そんなもん効かん。それがわかったら今すぐ帰れ。」
「クソオ!」
三人が同時にナイフを持ち突っ込んでいく。しかし錬君は胸元に手を入れると男のうちの一人がしびれたようにして倒れる。でもまだ二人いる。それでも錬君は焦ることなく対処した。一人の足を払って倒れさせると、もう一人の方の腹部にパンチを打ち込む。そしてまだ倒れている方の腹部を踏みつけて気絶させる。こうしてたった一人で倒してしまった。
音のもとを調べてみると、なぜかそこにほのかと雫、それに知らない女子と、バイクのヘルメットをかぶった四人組がいた。一瞬逢引きかとも思ったが、どう考えても違うのですぐに何者かに襲われていると判断し、とりあえず助けることにした。人に興味がないとはいえ、これを見過ごすほど外道であるつもりはない。声をかけると、こちらにキャスト・ジャミングを向けてきた。どうやらこいつらは依然襲ってきたの奴らの上の連中、ブランシュの一員らしい。だが俺にあの程度のキャスト・ジャミングは効かない。こうして、いつものように対処する。
男たちを撃退し、後始末をしながらほのかたちの方を見ると、ほのかたちがよろよろと立ち上がっていた。ほかの二人も同様だ。
「怪我はないか?」
「は、はい…。大丈夫です。」
「私も…。」
「あたしも…。」
どうやら全員無事のようだ。
「そりゃよかった。」
「それにしてもすごいわね。あの中を平然と動けるなんて。」
俺の知らない女の子が一番回復が速かったのか俺に話しかけてくる。
「私はアメリア=英美=明智=ゴールディ、エイミィって呼んで。」
「園達 錬だ。錬でいい。」
「それにしてもあれだけのキャスト・ジャミングの中を普通に動けるなんて」
「そうか?別に何ともなかったぞ。」
「あれだけのを受けたら魔法師は動けなくなって当然。現に私たちがそう。」
三人が少し変な目で見てくる。ああ、また化け物扱いか。少しほのかはまだ調子が悪そうだが。
「ほのか、みんな、大丈夫?」
後ろから声とともに深雪が駆け寄ってくる。
「怪我は?どこか傷つけられたところは?」
「うん、錬さんが助けてくれたから…。」
「そう、よかったわ。」
口調を聞く限り、こんなことをしているのは知っていたようだ。
「でも、もうこんなことはしてはだめよ。お兄様のためだろうけどあなたたちが傷つけられてはお兄様が傷つくわ。」
「うん、ごめんなさい…。」
そういうほのかの顔はほんのり赤い。兄の天然ジゴロは妹にも受け継がれているのか。それも深雪の場合、同姓も落とそうとしているため、兄より質が悪いかもしれない。兄妹そろってそのつもりはないのだろうが。そばで見ていると深雪がこちらに向き直る。
「錬君、友人としてお礼を。私の友人を助けていただきありがとうございました。」
「構わない。どうせ深雪も有事の時には友人を助けるつもりだったんだろう?今回はたまたま俺が近かっただけの話だ。それにその理論なら俺も同様だ」
「それでも錬さんがいなかったら、私たちは危なかった。私からもありがとう。」
「わ、わたしも、ありがとうございました!」
「わ、私からも」
全員から礼をされる。こんなにされると少し居心地が悪い。その意を伝えて頭をあげてもらう。
「ちょ、調子に乗るなよ…」「「「「!?」」」」
足元に転がっていた一人が意識を取り戻したのか、話し始めた。
「お前たち、化け物はいずれ世界を滅ぼ…」「うるさい」
胸元からスタンガンを取り出し、首元に当てる。すると電気ショックに耐え切れなかったのか、暴漢はまた意識を手放す。こんなことがいちいちあってはきりがないので全員にとどめを刺しておくことにしよう。
「しかしこれどうすればいいんだ。」
全員にとどめを刺した後、次はこいつらの処遇に頭を悩ませる。やはり警察に突き出すのが一番か。と考えていると深雪が口を開く。
「彼らは私に任せていただけませんか。」
「大丈夫か?任せてくれっていうならそうするが。」
「ええ、お願いします。」
「じゃあ、俺はあいつらを学校前のキャビネット広場まで送ってくる。」
「分かりました。お気をつけて。」
「お互いにな。」
深雪に背を向けて歩き始める。深雪と別れた後は三人を送り、そのままの足で学校へ戻っていった。本来の目的は単なるお使いだ。それにしてもただのお使いでここまで時間がかかるとは思わなかった。
「おお、遅かったな。何かあったのか?」
そういう委員長の周りは全く変わっていない。恐らく帰ってくるのが遅いのをただ心配して座っていたのだろう。もう何も言うまい。
「一応ありはしましたが、気に留めるほどのことでもありません。それよりタブレット直すので委員長はさっさと片付けてください。」
「あ、ああ分かった。」
その後はササッとタブレットを直して帰った。まだ手伝ってほしそうな委員長に止められたがもう知らん。
「ねえ、ほのか」「なに、雫」
ほのかと家に帰るためにキャビネットに乗っている。錬さんに送られた後、エイミィとも別れ、同じキャビネットに乗っている。今日ほのかは大事をとって泊まってもらうことにした。
「錬さん、強かったね。」「…そうだね。」
「そうだよ。あんなキャスト・ジャミングの中で動けるなんてすごいよ。それに体術もすごかったし。」
「さすがに深雪以上の入試成績一位ってことなんじゃないかな」
「でも少し疑問。」
「うん、私も。」
「何でテイザー銃やスタンガンを持ってるんだろ。」
「ああいうことを想定してるってことかな?」
「ってことはあんな経験を以前してるってこと?」
「「うーん。」」
交互に自分の考えを口に出し合うが分からない。普通護身用だとしてもスタンガンはともかくテイザー銃はなかなか持たないだろう。それなのに錬さんは持っていた。なぜだろうか。結局答えは二人では出せないと感じたのでこのことを考えるのはやめることにしよう。しばらくして家の近くに着き、少しもやもやした気持ちのまま帰宅することになった。
『全校生徒の皆さん!』
放課後の平穏な時間に喝を入れるかのように学校中にハウリング寸前の爆音が鳴り響く。唐突な爆音に耳が対応しきれず、耳が痛い。すると向こうも音量に気づいたのか、ボリュームの調整がなされたのち、放送が続けられる。どうやら声の主は差別撤廃を目指す有志同盟らしい。放送内容は一科と二科は差別を受けている、生徒会と部活連に対等な立場における交渉を要求する、というものだった。放送内容はどうでもよいとしても、問題は放送がなされたことだ。放送室を無断で使ったということだろう。ならば委員会からの呼び出しが…、と思ったとたんに端末に連絡が入った。内容は至急来るように、というものだった。俺が行く必要があるのかと思ったが、一応行くことにし、同じく招集がかかったのであろう深雪と目を合わせて、一緒に放送室に向かった。
「遅いぞ、っておお、本当に来たぞ。」
到着すると、委員長にさも俺が来ないかのような口調で迎えられた。俺も一応風紀委員なんだけど…。どうやら俺たちは可もなく不可もなくといった速さ、少しすると達也を含めた風紀委員や生徒会役員が全員集まった。
「状況はどうなっている。」
われらが会長が口火を切る。
「連中がマスターキーを持って立てこもっているせいで、手が出せない状況です。」
市原先輩が簡潔に状況を伝える。これからどうするかの審議に入ったが、慎重に事を進めるべきだという鈴原先輩に対し、多少強引にでも早期解決を図ろうとする渡辺先輩で意見が対立した。膠着状態に至ったところで達也が十文字家次期頭首、十文字克人会頭に意見を求めた。すると十文字会頭から意外、とも言えないが予想に反した答えが返ってきた。どうやら交渉に応じるらしい。しかしどうやって伝えるかという問題が発生した。彼らはいるのは放送室。大声で叫んでも遮音性のせいで聞こえない。どうしようかと全員が頭を悩ませていると達也が端末を取り出し、どこかにかけ始めた。何コールめかで相手が出て達也が話し始めた。どうやら会話の相手は放送室の中の壬生紗耶香先輩らしい。交渉に応じる意を伝えると、出てくるという返答をもらえたようだ。すると達也が拘束の準備を促した。達也からしてみれば安全を保障したのは壬生先輩のみ、それに風紀委員を代表して交渉しているとは言っていないとのこと、その場の全員が呆気に取られていた。俺も驚いた。確かに間違っちゃいないが、やり口が狡猾すぎる。これじゃまるで詐欺師のやり方だ。
案の定、出てきた壬生先輩は憤慨し、達也に詰め寄る。その一コマだけを見ればどちらが被害者かもわからない。だがどちらが悪いかはわかりきっている。達也と言い争うところに十文字会頭が交渉に応じる意を改めて伝える。そして交渉の段取りを組むために七草先輩とどこかに行ってしまった。その日はそのまま解散となり、俺も帰宅することにした。なんだか嫌な予感がする。少し面倒なことになりそうだ…。
前例のない討論会が行われるのは明日。差別撤廃を訴える集団が一日中、参加者を募っていた。とはいっても俺は一科生。特に絡まれることもなくいつも通りの日々を送っていた。今日も一日が終了し、帰宅しようとした矢先、目の前に見覚えのある人物が見える。
「おっ、錬!助かったぜ。」
レオがこちらに駆け寄ってくる。どうやら大分長い間引き留められていたようだ。その表情には多少の疲れが見える。恐らく身体的なものではなく、精神的なものだろうが、結構きているらしい。同盟の二科生はまだ勧誘を続けようとしていたが、俺が一科生ということに気付いたのか、すぐに諦め、引き下がっていった。
「いやあ、助かったぜ。結構長い間引き留められててよ。正直うんざりだったんだ。」
同盟側は同盟側で大変みたいだ。同情はしないが。レオと別れた俺は言いようのない不安を抱えながら帰路に着いた。
完全に夜の帳が降り、寝静まったように静かな住宅街。その中を一台の電動二輪が走る。司波達也、司波深雪の二人は九重寺に向かっていた。明かりの一つもない境内を進み、師匠、九重八雲のもとへ向かう。深雪は夜目が効かないため、俺の袖を握っている。
「こっちだよ。二人とも」
俺の師匠は深雪の反応を見たいのか、驚かすように声をかけて来る。まさに思うつぼと言わんばかりに深雪の震えが伝わってくる。
「こんばんは、師匠。お呼び立てに応じていただきありがとうございます。」
形式的に謝礼を述べる。それを聞き遂げた師匠は俺たちに座るように勧める。
「それで今日は何の用かな。」
「お調べしていただきたいことが二つほどありまして。」
「司甲。旧姓、鴨野甲。」
「今日尋ねることがわかっていたんですか?」
驚きはしない。この程度で驚いていてはこの変態じみた忍には付き合えないのだ。ただプライバシーという言葉を知っているのかは疑問だが。
その後司甲についての詳しい情報が師匠からもたらされた。家族構成、本人について、そして本題であるその兄について。
「彼の義理の兄、司一が表も裏も取り締まるブランシュのリーダーだ。司甲君が第一高校に入学したのはお兄さんの意思が働いてのことだろうね。」
これでほぼ甲は黒。さらに詳しく聞こうと思ったが、師匠もこれ以上はわからないらしい。これ以上掘り下げるのは不可能と判断したので、もう一つの本題を切り出す。
「もう一つ、司甲とは別でお聞きしたいことがありまして…。」
「園達錬君のことかい?」
予想していたのか、はたまたすでに知っていたのか、ぴたりと言い当てて見せた。だからこそ何か情報を知っているのでは、という淡い期待を抱く。
「彼についてはパーソナルデータ以上のことは知らないよ。」
淡い期待ははかなく打ち砕かれる。そんな俺たちを知ってか知らずか、言葉を続ける。
「何度調べてもそれ以上が出てこなかったんだ。まるで何年か前にいきなり作られたみたいにね。それよりも前の記録は塗りつぶされたみたいに何もないんだ。けどね、興味があって彼の自宅に行ってみたことがあるんだけど、彼の家は結構変わっているみたいでね。一人暮らしなのに大きなガレージがついてたり、ちょっと家の間取りを調べてみたら、地下に巨大な空間があったり、少なくとも普通の家じゃないね。」
「ということは…。」
「何者かの庇護下にある可能性があるね。それが誰かは分からないけど。」
まさかここまでだとは思わなかった。師匠でも分からないパーソナルデータ。深雪以上の魔法力、本人だけでも充分過ぎるほど危険だが、後ろ盾があるとわかった今、さらに危険度が増した。深雪に危険が及ぶのであれば...、とは思えなかった。今までの立ち振る舞い、深雪から聞いた先日の事件、そのどちらを見ても正直危険という感じは見て取れなかった。
「………深雪。」
「何でしょうか。」
「彼は悪い奴に見えるか?」
「………いいえ。少なくとも私にはそうは見えません。」
「………そうか。」
誰も何も言わなくなり、境内に沈黙が訪れる。これ以上は何も得られない。双方ともに理解したので俺たちは師匠に辞宜をし、寺を後にした。