ガールズ&パンツァー ~もし西住まほが大洗に転校していたら~ 作:アイアンクラッド
早速、練習が始まった。
「練習は授業が終わる16時頃から、19時まで。全体練習は18時からで、それまでは各自で自主練を行ってもらう」
「ちなみに自主練って、何をやるんですか?」
一年生たちが尋ねる。
「基本は運転や射撃の練習だが、整備点検や筋トレも重要な訓練だ。いざという時に故障で動かないなんて事になれば、話にならないからな」
はーい、と元気な声が上がるも、本当の意味でその重要性を認識している生徒が果たして何人いる事だろうかと西住まほは思った。
(整備技術や体力といった基礎は一日二日で身に付くものではない。目立つ射撃や行軍ばかりに気を取られて疎かにしなければいいのだが……)
そして彼女の予感は2時間後、予定より20分遅れて18時20分に始まった全体練習で見事に的中した。
「では皆、私の指示とおり動いてくれたと期待している。ちゃんと戦車は動かせる状態になっているか?」
その言葉に、まばらに返事が返ってくる。
「とりあえず、行進から始めよう。目標は校庭を5周だ」
まほの指示に従って、生徒たちはエンジンを起動させる。ディーゼルエンジンの爆音が大気を振動させ、鋼鉄の塊が小刻みに震えだす。
戦車の中では、生徒たちがそれぞれの持ち場でスタンバイしていた。沙織たちのチームでは、装填手を秋山由香里、射手を五十鈴華、無線手兼車長を武部沙織が、そして操縦手を単位と引き換えに冷泉麻子が担っている。
(やっと、戦車を動かせる……!)
沙織は決して広いとは言えない戦車の車内で、なんともいえない高揚感が湧きあがってくるのを感じた。この鋼鉄の塊が、自分たちの思いのまま自由自在に動くのだと。
やがて耳のインカムにノイズが走り、まほがふっと息を吸いこむ音が聞こえた。
『―――Panzer Vor!』
冷泉麻子がアクセルを踏み込むと同時に、前輪が回りだす。それが無限軌道を動かし、運動場のトラックに特徴的な軌跡を残していく。
(早い―――!)
初めて動かす戦車は想像より速く、前進する様はとても力強く感じた。まるで自分もこの鋼鉄の獣の一部になったように、自然とパワーが身体の内部が湧き上がってくるような錯覚すら覚えそうになる。
振動で揺れる車内は快適とは言い難いが、沙織は得も知れぬ興奮に包まれていた。初めて乗る戦車の中で、彼女は夢中で指示を出し続けた。
**
行進は途中までは上手く行ったが、校庭3回目のカーブを曲がった辺りから脱落する車両が増えていった。
もともと戦車のエンジンやブレーキといった走行装置には、通常の車では考えられないほどの負荷がかけられる。重量が重いキャタピラ式の車両を、低速かつ長時間にわたってフルスロットル状態で動かしながら、急発進・急旋回・急停止を繰り返すのだ。
38tの履帯が旋回時に外れたのを皮切りに、3号突撃砲はトランスミッションが故障。M3中戦車はオイル漏れ。八九式戦車はサスペンションの故障。4号戦車は冷却系が摩耗―――結論から言えば、ただの1両ですら目標の5周を達成できなかった。
進軍するだけで部隊が壊滅していく様は、歴史上の有名な敗戦を彷彿とさせる。
勇ましい軍隊の行進は中盤から歪に変質し、みるみる内に病人がのたうち回っているような惨状になってしまった。
「そこまでだ」
全車両が動かなくなったタイミングで、まほは全員に車両から出るように指示した。生徒たちは皆、バツの悪そうな苦笑いを浮かべている。
さすがにこの出来は、いくら初心者とはいえ酷すぎた。
「よく見ておくんだ。これが、今の我々の実力なのだと」
まほの声音は相変わらず、淡々としたまま。それが却って、皆の胸に不気味に突き刺さった。
金のある高校なら専門の整備員もいるのかも知れませんが、貧乏な大洗では整備も基本的には生徒たちがやるので素人ぞろいの大洗最初の課題は整備でしょうね。
まぁもっとも現代の軍隊ですら戦車の整備は基本的に乗組員が行うもので、整備員に丸投げしてたのは大戦中のアメリカとソ連ぐらいらしいのですが