ガールズ&パンツァー ~もし西住まほが大洗に転校していたら~ 作:アイアンクラッド
「全車両が故障。その原因は全て、整備不足に原因がある。15時に集合してから2時間の整備を行ってなお、この有様だ」
うわー、酷いな。と、沙織は正直にそう思った。隣で、秋山優花里が緊張したように唾を呑んだ。五十鈴華の身体も、心なしかいつもより小さく見える。
整備は戦車道の基本。その重要性を、今更ながら痛感する。
皆、初めて戦車に乗れる期待に浮かれていたのだ。整備などという地道で泥臭い作業より、全速力での行進や砲撃の方に注意が向いていた。一刻も早く戦車に乗りたいと思うあまり、基礎をおろそかにしていた。
その代償が、いま目の前で無残な姿を晒している戦車たちだ。
「今の我々では、戦車を動かす事すらままならない。ただ戦車に乗っているだけで、あの惨状だ。もう一度振り返って、眼を逸らさず良く見て欲しい」
まほが運動場の方を指さした。沈んだ空気を纏わせたまま、生徒たちも振り返る。
「ひとつ質問しよう。勝負は、何のためにある?」
まほの問いかけると、嫌な沈黙が場を支配した。こういう時に勇気を出して答えても、大抵は「違う」と一蹴されてしまう。
まほはため息を吐くと、バレー部のキャプテンを指さした。
「どう思う?」
「わ、私ですか?」
動揺する気配が伝わってくる。しばし逡巡していたが、キャプテンとしてのプライドもあってか磯辺典子は思い切って口を開いた。
「勝負は、やっぱり勝つためにあるものだと……」
「その通りだ」
まほが肯定する。
しかし緊張はいまだ解けてはいない。中には重苦しい雰囲気に耐え兼ねて涙目になる生徒もいる。
きりきりと胃を溶かすような空気に、沙織はぐっと唇を噛んだ。
「勝利とは、小さな勝因の積み重ねがあって初めて掴めるものだ。しかし今の出来を見るに、我々は最も基礎となる部分すら満足にこなせていない。これでは勝利など夢のまた夢だ」
「こっちは初心者なんだし、別に遊んでたわけじゃ……」
一年生の一人が、ぽろっと不満を漏らす。まほは彼女を一瞥すると、つかつかとM3中戦車のところまで移動した。
オイル漏れを起こしたM3中戦車は、地面に大きな黒い染みを作っている。まほはしゃがんでオイルの池に手を突っ込み、小さな部品を掬い上げた。全員に見えるよう、手を伸ばして高く掲げる。
「この部品が何か分かるものは?」
まほの問に、秋山が勢いよく手を上げる。
「ネジです! 型式は……」
「そう、これはネジだ。エンジンを駆動させた際に圧力が高まって、緩んでいたこいつが吹き飛んだ。恐らく緩んで斜めに締まっていたものを、確認もせずに動かしたからだろう」
秋山のうんちくを途中で遮り、まほが解説する。緊張をはらんだ生温い空気が、沙織の肌にべっとりとまとわりつく。
「ドイツ戦車はともかく、信頼性の高いアメリカ戦車はよほどの事が無い限り故障は起こさない。つまりこれは車体の機体信頼性の問題というより、単なる点検不足による人為ミスが原因で起こったものだ。それもネジが吹き飛ぶなどという初歩的なミス……ちゃんとマニュアル通りに点検していれば防げたミスだ」
まほの言葉に、一年生たちが気まずそうに項垂れた。図星なのか、文句を唱えた生徒は居心地悪そうにそわそわしている。一年生チームはあまり整備に熱心では無く、ほとんどの時間を雑談で潰していた。
「いいか、試合は団体戦だ。個人戦の集まりではない。この違いは分かるな?」
団体戦の肝はチームワーク、つまり共同作業だ。役割分担をすることで相乗効果が生まれ、個人作業の総和よりも大きな成果が出せる。
しかし共同作業は時としてプラスの相乗効果だけでなく、マイナスの相乗効果を出してしまう。一人がサボったりミスを犯すと、それもまた全体に伝播してしまう。
「この際だから、ハッキリと言う。君たちのミス1つ1つが、この学園艦の寿命を縮める。我々がミスを一つ犯せば、それが廃校のきっかけになり得るのだ」
廃校が決まれば、この艦に居る全ての住民が家を追われる事になる。親しい者とも、離れ離れになってしまう。
「我々が戦車道大会で優勝することだけが、この艦を残す唯一の方法なのだ。ゆえに、我々に敗北は許されない。ただの一度も、だ」
突き放すような、まほの結論。じっと地面を見つめる生徒たちを見据えて、彼女は大きく息を吸いこんだ。
「今日の練習はこれまでだ。次回からは、二度と整備不良による故障が無いよう点検を怠らないこと。――いいな?」
彼女の鋭い声に、今度こそ一丸となった返事が響いた。
>ドイツ戦車はともかく
「弾薬庫被弾!」
「火災発生!」
「履帯損傷!」
WOTドイツ戦車でよく聞く台詞ベスト3