ガールズ&パンツァー ~もし西住まほが大洗に転校していたら~ 作:アイアンクラッド
大洗女子戦車道チームが控室として使っている、ガレージには通信手メンバーと車長メンバーが集められていた。といっても通信手と車長は兼任が多いため、ほとんど同じ事だったりするのだが。
「車長の役割は言うまでもく、戦車の『頭脳』として各乗員に指示を出すことだ。そして通信手は戦車の『口』と『耳』、つまり戦車間のコミュニケーションを取る事にある」
西住まほの言葉に、頷くメンバーたち。
「つまり戦車長は、チームを率先して導く立場にある。そこで諸君には、一足先に西住流戦車道を伝授したい」
西住まほは、全員を見渡して質問をした。
「では、私からひとつ質問しよう。――“西住流”とは何か、知っている者はいるか?」
この質問に対し、最初に手を上げて答えたのは磯辺典子だ
「突撃、突撃、また突撃!――それが西住流です」
しかし、西住まほはを左右に振って言った。
「間違いではないが、そんな当たり前の事を聞いているのではない。思想の根源、つまり“核”となるものについてだ」
他のメンバーの顔を見回すと、エルヴィンが手を上げた。
「統制された陣形と、圧倒的な火力で敵を押し潰す物量戦術では?」
西住まほはその答えを聞くと、ちょっと残念そうな顔になった。そしてしばらく考え込んだあと、全員にむかって驚くべき事を言ったのである。
「……少し誤解があるようだ。結論から言おう――西住流の肝は『機動戦』だ」
「「「「え………?」」」
メンバー全員が絶句する。黒森峰の戦いぶりはテレビなどで何度か目にしているが、どう考えても重装甲と大火力の重戦車の大軍を揃えて力押し、としか思えなかったからだ。
だが、それは西住流の表面的な見方に過ぎないのだと、まほは言う。
「そもそも西住流では、試合をエネルギー同士の衝突として捉えている。物理の授業を習った者なら知っていると思うが、力学において物体の運動エネルギーはその質量と速度の二乗に比例する」
これを戦車道に当てはめるならば、質量は彼我の物理的な戦力であり、速度は移動能力を始めとする機動力となる。
それを掛けた値がチームのエネルギー、攻撃力となってより大きな攻撃力を持った方が勝利する、というわけだ。
「西住流では速度を最大化することに重点をおく。速度の増加は二乗値でエネルギーを増加させるため、速度の上昇によって攻撃力は指数関数的に増加する」
つまり西住流戦車道の考え方では、戦いに勝つためには速さが必要という事になる。
説明がひと段落着いたところで、エルヴィンが再び手を上げた。
「でも、黒森峰の戦車には重戦車が沢山いました。速度より火力と防御力を重視した重戦車は、機動戦のセオリーに反するのでは?」
エルヴィンの疑問は、この場にいる全員が抱いているものだった。速さが大事と言いながら、西住まほは事あるごとに低速重装甲高火力の戦車を好んで用いている。
この矛盾はどこから生じるのだろうか?
「実にいい質問だ」
よくぞ聞いてくれた、とばかりに西住まほは頬を緩めた。
「たしかに西住流をもっとも色濃く受け継いでいる黒森峰高校では、伝統的に重戦車を多用する傾向になる。黒森峰の車両は速度も遅いし、生徒は厳格な規律に縛られ、戦術は隊列を組んで移動するという硬直的なものだ。」
いや、流石にそこまでは言っていないのだが……と周囲が乾いた愛想笑いで誤魔化そうとする中、西住まほは語気が強めて力説する。
「柔道では“柔よく剛を制す”という言葉があるそうだが、西住流戦車道では逆だ」
“剛よく柔を断つ”
いかなる技にも動じることのない、圧倒的な力こそが西住流の神髄なのだと。
まぁ厳密には柔道でも「柔よく剛を制す、剛よく柔を断つ」で柔ばかりもてはやしてるわけでもないんですが、それだと要するに「ぜんぶ極めろ」って身も蓋もない答えになっちゃうので・・・