注意:この小説のヒロインは1代目ティテュバではありません。どのような展開があっても1代目ティテュバがヒロインになることはあ り ま せ ん。
誤字報告ありがとうございました。修正しましたがまだ可笑しかったら申し訳御座いません。
セイレム滞在2日目、俺はカーター家の使用人となり、ティテュバさんの指導を受けながら言われた仕事をこなしていた。
カーターさんに家で働かないかと聞かれた時は本当に焦った。アビーと深い関わりを持つことや村人の注目を更に集めるだろうことが確定するからだ。
村人は信頼を築いていければ良いが、問題はアビーだ。
アビーと関わりを持つということは、魔女裁判でティテュバさんのように疑われる可能性が大だということ。
ラッキーなことに俺は人種差別の対象を持っていない。が、何がどうなるかわからない。魔女裁判などという事件に常識や想定は通用しないだろう。何せ狂気的な裁判だ。そこに正しいことや平等、論理などは絶対に無いだろう。
故に断って違う仕事を探そうとした。が、そこでカーターさんは取って置きの約束を持ち出して来てくれた。
――君が使用人になってくれたら君の望むことの手伝いをしよう。何、少しばかり困っていそうだったと姪から聞いてね。
これに俺は了承することを選択した。そもそも俺はセイレム生活が目標ではなく、シュブニ様の望みを果たすことが目的なのだ。あんな人体の完全蘇生が出来る頂上の存在が探すものとなると、俺はそれが何なのか死んででも見つけだしてみたいのだ。
「にしてもティテュバさんって割とまともで親切な人だったなぁ・・・・・・。史実ではとんでもない悪役姿で描かれていたけれど。」
俺が知っていたティテュバという人物はTHE魔女という感じの絵であったのだが、どうやらそれも違うらしい。アビーが優しいのと同じでなかなか想像していた人物像と噛み合わない。
「・・・・・・あの人も死ぬのか。望まずに。」
魔女裁判を止めることは出来ない。何故なら既に歴史で決定されているものだからだ。俺一人が何を言っても無駄なのだ。一度死んだとしても俺の在り方はここにくる前と変わらない。俺は無意味で無価値、何も成し得ないのだ。
何をしても結果が変わることは無い。全ては決まっていること、必然なのだ。偶然なんてない。俺が何かをしなくても誰かがするし、誰かがしなくても俺がした結果と変わらない。あぁ、本当に無意味。
そう言えば見ていたアニメの一つで起源は印だとか方向性だとか言っていた気がする。俺はそれで例えるなら無意味なのだろうか。死んで生き返っても無意味な存在なのは変わらないし。
「面白いな、仮に起源というものが有ったとして、俺の起源は何か・・・・・・。これは良い課題だ。もし無意味でなければ何なのか・・・・・・いや、考えても無駄だろうけれど。」
どう考えても無意味なのだが、まぁこの殺伐としたセイレムでの娯楽程度にはなるだろう。暇な時に考えるとしよう。今は買い出し中だ、早く村に溶け込む為に彼らのルールや欲を理解しなければ。
「すみません。パンを4つ下さいますか?」
「・・・・・・金はあるのか?」
「はい、これで足りますか?」
「・・・足りないな。」
え?いや、そんなはずは・・・・・・。確かにカーターさんから代金を預かっている。ここの所物価が上がっているのはいつものことらしいが、それを踏まえて多めに預かった。急に値段が大きく上がることは今まで無かったと、ティテュバさんの付けていた家計簿を見ても明らかだった。
となると、フィクションでしか見たことは無いが、カーターさんの言う通り俺は今嫌われているから買わせてくれないのだろうか。金があるならさっさと帰れということだろう。
しかし、ここで帰ってしまうと使用人として見切りを付けられてしまうかもしれない。初めての御使いもこなせない使用人など役に経つ筈もない。
「すみません、では4つでいくらになりますでしょうか?使用人である私が
「・・・気のせいだった。持っていけ。」
俺は少し大声で周りの人の耳にも届くよう目の前の30才位の男性に言った。ティテュバさんから聞いた話だと、カーターさんの立場はこのセイレムで高い地位にあるそうだ。何でも、相談したらちゃんと意見を返してくれたり、作物を育てる上でかなり貢献したため、人々の信頼や好感はかなり高いとも。だから俺は、村人のカーターさんへの欲を利用した。大声でカーターさんから預かった代金でパンを買いに来たと言えば、周りの人間はカーターさんの存在が俺の背後にあると認識し、俺を通してカーターさんに意地悪をしたら嫌われるかもという不安感を煽った。ここに住む人々は、誰かに認められたい、もしくは知恵ある誰かに全てを委ねてしまいたいという欲が強い傾向にあるのだろう。どちらも良くあるものだ。
俺はパンを4つ貰い、ありがとうございます。と言ってその場を後にする。俺が通ろうとすると、先程の騒動を見ていた村人達はまるでモーゼに割られた海のように道を開けた。あー、少し不安感を刺激しすぎて警戒されたか・・・・・・?たぶんだが、コイツ、カーターさんの使用人だからと調子乗りやがって。とか思われてそうな・・・・・・。
「・・・・・・ちょっと予想以上に面倒だな。旅人ってだけでこの村での扱いは何をするにも障害になりそうだ。カーターさんの後ろ盾で表面上は良いけれど、内面での評価が上がらないと探しものを見つける前に魔女裁判に掛けられてしまうかもしれない・・・・・・。」
どれほどカーターさんへの欲が強くとも、死を目の前にしたら生存本能が生きたいという欲を優先させるだろう。もしそこで俺の評価が低ければ即OUTだ。ティテュバさん諸共あの世逝きだ。まぁ、その時は俺がティテュバさんに少しばかりあの空間での話をしてあげよう。いや、俺がしたいだけだが。
そうして俺は帰路についた。道中でアビーとティテュバさんがどこかに向かうのを見ながら、パンを持ってカーターさんの家に入る。
「すみません、遅くなってしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ。寧ろ予想より早かったことに驚いたよ。ティテュバは黒人でこの村の生まれでも無かったから良く村人から嫌われていたんだ、それは今もね。だからパンを買うにもどこか怪我をしてきたりしていたよ。きっと村の人々が私に気付かれないように事故のように見せかけていたのだろう。ティテュバは事故ですから、と良く言っていたからね。」
「つまりカーター様は私に他所からやって来た者の扱いを実際に私に知って欲しかったのですか。」
「あぁ、そして詫びなければならない。怪我をするかもしれないと知った上で私は君に使いを頼んでしまった。」
カーターさんはそう言うと俺の方へ頭を下げてきた。流石に使用人に頭を下げる主人など見ていられるものでは無かったので、早々に頭を上げて欲しいと伝えた。
「私は特に気にしていませんよ。怪我もしてませんし。ほら、結果が大事なんですよ結果が。」
「・・・・・・そうか。だがそれでは私の気が済まない。何か聞きたいことは無いかな?」
終わり良ければ全て良し。結局俺は怪我しなかったのだから問題は無い。
だがこの際だ、少し質問しても良いだろう。
「アビゲイルの両親はどこに居るんですか?」
「・・・・・・そうか、アビゲイルの両親について聞いていなかったか。アビゲイルの両親は・・・どちらも、既に他界している。」
私ティテュバ、今とても拙い状況に陥っています。
「お嬢様!お嬢様!」
アビゲイルお嬢様が森で熱にうなされて倒れてしまいました。一緒に行こうとせがまれて同行していた私は即座に森を出ることにしたのですが、残念ながらこのティテュバ、森の構造に関しては全く分かっておらず、どっちの方角に御屋敷があるのか分からなくなり、かなりの時間を森で彷徨ってしまっていたのです。かれこれお嬢様が倒れてから2時間程経っています。6時位でしょうか、もう日も暮れてしまって霧の立ち込める森は暗くなる一方。噂ではこの森には夜に野生の狼などが出ると聞いていましたが、もういつ遭遇しても可笑しくは無いこの状況。一体どうすれば・・・・・・。
「うぅ・・・・・・ティテュ、バァ・・・」
「お嬢様、どうかお気を確かに・・・!本当に、どうすれば・・・!」
あぁ、焦りが止まらない。思考が働かない。どうしよう、どうしよう。あぁ、何で森の構造を把握していなかったの!何でアビーお嬢様を頼って私は一緒に森を探索していたの!馬鹿っ、馬鹿っ!私の大馬鹿者っ!
自分の行動を後悔し、それでもティテュバはアビゲイルを背負って森を進む。もう真っ暗だ。耳をすませば狼の遠吠えが聞こえる。
「誰か、誰かいませんか・・・!」
こんな時間に森に来る者など居るはずも無い。しかしどんなに小さな可能性でも今は縋りたいのだ。
「あ!痛っ、うぅ・・・!お嬢様・・・!?」
「・・・・・・」
「しっかりして下さい!お嬢様っ!」
地面から出ていた木の根に躓き、アビゲイルを背負ったティテュバは前に転倒する。転倒する直前、アビゲイルを背負っていた片手が無意識に離れ、咄嗟に倒れこむ前に手を付いた。が、片手で自分の全体重を支えられるように、ティテュバの腕は出来ておらず、捻挫による激しい痛みに襲われる。そして片手を離してしまったせいでアビゲイルはティテュバの背から落ち、バタリと地面に力無く倒れる。痛いとも呟かないアビゲイルの姿に、今まで不安で押し潰されそうだったティテュバはもしやと最悪の結果を想像する。
アビゲイルお嬢様が死んで・・・え?
そんなはずは無い。きっと気を失っているのだ。死んでなど・・・あるはずがない。
それでもティテュバは自分の想像したことが頭を過ぎる。もしかしたら、本当に・・・と。
「誰でも良い!誰か、誰か助けて下さい!お願いします!何でも、何でもしますから!誰か!助けて!!」
「グルルルル・・・・・・」
ティテュバはありったけの声を張り上げて助けをこう。誰でも良いから助けてと叫んだ。そして、現れたのは狼、助けなどでは無かった。
現れた狼は1匹や2匹では無い。ざっと10匹は居る。どうやら腹を空かせていたようだ、ティテュバを囲う狼達が見せている歯茎からボタボタと唾液が地面へと落ちる度にティテュバはアビゲイルを守ろうと恐怖に怯え泣きながらも必死に力強く抱き締める。
あぁ、ここまでですか・・・・・・私の人生。お嬢様・・・ごめんなさい。私のせいで・・・・・・こんな・・・。
「アビゲイルお嬢様、本当に・・・申し訳、ございません・・・・・・。」
か細い声でガクガクと涙し震えながら懺悔するティテュバに狼は何の躊躇も無く襲いかかる。1匹、2匹と口を開いて吠えながら接近する。
「――っ!」
パァン!
次の瞬間に襲って来るだろう痛みにティテュバは体を縮こませ目を瞑る。が、何時まで経ってもその痛みが襲って来ない。薄く目を開けて何が起きたのか確認しようとすると、そこに居たのは先程までいた狼達では無く――
「アビゲイル!」
「2人共!大丈夫でしたか!?」
目の前の2人を確認した瞬間、ティテュバは安心から気を緩ませ、極度の疲労から意識を手放した。
次回はこの続きですかね。そろそろ魔女裁判開幕、としたいのですが・・・行けるかな?私の文章力で。