死に場所を探して   作:change

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死者1名。


汝は魔女!罪ありき!

アビゲイルの両親に関して話した俺とカーターさんは、いつまで経っても帰って来ないアビゲイルとティテュバさんを不信に思い、少し村人達にアビゲイルとティテュバを見ていないかと話しを聞いた。あっちで見た、あそこで見たと様々な証言が聞けたが、そのどれもが行き先は知らないという内容だった。俺はカーターさんに過去にもこの様な事はあったのかと聞くと、ここまで遅くは無かったと言う。しかしどうやらアビゲイルは1度は既に似たようなことをしており、帰って来た時にこっぴどく叱りつけたという。その時は森に行っていたらしい。

俺とカーターさんはこんな時間にまだ居るとは考えたく無いが一応森を探しに行こうという結論に至り、カーターさんは狼が出た時ように猟銃を持って行くことにした。残念ながら俺には猟銃を持って撃てる程筋力が無い為、カーターさんと共に常に離れないよう気を付けて森を探索した。

 

しばらく森を探索してもう他の所を探そうかと話していると、森の奥から助けを求めて叫ぶ声が聞こえた。間違い無くティテュバのものだと判断し、カーターさんと急いで声の発生源へ向かった。

 

どうにかティテュバとアビゲイルを見つけたが、事態はかなり危険な状況だった。狼の群れにカーターさんは迷わず空砲を撃ち撃退、後何秒か遅れていたらティテュバとアビゲイルは狼の群れに食われていたかもしれなかった。

 

「ティテュバさんは気を失ったみたいですね。極度の緊張から解放されたからでしょう。アビゲイルお嬢様は・・・・・・酷い熱ですね。森の探索中に熱で倒れ、そこでティテュバさんが森を出ようとしたのでしょうか・・・・・・」

「私がティテュバを連れて行こう。君は姪を頼む。」

 

俺よりカーターさんの方が力があるため、カーターさんはアビゲイルより体重のあるティテュバさんと肩を組んで先へ進む。俺は身長差がある為、アビゲイルをどう運ぶか悩んだが、人形を持っている為、落とさないようにお姫様抱っこで良いかと判断してカーターさんの後を追う。

 

夜の森を抜け安心していると、御屋敷に人だかりが出来ていることに気付いた。村に居る殆どの人達だ。牧師さんやパンを売っていた男も居る。

 

「どうかしましたか?」

「あぁ、カーターさん!この村に――」

「通して貰おう。」

 

カーターさんが何事かと思い、近くに居た女性に聞くと、話しを遮って髭を生やした黒服の男性がカーターさんの前に来た。立派な服装からしてセイレムの外から来たと推測出来る。男性はカーターさんを見てから横のティテュバさんを見てむっ、と顔をしかめる。

 

「その女性はどうしたのですか?どうやら気を失っているようですが・・・・・・」

「あぁ、先程姪と森で迷っていたようで、姪が森で病気になって心配になり、私とそこの彼が助けに行った所、安心したことで倒れてしまったようだ。」

 

彼、と言い此方を向くカーターさんを見て、男性も此方を見る。男性は先程よりかはマシだったが、ティテュバさんの時と同じで少し顔をしかめた。

 

「・・・・・・申し訳無いのですが、貴方の御名前を聞いても宜しいでしょうか。」

「あぁ、申し訳無い、名乗り遅れた。私はホプキンス。マシュー・ホプキンスです。マサチューセッツ州知事の命によってセイレムに主席判事として赴任してきました。」

 

まさか・・・もう、始まろうとしているのか。魔女裁判が開かれた理由は確か魔女のティテュバが女の子に魔術で呪いを掛けたと自白したことからだった筈・・・。

 

「この村に魔女が居るとの報告を受けたのですが・・・成る程、その女を引き取らせて貰おう。彼女には魔女の疑いがある。」

「・・・っ」

 

思わず息を呑んだ。セイレム魔女裁判が間違いなく始まろうとしている。ホプキンスの周りに居たジョン・スターンとメアリー・フィリップスという名の二人はティテュバを連れて何処かへと向かって行く。カーターさんはティテュバさんが魔女では無いと講義したが、では何故森でいきなりアビゲイルが倒れるような熱を出したのか、ティテュバさんが魔女では無いと証明出来る説明が出来るかと言われ、カーターさんは仕方無くティテュバさんの身柄を預けた。魔女では無いと分かれば解放されると思っているのだろうが、きっとティテュバさんはこの後拷問されて・・・・・・

 

「・・・・・・その、ティテュバさんはまだ体調が悪いと思われます。もう少し待ってくれませんか・・・・・・?」

「駄目だ。時間を与えれば証拠を隠蔽する可能性もある。魔女だった場合、死者が出るかもしれんが・・・君はそれで良いと?・・・・・・そういえば君もセイレムの外から来たようだな。君も魔女なんじゃないかね?」

 

ホプキンスがそう言うと、魔女という言葉に村人達は過剰に反応する。それまで怪しむ程度の目線だったものが、既に敵意を含む目線になっていた。

 

「いいえ、私は魔女ではありません。私はカーターさんに仕えるただの使用人です。」

「それは本当かね、カーター氏?」

「えぇ、彼はただの使用人です。」

 

カーターさんが少し強くそう言うと、ホプキンスはしばらく無言で此方を眺めるとそうかと言って俺に対しての話を止めて背を向ける。

 

「それでは彼女を連れて行く。魔女だったならば丘にて即時に絞首刑とする。以上だ。」

 

以上だ。と聞いて村人達は足早に自分達の住む家へと戻って行く。ホプキンスはティテュバさんを拘束しているジョンとメアリーを連れて暗い夜道を歩いて行った。闇夜に消えるティテュバさんの姿を見て、俺は少しだけ心がざわついた。

 

「・・・ティテュバはきっと大丈夫だ。彼女が魔女である筈が無い。今日はもう遅い、アビゲイルの看病は私に任せて早く寝なさい。良いね?」

「・・・・・・すみません。」

 

カーターさんは少し暗い表情の自分を見て優しい声音でそう言った。この後の結末を知っているからこそ俺は少し休みたいと思っていた。使用人なのに申し訳無いと思いながらも俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

――それは夢だった。

――何も無い空間に綺麗な宝石が3つ置いてあった。

――宝石はそれぞれ違った色をしていたが、内2つは混ざった色をしていた。

――あまりに綺麗な宝石を目にし、単色である青色の宝石に触れようと指先を伸ばした。

――しかし指先は宝石に触れる事は無く

――その宝石は、色を失い砕け散った。

――救えない。君には何も救えない。君は誰?そんな声が、聞こえた気がした。

 

「・・・・・・」

 

目が覚めた。もう一度眠りにつこうと思えなかった俺は、気分転換に屋敷を出る。まだ外は暗く、冷たい風が頬を撫で、霧によって視界が少し悪い。どうやら眠ってから時間はあまり経っていないらしい。アビゲイルを看病していたというカーターさんが屋敷で眠っていたのを見たから深夜だろうか。

 

「・・・・・・丘に、行ってみるか。」

 

ティテュバさんが連れて行かれた時、ホプキンスの言っていた絞首刑。それは魔女だと分かったら即座に丘でやると言っていた。俺はそれを思い出し、丘の方へと足を運ぶ。きっと結末は変わらないのだろうが、まだ死んでいないかもと思うだけで少し嬉しく感じられた。

 

俺は徒歩で屋敷から丘についた。大きな木の横には絞首台が見える。霧のせいで視界が悪く、遠い所からはどうなっているのか全くわからない。俺は木の近くにまで歩く。

 

「・・・うっ!ゲホッゲホッ!・・・」

 

近付くと凄い臭いがした。糞尿の混ざったような強いアンモニア臭に思わず吐き気がした。

生前の記憶が蘇る。

 

『首吊りによる死体は体内から糞尿を撒き散らしており、物凄く臭いようです。』

 

まさかと思い、絞首台の場所に向かうと、そこにはボロボロになった見慣れた服を着た切り傷に打撲、流血の後が見える見慣れた顔の女性。カーター家の使用人にして使用人としての自分の先生に当たる人物と酷似していた。

 

「・・・・・・そうか、やっぱりそうなのか・・・・・・」

 

彼女は魔女として処刑された。史実通りに。一切の容赦は無く拷問され魔女だと自白したのだろう。マシュー・ホプキンスという男は魔女を処罰するのでは無く、魔女を生み出し金にした男だった。作っては殺し作っては殺しを繰り返したのが彼だ。彼女もその犠牲だったのだ。

 

絞首台を見ていると、背後から男に声を掛けられた。振り返るとそこに居たのは彼女を魔女にして殺したホプキンスだった。

 

「やぁ君か。この通り処刑は終わった。彼女は自分が魔女だと自白したよ。」

「拷問で、ですか。」

「結果魔女が死んだのだ。過程などどうでも良いこととは思わんかね?これにより村人は安心して生活が出来るだろう。」

 

どうせまた生み出すんだろう?とは言わず、俺は彼女が死ぬ寸前の様子を聞いた。そして、聞いたことを後悔した。

 

「あぁ、彼女は最後泣きながら騒いでいたよ。お嬢様を頼みますなどとね。その後首吊りでもがき、死にたくないと言っていたよ。実に滑稽だった。」

「・・・・・・そうでしたか。」

 

彼女は俺に託したのだろう。アビゲイルの事を守ってくれと。しかし駄目だ。それだけはいけない。俺に、そんなことは出来ない。彼女は死に際に、無駄な願いを託してしまったのだ。

 

「君も、魔女と思われないよう気を付けるんだな。」

「・・・・・・そうですね。気を付けます。」

 

そう言って俺はホプキンスに背を向けて来た道を戻った。途中で雨が降って来たが、気にすること無く屋敷に帰った。カーターさんも、アビゲイルも、2人共彼女の結末をまだ知らない。いや、聡明なカーターさんはこの事を視野に入れていたかも知れない。だが、アビゲイルは・・・そもそも彼女が連れ去られたことを知らない。連れ去られた原因も。だからこそ原因を知った時、優しくて思いやりのあるアビゲイルはきっと自分を責めるだろう。それも、今までに無い位に。

 

俺にその気持ちは分からない。だからこそアフターケアなどの方法も分からない。

 

どうすれば良い?

 

「・・・・・・アビゲイルには、真実を語らない。」

 

きっとこれが1番だ。知らないのが1番良い。彼女は今セイレムの外に出ていると、そう伝えよう。彼女は彼女の生きる活力となる夢を見つけたと。

俺はそう決めると、寝ている2人を起こさないように静かに2人の部屋の前を通って自室のベッドに入った。

良い夢を見たいと、そう思いながら。




主人公君の感情が見えたかな?
割とホプキンスって難しい・・・・・・。
因みにホプキンスの取る魔女への拷問は本当はもっと酷いものだったそうです。女性は拷問の一つとしてレイ○等をされたり、乳首を刺されたり。縛って水に沈めたり石を体の上に積んで圧迫させたり。獄死した人々はレイ○後に口封じとして殺害したものと思われているんだとか。
FGOのホプキンスはあれでも割とマシな方だったんですね・・・・・・。
クトゥルフ要素は2週目から強く出て来る予定です。まぁ1週目でも少しずつ要素を出して行こうとは思いますが。

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