Infinite Dendrogram総合掲示板   作:レイティス

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前編に引き続き掲示板形式じゃないのでご注意を。
当然ながら【ホロビマル】関連は全て捏造なのでオリジナル展開が苦手な人はブラウザバックしてください。



閑話・天に桜冠、地に刃 後編

 

 

 □【抜刀神】カシミヤ

 

 「トミカぁ! 連絡するまで下がりなぁ!」

 「はっ、はいぃっ! 《絶対安全運転(オボログルマ)ぁ》!」

 

 【五行滅尽 ホロビマル】の宣言を聞いた後の皆さんの動きは迅速でした。

 狼桜さんの指示によってトミカさんが他の<餓狼団>のメンバーを乗せ【幽幻祇車 オボログルマ】の力で急速離脱を開始します。

 その間にそれぞれルースさんの【刻銘工房 ツクモガミ】とユナカさんの【虚転樹洞 クリフォト】を展開している。

 昨日とは違い戦闘のためにその力を発揮しており、幾多の氷像や悪魔が【ホロビマル】に向けられている。

 周囲には凍気が満ちており、フォルさんも何時でも戦闘態勢に入れるのが見て取れます。

 

 ──<SUBM>

 これまで三度世に出た「Lv100」を超えた<UBM>であり、最上位のレイドモンスター。

 グランバロアに出現し前【大提督】を含む海軍船団を壊滅させた【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】 、

 アルター王国に襲来し騎鋼連合軍を一蹴した【三極竜 グローリア】 、

 黄河帝国にて確認された倒したと思ったら四方に分裂し様々な能力を発揮した【四霊万象 スーリン】 。

 いずれもあわや国が滅びる瀬戸際にまで立たせたほどの怪物であり、事実複数の<超級>がその討伐に乗り出さなければ<Infinite Dendrogram>にて最初に選べる国は減っていたかもしれないのです。

 

 今までに現れた他の<SUBM>と比べると三メテルというのは"とても小さい"ものですが、イコール他の<SUBM>より弱いというのはありえない、と思います。

 その身に持つ三種の武器、いやその身に纏う鎧と兜を入れれば五種の武具…本人の弁によれば<超級武具>はいずれも今まで感じた事のない威圧感を放っており、まるでその身に余すことなく()()()()()()()かのようです。

 

 僕もいつでも大太刀を抜けるようにしていますが場合によっては……?

 そこまで考えて、宣言の後に【ホロビマル】が動いていないことに気付く。

 仁王立ちをしたまま周囲を睥睨し、戦闘態勢も取らずにまるで僕たちが攻撃するのを待っているかのような…

 

 「……戦わないのですか?」

 

 刀の柄から手を離さないまま、つい思った言葉が口に出てしまう。

 後ろのルースさんたちが呆れているようにも感じますが、このまま膠着状態を続けるわけにもいかないのです。

 

 『我は真の武士(もののふ)を五行の滅びを以て尽く見極める者である。

  我に挑みし者、我が武具を欲する者はいざ、参られよ。』

 

 返答の後も変わらず不動の姿勢を貫いています。

 いや、でも……。

 

 「他の<SUBM>は国の首都を目指し移動したと聞くが」

 『この地において最も争いから離れた場所を目指して何とする』

 

 同じ疑問を抱いたルースさんの問いに、【ホロビマル】が答える。

 確かに将都は天地においては中立領として【征夷大将軍】直轄の軍勢しか駐留してないけれど、それはつまり。

 

 「貴方はただ挑戦者と戦うだけの<SUBM>なんですか?」

 『如何にも』

 

 確認にも似た問いにも返ってくるのは肯定の言葉。

 《真偽判定》を──するまでもない。【ホロビマル】は今も僕たちが挑んでくるのを待ち望んでいるのが伝わってくる。

 と言うことは、この場にいるのは僕たち<マスター>と何のしがらみもなく戦える最上位のモンスターたる<SUBM>ということになる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「……あ、これもうダメだな。カシミヤがやる気になってる」

 「あらー」

 「ハッハッハ! それでこそだ!」

 「さっすがダーリン!」

 

 まるで戦闘狂のように言われるのは心外です。ですが──

 

 「やりましょう」

 

【クエスト【討伐――【五行滅尽 ホロビマル】 難易度:十】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 僕の宣言に呼応してクエスト受領のアナウンスが通知される。

 クエストを受けたのが分かったかは定かではありませんが、【ホロビマル】から感じる圧力が更に強くなったように感じます。

 

 『初手は譲ろう。存分に戦支度を整えるがいい、最初の挑戦者たちよ』

 「準備時間までくれるとは。いい武者なのです」

 

 戦闘を決意したのは良いですが、僕だけでは勝てる、なんて思い上がりはないのです。

 ルースさんたち<重桜の匠会>にしても超級職の三人がいますが純戦闘職ではありませんしそれでも人数が足りません。

 戦いの趨勢を決める天秤を釣り合わせるのに必要なのは──

 

 「狼桜さん、<餓狼団>として協力してくれませんか?」

 「へっ?」

 「<餓狼団>がPKの野盗クランなのは重々承知しています。それでも、僕は全霊を賭してこの戦いに臨みたいのです」

 

 PKとしての性質を考えれば僕たちが戦っているところに横やりを入れてMVPを取ろうとしてもおかしくはありません。

 例えそれがMVPが複数選出される<SUBM>だとしても。いえ、だからこそよりクランの戦力を強化させようと思えば<超級武具>を独占しようと考えても変ではないです。

 そこを曲げて共に戦おうというのです。そのためならば

 

 「もし無事にこの戦闘を終えられたら、新天地でクランオーナーになる件を引き受けさせていただきます」

 「えっ」

 「おいカシミヤ……」

 「PKの流儀を曲げて共闘をお願いしているのです。少しはこちらが折れませんと」

 

 他の皆さんが心配の声を上げますが、肝心の狼桜さんは無反応で震えています。

 もしかしてこの条件では受けてもらえないでしょうか?

 

 「……い」

 「い?」

 「いよっしゃあぁぁぁああぁぁぁ!!!」

 

 狼桜さんの咆哮が天地の森々を揺るがす。

 ……すごい喜びようです。

 

 「トミカぁ! いますぐ戻ってきて戦闘準備しなぁ! ダーリンと共闘出来て更にクランオーナーになってくれるよぉ!」

 『えぇっ!? それ本当ですか姐さん!? すぐ向かいます!』

 

 そして通信装置に向かって大声で指示をしています。

 数秒後、<餓狼団>の戦闘班を乗せた【オボログルマ】が離脱した時の勢いを超えかねない速度で森の広場に戻ってきました。

 これなら人数については問題なさそうです。

 

 

 「姐さぁん! 部隊戦闘班三グループ、集団戦闘班三十人配置につきましたぁ!」

 「よぉしよくやった!」

 

 「……戦闘の主力はカシミヤと<餓狼団>に任せる」

 「こちらの戦力肉壁にしかならないからねぇ、がんばれカシミヤ君ー」

 「俺たちは補助と牽制だ。適宜カバーに入る」

 「はい。ありがとうございます」

 

  <餓狼団>の皆さんが散開して配置に付き、フォルさんを除いて近接戦闘力の乏しい<重桜の匠会>の方たちも後方で援護の態勢です。

 連携の関係でフォルさんは護衛をすることにしたようですね。

 しかしその前方にはルースさんの【氷雪工廠 セツテン】で生み出された【アイシクル・ゴーレム・ソルジャー】とユナカさんの【虚転樹洞 クリフォト】から生み出された【クリフォトン・デビル・ガーディアン】が数十体展開しています。

 広域制圧型の二人が使役する中では俗にいう「数を頼りに」するタイプの兵ですが、より上位のモンスターの方が使役数が少ないため未知のスキルを警戒してのことでしょう。

 

 「それでは、お待たせしたのです」

 『構わぬ。万全の状態での死合いこそ我が望み』

 

 【自在抜刀 イナバ】を用いて、二刀抜刀の構えを取る。

 それに合わせてかはわかりませんが、【ホロビマル】も背負う大太刀を構える。

 ──そして数瞬の視線の交錯の後、僕たちは<SUBM>【五行滅尽 ホロビマル】との戦闘に突入しました。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 <マスター>達と【五行滅尽 ホロビマル】の戦いは苛烈を極めた。

 広場を囲っていた木々は消し飛び、<餓狼団>の【高位結界術師】による隠蔽結界がなければ騒ぎを聞きつけた他の<マスター>が戦いに乱入していたかもしれないほどだ。

 そして、その戦いは意外にも<超級>がいないながらも拮抗という状態にあった。

 

 無論【五行滅尽 ホロビマル】が他の<SUBM>と比べて弱い、ということはない。

 それぞれの武具を瞬時に換装し、【弓神(ザ・ボウ)】、【薙神(ザ・グレイブ)】、【抜刀神(ジ・アンシース)】に匹敵する技能を繰り出す。

 大鎧と大兜にしても強大なダメージ減算能力とステータスバフを齎し、本来ならば複数の超級職を相手取っても容易く蹴散らすような存在なのだ。

 当然、そのような結果となっているのにはいくつかの理由があった。

 

 「──《閃》」

 『《火行滅閃》』

 

 一つは【五行滅尽 ホロビマル】が己に課している二重の制限。

 自身の持つ<超級武具>が互いにその能力を制限し合う《五行相剋》。

 そして<超級武具>を渡すほどに他の武具の能力を高める《五行相乗》。

 

 戦闘において枷となるそれらのスキルは彼が化身に要求したスキルであり、そのデメリットの代償に彼に幾度も試練を与える完全復活能力を齎すものでもある。

 

 「十四番、カバーリング!」

 「五、四、三、二……《エレメンタル・ディスオーダー・ストレングス》、《エレメンタル・ディスオーダー・アジリティ》、《エレメンタル・ディスオーダー・エンデュランス》!」

 

 次の理由は<重桜の匠会>の使役モンスターによるカバーリング、そして【霊将軍(エレメンタル・ジェネラル)】ルースのデバフだ。

 

 【将軍】系統の特性は《軍団》による配下数の極大拡張である。

 悪魔を使役する【魔将軍(ヘル・ジェネラル)】、魔蟲を使役する【蟲将軍(バグ・ジェネラル)】のようにジョブによって異なる種族のモンスターを大量に率いるのが一般的であり、種族限定の広域バフにより配下を強化する。

 そして、配下を増やすためか【将軍】は同様に、該当種族に対する()()()も得手としているのだ。

 特殊超級職である【征夷大将軍(コンクエスト・ジェネラル)】以外の【将軍】は種族の制限があるため配下へのバフのように常に有効というわけではないが、【五行滅尽 ホロビマル】の種族はエレメンタルであり、デバフを最大限受けてしまっていた。

 その影響によりその速度は亜音速まで落ちており、前衛を狼桜とカシミヤ、そしてカバー役の使役モンスターで賄えているのが大きい。

 

 「集団班、部隊一班合わせ矢! 部隊二、三班は重ね矢ぁ!」

 「「「《五月雨矢羽》!!」」」

 「「「《涓滴矢羽》!!」」」

 

 最後の理由は狼桜が《天下一殺》で強力な遠隔攻撃を行使する大弓のコアを破壊したためだ。

 攻撃力に特化した【断牙竜(ギロチン・ファング・ドラゴン)】の髑髏を消費し、必殺スキルによってSTRを極限まで高めた外骨格を纏い、【伏姫(ダウン・プリンセス)】の奥義を叩き込むことに成功した。

 耐久型の超級職でもなければ必殺スキルなしの《天下一殺》で事足りるため、普段の()()では使わない手ではあるが、莫大なHPを保有する<SUBM>相手に出し渋ることはない。

 一撃に百万を優に超えるダメージを込めた奥義は五つの武具の中で最大の脅威となるであろう大弓を破壊することに成功した。

 

 「チッ! これだけ叩き込んでまだ倒れねぇか!」

 『最初の挑戦者がここまで戦上手なのは嬉しい限りだが、まだ我が底は遠い』

 

 戦闘開始から三十分が経過し、大弓を破壊した以外にも<マスター>は大小様々な攻撃、多様な必殺スキルを叩き込んでいる。

 <マスター>と【五行滅尽 ホロビマル】の力関係は拮抗している。

 しかし、未だに【ホロビマル】のHPは六割強残っている。

 <マスター>の中でデスペナルティとなっているものは狼桜が大弓を《天下一殺》で破壊するまでに放たれた射撃により集団戦闘班の幾人かに留まっている。

 だが、このまま消耗戦に付き合うことは<マスター>には出来ない。

 

 「MP残量四割……やはりHPを削り切るのは無理だ」

 「必殺スキルクールダウン中の子も多いし厳しいんじゃないかなー!?」

 

 【ホロビマル】にデバフを掛け続けているルースのMPがHPを削るより早く尽きてしまうためだ。

 【霊将軍】のデバフスキルが無くなればその速度は超音速を超え、防御力(END)も増えるため、ダメージを稼ぐことも出来ずジリ貧となる。

 

 (《天積ノ雪神(セツテン)》を使うか……? しかし、今のMPでデバフと並行してとなると十分が召喚限度だ)

 

 ルースが特典武具による召喚を試案するが、召喚を用いればその分デバフに割ける時間は短くなるためこの問題の解消は出来ない。

 他の切り札を切ろうにも、大長刀の薙ぎ払いによって一掃される的が増えるだけである。

 <餓狼団>の切り札は分からないが、村正宗とユナカの切り札も召喚系であり、現状の打破には足りない。

 

 「……ルースさん、【ホロビマル】は五つの武具それぞれがコアなんですよね?」

 「? あぁ、狼桜が大弓を破壊した時もきっちり残HPが二割減った。だがカシミヤの《剣速徹し》でも──」

 「やらなければ負けるだけなのです」

 

 被せるようにカシミヤは言う。

 これまでもカシミヤの《神域抜刀》、《剣速徹し》等による武具破壊は試みられていたが、全て大太刀の抜刀に防がれていた。

 それぞれの武具の【(ザ・ワン)】に匹敵する技能、というよりはずばりそのもの同様のスキルがあるように、大太刀の抜刀は《神域抜刀》のカシミヤと同等、いや更に速く、尽く後の先によって合わせられていた。

 《神域抜刀》によるAGI補正がなくなったところを即座に追撃する大長刀の一撃を防ぐためにこれまで幾度もユナカとルースの使役モンスターがカバーに入っていた。

 逆に言えば、カシミヤの居合術は【ホロビマル】にとって防御する必要のあるほどの攻撃なのだ。

 

 「【ホロビマル】の瞬間換装、抜刀による防御を《意無刃(イナバ)》による連続抜刀で潜り抜けます」

 「そうか! ダーリンの連続抜刀ならあの防御を……!」

 「《意無刃》習得からまだ成功率は高くありませんがダメージレースで勝てないなら他にないのです」

 

 《意無刃》、《瞬間装備》による連続装備変更による《神域抜刀》の維持。

 【抜刀神】に就いているカシミヤをして安定して繰り出すことが出来るのは四連撃までであり、大太刀による防御を考えると手数が足りない。

 もし失敗すれば単発で居合術をした時よりも大きな隙を晒し、カバーが間に合わず切り捨てられる可能性も高いが

 

 「……わかった。タイミングはカシミヤに任せる」

 「ありがとうございます」

 「あたしも手伝うよ! ダーリンと共同作業うへへへへへ」

 「こちらも援護を出そう。……フォル」

 

 方針が決まったところでそれまでアイテム係に徹していた村正宗が同じく後衛の護衛をしていたフォルを呼び付ける。

 

 「オゥ。話は聞いてた。本気を出していいんだな? ……出しても勝てる相手じゃねーが」

 「構わん、やれ。──《人化》、解除」

 

 村正宗の宣言と同時に、フォルの身体が変形する。

 凍て付く青白い鱗を纏う四足歩行する巨大な鮫、その頭部には氷の衝角の如き角が聳え立っている。

 かつて【酷氷鱗鮫 フォルネイギル】と呼ばれた伝説級の<UBM>の姿そのものだった。

 

 『来るか。全力を賭せ』

 『GUAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

 その咆哮と同時に、フォルは突進して氷角を【ホロビマル】に突き立てる。

 自身と同じ亜音速の突撃を最小限の動きで避けるが、そこに《鮫兎無歩(コートムーヴ)》で現れたカシミヤが迫る。

 

 「《閃》!」

 『《火行滅閃》』

 

 一刀目はこれまでの焼き直し。

 神速で抜き放たれた大太刀がそれを上回る速度の大太刀で防がれる。

 

 続け様に放たれる二刀目の抜刀を抜刀の軌道上に加速中に置かれた大長刀の刃で凌がれる。

 刹那の直後、《瞬間装備》で新たな構えた三刀目で加速の終わった大長刀の破壊を狙い、

 

 『《土行滅攻》』

 

 【ホロビマル】の大鎧がから生じた障壁に弾かれ、宙を舞った。

 ダメージ減算のパッシヴと違い、それまで使わなかった単発式の防御スキル。

 

 (見事な抜刀術だが、まだ我の方が上手だ……?)

 

 四刀目を他の武具より頑強な大鎧の防御力で凌ぎ、返す大長刀の薙ぎ払いでカシミヤに致命傷を与えようと振り被る【ホロビマル】だが、そこで気付く。

 

 (《神域抜刀》が、解けていない?)

 

 完全に初見のはずの防御により神速の抜刀術により放たれた三刀目は今やカシミヤの手になく、四刀目の抜刀を無事……ではないが凌ぎ切った。

 【武装解除(ディスアーム)】状態になれば《瞬間装備》を行おうとその時点で《神域抜刀》は解除されるのが常のはずだというのに。

 しかし、カシミヤの目だけは今も狙いを定めるように大太刀と大長刀の動きを追っていた。

 己が知らぬエンブリオのスキルか、それとも新たに編み出した【抜刀神】のスキルによるものかと【ホロビマル】が瞬時に考えを巡らせた時、

 

 「──《九十九霊神(ツクモガミ)》」

 

 ()()()()()の宣言と共に、弾かれたはずの大太刀が超々音速で鞘に収まっていた。

 

 『ッ!』

 「《閃》」

 

 武器を弾かれても抜刀の体勢を保ったままだったカシミヤの右手が、再び納刀された大太刀を抜き放つ。

 既に神速の大太刀による迎撃ではなく大長刀の追撃を行っていた【ホロビマル】にその攻撃を防ぐ術はなく、

 

 《神域抜刀》、《剣速徹し》による防御無視の斬撃が【ホロビマル】の大太刀を切り裂いた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 『──見事。よくぞ我を倒した。この武具は御主のものである』

 

 大弓に続き大太刀を失った【ホロビマル】は攻撃手段を減らし、何よりカシミヤの抜刀に対する対処法を失い敗れた。

 しかし確かに倒れたと思った瞬間、即座に光の塵から元通りに再生をして大いに<マスター>達を驚愕させた。

 海水から無制限にその身を修復した【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】の前例があったため尚更だ。

 だが、再生した【ホロビマル】は戦闘を続けるでもなく、大太刀をカシミヤに差し出したのだった。

 

 「……良いのですか? その再生能力があれば……」

 『そういう()()()なのだ。遠慮する必要はない』

 

 そう言い、強引に大太刀を受け取らせる。

 その直後、残った<マスター>にはクエスト終了の通知が流れる。

 

 「おいおい、ダーリンに大太刀を渡しちまったら回復次第残り全部頂いちまうよ?」

 『心配には及ばぬ。武具を渡した者は我を傷付けることは出来ぬ。それに──』

 

 鎖が外れるような音が鳴り響く。

 それは幻聴であるが、確かに武具を失ったはずの【五行滅尽 ホロビマル】から感じる圧力は強まっている。

 

 『武具が減る度、我は強くなる。次も同じ戦法が通じるとは思わぬことだ』

 「あれが第一形態ってわけかい!」

 「<SUBM>はやっぱりとんでもだな……」

 「もうだめだーおしまいだー」

 

 カシミヤが特典武具を得、【ホロビマル】も強化され、<マスター>たちは今回の挑戦の終わりを悟った。

 より強くなった【ホロビマル】と戦えなくなったことに少し残念そうなカシミヤを除いて、だが。

 

 「ルースさんたちはこれからも【ホロビマル】に挑戦し続けるのですか?」

 「フォルですらあの有様だったからなぁ……やるとしたら面子揃えての物量戦になりそうだが」

 「あの有様とはなんだオイ」

 

 伝説級の<UBM>の力を持つ【フォルネイギル】ですら軽くいなされるほどの<SUBM>。

 もし後に続くカシミヤではなく【フォルネイギル】への迎撃に注力されていたら容易く斬り捨てられていたかもしれない。

 なお、そもそも<重桜の匠会>は生産クランなのでは、というツッコミはその場の誰からもされなかった。

 

 「よぉし! ダーリンの<SUBM>討伐記念に打ち上げするか!」

 「いいねー!」

 「おい……坊を遅らせるなと言っただろう」

 「まぁ、<餓狼団>の人からデスペナルティが出てしまいましたからね。約束は守りませんと」

 

 

 その後、デスペナ明けを待つために両クランは街に帰還し、再度の宴会を開いた。

 デスペナ待ちの間にカシミヤをオーナーとした新クラン立ち上げの手続き、<重桜の匠会>の総出による第二次【ホロビマル】討伐戦の観戦等を行い、

 そして四日後、デスペナルティ明けのメンバー達を加えた新クラン、<K&R(カアル)>は中央大陸に向けて出発した。

 新しい国……アルター王国で巻き起こる戦いに胸を躍らせながら。

 

 

 

 Episode End

 

 






説明しきれなかった解説:
九十九霊神(ツクモガミ)
ルースのエンブリオ【刻銘工房 ツクモガミ】の必殺スキルにより付与される装備スキル。
発動することでモンスターとしての性質が出る。
モンスターとしての強さはアイテムとしての性能に依存する。
装備状態にあるアイテムの場合、ガードナー同様に従属キャパシティが「0」となる。
浮遊する刀剣、中身もなしに動く鎧のようにアイテムの時のままの姿の場合もあれば、モンスター態として別の形態をとる場合もある。
クランのメンバーの大半はこのスキルで使役モンスター化した生産アイテムを所持している。
【酷氷鱗槍 フォルネイギル】の場合は槍の形態、巨大鮫のモンスター形態、そしてモンスター形態から《人化》した形態と三形態を持っている。
連続抜刀の補助にはなるが決闘ではカシミヤは意図的に使用しないようにしている。
「補助輪付きで競輪に参加する人はいませんよね?」らしい。

【刻銘工房 ツクモガミ】
<マスター>:ルース
TYPE:フォートレス 到達形態:Ⅵ
能力特性:耐久増加、アイテムの使役モンスター化
スキル:《九十九の魂》等
必殺スキル:《九十九に宿る不破の魂》
モチーフ:長い年月を経た道具に宿る神や精霊を指す付喪神
備考:特典武具によるゴーレム生産と合わせて【霊将軍】の転職条件を満たす大きな助けとなったエンブリオ。
第六形態の【パンデモニウム】と比べると作製モンスターの能力を決めることはできないが、全体的な能力は少し上ぐらいの塩梅。


【虚転樹洞 クリフォト】
<マスター>:ユナカ
TYPE:フォートレス 到達形態:Ⅵ
能力特性:木造生産物強化
スキル:《木彫りの魔像(クリエイト・クリフォトン・デビル)》、《拒絶の果実(クリフォトン・シェリダー)》等
必殺スキル:《虚闇果実》
モチーフ:カバラにおいて生命の樹セフィロトを逆さまにした構造を持つ悪徳の樹クリフォト
備考:見た目は穴の空いた巨大な黒い樹。様々な果実、木材などを産出するがスキル数特化型であり単体性能はそこまで高くないらしい。
閣下は前に出なければ強いんだなって……


【夢幻鍛槌 モルフェウス】
<マスター>:村正宗
TYPE:エルダーアームズ 到達形態:Ⅵ
能力特性:生産イメージ補助
スキル:《カスタマイズ》等
必殺スキル:《其は夢より形作る》
モチーフ:ギリシャ神話においてイメージ等を司る夢の神モルペウス
備考:「思った通りに」作れるようになるという鍛冶用ハンマーのエンブリオ。
生産においてズレや誤差を排除する他に不純物を取り除くことも出来るある意味夢の生産補助具。


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