本当に投稿遅くなってすいません。待ってくださった皆様、申し訳ありませんでした。
今回は、視点変更という形で二話に分けます。
まずはジル視点です。
それでは、どうぞ!
あれは、二年前の雨の日だった。
「フローレンスがいなくなったって?」
「ええ、そうみたいですよ」
「そうみたいですよ、じゃないだろ、というか、居なくなったってどういうことなんだ?」
「いや、普通に家に居たらしいのですけど、レイローズさんがふと気付くと居なくなっていたらしくて…」
出かけていたばあちゃんが突然青い顔をして帰ってきた。何があったのかアルジー大叔父さんが聞くと、シリウスの娘——フローレンスが居なくなったという。
シリウスの娘と聞くと驚かれるかもしれない。何しろ、原作では結婚相手すらいなかったのだから。だが、この世界ではシリウスはちゃんと結婚出来ているのだ。しかも、スリザリン寮出身の相手と。これにはほんとに驚いた。しかも子供までいるとは…この世界が変わってしまっているということを、改めて感じた。
違う違う。今の問題はそれじゃない。
フローレンスとは何度か遊んだ事があるが、少なくともいきなり理由もなく出て行ったりするような子ではなかった。いつもシリウスとレイローズさんに引っ付いていたから、迷子という線も無いだろう。
じゃあ、何故?
「しかし、わしらはそんなにあの子と関わりはないんだぞ?探すにしても…」
「そうですね、私達はフローレンスと接点はほとんどありません」
あ、この流れって。
「ジル?いつもはフローレンスとどこで遊んでいるのですか?」
遊んでるところなぁ…
ないこともないけど、私達はそんなに遊んだ事はなく、遊ぶにしてもお互いの家ばかりで、外に出たことはほとんどない。いつも遊んでいる場所といえば、それこそ私の家か、シリウスの家だ。
「私たち、そんなに外で遊ばないから…」
「そういえばそうでしたね…ああ、どうしたものでしょうか…」
うーん、だからといって思いつく場所も無いしなあ…
あ、なんかお腹すいてきたわ。何か買ってこようかな。近くにちょうどマグルの店があるし。
「ばあちゃん、お腹すいちゃったからチョコレート買ってきていい?」
「いいですけど…すぐ戻るんですよ?もしかしたら、フローレンスは誘拐されたのかもしれないのですから」
あ、その線もあったか…まあいいや、食べてから考えよう。
外に出た瞬間、私は自分の考えが甘かったことを悟った。
* * * * *
くっそ、なんで帰るまでに雨がやまないんだ。普通、こういうのって店出たあたりで雨が止んで、わー虹だーって言うところでしょうが。こんな雨だと、気分も落ち込むよ。最近の悩み、思い出すでしょうが。
どうしよ。魔法の勉強、教えてもらおうかな。
考え事をしていると、
あれ?
「…ひぐっ、うう…パパも…ママも…ちがう…」
あそこで泣いてるのって…もしかして、フローレンス?しかも、傘も持ってないし風邪ひくぞ。
「びしょびしょだよ、フローレンス?」
「ひっ、ううっ、ジ、ル?」
「ほら、シリウスもレイローズさんも心配してるよ?雨も降ってるし」
「…あ、あたし…かえりたくない…」
うん…まあ…そりゃそうだろうなあ。こんなずぶ濡れになってもずっと立ってんだから。
「ん…じゃあ、うちに行こ?」
「うちって?…ジルの?」
「そうだよ。ばあちゃんなら、何とか説得出来ると思うし」
「せっとく?」
「…分かってもらえるってこと。じゃ、行こっか」
「…え、でも…」
「ずっとここに居たら風邪ひいちゃうよ。それでもいいの?」
そう言うと、寒さで凍えていたこともあってか、割と素直に私に従ってくれた。かわいい。
——後から考えてみると、誰かに自分の気持ちを聞いて欲しかったのかもしれない。
* * * * *
「ただいま、ばあちゃん」
「おや、遅かったですね、ジル。何かあったのですか?」
「…うん、ちょっとね…」
ちょっと口篭りながらも、覚悟を決めて怖がって後ろに隠れる彼女を前に立たせる。ばあちゃんが驚いた顔をした。
「フローレンス?フローレンスなのですか?」
彼女は固まったまま動かない。まあ、家出中なのだから無理もないか。
最初は隠そうかとも考えたが、どう考えても怪しいし、どうせバレるくらいならちゃんと話してわかってもらおうと思った。ばあちゃんなら、きっと。
「まあジル、よく見つけ出してくれました。さあ、早く貴女の家に——」
「待って!」
「…どうしたのです?ジル。この子を帰らせてあげないのですか?」
「いや、そうじゃなくて…フローレンスは、帰りたくないって言ってるの。絶対、普通の理由なんかじゃない。だから、シリウス達に言わずにちょっとだけ、ここに居てもらうっていうのは…ダメかな?」
私のお願いを聞いたばあちゃんは、しばらく黙っていた。私は少し心配になった。もしかしたら、分かってもらえなかったのかな…そう思いふとフローレンスの方を見ると、私なんかよりよっぽど心配した顔をしていた。いけないいけない、ここで私が不安になってどうする。シャキッとするんだ、私。
「フローレンスが帰りたくなるまでだから。ちゃんと責任は取るよ、ばあちゃん。もう魔法は使えるんだよ?」
私がはっきり目を見て言うと、ばあちゃんの口に笑みが浮かんだ。
「貴女はまだ魔法の練習を始めたばかりでしょう…まあ、貴女がそこまで言うのなら、ここに置いてあげてもいいですよ…ただし、シリウスには知らせますよ。彼らは大事な家族が居なくなって、本当に心配しているんですから」
ばあちゃんの言葉にフローレンスが身震いをしたが、ばあちゃんは彼女のを見て笑った。
「大丈夫ですよ。ちゃんと彼には言っておきますから。貴女の気が済むまで、ここに居なさい」
やったぜ。
「ありがと、ばあちゃん!」
「ジルが本気じゃなきゃこんなことしないことぐらい知っていますよ」
ばあちゃんはそう言って笑った…この人、本当にばあちゃんか?性格イケメン過ぎでしょこれ。
ま、いっか。
「じゃあ、行こっか、部屋」
「…うん」
私が聞くと、頷いて、少しばあちゃんに会釈をしてから私の後に付いてきた。かわいい。
ドアを開けると、彼女が固まった。
「…なに?ここ」
「…私の部屋だけど?」
「ここが…へや?」
やめて。頼むから哀れみの目で見ないで。いやだって、仕方ないじゃん。今日誰か来る予定なんかなかったんだから。片付けてるわけないじゃん。
「部屋だよ?ここが…まあいいからさ、早く座ってよ、ね?」
慌ててお願いするとなんとか座ってくれた。よかったよかった。あ、先に言っとくと散らかっているけど足の踏み場はあるから、大丈夫。
「というか寒かったでしょ、お風呂入ってきたら?」
そう言って彼女を見て驚いた。さっきまであんなずぶ濡れだった服がもう乾いている。何で——そっか、魔法力の発現ってこんなだったっけ。私はもう一年ぐらい前になるからすっかり忘れていた。
「どうしたの?」
心配そうに聞かれた。ダメだダメだ。シャキッとしてないと。
「ううん、何でもないよ。ほら、早く座って」
「…うん」
頷いて座ったフローレンスは——そのまま倒れ込んで寝てしまった。
ええ!?
まあ、雨の中震えたままだったんだから体力なくしてて当然か。
取り敢えず、彼女が起きるまで待つことにした。
* * * * *
「う、うーん…?」
「あ、おはよー。結構寝てたね」
「あれ…ねちゃってたの?」
うん。日が暮れるくらいにはね。
「ごめんなさい…」
「いいよ、疲れてたんでしょ?まだ疲れてるんならもうちょい寝てても…」
「ううん、いいよ」
そう言って私を見た目には不安は浮かんでいるけれど、眠そうではなかった。そして、何かを決意したような目をしていた。おお、話してくれるんだ。
「ゴブストーンしてあそぼ?」
デスヨネー。
* * * * *
彼女がここに来てから三日がたった。相変わらず、話してくれる気配はない。まあ、そんなにすぐ話してくれるわけもないか。
「あー、それはここにしまってー」
「はーい」
あとあまりにも部屋が散らかっていたからか、片付けを手伝ってくれている。本当にありがたい。自分じゃ全然片付かないし、ばあちゃんにいつも手伝ってもらってる。そしてさらに自信を無くしてゆく。
こんな私が、今魔法を勉強して何になるのかって。
「ごめんね、片付け手伝ってもらって」
「いつもおてつだいしてるから」
「へー、ママの?」
言ってしまってから失言だと気付いた。やっべ。黙っちゃったよ。どうしよ。
慌てていると、彼女が私の方を見た。やべ、泣かれたらなだめられる自信ないよ。
「あたしのはなし…聞いてくれる?」
おお!
やっと話してくれるんだ。って感心してる場合じゃないってば。
「うん、いいよ」
「あたしが…パパのホントのこどもじゃないって、しってる?」
「え?」
え?え?何それ?一回も聞いたことないんですけど。
「それ、どういうこと?」
「きのう、パパとママがはなしてたの。このこをひきとってからもうなんねんだろうって」
ああ、そういうことか。
多分、彼女はまだ「引き取る」とか、そんな言葉の意味はまだ分かっていないんだろう。だけど、何となくの意味は想像出来たんだよね。子どもって、そういうことに敏感だしね。そりゃ、わけがわかんなくなって出ていって当たり前だ。
それに。
「あたしがほんとのこどもじゃないなら、あたしはパパとママといっしょにいちゃいけないくらしちゃだめなんだよね…きゃっ!」
いきなり抱きしめられて動揺しているようだ。そりゃそうだよね。でも、
私も、同じだった。
前世のことだけどね。
物心ついた頃から施設に居たけど、最初はそんなことは全く思わなかった。だって、それが——親がいないことが普通だったから。でも、しばらくして気付いた。親がいないということが「普通じゃない」ことに。
それから私は塞ぎ込んだ。親がいないことが普通じゃないなら、私は「普通の子」なんかじゃない。みんなとは違う。
そうやって孤独の中にいて。
でも、そんな時、手を差し伸べてくれたのは、その「普通」の子だった。
一緒に遊ぼ?
そう聞かれて、なんで私と遊んでくれるのか、聞いた。「普通」じゃない、私と。
何で?私たち、友達でしょ?
そう言われて、すごく驚くと同時に、すっきりした。「普通」かどうかなんて、関係ない。私はここにいるんだって。いていいんだって。
そしてそれは、転生しても変わらない。
「そんなこと関係ないよ。私だって、本当はこの家の子供じゃない。ばあちゃんに引き取られて、ここに一緒にくらしてる」
でも。
「本当の子供かどうかなんて、関係ないんだよ。私は確かに本当の子供じゃないけど、ばあちゃんに大切にしてもらってる。一緒に住んでもらってる。大事に、してもらってる」
「だいじに?」
「そう、大事にしてもらってるんだよ。それに、フローレンスだって、大事にしてもらってるよ」
「なんでわかるの?」
「大事にしてもらってないなら、あなたのことを探したりしないよ?」
「そう…なの?」
「そうだよ。だから、いちゃダメなんてこと、ないんだよ。一緒にいていいんだよ。」
「…ほんとに?」
「うん、本当に」
私が抱きしめていた手を離すと、ちょっぴり、安心した顔をしていた。
「私、帰るよ。おうちに」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。って、ジルが私にいったでしょ?」
「まあ、そうだけど…そういえば、『私』って…」
「ジルのまねしてみたんだー。いいでしょ?」
なにこれ。めちゃくちゃかわいいじゃないですかヤダー。
「いいよ!じゃ、一緒にばあちゃんに言いに行こっか」
「うん!」
* * * * *
しばらくして、レイローズさんが迎えに来た。見たことが無いくらい慌てた様子だった。こりゃ、あんな片付け上手になるわけだ。
フローレンスは帰る時笑っていた。これなら、大丈夫だよね。
二人が帰ってから、ばあちゃんがこっちを見て言った。
「しかし、流石ジルですわ。あの子を安心させてあげるなんて」
「ううん、私そんなに凄くないよ。むしろフローレンスの方が…」
「?どうしたのです?」
少し悩んだけど、言うことに決めた。
「ばあちゃん…魔法、教えて?」
「…何故急に魔法を習おうと思ったのですか?」
ずっと悩んでいた。魔法を教えてもらおうかどうか。部屋すら1人で片付けられない私に、習う資格があるのか。
でも、もう決めた。あんな小さい子が——まあ、歳では私と同じだけど。精神年齢が私よりもずっと下の子が、自分の意思で決断出来るんだ。私が決断できなくてどうする。
あいつを倒すためには、そんなことで悩んでられないんだ。
「もっと、魔法を知りたいの。もっとちゃんと、使えるようになりたい」
うん、嘘は言ってない。でも、認めてくれるかな…
「そう言うのなら、いいですよ?」
「ほんとに?やった!ありがとう、ばあちゃん!」
よし。ちゃんとやろう。ちゃんと、使えるようになろう。ホグワーツに行ってから、さらに磨くために。
誤字脱字報告、ありがとうございます。