"軍団最強”の男   作:いまげ

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10.ノスフェラ・トゥ

□アトゥ森林 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「そういやこいつらなんでこんなところにいたんだ?前はもうちょっと霊都に近い場所に生息していたような…」

「生息分布が変わったのです。ルーキーや上級者の増加により霊都周辺のモンスターが一度絶滅しかけたことがありました。」

「一か月くらい前かネェ?その影響でモンスターの大移動があったんだヨォ」

「それでこいつらがこんなところで生き延びていたのか」

 

 ふつうのゲームであればプレイヤーがモンスターを狩りをしていても、狩りつくされることもなければ、それが原因で生息分布が変わることもない。運営側がモンスターを補填したり、自動リポップさせたりするからだ。

 

 しかし、モンスターを殺しすぎて絶滅の危機か。当たり前といえば当たり前だが、そんなことが起こりえる<Infinite Dendrogram>にのリアルさには敬服する。

 

「ちなみに二人はどうしてここに?」

「この周辺は亜竜級モンスターの溜まり場なので得るものが多いのです」

「実は君がテイムしたモンスターも狙って(・・・)いたんダァ。珍しいモンスターは大歓迎だからネェ」

「そいつは悪かったな」

 

 経験値稼ぎやドロップアイテム狙いだったんだろうが、いまやその二匹は俺の従魔モンスターである。

 

「気にすることはありませんよ。早い者勝ちですから」

「代わりにと言っては何だが、参考までにドルイドたちの戦闘を見せてくれないかネェ」

「構わないぜ」

 

 仲間にしたオセロとリバーシのことを詳しく把握しておきたいし、何より速くアンフィテアトルムの第二スキルを試したい。俺と虎丸だけでは条件を満たしておらず、いまだ発動をできていないのだ。

 

「《喚起》――オセロ、リバーシ」

 

 二体の賢人がジュエルから飛び出した。二体は亜竜級の中でも上位の個体らしく、今の俺の従属キャパシティでは虎丸に加えてこの二体まで使役することは不可能だ。

 

 しかし、パーティー枠なら5つも空いている。充分従属モンスターとして戦わせてやれる。こいつらのステータスを確認しておくか。

 

 オセロ:【ブラック・ドルイド】

 HP:31005

 MP:124

 SP:244

 STR:3432

 AGI:112

 END:2477

 DEX:150

 LUC:56

 

 リバーシ:【ホワイト・ドルイド】

 HP:3023

 MP:13533

 SP:423

 STR:121

 AGI:3233

 END:194

 DEX:103

 LUC:45

 

 虎丸:【亜竜獅虎】

 HP:24673

 MP:313

 SP:1902

 STR:2454

 AGI:2765

 END:2333

 DEX:432

 LUC:45

 

 オセロは鈍足アタッカー、リバーシは走りヒーラーだな。ちなみに虎丸がバランスのいい前衛タイプだ。三体とも一般的な亜竜級モンスターよりも優れたステータスやスキルを持っている。《魔物強化》が乗ればステータスがさらに五十%上昇する。亜竜級のモンスター群れでも充分に戦える戦力だ。

 

 腕試しにちょうどいいモンスターの群れが現れた。【バイオレンス・バタフライ】の群れだ。一体一体は亜竜級には届かないものの、その数が厄介なモンスターとされる。

 

「ドルイドとスキル性能の確認だ。今回俺は戦闘に参加しないから頑張れよ」

「にゃー」

「「Guuu」」

「いけ!!《光る(シャイン)劇場の脇役(バイプレイヤーズ)》」

 

 スキルを発動した瞬間、虎丸が亜音速で敵の群れに向かう。さらに鈍足アタッカーであるはずのオセロもAGI特化型上級職と同等の速度で敵に迫る。

 また、物理攻撃性能が低いリバーシも拳による攻撃を行いを敵を倒す。その拳の威力もまた、前衛上級職の攻撃に匹敵する。

 

「…驚いた。おそらく《魔物強化》を発動しているんだろうけど、それにしてもステータス上昇が異常だネェ」

「ハイ。本来の数値が三桁前半だったものが四桁を超えた数値になっています。驚異的な上昇率です」

「先ほど言っていたエンブリオの固有スキルかネェ」

「正解。俺のエンブリオの能力だ」

 

 二人の疑問に俺は自身のエンブリオのスキルを説明する。

 

 《光る(シャイン)劇場の脇役(バイプレイヤーズ)》:

 パーティー内モンスターのスキルによるステータス上昇数値の五十%を他のモンスターのステータスに加える。

 アクティブスキル

 ※発動時は自動で秒間1ポイントのMP消費が生じる

 ※消費可能MPがない場合、《光る劇場の脇役》は解除される

 

 《魔物強化》スキルによるステータスの50%分の強化、その半分の数値、25%がほかの二体に加わりフィルルの従属モンスターのステータスが大幅上昇している。

オセロ:【ブラック・ドルイド】

 HP:31005(+22426)

 MP:124(+3523)

 SP:244(+333)

 STR:3432(+2221)

 AGI:112(+1555)

 END:2477(+1870)

 DEX:150(+208)

 LUC:56(+50)

 

 リバーシ:【ホワイト・ドルイド】

 HP:3023(+15431)

 MP:13533(+6875)

 SP:423(+748)

 STR:121(+1532)

 AGI:3233(+2335)

 END:194(+1299)

 DEX:103(+197)

 LUC:45(+47)

 

 虎丸:【亜竜獅虎】

 HP:24673(+20843)

 MP:313(+3570)

 SP:1902(+1117)

 STR:2454(+2115)

 AGI:2765(+2218)

 END:2333(+1834)

 DEX:432(+279)

 LUC:45(+47)

 

 三体とも合計値で言えば、純竜級にすら匹敵しうるステータスを獲得している。何より、鈍足アタッカーがAGI四桁、ヒーラーがSTR四桁になるほどの強化は超級職のバフスキルでもありえないだろう。

 

 破格の強化スキルを受けた三体のモンスターは【バイオレンス・バタフライ】の群れを蹂躙し尽くし、辺りには大量のドロップアイテムが散乱していた。

 

 ◇

 

 俺たちはドロップアイテムを拾いながら、今の戦闘について振り返っていた。

 

「通常のバフスキルとは違い、発動中、常にMPを消費するからこその破格のスキルかネェ?」

「まあ、その分MPの消費が激しくて長期戦はできないけどなー」

 

 今の俺のMPはエンブリオのステータス補正を加えてギリギリ四桁といったところだ。MP回復を行わなければ1時間の戦闘も行えない。今もこうして、戦闘後にはMP回復ポーションを飲むのがルーチンとなっている。

 

「MPのことがネックなら、面白いジョブがあるヨォ。【生贄】っていうんだけどネェ」

「【生贄】?それって何かのアイテムとかじゃなくてジョブなのか?」

「はい。【生贄】は実際に存在するジョブです。少々、いえかなり、特殊なジョブですが…」

 

 【生贄(サクリファイス)

 一切の戦闘行動が取れない上に、メインジョブにしている限りMP以外のステータスが低くなるデメリットがある。その代わりMP上昇補正が高く、その高いMPを活かして文字通り儀式の生贄に使われる人間に就かせるジョブ。

 

「いやそれどうやってレベル上げすんだよ!?」

「君には立派な従魔達がいるじゃあないカァ」

「戦闘行動をとれないのは、あくまでそのジョブに就いている人だけですから。テイムモンスターにレベル上げを手伝ってもらえばいいんですよ」

「…なるほど」

「ほら、善は急げサァ」

 

 そう言ってノスフェラはどこから出したのか、いつの間にか持っていたクリスタルを手渡してきた。

 

「いや、なにこれ?」

「【ジョブ・クリスタル】だヨォ。それを使えば転職できるんダァ」

「ほーん」

 

 物は試しだ。いっちょやってみるか。

 使用すると【ジョブ・クリスタル】が砕かれ、それと同時にメインジョブが強制的に【生贄】に変わった。…なんか呪いのアイテムっぽい挙動だったんだが大丈夫なのか?

 

「【クリスタル】壊れたけど…いいんだよな?」

「はい、【ジョブ・クリスタル】は使い捨てのメインジョブ変更アイテムですから。使用することでクリスタルは砕かれ、既に就いたジョブを切り替えることができます」

「そうか、良かった。壊したのかと思ったぜ。ん?既に就いているって…俺【生贄】なんか一回も就いたことないよ?」

 

 新たなジョブを獲得する場合は、ジョブごとの条件を達成した上で、各国にある対応した大型クリスタルに触れなければならない。

 そもそも西方や東方等、土地柄によって就けるジョブが違う理由が大型クリスタルなのだ。使い捨てのアイテムで新たなジョブを獲得できるなど聞いたことがない。

 

「こいつは特別製でネェ。【生贄】のジョブに限ってのみ、大型クリスタルと同様にジョブ変更ができるんだヨォ」

「別名【サクリファイス・クリスタル】。大昔の戦争で使われていたらしいです」

 

 ◇

 

【サクリファイス・クリスタル】 

<Infinite Dendrogram>内の時間で約600年前、東西を分けた超大国での戦争があった。その戦争ではどの戦場も苛烈を極めていたが、ある戦場での惨状は筆舌に尽くしがたいものであった。

 

 東の軍は十万単位の兵士が挙兵していた。対して西の軍は千の兵士のみ。否、一人の超級職と九九九の【生贄】、それが西軍の内訳だ。まともに戦えるのは一人のみ。

 本来であれば、超級職がいるとはいえ西軍は塵芥のように東軍に蹂躙される未来しかないだろう。だが、西軍のただ一人の兵士は悠然と構え、東軍の兵士の顔は悲壮にあるいは、焦燥しきった顔をしていた。

 

 戦端の火蓋が開くと同時、東軍が突撃する。西軍に、西軍の一人の男に向けて十万の兵士が突撃する。それに対して、その男がとった行動は手を振るうことだけ。それと同時に、一人の【生贄】が消え、東軍の百の(・・)兵士が消えた。

 

 それは超級職のスキルによるもの。その男は生贄攻撃の頂点である【贄喰(サクリファイス・イーター)】である。

 【贄喰】はいずれのスキルの発動にも【生贄】を必要とする変わりに、絶大な威力を持つジョブである。今回、男が使ったものは、一の【生贄】をもって大隊を消す(・・)スキル。彼が得意としているスキルだ。このスキルとともに男の情報は広く知れ渡っている。

 

 この戦場での戦いはつまり、【贄喰】が【生贄】を捧げ攻撃スキルを発動する前に【贄喰】を倒せるかどうかただそれだけのものである。

 

 そして、この戦場での決着は九九九の【生贄】と十万の兵士の消失。西軍の、いや【贄喰】の勝利であった。

 

 そんな彼にも悩みがあった。

 生贄攻撃といってもただ人間を捧げればいいものではない。【生贄】のジョブに就いた人間を生贄に捧げなければスキルは発動しない。全力で戦うためには多くの【生贄】が必要であり、【生贄】の補充は彼にとって頭の痛い問題であった。

 

 生贄を補充するために村を襲い、村人を【生贄】に変える手もあるが、そのためには村人を一々大型クリスタルまで運び、転職させなければならない。それでは迅速な補充とは言い難い。

 

 その手間を省くために、彼自ら【ジョブ・クリスタル】を改造し生みだしたものが【サクリファイス・クリスタル】だ。これで調達した人間をすぐに【生贄】に変えることができると男は喜んだ。

 

 そんな【サクリファイス・クリスタル】だが、実戦に使われることはほとんどなかった。【贄喰】があるマスター(・・・・)との戦いで殺されたからである。

 こうして、唯一【サクリファイス・クリスタル】を作れる者の死によってこの発明は闇に消え、それと同時に【贄喰】自体も消失(ロストジョブ)した。

 これ以降、《サクリファイス・クリスタル》が作られることは無くなり、それ自体も歴史の闇に呑まれた…

 

 ◇

 

「いやいやいやいや、なんちゅうもん渡してくれてんだよ!?」

「そういう設定だヨォ。考えても見ればわかるだロォ?六百年前の大戦争とか、【贄喰】とかいう超級職とか、それを倒したマスターとか、どれ一つとっても眉唾物サァ」

 

 たしかに、この<Infinite Dendrogram>の世界が六百年前からあるなんて考えられないし、【生贄】を前提としたジョブとか、その時代にマスターがいるとか俄には信じられないことばかりだ。

 

「…って、そんな設定のアイテムをどうしてお前が持っているんだよ!?」

 

 どう考えても超重要アイテムだろ、それ!?

 

「企業秘密です」

「突っ込みがワンパターンだネェ」

「うるせえよ!?」

 

 あと変な語尾のお前には言われたくない。

 

「君がうるさいから、厄介そうな奴が来たじゃないカァ」

「…え?」

 

 ノスフェラが振り向いた先には、身から黒いオーラを漲らせ、茶色く硬質化した兜の頭部と赤い

血で染まった逞しい腕を武器にするティラノザウルスが如き恐竜がいた。

 

「亜竜級の溜まり場だからネェ。ボスが純竜でも不思議はないかナァ」

「ただの純竜ではありませんね。純竜の中でも上位クラス、【ハイ・ドレット・ドラゴン】です」

「なんだと!?」

 

 今の俺は【生贄】のジョブのせいでまともに戦闘行動を取れないし、《魔物強化》を発動できないから、虎丸たちも本来の亜竜級の力しかだせない。これではとても純竜とは勝負にならない。

 

 どうする…

 

「大丈夫ですよ」

「君たちにはエンブリオの力を見せてもらったからネェ。今度は私の力の一端をお見せするヨォ」

「四方都、ノスフェラ。いけるのか。相手は…」

 

 ノスフェラは俺の言葉を遮るように懐から黒色の【クリスタル】を取り出した。それを先程の【サクリファイス・クリスタル】のように砕き、

 

「デッドリーミキサー」

 

 ノスフェラのスキル発動後、【ハイ・ドレッド・ドラゴン】は即座に抹殺された。

 

「ほら、大丈夫だったでしょう?」

「鈍間な奴で良かったネェ」

「…嘘だろ」

 

 ◆

 

 ここはどこだ。

 いや、どこであろうと関係ない。

 新たな住処を見つけねば。 

 幸い、奴自身は鈍足。

 ここまで離れれば当分襲われることはない。

 ここで反撃の牙を研ぐのだ。

 

 

 




600年前の【贄喰】を倒したマスター、いったい何者なんだ?

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