□アトゥ森林 【生贄】フィルル・ルルル・ルルレット
「おヤァ、いいアイテムがおちたネェ」
「【全身骨格】。日頃の行いの賜物ですね」
そう言いながら、今しがた倒したばかりの【ハイ・ドレット・ドラゴン】のドロップアイテムを回収していた。
「今のスキル、純竜を一撃で倒した…ありえない」
純竜級はティアン換算で上級職六人のパーティに相当する。HPが5万を超え、6桁に到達する個体も珍しくない。
さらに、今倒したのはただの純竜ではなく、【ハイ・ドレッド・ドラゴン】。【ドレッド・ドラゴン】の上位種だ。
【ドレッド・ドラゴン】はセプータでパーティーを組んでいた時に何度か倒したが、耐久力に秀でたステータスと強力なスキルを持っている個体だった。
それの上位種となれば、より高いHPとENDをもっているということになる。俺たちでも苦労した純竜の上位種。それを一撃で倒すスキルとは…
「おやおヤァ、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしているネェ」
「今のはノスフェラのスキルか?エンブリオの固有スキルなら今の威力も…」
エンブリオの固有スキルは俺のアンフィテアトルムのように強力なものが多い。一撃攻撃に特化したものなら、純竜を倒しうる…か?
「違いますよ。《デッドリーミキサー》はジョブスキル。【大死霊】の奥義です」
「ジョブスキル?【大死霊】?えっ、でもノスフェラって…」
「勘違いしたままのようだから、訂正しておくとネェ。私はガードナーじゃなくてマスターなんだヨォ」
…ほわっつ?
「ノスフェラって…、ノスフェラトゥってエンブリオじゃないのか?スケルトン型のガードナーの。だってその躰…」
「マスターだからネェ。ほらキャラクターメイキングがあるだろう?あれで骸骨にしたんだヨォ。自分のリアルの体を白骨化していくメイキング、あれは疲れたなー」
「…いや、気合入りすぎだろ」
自分の体を白骨化していくキャラメイキングって、いろいろ歪んでんな…
「まあ、その話は置いといてだネェ。ヨモの言っていた通り《デットリーミキサー》は【大死霊】の奥義で」
「それでも、上級職の奥義だろ。【ハイ・ドレッド・ドラゴン】を一撃で倒すなんて…」
「ただの奥義ではありません。特殊なアイテムを使って威力を格段にあげています」
「特殊なアイテム?」
スキル使用の前に砕いていた黒いクリスタルのことか?
「あれは私お手製のアイテムでネェ。ほかの奴らが作ったものよりも遥かに
「他の【大死霊】ではあそこまでの威力は出せませんからね」
「ヨモに感謝だネェ」
…?四方都に感謝?製作に協力しているのかな?
「しかし、【大死霊】ってどんなジョブなんだ?ジョブっていうより、モンスターぽいけど」
「それは言い得て妙だネェ。【大死霊】に就くとねアンデットになるんだヨォ」
「アンデットになる?」
「《死霊術》を駆使する【死霊術師】。その《死霊術》を極めて自身のアンデッド化に至ったのが【大死霊】。そのため、種族が人間からアンデットになるんですよ」
「厄介だよホント。日中には満足な力を発揮できなくなるし…」
そりゃ、アンデットだからな。今みたいな夜中ならまだしも日中とか出歩くだけでダメージ受けるんじゃないか。
「その分、アンデットになるメリットもあります。大抵の傷ならば即座に修復が始ります。腕を切り飛ばされようが身を斬られようが致命傷にならないんですから」
「…メリットでかすぎない?」
「そうでもないサァ。その分炎や聖属性攻撃に弱いんだから」
「結構バランスよくできてんだな」
極端に強いジョブってのは<Infinite Dendrogram>には無いのかもしれないな。結局はジョブとエンブリオの組み合わせ次第…
ん?そう言えば、ノスフェラがマスターだとしたら…
「ノスフェラのエンブリオってどんなんなんだ?」
「?そこにいるじゃないカァ?」
「そこに?」
そう言ってノスフェラは四方都を指さす。
「いや四方都はどう見ても人間だろ。まさか人間型のガードナーとでもいうのか?」
ありえないだろ、さすがに。
「人間型のガードナーじゃなくて人間そのもののエンブリオなんだよ。TYPE:アポストルの特徴だネェ」
「アポストル?もしかして、レアカテゴリーなのか?」
エンブリオの基本カテゴリーはアームズ、ガードナー、キャッスル、テリトリー、チャリオットの5つ。しかし、それ以外のカテゴリー、レアカテゴリーがあると管理AIのチェシャも言っていた。
「そうだネェ。私も私以外のアポストルのマスターは見たことないネェ。
似たようなのはいるのか。そこまでレアじゃないのか?
「しかし、どんな能力を持っているんだ?人間型のエンブリオなんだろ?」
「基本形態が人間ってだけだからネェ。他のカテゴリーを併せ持つハイブリッド。ヨモはキャッスルとのハイブリット、アポストルwithキャッスルサァ」
そうノスフェラがいったと同時、四方都が解ける。人型を失い黒く輝く光の群れとなった少年は、ノスフェラの両足に纏わりつき、その姿を変貌させる。
それは黒い玉座。有機的で禍々しく、それでいてどこか美しい漆黒の玉座。いつの間にかノスフェラはその玉座に腰掛けている。
「…かっけーな」
「そうだロォ。私の至高のエンブリオさ」
「しかし、平坂四方都って名前はなんだ?完璧日本人の名前なんだけど?」
そんなモチーフは聞いたことがない。
『ヒラサカヨモツって、連続で言ってみてください』
玉座の方から四方都の声が聞こえた。…その状態でもしゃべれんのかよ。
「えと、ヒラサカヨモツ、ヒラサカヨモツヒラサカヨモツヒラサカ…あっ、ヨモツヒラサカ」
日本神話において、生者の住む現世と死者の住む他界(黄泉)との境目にあるとされる場所。イザナギとイザナミの話で有名な所だ。
「なんで、平坂四方都って名乗っていたんだ?」
『そちらのほうが何かと都合がよかったもので…』
「そういうもんか」
「さっきのでひとつ使っちゃったしネェ。折角、玉座になったんだから
そう言いながら、ノスフェラは今度は青いクリスタルを取り出し、
『――――《
そう、スキルを発動した。
発動したけど…何も起こらないんだけど、スキル名も
「今のでスキルは発動したんだよな?」
「…やっぱり君じゃわからないよネェ。わかる人にはとんでもない光景なんだけどネェ」
「そんなすごいことしていたのか?」
何も感じなかったが…いや、ちょっとぞわっとしたかも?
「なにはともあれ、クリスタルの完成ダァ」
「えっ?」
ホントだ。ノスフェラが持っていた青いクリスタルが先程みた黒いクリスタルへと変化している。そんな簡単に作れるものなのかよ!
「コイツは【死霊術師】系統の術師にとっては最高峰の魔術媒体。使うもよし、売るもよし。まったく最高の能力だよネェ。今回は使わせてもらうけど」
「使う?」
ノスフェラは先ほど倒した【ハイ・ドレッド・ドラゴン】の【全身骨格】を取り出す。いったい何をするつもりなんだ?
「ヨモが言った通り、【大死霊】は《死霊術》を極めたジョブ。だから【全身骨格】をベースに【ハイ・ドレッド・ドラゴン】を《死霊術》で黄泉返らせるネェ」
「そんなことができんのか!?」
死んだモンスターを蘇らせるとか、【大死霊】ってチートじゃないか。
「ただ、蘇らせるんじゃあないけどネェ。今のスキルレベルじゃあ蘇らせても生前より退化するだけ。…だからこそ、こいつをつかうのサァ」
ノスフェラは作業をしながら、説明を続ける。
「このクリスタルを核にしながら《死霊術》を行う。さっきも言ったようにこのクリスタルは最高の魔術媒体。蘇らせたスケルトンにこいつを打ち込み、核にすることで能力を向上させる。ほかの奴が作ったクリスタルじゃこうはいかない。ヨモが生みだした
「暴走って…」
あと、すっごい早口。語尾も忘れてましたよ。
「よし、これで完成ダァ」
「おお!」
それは【ハイ・ドレッド・ドラゴン】から全身の肉が落ちた姿をしていた。躯幹部に埋め込まれた黒いクリスタルを剥き出しにした骨だけの体になっている。
「かっけーなオイ!名前は?名前は決めたのか?」
「【ハイ・ドレッド・スケルトンドラゴン】を核のクリスタルで暴走させ…もとい強化しているからネェ。…名付けるなら、恐骸かナァ」
「えー、骨吉だろー」
「『…やっぱりセンスない
◇
そのあと、霊都に帰るまでの間、ノスフェラとパーティーを組んで【生贄】のレベル上げを兼ねて、恐骸の性能を試している。
まあ、恐骸の性能調査はこのあたりの一番強いモンスター本人がアンデットになっているし、まともに性能が試せる相手がいなかったんだが…。そのため、早々にジュエルに仕舞い、実質虎丸一人で帰還の旅を続ける。
霊都に戻る道のため、どんどん出現するモンスターは弱くなるので、俺たちは大変ではなかったが、最後の方の虎丸は結構しんどそうにしていた。
だが、そのおかげで【生贄】のレベルもかなり上がったし、無事霊都にも戻ってこれた。…すっかり日は上りきっていたが。
とりあえず、一回ログアウトしておくか?と考えていると…
「おい、フィルルじゃないか?」
「おひさー」
「久しぶりなのである」
「懐かしい顔だね」
懐かしのメンバーと再会した。
◆
住処の確保はできた。
しかし、奇妙な人間が目立つな。
俺に対して恐れというものがない。
殺しても、恐れるどころか笑っているものさえいた。
それに奇妙な術を使う。
どうなっているのだ?
ヨモツ君の能力の詳細後日改めて
(大抵の人は想像つくだろうし、【冥王】にすごい嫌われそうである)
しかし、会話ばかりでいつまともな敵と戦うのか?
ちなみに恐骸のモチーフはスカルグレイ○ンです。