□コルトス草原 【拳聖】フルメタル
「しかし、よかったよ。フィルルがデンドロを続けていてくれて」
「であるな」
俺とドリルマンはドリルマンのエンブリオの上に乗り、目的地を目指しながら会話を続けている。
その横には、ロゼのエンブリオに乗ったゆるりとロゼが走行している。
「あのクエストを原因にやめたとなってはリーダーを務めた俺の責任だからな。頑張っているようで良かったよ」
「なかなかの冒険を繰り広げていたのである」
一人で全く知らない場所に飛ばされて、霊都に戻ってくる。確かになかなかの冒険だ。…だが、
「俺たちがこれから行うのはそれを超える大冒険だ。なにせ<UBM>に挑むんだからな」
俺たちパーティーは何度か純竜級のモンスターと戦い、勝利している。純竜級は上級職6人パーティーに匹敵する。
しかし、俺たちはマスター。<エンブリオ>の力がある。パーティーメンバー4人で純竜二体を同時に戦い、勝利したこともある。
それほど、<エンブリオ>の力は凄まじいものだ。<エンブリオ>の有無の差は大きく、<エンブリオ>の固有スキルやステータス、“成長”の補正につながっている。
何より<上級エンブリオ>に進化したエンブリオの多くは“必殺スキル”を持つ。
必殺スキルは<エンブリオ>自身の名を冠した、<エンブリオ>最大最強のスキル。例外なくその<エンブリオ>の特性を発露した強力な効果となっている。
俺たちのパーティーは全員<上級エンブリオ>に進化している。もちろん全員が必殺スキルを会得している。必殺スキルは<上級エンブリオ>になっても覚えるとは限らない。そんななか、パーティーメンバー全員が必殺スキルを覚えているのは幸運といえるだろう。
…問題はその必殺スキルでも件の<UBM>を倒せるかどうかだ。
伝説級UBM【甲竜王 ドラグアーマー】
…俺たちの他にも何人かの上級マスターが挑み、敗れている。多くのマスターは個人で挑んたといわれているが、それも仕方のないことだろう。
特典武具。
<UBM>討伐MVPに贈られる本人にアジャストした譲渡・売却不可能アイテム。貴重で強力なアイテムであり、持っているだけで切り札ともなりうる。
しかし、元々<UBM>は希少で、遭遇することは滅多になく、特典武具を得るにはMVPにならなければならない。そのためにソロで挑むものが大半だ。
しかし、実力があるといってもソロで伝説級UBMを倒せるマスターなんて早々いないだろう。それこそ、この時点で超級職にでも就いていなければ不可能だろう。でなければ俺たちのようにパーティーを組むのが定石だ。
「フルメタル、見えたのである」
思考を巡らせているとドリルマンが声をかけてくる。…よし
「全員、かかれー!!」
「「「応!!!」」」
◇
【甲竜王 ドラグアーマー】は目を見張る。自分に向かってくる人間を見つけたからだ。それだけなら、それはありふれた光景だっただろう。多くの人間が、特殊な能力を持った人間が自分に向かってくるのはここ最近、当たり前になっていた。
しかし、さすがに今回は戸惑った。人間は歩いてくるのではなく、乗り物に乗っている。女達が乗っているのは【エレファント】系統のモンスターに似ていたが、問題は男たちが乗っている方。
それは鋼鉄の地竜という他ない外見をしていた。金属の輝きと、角ばったフォルム。先端には相手を貫くであろう巨大な角がついている。
彼が知る由もないがそれはドリルマンの<上級エンブリオ>【回転戦馬 ユニコーン】である。それは【回転鉄馬 ユニコーン】が上級進化したことでTYPE:アームズ・ギアとなったもの。
ドリルによる攻撃力、スキルによる防御力、そして下級の頃に足りなかった速度をギアへの進化によって得た攻守走、バランスのいいエンブリオ。
見た目には戦車の先端にドリルを付けた、SFに登場する地底戦車といった有様だ。その速度は亜音速を超えて【甲竜王】に迫る。
だが、所詮その速度は亜音速程度。伝説級UBMである【甲竜王】にとって対して驚異的な速度ではない。それこそ、今まで挑んできた奇妙な人間たちの中には超音速機動で迫ってきたものがいたくらいだ。それを返り討ちにできる時点で、その速度以下の相手に後れをとることはない。
自らの巨爪で地竜が如き鋼鉄の戦車を破壊しようとしたとき、見えぬ衝撃が身体を貫いた。
それこそは【噴推空象 ガネーシャ】の攻撃。【ガネーシャ】はSTR、ENDに特化したガードナー。既に第六段階に達しており、ステータスだけなら伝説級にも匹敵する。
ただし、AGIに関しては【ユニコーン】と同等程度。しかし、【ガネーシャ】自身が保有する空気噴出能力を用いて、音の数倍の速度を出すことができる。
如何に伝説級UBMとはいえ、音の数倍の速度には対応できない。元より速度ではなく、耐久性に重きを置いた彼では速すぎる攻撃には対応できない。何より、【ユニコーン】を迎撃しようとしていた彼にとっては不可避の一撃だった。
ゆえに【甲竜王】はその攻撃を受けきり、【ユニコーン】を迎撃するための巨爪を【ガネーシャ】にぶつける。その一撃は伝説級の耐久力を持っているはずの【ガネーシャ】の体を容易く切り裂く。
【ガネーシャ】の伝説級のSTRとその巨体に見合った重量、そして音の数倍の速度を持って、その一撃は純竜程度であれば一撃で死を与えるもの。
【甲竜王】の身が強固な防御力を持っているとしてもありえない結果だ。それを成し得たのが攻防一体の黄色いオーラ、《竜王気》である。
《竜王気》とは【竜王】が保有するスキル。<UBM>には【竜王】という者達が存在する。純竜の中の一種族の王であると共に、当代唯一無二の強大な存在であるためにいずれもUBMとも認定される。
そのオーラは物理攻撃も魔法も大幅に減衰する。
故に《竜王気》と自身の耐久力を持って【ガネーシャ】の一撃を耐えきった。
そして、次に迫ってきた【ユニコーン】のドリル攻撃も《竜王気》は突破できても、【甲竜王】の装甲を貫くことはできなかった。
だが、彼らの攻撃はこれで終わりではない。【ユニコ―ン】にはドリルマンの他にフルメタルが騎乗している。フルメタルが飛び降り、【甲竜王】に攻撃を仕掛けていく。
【拳聖】は拳士系統上級職。ゆえにどれだけ速くともその速度は亜音速にも届かない。本来ならば、攻撃を当てることすらかなわないだろう、このタイミングでなければ…
二段階の攻撃で気をとられていた【甲竜王】に攻撃を加えるのは容易い。何より、【甲竜王】自身が上級職の人間よりも【ユニコーン】と【ガネーシャ】を警戒していたが故に生まれた隙である。
そこに叩き込むは【拳聖】の奥義《ストーム・フィスト》。自身の拳を十に分身させ連続で放つ、正に嵐が如く一撃である。その拳全てが【甲竜王】に叩き込まれる。
…だが、【甲竜王】にダメージはない。
それもそのはず、《ストーム・フィスト》は脅威的な連続拳ではあるが、一撃一撃の威力は通常時の攻撃よりも低くなってしまう。威力の下がった拳では【甲竜王】の装甲を貫くことはおろか《竜王気》に威力を減衰されてしまい、一ダメージを与えることすらできない。
結果として、フルメタルの攻撃は【甲竜王】に三十回触れただけだ。…無論、フルメタルの予想通りだったが。
そのフルメタルに対して【甲竜王】の尾が振るわれる。その一撃は本来であれば、容易くフルメタルを捉え、死を与えただろう。
しかし、その一撃は【甲竜王】が想定したものよりも鈍重だった。フルメタルはその一撃を微かにくらいながらもバックステップで避ける。そのバックステップの先にはいつの間にか
そのサーフボードはゆるりのエンブリオ【飛翔歌唱対翼 セイレーン】である。【飛翔歌唱翼 セイレーン】が上級進化することでTYPE:レギオン・チャリオッツとなり、【セイレーン】の数を増やしている。
今現在の数は四。パーティメンバー全員を【セイレーン】に乗せることができる。これによってパーティメンバー全員が《飛翔の片翼》による三次元的亜音速機動が可能となる。
【甲竜王】の攻撃の隙にゆるりは《歌唱の片翼》によって強化された回復スキルを行う。【司教】であるゆるりの《フォース・ヒール》は【ガネーシャ】とフルメタルを回復する。
そんなゆるりに対して【甲竜王】がさらにその尾を器用に使い一撃を加えようとする。その一撃はまたしても相手を捉えきれず、空を切る。
「…?」
【甲竜王】はさすがに疑問を覚える。自分の攻撃はこれほど鈍重であったか…?亜音速の者を捉えきれぬほどに。
その答えはフルメタルの籠手型のエンブリオ【毒纏拳牙 ナーガ】の能力、《毒牙減衰》にある。
触れた相手のステータス、STR、AGI、ENDの数値をランダムに一つずつ削るというもの。相手の強さによって能力は増減するが伝説級の相手でも三百近く削ることができる。
フルメタルが【甲竜王】に触れた回数は三十。【甲竜王】のステータスはSTRが1800、AGIが4200、ENDが3000減衰している。
「俺の《毒牙減衰》は長く持たん。短期決戦で攻めるぞ」
「「「応!!」」」
フルメタルの掛け声共に、各々が自らの全力の一撃を撃ち放つ。
「《
「《
「《
「《
全体バフによって強化された、巨大なドリル砲が、そして伝説級の筋力によって引かれ、空気噴出能力でさらに威力を増した矢が、毒の全てを込めた拳が【甲竜王】に放たれる。
その攻撃を喰らい【甲竜王】は吹き飛ばされる。ステータスのデバフを喰らっていたとしても、さすがは耐久力に秀でた竜王。これでも命を保っている。
だが、次の攻撃には耐えられないと考えたのか【甲竜王】は白旗をあげるように両手を掲げ…
…【拳聖】フルメタル率いるパーティーが全滅した。
【回転戦馬 ユニコーン】第四形態 TYPE:アームズ・ギア
《
自身及び【ユニコーン】の防御力を十倍化してそれを合算。それを攻撃力に変化したドリル砲を放つ。
【噴推空象 ガネーシャ】第六形態 TYPE:ガーディアン
《
自身と【ガネーシャ】を融合させるスキル。伝説級UBMに匹敵するステータスと強化された空気噴出能力を持つ。
【飛翔歌唱対翼 セイレーン】第五形態 TYPE:レギオン・チャリオッツ
《
【セイレーン】に騎乗している者に強力なバフを与える。代償にゆるりは命を削る歌を歌い続けなければならない。
【毒纏拳牙 ナーガ】第五形態 TYPE:エルダーアームズ
《
《毒牙減衰》によって減少させた数値の合算値を十倍化した一撃を放つ。
ちなみに【甲竜王 ドラグアーマー】はウォーグレイ○ンをイメージしていただければ幸いです。