"軍団最強”の男   作:いまげ

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主人公が戦います。


14.VS【甲竜王 ドラグアーマー】

14.VS【甲竜王 ドラグアーマー】

 

 

□霊都アムニール 【生贄】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「四方都、四方都君、四方都様。その【純竜猛狼】私目に戴けないでしょうか?」

「駄目ですよ」

 

 …彼此一時間同じやり取りを続けている気がする。これもノスフェラって奴のせいなんだ!

 アイツが俺の【純竜猛狼】を横から掻っ攫うような真似をして…

 

「そんなに言うなら、私ではなく、直接ノスフェラ様に交渉してはいかがですか?」

「え?」

 

 そう言って四方都は走っていく。その先には真っ黒なローブを身に纏った白い骸骨がいた。…いや、ほんとその格好で出歩くなよ、怖いから。

 

 ◇

 

「ヨモ。いいモンスターは手に入ったかイィ?」

「はい。【純竜猛狼】というモンスターを購入しました」

「…ホウゥ。純竜級のモンスターが手に入ったのカァ。意外だネェ」

 

 ノスフェラは何度か自身に代わって、ヨモをモンスターショップに行かせている。大抵、純竜級のモンスターは売っておらず、亜竜級のモンスターしか購入したことがない。純竜級のモンスターは人気が高いため、入荷してもすぐに売り切れるという理由もある。

 

「これでまた強力なアンデットが作れるネェ」

「ノスフェラ様。一つ問題が…」

「問題?」

 

 ノスフェラが疑問に思っていると一人の男が突っ込んでくる。…どこかで見た顔だった。

 

「ノスフェラ様。私目に【純竜猛狼】を戴けないでしょうか?」

「…始めて見た。スライディング土下座」

 

 ノスフェラはその光景にあきれるようにため息をついた。

 

 ◇

 

「…で、何だったかネェ?」

「だから、【純竜猛狼】を、俺に、くれよ!」

「却下」

「ホワッツ!?」

 

 クソー、こんなに頼んでいるのに。どうしてノスフェラは俺にくれないんだ!…当たり前か。

 

「ヨモ。こいついくらしたのかネェ?」

「五千万リルです」

「…やっぱり結構な額だネェ。わかっていたことだけど」

 

 イヤイヤ、その結構な額を出せるアンタは何者なんだ?って話なんだが…

 

「まあ、コッチはコッチで稼ぎはあったからいいけどネェ。…それで君はどうするんだい?」

「えっ?」

 

 ノスフェラはこちらに話を振ってくる。何やら思惑がありそうだが…

 

「君は五千万リルの物をただでほしいって言うんだろウゥ?さすがにそれはできないネェ。ただ、交渉には乗るよ」

「交渉?」

「ああ、私の欲しいものと交換ならするよ?例えば、モンスターのドロップアイテム。亜竜級や純竜級の【完全遺骸】とか【全身骨格】とかだネェ。正直、【純竜猛狼】を何に使うかといえばアンデットモンスターの作成サァ。正直【純竜猛狼】から取れる素材以上の物を貰えるなら、十分交渉材料になるネェ」

「…ん?」

 

 …ノスフェラは一撃で上位純竜を倒すスキルを持っていたはずだ。コストが伴うものだったが、それでも強力なスキルを持っていることに間違いはない。

 

「ノスフェラは純竜を倒すなんて訳ないはずだ。それなのにドロップアイテムが交渉になるのか?」

「…私のアバターや主力モンスターはアンデットだからネェ。まともに戦闘しようと思ったら、夜間でないとダメなんだよ」

「…なるほど」

 

 日中だからってログアウトするくらいだ。アンデットのアバターでは日中、ロクに戦闘も行えないんだろうな。そうなるとまともに戦闘できるのは一日九時間前後。それでは純竜を倒せる実力はあっても、純竜のドロップアイテムを複数集めるなんてことは難しいはずだ。

 

「君も純竜級のモンスターなら問題なく狩れるだろウゥ?」

「ああ、ノスフェラみたいに一撃ってのは無理だが、今の俺の戦力なら純竜級なら問題なくやれる」

 

 今は虎丸だけでなく、オセロとリバーシもいる。メインジョブを【生贄】から【獣戦鬼】に戻せば、上位の純竜ですら倒せるだろう。

 

「では、交渉の続きといくかネェ」

 

 そう言って、ノスフェラは四方都を連れて歩き出す。えっ?

 

「交渉の続きをすんだろ?どこいくんだよ!」

「どこって、ギルドだヨォ」

 

 ◇

 

 道中、ノスフェラから貰った【ジョブクリスタル】でメインジョブを【生贄】から【獣戦鬼】に戻しながら冒険者ギルドにやってきた。相変わらず活気に溢れてる。むしろやかましい。

 

 ギルドはアホだの、俺ならソロでもやれただの、ひどい罵詈雑言で溢れていた。

 

「で、どうしてこんな(・・・)冒険者ギルドに来たんだ?」

「君は何の情報もなしに純竜を見つけて、ドロップアイテムを狙うなんてことを考えていたのかイィ?そんな長時間待つつもりはないネェ」

 

 …確かに。純竜を霊都周辺で見つけるのは至難の技だろう。しかし、冒険者ギルドでは討伐クエストとしてモンスターの詳細を知ることができる。その住処も含めてだ。

 

「討伐クエストを通してやった方がドロップアイテム集めは効率がいいってことか」

「その通りだネェ」

「じゃあ、さっそく、純竜級モンスターの討伐クエストを…」

 

「フルメタル達がやられたぞ!!」

 

 不意の大声が俺の意識を貫いた。その瞬間、ギルドは歓喜の怒号に包まれた。

 

 ◇

 

「…あいつが伝説級UBM【甲竜王 ドラグアーマー】か」

「だネェ。こちらに気づいているだろうに攻めて来ないのは弱っているからかネェ?…君のオトモダチのお陰かナァ?」

「…」

 

 俺達は今、【甲竜王 ドラグアーマー】を前にして作戦会議をしている。…本来の予定とは違うが仕方のないことだろう。

 

 ギルドクエストで純竜級の討伐クエストを探していた俺たちに届いたのは【UBM】の討伐クエストに挑んでいたフルメタルたちが敗れ去ったという凶報だった。それに対してギルドにいたマスターの反応は最低のモノだった。

 

 …事の顛末はこうだ。

 

 元々、UBMの出現の情報とその被害からギルドからUBMの討伐クエストが出された。多くのマスターたちが特典武具目当てにソロでその討伐クエストを受けた。

 なかにはクエストを無視して直接UBMと戦う者。妨害やルール違反を重ねてまで特典武具を得ようとする輩までいた。

 

 結果、討伐クエストの失敗が続き、UBMによる被害が広がっていったという。

 

 そこでギルドは討伐クエストにパーティーという制限を加え、クエストを無視してUBMに敗れたもの、またこのクエストの妨害をしたものに罰則を与えると発表した。

 勿論その決定にはマスターたちから不満が噴出したらしいがギルドが断固として決定を変えなかった。

 

 そして、その制限が出てから初めてクエストに取り掛かるのがフルメタル達。そんな状況の中、ギルドやフルメタル達に対してマスターから文句や罵詈雑言が噴出した。

 

 その渦中でフルメタル達が失敗したことで、ソロのマスターたちは活気づき、ここぞとばかりにギルドとフルメタル達を叩き、パーティー制限、罰則をなくさせようとしていたのだ。

 

 そんな状況にプッツンした俺はノスフェラとパーティー組んでクエストを受けるとその場で宣言。

 

 俺たち二人のパーティーを、ギルドは承認してクエストの許可を与えてくれた。それに対してソロマスターたちは逆恨みが発生し、その場で俺たちに襲い掛かる奴まで出る始末。そんな奴をぶっ飛ばして、俺がその討伐クエストを引き継ぐことになった。

 

 元パーティーメンバーのクエストを俺が引き継ぐ。前回のパーティークエストは俺が途中離脱してしまったせいで、失敗に終わった。その罪滅ぼしって訳じゃないが、この討伐クエストはあいつらのためにもクリアしてやろうと思った。

 

 フルメタルたちが徒党を組んでまで負けたという悪評を、フルメタルたちの奮闘のおかげで勝てたという称賛に変えるために…

 

「しかし、ノスフェラまで付き合せて悪かったな」

「いやいや、【UBM】の討伐クエストなんて参加しないわけないだろウゥ?」

「だが…」

「それにさっきの交渉もまだいきているネェ。伝説級の特典武具、それを私が入手できるなら【純竜猛狼】だけでなく、純竜級を購入できるほどのリルもくれてやるサァ」

「…まじか」

 

 【純竜猛狼】だけでなく、大金も?そこまでの価値があいつにはあるのか。

 

「俄然、やる気が出てきたな」

「でも、戦い方は考えた方がいいネェ。いくら君のスキルで強化されても精々純竜級が限度。それじゃあ、伝説級UBMには通用しない。運が悪ければそのままサヨナラっこともありえるネェ」

「分ーってってるよ」

 

 セプータでダッツァーに聞いたことがある。伝説級UBMは超級職のティアンでも勝つことは厳しいらしい。

 

 マスターにはエンブリオの力があるとはいえ、未だ合計レベル五百(カンスト)にすら至っていない俺では相手にならない。それは純竜を複数従えていても変わらないだろう。

 

「だから、虎丸たちを散開させつつ、周りに誰も近づけないようにさせている。モンスターも…マスターもだ」

「…それが賢明かネェ」

 

 先ほどのことを考えれば、漁夫の利を得ようとするマスターが邪魔をしにくることもありえる。介入される前に倒すのが理想か…

 

「よし、そろそろ仕掛ける」

「了解ィ」

 

 今度のクエストこそ必ず成功させる!!!

 

 ◇

 

「さてと、じゃあこいつの出番ダァ。…こいつを運用することを考えても近くに味方モンスターはいなくてよかったネェ」

 

 そういってノスフェラは右手のジュエルから【ハイ・ドレッド・スケルトンドラゴン】の恐骸を出現させる。

 

 恐骸は姿を現すや否や【甲竜王】に向かって走り出し、右腕を衝突されるように一撃を放つ。しかし、その一撃は【甲竜王】の左の巨爪に迎撃され、あえなく腕ごと切り裂かれる。

 

「元は上位の純竜といっても、アンデッド化でステータスは低下している。力勝負じゃ相手にならないネェ。…他の純竜級もたいして変わらないだろうけど。まあ、問題はないけどネェ」

 

 そのノスフェラの言葉通り、恐骸の切り裂かれた右腕は既に元の形に戻ろうとしていた。それこそがアンデッドの利点。火や光に弱くなるといったデメリットを抱える一方、純粋な物理攻撃では即座に再生が始まり、決定打になりえない。…しかし。

 

「恐骸の耐久性が高いのはわかった。だが、これじゃ時間の無駄だぞ」

 

 フィルルの指摘も最もである。今も恐骸が【甲竜王】に攻撃を加えるが、逆に攻撃を加えられダメージを負っている。そのダメージはアンデットの耐久性ゆえにすぐに再生するが…これでは千日手。

 恐骸は【甲竜王】に攻撃を与えることができず、【甲竜王】は恐骸を倒すことができない。

 

「確かに千日手だネェ。…恐骸がただのアンデットなら」

「?」

「《デッドリーエンハンス》」

 

 ノスフェラの言にフィルルが疑問を浮かべていると、ノスフェラは新たなスキルを発動した。その瞬間、恐骸の核となっている黒いクリスタルが紫色の輝きを放つ。それは瞬く間に恐骸の体中に広がり、全身を包んだ。そして、恐骸は理性を失ったかのように暴れだし、【甲竜王】の身体に傷をつけた。

 

「…【甲竜王】を傷つけるほどのステータスは恐骸にはないはず。名前からして特殊なバフスキルか?」

「正解ィ。あれは私のオリジナルスキル《デッドリーエンハンス》。詳細は省くけど、恐骸のステータスはさっきの二倍近くに上昇しているヨォ」

「純竜級モンスターを一撃で屠るほどのエネルギー。それを放出せずステータス向上に回した、ってところか」

「…目ざといネェ」

 

 【大死霊】の奥義に《デッドリーミキサー》というスキルがある。《デッドリーミキサー》は蓄積された怨念を破壊エネルギーに変換し、相手に叩きつけるというもの。

 ノスフェラが作った《デッドリーエンハンス》は【大死霊】の奥義を改良し、怨念を物理エネルギーに変換して相手にたたきつけるのではなく、そのまま動力源とするスキル。

 

 ノスフェラが作成するアンデットモンスターが怨念のクリスタルを核にしている理由のひとつがこのオリジナルスキルにある。このスキルによってノスフェラは自作したアンデットモンスターのHP、STR、AGI、ENDを倍化させる。

 

 《デッドリーエンハンス》によって、本来は純竜級のステータスである恐骸に伝説級UBMに匹敵するほどのステータスに変える。

 しかし、本来このスキルはそううまくいくものではない。他の【死霊術師】が作った怨念のクリスタルでは怨念を純粋な物理エネルギーに変換し動力源にするなど決してできないだろう。【ヨモツヒラサカ】によって作られた怨念のクリスタルだからこそ可能の御業。

 

「だけど元が怨念だから暴走する可能性はいくらでもある。いや、今もこうして【甲竜王】に攻撃こそしているが、バーサク系統のスキルを使っているときの挙動と変わらない。…あれじゃあ味方がいても平然と巻き込んでしまうネェ」

 

 《デッドリーエンハンス》のスキルによってステータスは上昇しているが、攻撃自体は大振りで単調、あれではすぐに【甲竜王】に攻略されてしまうだろう。…ここにフィルルがいなければ。

 

「《光る劇場の脇役》!」

 

 そのスキルの発動と共に恐骸のステータスがさらに上昇し、伝説級UBMを超えるステータスを手に入れ、更なる猛攻で【甲竜王】を責め立てる。

 

 この討伐クエストに取り掛かる前、フィルルとノスフェラはパーティーを組んでいる。当然といえば当然だが、これが意味することは大きい。なぜならノスフェラの持つアンデットモンスター、恐骸もフィルルのパーティーメンバーになる、つまり【アンフィテアトルム】のスキル適用内になるということだ。

 

 《光る劇場の脇役》によって、《デッドリーエンハンス》でのステータス上昇は恐骸にとどまらず、周りに散開している虎丸達へのステータス上昇につながり、虎丸達への《魔物強化》は恐骸へのステータス上昇につながる。

 

「《輝く劇場の主役》!!」

 

 スキルの発動と同時、フィルルは音をも超える速度で【甲竜王】に迫り、《竜王気》ごと【甲竜王】の装甲を拳で貫いた。まさに竜すら貫く一撃である。それをフィルルは連続で繰り出していく。まさしくそれは【拳聖】の奥義《ストーム・フィスト》の如く。しかし、フルメタルの拳とは違い、威力は雲泥の差、【甲竜王】のHPを容易く削る。

 

 【甲竜王】は驚愕する。今の敵の動きは自分の動きを圧倒している。それは超級職でも相当の研鑽を積んだ者でないと不可能。これもまた、奇妙な人間が持つ力の奥義かと【甲竜王】は推察する。

 

 【甲竜王】は奇妙な人間には必殺と呼べる(・・・・・・)奥義を持っていることを知っている。一撃に特化したものと自身を強化するものがあり、どれも下級の逸話級UBMならば倒し得るもの。それを使ったのだと【甲竜王】は考えた。

 

 しかし、それは間違いだ。そもそもフィルルは上級エンブリオを有しているが、必殺スキルは未だ会得していない。それもそのはず、必殺スキルは上級エンブリオになっても覚えるとは限らず、未だ存在しない超級の頂になって初めて会得する可能性すらあるという。

 

 フィルルの超ステータスの答えは《輝く劇場の主役》と《光る劇場の脇役》の併用である。

 

 ◇

 

 フィルル・ルルル・ルルレット

 職業:【獣戦鬼】

 レベル:76(合計レベル:301)

 HP:5421(+236500)

 MP:3331(+26781)

 SP:491(+17700)

 STR:355(+21690)

 AGI:225(+21005)

 END:287(+21836)

 DEX:153(+2366)

 LUC:75(+264)

 

 ◇

 

 従魔モンスターへの《魔物強化》、虎丸への《獣心憑依》、恐骸への《デッドリーエンハンス》、パーティー内モンスターへの《光る劇場の主役》、そのパーティーメンバーの全てのステータス上昇を自身のステータスに加える。それは上級エンブリオの必殺スキルを凌駕し、伝説級のUBMを超え、古代伝説級UBMにすら匹敵するもの。

 

 怨念のクリスタルによって暴れまわる恐骸とその隙間を縫って攻撃を仕掛けるフィルル、その連撃は【甲竜王】にとって対応できぬものであった。

 

 最もそんな連撃はフィルルにしかできないだろう。敵味方関係なく襲う伝説級に匹敵する暴走竜、その攻撃を掻い潜りながら【甲竜王】に攻撃をするには、恐骸よりも高いステータスが必要。だが、今のフィルルはその条件を容易く満たす。

 

 コンビネーションとは決して言えない、二体の連撃によって【甲竜王】は確実に追い詰められる。

 

 そして怒涛の連撃の締めに遠方より放たれるのは…

 

「《デッドリーミキサー》!」

 

 上位の純竜すら一撃で仕留める必殺スキルが如き破壊の怨念である。その破壊エネルギーは《竜王気》ごと【甲竜王】を貫き、大幅に生命力(HP)を削った。

 

 生存こそしていたが、最早【甲竜王】に勝つ手段はない。そう思われたとき、【甲竜王】は祈るように両の巨爪を合わせ、必殺の一撃を繰り出した。

 

「《アーマーリリース》…《クリムゾンフォース》!!!」

 

 【甲竜王】の両爪の間に生まれた紅蓮の光球は、音を置き去りにするほどの速さで放たれ、即座に巨大化してフィルルと恐骸を捉え爆発する。

 

 そこから生まれる炎熱は距離をとっていたはずのノスフェラの身すら焦がす。そして、爆発で吹き飛ばされたのか、フィルルがノスフェラの近くに吹っ飛んできた。

 

 【甲竜王】が使った《クリムゾンフォース》は炎球の息吹を放つスキル。

 

 本来、口腔から放たれる竜の咆哮ブレス。しかし、二足歩行の竜人である彼らはブレスを両の手からも放つことができる。しかし、手から放つ場合、奇襲や虚をつく目的で使われるため、威力はそこまで高くなく、純竜の咆哮よりも威力は低い。

 

 それをここまで爆発的な威力に変えたのは直前に使った《アーマーリリース》である。それは装甲へのダメージを蓄積し、そのダメージをスキルの威力に上乗せするというもの。

 

 《竜王気》と強固な装甲、そして【甲竜王】自身の耐久力(END)。【甲竜王】を倒すには何重もの壁を突破せねばならず、突破した壁がそのまま【甲竜王】の逆転の糧となる。【甲竜王 ドラグアーマー】とはそういうコンセプトを持ったUBMであった。現に先刻の自身を殺し得る集団フルメタルパーティーとの戦いでもこの一撃で勝利を納めている。

 

 ◇

 

「この状況はさすがにまずいネェ、スキルの多重強化があったフィルルは意識はあるみたいだけど、恐骸は…消えてしまったネェ?」

 

 元より、炎熱には弱いアンデッド。ただの光球ならまだしもあの威力では生存は期待できない。

 

「くそ、なんだ今のは?」

「おそらくアイツの必殺技だろうネェ。あの時の君のステータスは奴の数倍以上。それでもこの惨状だから、自身よりも格上のモノすら屠りうる一撃。まさにジャイアントキリングだ」

 

 伝説級UBMによるジャイアントキリング。自分で言いながら笑えない。

 

「しかし、奴も満身創痍なのは確かだ。このまま攻めれば…」

「その足で?」

 

 私はフィルルの足を見ながら問いを投げる。…いや足は見ていない。足があったはずの場所を見ながら問いを投げたのだ。

 

「竜人型は賢いからネェ。仮に殺しきれなくても、反撃の芽を摘むために(AGI)を真っ先に奪ったんだろう」

「ひどい真似しやがる。…だがまだやれるさ」

 

 私たちマスターはアバターを失っても痛みを感じることはないとはいえ、戦意を削ぐには十分すぎるダメージ。それでもなお戦うという意思は称賛されるべきものだ。

 

 しかし、この状況下で奴に勝つ方法は…

 

「たとえ()がなくたって、どんな()を使ってでもこのクエストはやり遂げる。そう誓ったんだ…だから絶対に勝つ!」

 

 一つしかない。

 

「フィルル。死んでもらえるかな?」

 

 




【甲竜王】さんネメシス並みの復讐スキル持ちだった模様。

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