17.力試し
□???
―あれがこの辺りのモンスターを倒している奴らか。
彼の視線の先には一人の人間と五体のモンスターがいた。より正確に言うならば一人の人間と四体のモンスター、そして骸骨のアンデットである。
—獅虎に賢人に狼に骸骨か。骸骨はアンデットモンスター。日中である今は無視して構わん。残りはどれも純竜級の実力があるが…問題はない。力試しにはちょうどいい。
彼は敵に飢えていた。それはより強い力を得たが故、自分の力を試してみたくなっていた。そんな彼の前に現れた人間たちはお手頃の獲物といえた。
彼には敵の
事実、それは正しく、モンスターはすべて純竜級。上級職パーティーに匹敵する純竜級が四体。そして、それを敵にしても問題なしといえる実力が彼にはあった。
—まずは
彼は敵の能力値だけでなく、
AGI型ヒーラーである敵を倒す。敵の回復役を真っ先に潰すのは戦いの定石。彼はそれを実践する。
—《
彼がスキルを発動する。それは
今回作ったのは
—チッ。精密性と隠密性は成長なしか。
多重式回転式機関砲から放たれる弾丸は大きな
しかし、精密性に難ありではあるがその連射と速射は脅威であり、例え弾丸の半分を無駄にしても亜竜以下の
—…?おかしい。まだ賢人を殺せていない。…能力値を見誤ったか?
多重式回転式機関砲にはもう一つ難点がある。連射性と速射聖に主眼を置いているため、弾丸一発一発の威力は純竜級の耐久力があればダメージがほとんど入らないことだ。
それでも亜竜級の耐久力であれば間違いなく殺しきれるもの威力はあるはずだが、白き賢人は問題なく弾丸の猛攻を耐えている。
そして、砲撃手の元へと二つの影が迫る。それは獅虎と狼である。多重式回転式機関砲の音は容易く砲撃手の居場所を教えてしまう。それでも彼我の距離がかなりあるため、最速でも亜音速の相手では本来なら問題はないはずだった。
しかし、迫りくる二体の獣は超音速機動で迫りくる。音を超えた速度があれば、この距離を容易く詰めることも可能。
またも彼の予想を反する能力値を持った超音速機動の襲撃者に対して彼の取った行動は単純であった。回避と迎撃である。
彼自身のAGIも音の二倍、数値にして2万を超える。それは襲撃者よりも速く、多重式回転式機関砲を牽制に使い、迫りくる獅虎と狼の鋭い牙と爪を躱し、新たに形成した
多重式回転式機関砲が牽制にしかならない敵の耐久力を無にするほどの威力。それが貫弾式散弾射撃銃の特徴である。威力に全振りしているため、近距離の敵にしか使えないが、それでも伝説級のモンスターの装甲すら容易く貫き、ヘッドショットを決めれば、一撃で殺し得るほど。
放たれた二つの弾丸は獅虎と狼の胴体と足を貫き、動きを止める。
―フン。敵は倒せるときに倒す。止めを刺して、次の敵を…チッ。
迫りくるのは黒き賢人。鈍足アタッカーであったはずだが、今は亜音速で迫りくる。…だが彼には既に驚きはない。おそらくモンスターを率いているあの男がモンスターを大幅に強化しているのだろうと推測し、それは正解であった。
故に、貫弾式散弾射撃銃を頭部に放つ。超音速機動の敵ならまだしも亜音速の敵ならば確実に頭部を狙い、抹殺できる。
—あの男から殺すべきか?
意識を黒き賢人から外し、男に意識を向ける。その間も銃口は黒き賢人に向けられ、そこから放たれる弾丸は黒き賢人の頭に直撃し、
そして意識を他に向けていたが故に彼の反応が少し遅れる。黒き賢人の拳が彼の眼前を掠める。
だが、彼は熟練者。攻撃をもらうことはない。しかし、その攻撃を躱さざるえない状況になったことに彼はいらだった。他でもない自分自身にだ。
—…クソッ。こいつの耐久力は伝説級モンスターを超えるのか!!
二丁の貫弾式散弾射撃銃を連射するほどには彼はいらだっていた。自分のミスが許せないが故の短絡的攻撃。しかし、そこまで間違いではない。
貫弾式散弾射撃銃を耐えたとはいえダメージは確実にある。それを連続でぶつければ黒き賢人は確実に殺せる。そうした考えが彼にはあったし、合理的ではあった。…黒き賢人だけであれば。
—殺し切れない。なぜ?…俺は馬鹿か!最初になぜ白い賢人を狙ったかを忘れたのか!!!
黒き賢人は止まらない。白い賢人の
彼の手から投げられた球体。それは黒き賢人に当たると炸裂した。だが、威力に全振りした貫弾式散弾射撃銃でも貫けなかった黒き賢人には大したダメージは与えられなかった。…そう
それは相手にダメージを与えるのではなく、【凍結】という状態異常を与えるもの。彼の奥の手と呼べるだけあって、その【凍結】はレジストすら難しく、白き賢人でも回復させることはできなかった。
そして【凍結】した相手の耐久値は大幅に減少する。まさしく氷を砕くように貫弾式散弾射撃銃を撃とうとし、それごと腕を砕かれた。
—氷を砕こうとした俺の腕が砕かれるだとォ!!!
その一撃は先ほど殺そうと思案した人間によるもの。その拳の一撃の威力は3万を優に超え、音の三倍以上の速さで放たれる。それは容易く武器ごと彼の腕を砕く。
そこから始まったのは怒涛の拳の嵐。熟練者の彼にとっても自分より速い相手に攻撃されることは滅多に無い。しかし、彼にも意地がある。すべてに対応できるわけではないが、致命となりえる攻撃を確実に躱す。それでも確実に彼のHPを削られている。だが、勝利の手がない訳はない。
耐久力には優れていない彼には耐えきれず、彼より早く迫る敵。そんな男を倒し得る、HPを大幅に削られる中で彼が生成したのは彼に残された最後の切り札。
彼の背部で生成された
自身より早く迫るミサイルをどうにかする手段は男には無く、数十秒の鬼ごっこのあとに男は凍結した。
—フフフ、ハハハッ!所詮
そんな彼の前に
巨爪が迫る。
彼からすれば容易に躱せるはずの速度であったが、反応が遅れ攻撃を掠める。頭の中を疑問が埋め尽していたからだ。
—これは…【竜王】?しかし、既に死んでいる。アンデットか?一体誰が…。いやそれよりもアンデットがなぜ日中に動ける!?
それは当然の疑問。【竜王】といえどやられることはある。それを用いてアンデットを作られることもあり得る。だが、それが日の光があるこの時間帯に動いていることはありえない。
多くの知識があり、敵を測る目を持つ彼故の疑問だった。
しかし、その答えは単純。UBMにとって特殊能力が華であるならば、超級職の
—もういい!!奴らが特殊なのは分かった。ならばこちらの能力で上回るだけだ!!!
彼は再び、二丁貫弾式散弾射撃銃を創り出し、竜の骸に放つ。だがそれはダメージを与えることはない。
元になった竜王は耐久力に秀でた個体で、強固な装甲も持つ。そして、【竜王】が保有する《竜王気》。三重の壁は貫弾式散弾射撃銃を完全に無力化していた。
数十発の弾丸を撃ち、それがダメージを与えていないことに彼はさらに苛立ちを強め、銃を投げ捨て、今度は
竜骸は手榴弾に対し、手掌から炎球を放ち迎撃する。それは凍結を無効化するのほどの火力はない。しかし、炎球が当たった時点で冷気は放出される。至近距離の冷気でなければ《竜王気》を持つ竜の骸を【凍結】させることができない。
—奴はアンデットだぞォッ!なぜ自身の弱点となる火炎を扱えるゥ!!クソがあああァァァ!!!
もはや、彼の思考は正常とは言い難かった。しかし、思考を放棄した彼は《氷狼贋》によって生涯最高傑作を作り上げる。
彼は一瞬で懐に潜りこみ、
—勝負あった。
彼の思考が徐々にクリアとなり、残った敵を撃つ敵を倒す算段と再びつけ始める。
-獅虎と狼は胴体と足にダメージを負っている。この攻防の中でも動きはなく既に沈黙している。白き賢人が回復させているが黒き賢人とは違い即座の回復ができていない。そして黒き賢人と男は【凍結】したまま。迷う必要すらない。白き賢人を殺す。
彼は竜の骸から視線を外し、回復を行っている白き賢人を撃つべく多重式回転式機関砲を作成して…
竜の骸から放たれた
死の間際、彼の思考は一つの答えを出していた。
敵はアンデット。
たとえ、身体に大穴を開けても奴らには…
【<UBM>【兵装氷狼 ルゥガンルゥ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ノスフェラ・トゥ】がMVPに選出されました】
【【ノスフェラ・トゥ】にMVP特典【兵装氷狼完全遺骸 ルゥガンルゥ】を贈与します】
【兵装氷狼 ルゥガンルゥ】。彼。二足歩行する氷狼人。古代伝説級になり、力を試せる敵を求めていたが…南無。モデルはメタルガルル○ンX抗体。
力を得たからといって、それに過信して迂闊になったらダメだぞという話。
フィルル。男。一応主人公。敵にステータスに頼った雑魚といわれてしまう(残当)
ノスフェラ。骸骨。三つ目の特典素材を得る(なお、フィルルはゼロ)
甲骸。竜の骸。【甲竜王 ドラグアーマー】の特典素材を基にノスフェラによって作られた【ハイエンド・キングアーマー・アンデットドラゴン】。詳細は次回(しかし、アンデットと《アーマーリリース》の組み合わせはチートじゃね?)