"軍団最強”の男   作:いまげ

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前話の解説回


18.帰還

□ヴェリス森林 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「まーたーまーけーたー」

「おや、凍結が解けたネェ。UBMが死ぬと状態異常もなくなるタイプだったんだネェ」

 

 俺が凍結から回復後の第一声がそれですか。そうですか。

 

「これで特典武具はまたお前のかよ」

「相性がいいやつばかりだからネェ」

 

 最初に出会った【甲竜王 ドラグアーマー】、今倒したものを含めて三体目。つまり、俺も三体UBMに出会っているのだが…すべてMVPはノスフェラに取られている。

 

「最初は圧倒できるんだけどなー。気づいたら相手のスキルを食らって死にかけている気がする」

 

 俺のステータスはアンフィテアトルムのスキルもあって、ティアンの超級職もびっくりのステータスになっている。なっているのだが…UBMのスキルにはいいようにやられてしまっている。

 

 UBMのスキルは独自性が強く、たとえステ―タスで勝っていてもそれを吹き飛ばす。

 ステータスよりもいかに強力なスキルを持っているかどうかがこの<Infinite Dendrogram>では重要なのだと今回の旅で気づいた。

 

「まあ、悲嘆することはないヨォ。アンフィテアトルムは言うまでもなく強力なエンブリオだし、今回は巡りが悪かったというしかないネェ」

 

 前回、前々回のUBM戦とは違い、今回は相手から奇襲をかけられた形である。故に対応が後手に回ってしまった。それ以上に俺たちは狩りをした後で、俺は装備が不足しており、虎丸達は疲労で精細を欠いてしまっていた。

 

「アイツは耐久に優れたタイプじゃなかったからネェ。剣があればそのまま一刀両断、だったんだけどネェ」

「剣はすぐ壊れてしまうからな」

 

 確かに剣があれば、拳の嵐ではなく斬撃の嵐でそのままあのUBMを倒せただろう。しかし、

剣はその前の狩りで壊れてしまい、そのままやられてしまったわけだ。

 

 剣が壊れやすいのに理由がいくつかある。 

 

 まず、剣そのものの耐久力がそこまで高くない。そもそも俺が手に入れられる剣はそこまでの一品ではないのだ。合計レベル五百(カンスト)しているため、超級職ならざる者が装備できる中では最高級の代物が装備できるのだが…金をケチっているせいで購入できない。

 

 仮に装備できる中で至高の一品を手に入れたとしてもそれもすぐに壊れてしまうだろう。それが二つ目の理由、俺はレベルとステータスの乖離が大きすぎるのだ。

 

 カンストしたティアンのステータスは特化したステータスで三千が限度。マスターにしても、エンブリオの補正があるとはいえ、一万が限界だろう。

 そんななか、俺は音の三倍以上の速さと常人の三千倍以上の筋力で剣を振ることができる。それは強力な一撃になるだろう。それこそ古代伝説級UBMを両断できる位には。

 

 しかし、その威力に剣が耐えきれない。全力での斬りこみの場合、すぐに剣が刃こぼれし、しまいには折れて砕けてしまうのだ。

 

 あるいは剣士系統のジョブスキルがあれば、そのような心配はないだろう。ただ振るよりも、スキルを使った方が剣を上手く使いこなせるは道理。

 だが、俺は【獣戦鬼】の《獣心憑依》を虎丸に適用するために、従属キャパシティの大きいジョブしか取れず、結果として剣士系統のジョブはおろか戦闘系のジョブを一つもとれていないのだ。それが三つ目の理由。

 

「一本でも剣が残っていればなー。アイツを殺して剣の特典武具が得られたかもしれん」

 

 特典武具は壊れても再生するうえに、レベル制限がない。剣の特典武具を得られれば、俺の戦力は大幅に増強しただろう。さらに今回のUBMは氷で武器を生成するタイプだった。仮に剣にならなくとも、その能力で剣や槍といった武器を生みだせたのは想像に難くない。

 

「まあ終わったことだ。しかし、どうやったら強くなれる?」

 

 今でも多くのカンスト勢の中でも上位の存在ではあることは重々承知しているのだが、すぐそばに超級職(【屍骸王】)がいるせいでより強い力を望んでしまう。

 

 ジョブもカンストし、エンブリオも第六形態へと至っているが、四方都のような必殺スキルを覚えることはなかった。

 

 となれば、第七形態、つまり<超級>にならなければならないのだが…

 

「私でも未だ<超級>になっていないからネェ。手っ取り早く強くなるには超級職を得るしかないんじゃないかネェ?」

 

 そうなのだ。俺たちが出会った時には既に第六形態だった四方都。それがこっちの時間で一年半近く経っているのに進化していないのだ。

 これは四方都が特別遅いのではなく、ほとんどのマスターが第六形態で停滞しているのだという。このことから、俺のアンフィテアトルムが第七形態になるのは当分先になりそうなのだ。

 

 となると…

 

「やっぱり超級職しかねえよなー」 

「フィルルの上級職は【獣戦鬼】と【高位従魔師】。その二つのどちらかの超級職が近道だろうけどネェ」

「どっちも脈なし。それに【獣戦鬼】はコルが就いていそうだしな」

「ああ。今向かっているセプータの例の子か」

 

 才能という限界があるティアンの身でありながら、獣戦士の才に愛された少女。俺と別れたときには既にカンストしていた彼女は既に【獣王】になっているんだろうか?なっているとしたら…

 

「俺はどうやって強くなればいいんだー!!!」

 

 ◇

 

 夜を迎え、休息をとる俺たち。夜は本来、ノスフェラの得意な時間帯なのだが、俺に合わせて休息をとっている。というより作業に没頭している。

 

「そろそろ、セプータにつくネェ。それまでに完成させたいところだけど」

 

 彼女の手には特典素材と3つの【怨念のクリスタル】。先ほど得たUBMの特典素材から【屍骸王】のスキルを用いてアンデットを作成しているのだ。

 

 【屍骸王】のスキルには破格ともいえるアンデット制作用のスキルが複数存在する。

 

 《技能還元》:制作したアンデットが生前有していたスキルを使用可能。

 

 《生前回帰》:アンデットにとって弱点となる日光や光といったものを軽減できる。

 

 《怨念回路》:怨念によるアンデット駆動のリスクを低減できる。

 

 これらのスキルによって、【甲竜王完全遺骸 ドラグアーマー】から生みだされた【ハイエンド・キングアーマー・アンデットドラゴン】は《クリムゾンフォース》といった火炎も問題なく使用できる。

 

 さらに、アンデットの不死に近い耐久力があるため《アーマーリリース》の性能も限りなく向上している。

 装甲へのダメージを自身に還元する《アーマーリリース》だが、アンデットである甲骸(【ハイエンド・キングアーマー・アンデットドラゴン】の名前)は装甲を再生できるからだ。

 

 三つ埋め込まれた【怨念のクリスタル】のブーストも合わせて、生前の伝説級を超えて、古代伝説級にも匹敵する性能を誇るノスフェラ最強のアンデット。

 

 今回の素体は古代伝説級であるため、それ以上の一品ができると大変喜んでいらっしゃる。ずるい。

 

「やっぱり、日中も活動できるのはいいネェ。もし、ログアウトしていたら、MVPを逃していたかもしれないし。このローブさまさまだネェ」

 

 そうアンデットがいくら日中活動できるといっても、ノスフェラ自身はアンデットのままであるため、本来なら活動に制限がかかる。

 しかし、俺との旅の最中に、【日除けのローブ】を手に入れた。これはアンデットでも日中活動できるほどの加護を与える。合計レベル五百でも装備できない逸品であるが、【屍骸王】であるノスフェラには関係ない。ホントずるい。

 

「完成だネェ。【ハイエンド・アイスクラフト・アンデットウルフ】。名前は兵骸かナァ」

 

 どうやらアンデットの作成に成功したようだ。…しかし、兵骸って。全部○骸に統一するのかな?正直センスないんですけど、プークスクス。

 

「あとは甲骸の怨念を補充しておくかネェ」

 

 ノスフェラの使うアンデットはすべて【怨念のクリスタル】を核にしている。UBMにはさらに複数の【怨念のクリスタル】を使用している。

 それにより、生前よりも強力なアンデットを制作することができているのだが、怨念の補充が必要不可欠となる。稼働させるたびに、核の怨念を使用しているためだ。

 

 そう言いながら、ノスフェラは甲骸と四方都を呼び出し、《転念怨遷》によって甲骸の怨念を補充していく。

 

「そうだ。俺も虎丸達にメシをあげないと…」

「その子たちも随分大きくなったよネェ」

 

 ノスフェラが作業の合間にこちらに目を向けてくる。

 

 そうなのだ。虎丸達は今回の旅を通して全員が純竜級のモンスターになっている。それに伴い、虎丸たちは身体が二回りは大きくなっている。戦力の増強になってそれはいいのだが…

 

「メシに金がかかりすぎてるんだよなー」

 

 それこそ、俺がまともに装備を更新できない理由。金欠だ。

 

 【甲竜王】の討伐で得たお金など、既に食費で吹き飛んだ。食費を工面しようと狩りを続けるがそれでは余計に虎丸達の腹が減る。そして食費が増えるという悪循環だった。

 

 これがホームタウンがあったりするのであれば、ある程度は改善できるのだろうが今は旅をしている身。今の一番の敵は金だった。だが、それもすぐに解決する。

 

「今回の旅はセプータで終わりにするんだろう?」

「ああ、レジェンダリアを巡る旅。それの締めは最初に訪れたセプータだって決めてあったんだ」

「今回の旅は有意義だったよ。お目当てのモノ(怨念)もたくさんあったしネェ。最後の締めは劇的に飾ろうじゃないか」

「そうだな。旅を終えて霊都に戻ったら、強くなったフルメタル達と決闘するのも悪くない。それとも約束通りパーティーでも組んでクエストにでも挑むか」

「君のジョブだとまともにパーティー組めないじゃないか。パーティー枠三つも従魔に使っているんだから」

 

 …それもそうである。悲しい事実だった。

 

 ◇

 

 夜が明け、セプータにたどり着く俺たち。そこには昨夜の喧騒を無にするような光景が待ち受けているのだった。

 

 

 

  




セプータ帰還編、開始。

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