□セプータ 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット
俺が初めてセプータを訪れたのは<Infinite Dendrogram>がサービス開始されて間もないころだった。フルメタル達とパーティークエストを受けていた途中、<アクシデントサークル>によってこの周辺にとばされた。
そこでモンスターの狩りを続けていると、いきなり襲われてセプータに気づいたらいた。その犯人はコルという少女。仲間の敵討ちを目論んで少し暴走気味だった子。
その暴走を窘めながら、俺にこの世界の情報をいろいろ教えてくれたダッツァー。その二人と共に、狩りを行い、遂にはダッツァーの息子たちの敵であるフレイムエレメンタルを見つけ、討伐した。
そこからこちらの時間で三か月間、セプータに滞在し、村人達との交流を深めていった。セプータを発って一年半以上経っていたが、それでもセプータでの思い出は消えていない。
◇
「こんなこというのはあれだけど…随分と寂れた村だネェ」
「…」
ノスフェラのいうとおり、セプータはかなり寂れていた。俺たちはレジェンダリアを巡る旅でいろんな村を訪れたが、ここまで寂れた村はなかった。どんなに貧しい村でもそれでも活気があった。
そう、セプータは寂れたというより、
しかし、俺がいたころはこんな様子ではなかった。村の若い【獣戦士】がやられたということもあり、ピリピリしていたが、それでも活気はあった。敵討ちが終わった後はささやかながら祭りが開かれるほどだった。
「俺がいたころはこうではなかったんだが…」
「一年半前何だろう、君がいたのは。そんなにあれば多少は変化はあるんだろうけど…」
さすがにおかしい。何よりもおかしいのは一人も人が出歩いているのを見ていないことだ。そう、村には人が一人もいなかった。
「誰かいないか探してくる。ノスフェラも情報を集めてくれ」
そう言って走りながら、住居に声をかけていく。それでも返事はない。俺が散々世話になったダッツァーの家にも行ってみたがやはり返事はない。
…そうだ。村長の家なら、村長の家ならだれかいるはずだ。
村長は村の代表ということもあり、他の村との交流を積極的に行っていた人物だ。他の【獣戦士】の部族の村とも太いパイプがあり、他の村からも多くの人が村長に会いにやってきていた。
仮に村長がいなくても、他の村の人がいるかもしれない。あるいは人がいなくてもここまで寂れた理由が分かるかもしれない。
そこには確かに人はいた。
ただし、そこにいたのは村長宅を襲う盗賊たちであった。
◇
「ノスフェラ様」
「…ヨモか。お前がわざわざ出てくるっていうことは…まあそう言うことなんだろうネェ」
フィルルとの旅の途中、自分からヨモが出てくることはなかった。いろいろな理由があるが、一番大きいのは彼の能力に起因する。
彼はその能力の特性上、死者の魂が、もっと言えば怨念が見えてしまう。何気ない道、村、街至るところに怨念がある。そんな自分がノスフェラとフィルルの楽しい旅に常に控えているのはためらわれたのだ。
マスターであるノスフェラはそんなヨモの気持ちを薄々と感じていたし、だからこそ、いまこの場に出てくるヨモの意図とそれの理由が察せられてしまう。
「そんなに酷いかネェ。ここの怨念は」
「村人全員分ともなればその量は測り知ることができません」
「…そうか。私には見えないがそんなにひどいか、ここは」
怨念を扱うノスフェラといえど、そのジョブ構成から霊や怨念といったものを見ることはできない。ジョブ自身は死体型アンデットに特化しているため霊といったアンデットは専門外だった。
ヨモの存在からノスフェラがそれで困ることはなかったが、今この時だけは霊視の能力を欲してしまう。…あるいは持っていないことに感謝すべきだろう。
「情報を取れそうな奴はいないかい?村人全員分の怨念となれば、対話可能の奴だっているだろう」
「探してみます」
怨念といってもその中にも種類がある。自我を忘れ、理性さえも失う怨念もあれば、比較的会話が可能な怨念もある。しかし、その怨念もより強い怨念に飲まれていつかは自我を失う。
さらに怨念の中には自分に何が起こったのかを理解していないものが多い。中には自分が死んでいることを知らないまま怨念になっているものもいる。
ヨモであれば、最悪【贄喰】のように理性が吹き飛んでいてもある程度の情報が知ることはできるが、それでは情報の精度が落ちる。
そのため、ほんとに事情を知る怨念が必要であり、…そんな霊がいるかは確率の低い賭けだった。
「ノスフェラ様、見つかりました。…コルという少女の怨念が」
それはノスフェラにとって情報を引き出せる霊がいたという嬉しい知らせであり、同時にコルが既に死んでいるという悲しい知らせに他ならなかった。
◇
「お前をここで殺さない理由が分かるか?分かるよな?だったら持っている情報をすべて吐き出せ!!」
「ひいい」
俺は村長宅で悪さをしている盗賊たちを発見。即刻、全員を血祭りにあげた。かろうじてまだ賢そうな奴を一人残しそのまま尋問を開始している。
「この村はどうなっている?どうしてここまで変わった」
「あっし達盗賊にも情報網ってものがあります。ここいらでモンスターが大量発生しているだとか、誰それが死んだとか。情報があるのとないのでは盗みの成果が変わりますから」
ゲスどもの情報網か、唾棄すべきものだが今はその情報がほしい。
「…それで」
「なんでもこの村は一年半前にUBMに襲われて壊滅したらしいんです。この村には【獣戦士】の戦闘部隊があるんでUBMにもそうやすやすとは不覚をとらないはずなんですけど」
UBMに村を壊滅させられたってことなのか。
「それでもやられてしまったみたいで、できればそのあとすぐに盗みをしてかったんですが、未だUBMがうろついてるって話で…」
「今でもうろついているんだろそいつは。なぜお前らは今になって盗みに入った?」
「そいつが場所を移したっていう情報が上がったんです。はじめはセプータにいたらしいんですけど、最近は頻繁に動いてるって話で」
「今はどこにいるんだ?」
「セプータ近郊の森、レインセルにいるって話です」
…俺たちがフレイムエレメンタルを倒した森か。
◇
フィルルが村を出てすぐのことだった。
アイツいや、アイツらがやってきたのは。
いつものようにダッツァーと【獣王】への転職条件を解明、解放するために情報収集や狩りを続けていた。
変化は突然だった。
モンスターが出てこなくなったのだ。
疑問に思っていると答えはすぐに来た。
エレメンタル。
ここいらじゃそう見ないモンスター。
仲間を殺したモンスターの種族。
でも、フィルルと一緒に戦った時の奴よりは弱かったし、問題なく倒せた。
それが罠だった。
そいつを倒したあと、セプータに千を容易く超えるエレメンタルが来襲した。
どうやら最初に殺したエレメンタルは斥候兼マーキングの役目を持っていたらしい。
村の人間総出で戦ったけど、相手の数が数、そう長くはもたない。
私はそいつらを率いている存在を感じ取った。
昔からモンスターのことは感覚的にわかる。
こいつらのボスを倒すしかないと思った。
私は駆けずり回った。
そして見つけた。
たくさんのエレメンタルを生みだすクリスタルを。
神話級UBM【三源元素 クリスタリヴ】を。
…その瞬間私は殺されてしまったけれど。
◇
俺がノスフェラのところに戻ってくるとノスフェラの沈痛な顔をしていた。…どうやらこいつらもこの村で何が起こったのかを察したらしい
「火事場泥棒をしている盗賊がいたから話を聞きだした」
「こっちも怨念から得た情報を出すネェ」
「…ああ」
怨念という言葉に感じることがあったが、いまはノスフェラの得た情報とのすり合わせが必要だ。
「この村が壊滅したのはUBMの来襲があったからだ」
「神話級UBM【三源元素 クリスタリヴ】というらしいヨォ。察するに能力はエレメンタルを生みだす能力だネェ」
…そこまで分かっているのか。確かに、死因は死者に聞くのが一番か。
「そして、今そいつはこの先の森、レインセルにいるらしい」
「居場所を突き止めているのかい」
「ああ、盗賊どもの話だからどこまで当てになるかは知らんが、まあ違っていたらもっと詳しく
「…そうか」
俺とノスフェラの情報を基にすればいける。
「良かったな、ノスフェラ。また特典素材が増えるぞ」
「…というと?」
「ソイツをぶっ潰す」
俺たちが挑むはセプータの敵、そして神話への挑戦だ。
「そういうと思ったよ。…ところでいいものを見つけてネェ。【
「ああ。神話級UBMだからな。兵骸よりも上の存在だっていうなら、生半可な攻撃は通用しない。この武器は敵を討つ光明になる」
「…託したからね」
◇
【三源元素 クリスタリヴ】は浮遊してした。
それは敵を討つため。
今も多くのエレメンタルを飛ばして探しているが見つからない。
【クリスタリヴ】が探しているのは自らの子、フレイムエレメンタルを殺したものだ。
今とばしている雑兵と違い、自らの魔力を注いだ、まさしく自らの半身。
それがこの森の近くで殺されたと知覚し、この場にきて復讐を果たそうとしたのだ。
しかし、この森にいた人間たちは弱小ばかりであった。
フレイムエレメンタルを倒せるということは伝説級の実力を持っているはずだが、殺した人間の中にそんな奴はいなかった。
故に、フレイムエレメンタルを殺した奴が別にいると判断し、この周辺を巡回している。
しかし、そのような相手はいなかった。
今もエレメンタルと戦闘をおこなっているモンスターがいるが、敵は人間だという情報を得ているため、こいつらではない。
…ここ一年近く人間を見ていない。
フレイムエレメンタルを殺した人間はもう来ないのではないかと思い、また場所を移そうかと考えていた。
その矢先、復讐の相手が眼前に迫り、大剣を振り下ろしてきた。