"軍団最強”の男   作:いまげ

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2.最初の従魔

□霊都アムニール 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「この際、エンブリオのことは置いといて従魔を選ぶとするか」

 

 孵化したばかりのエンブリオを前にして言うことではないが、正直使い道が分からない。ハマれば強そうではあるが…いやそうでもないか。

 

「そもそもアンフィテアトルムっていったい何なんですかね?」

 

 エンブリオのモチーフとなるのはいずれも地球の神話、伝説、童話、偉人などである。

 

 わかりやすい例で言えば、桃太郎などがあがる。

 桃太郎が果たしてどんなエンブリオになるのかは不明だが、キビダンゴみたいな能力だと面白い。敵のモンスターがキビダンゴを食べれば、そのモンスターをテイム可能になるとか。

 なにそれ超ほしい。俺のエンブリオと交換を()

 

 しかし、日本人の俺にとってはアンフィテアトルムという言葉に聞き覚えはなかった。なんなら何語かもわからん。それでなんでこんな能力になるかもわからん。だれか助けてくれ。なんなら交換してくれ()

 

「いや、ほんとガードナーだったらわざわざ従魔をテイムしなくて済んだのに…」

 

 エンブリオがガードナーとして生まれた場合、【従魔師】はそのガードナーを従魔としてすぐにでも戦える。

 

 しかし、そうではない【従魔師】はモンスターをテイムすることから始めなければならない。

 

 【剣士】は剣がなければ戦えない。それと同様に【従魔師】は従魔がいなければ戦えないのだ。

 しかし、最初のジョブに【剣士】を選んでもチュートリアルで模擬剣がもらえるので【剣士】は剣を買わなくてもよい。

 【従魔師】?チュートリアルで従魔はもらえないのでテイムしてください(無慈悲)

 

 ◇

 

 文句を垂れながらやってきたのは、≪鳥獣商店≫という店だ。

 

 散々、テイムしなければならないといってきたが、俺はそのつもりはない。

 

 そもそも、モンスターを自身の力として使う方法は三つある。

 一つ目は召喚。

 眼に見えず触れられない“形の無い生物”や精霊に、仮初めの肉体を与えて使役する術法。

 

 二つ目は創造。

 ゴーレムやホムンクルスなど人造の魔法生物を作成する術法。

 

 三つ目が従属。

 モンスターとの間に契約印を結び隷属させる術法。

 

 通常、モンスターをテイムするには【従魔師】など専門職のスキルに頼る。しかし、まだ【従魔師】に就いたばかりの俺にはそんなことはできない。

 

 

 だからこそ俺はこの店にやってきたのだ。モンスターを購入するために。

 

 実はモンスターをテイムした後に他者へ譲り渡すことに関してはこれといって制限が無い。

 

 つまり強力なモンスターを最初から扱うことも可能なのだ。

 それこそ、一体で下級職パーティーと同等の力をもつ亜竜クラスと呼ばれる存在でさえもルーキーが持つこともできる。

 

 <Infinite Dendrogram>では装備品にレベル制限が課せられているため、前衛職のルーキーが亜竜クラスの戦力を持つことは仕様上不可能とされる。

 ルーキーの【従魔師】が亜竜クラスの戦力を持つことが可能である点は【従魔師】の利点としてあげられる。

 

 まあ、今の話は有力なNPCのご子息に限るって話で俺たちプレイヤーには関係ないんだけどね。亜竜クラスなんて購入に何百万リルいるって話だよ。

  

 ちなみに俺たちプレイヤーはチュートリアルで管理AIから路銀として五千リルもらっている。日本円で一リル十円くらいの価値だ。つまり、亜竜クラスは日本円でウン千万するということである。

 

 …もし、そんなのをルーキーが持っていたら暴動もんだな。(彼はのちに亜竜クラスを複数体テイムするルーキーや下級職どころかレベル0で亜竜クラスを倒したものがあらわれることをまだ知らない)

 

 ◇ 

 

「てなわけで親父、モンスターの購入費用をまけてくれ」

「散々、人に【従魔師】やテイムの話を聞きまくった第一声がお礼の言葉じゃなくて値切りの話とはふてえ野郎だな」

 

 ……その通りです。

 

 かっこつけて、『モンスターを購入するために』

 

 とかいいましたが、ほんとは従魔を手に入れるにはどうしていいかわからずに、いろんなNPCに聞きまくりました。

 

 ようやく教えてもらった店で店主さんに【従魔師】とテイム、モンスターの購入の話を教えてもらいました。それはもう懇切丁寧に。

 このゲームのNPCは神かと思いました。

 

 しかし、だからこそなのです。

 

「ああ、いろいろ教えてもらったお礼にこの店で従魔を購入したいんだ。でも、俺の全財産じゃまともなモンスターは買えないだろう。だからまけてほしんだ」

 

 そういって俺は左手に乗せた銀貨5枚を見せる。

 

「いや、五千リルじゃまけても何も…うん?おまえさんもしかしてマスターってやつか?」  

 

 店主は俺の左手を見てそういった。

 

 マスター。たしか管理AIが言ってたな。このゲームの中でのプレイヤーの総称。たしか、そうでないNPCの総称は…ティアンだったか?

 店主は試すような目つきで俺を見る。

 そして話を続けた。

 

「三日前くらいから急激にマスターが増加し始めた。ほかの店じゃマスター相手に儲かっただのなんだのと言ってたが、この店に来たのはお前が初めてだなあ」

 

 …そりゃこないだろう。

 そもそもこの国のマスターの絶対数が少ない。

 初日にこのゲームがどれだけの数売れたかは知らんが、その数は七等分される。最初に所属できる国は七つあるからだ。

 

 一つ

 白亜の城を中心に、城壁に囲まれた正に西洋ファンタジーの街並み

 騎士の国『アルター王国』

 

 二つ

 桜舞う中で木造の町並み、そして市井を見下ろす和風の城郭

 刃の国『天地』

 

 三つ

 幽玄な空気を漂わせる山々と、悠久の時を流れる大河の狭間

 武仙の国『黄河帝国』

 

 四つ

 無数の工場から立ち上る黒煙が雲となって空を塞ぎ、地には鋼鉄の都市

 機械の国『ドライフ皇国』

 

 五つ

 見渡す限りの砂漠に囲まれた巨大なオアシスに寄り添うようにバザールが並ぶ

 商業都市郡『カルディナ』

 

 六つ

 大海原の真ん中で無数の巨大船が連結されて出来上がった人造の大地

 海上国家『グランバロア』

 

 七つ

 深き森の中、世界樹の麓に作られたエルフと妖精、亜人達の住まう秘境の花園

 妖精郷『レジェンダリア』

 

 

 俺と同じレジェンダリアを選んだやつで最初のジョブに【従魔師】を選ぶ奴はそう多くはないだろう。

 このゲームのジョブ数ははっきりいって多すぎる。最初に就けるジョブだけで百を超えるなんて話もある。

 

 多くの奴は花形である前衛戦闘職か魔法職に就く。

 ほとんど情報のない中で最初に【従魔師】を選ぶ奴なんてのはそれこそエンブリオがガードナーとして孵化した奴だけだろう。

 

 そして、そんな奴はそもそもモンスターを購入できる(・・・・・)ことを知らない。モンスターが売っている店があるということも知らないだろう。

 彼らにはすでに自身のかけがえのない相棒(ガードナー)がいるのだから。

 

「おいおい。急に涙を流してどうした!?マスターってのはみんなそうなのか!?」

「おいおいおっさん。誰が涙なんか流すかよ。あれ?これは涙?おっさんに突きつけられた現実がつらくて流した涙なの?」

「よし分かった。お前がおかしいんだな!?そうなんだな!?」

 

 ◇

 

「…落ち着いたかよ?」

「ああ、落ち着いた。ところでおっさん。いま俺のことかわいそうって思ったよな?思ったよな!?だったらモンスターをまけてくれ」

「…はあ」

 

 ため息をついた店主のおっさんは店の奥に戻っていく。

 

 …あれ?おかしいな。ここでスルー?おっさんとは十分に親交を深めたはずなのに。

 

「おっさん、カムバック!おっさーーーーん、カンムバーーーーー」

「うるせえよ」

 

 そういって店の奥からおっさんは何かを投げつけてきた。

 キャッチしたものを見てみると…それは宝石だった。

 

「おっさん、これなに?」 

「【ジュエル】と言って、中にテイムしたモンスターが入っている。いろいろ言ってやりたいことはあるが…ソイツをくれてやる」

「おっさんはもしかして神なのか?」

「馬鹿か。この世界に神なんていねえよ。勘違いするなよ。これはお前らマスターに対する先行投資だ。だから…」

「ツンデレ神様ありがとうございます」

「話を最後まで聞け!?」

 

 俺は両手を合わせてつるつるのおっさんの頭に後光を感じ祈りをささげるのだった。

 

「アーメン」

「アーメンじゃねえ、《喚起(コール)》だ!」

「え?コール?」

 

 そうすると手の中の【ジュエル】が発光し、中から虎模様の子猫が出てきたのであった。

 

 




この話ではプレイヤーからマスターへ、NPCからティアンへの意識変化を書いてみたつもりです。なかなかむずかしいですね。

彼のエンブリオの能力は明かすのはまだまだ先になりそうです。よければ想像してみてください。少なくとも軍団最強と呼ばれるものにはなると思います。ただし、モチーフは適当です。

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