反響がすごかったです。
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□レインセル 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット
ふと…ダッツァーの言葉を思い出す
「だが、相手を見つけてどうする?そいつを殺したところで死んでいった戦士は戻ってこない。戻ってこない以上、仇討ちなど俺たちの自己満足でしかない」
今の俺に彼の言葉は重く突き刺さる
村人たちの復讐だといって、戦いに挑む
死んでしまった人は戻ってこないというのに
俺の復讐心を満たす
まさしく自己満足でしかない戦い
そんな戦いのせいで虎丸達を失ってしまった
不死であるはずのマスターの俺をかばってだ
まさしく無駄な戦いであった
犠牲を増やしただけの無意味なものだった
…それでも俺は、あの時のダッツァーの涙を忘れない
息子の敵討ちを果たして流したあの涙を
だから俺は…
【――超級進化シークエンスを開始します】
俺は自身のエンブリオ、【喝采劇場 アンフィテアトルム】の変化を、進化を感じた
そしてそれによって獲得した新たな力、必殺スキルの存在を
俺はその名を叫ぶ
このふざけた状況をぶっ壊すための力を
「《
その直後、一条の流星が巨大なクリスタルに向かう
三十三の連星を伴って
衝突は星屑を生み出し
その星を見ることは誰にも叶わない
◇
《
それはフィルルのエンブリオ、【喝采劇場 アンフィテアトルム】の必殺スキル。
必殺スキルはエンブリオの集大成ともいうべき能力。
アンフィテアトルムの能力は端的にいえば、スキルによるステータス上昇数値を自軍に加えるというもの。
パーティー内という限界はあるもののジョブスキルと組み合わせることで神話級にも匹敵する破格のステータスを手に入れることが可能である。
では、その集大成たる必殺スキルはどのような効果を持つのか?
答えは単純である。
アンフィテアトルムは元よりテリトリー系統のエンブリオ。つまりアンフィテアトルムの領域内すべてのスキルによるステータス上昇数値をフィルルに加えるというもの。
対象はパーティー外という縛りは有るものの、敵味方の区別は存在しない。故に【クリスタリヴ】のエレメンタルのステータスを三倍強化する《トライフォース》もアンフィテアトルムの対象内となる。
既に千を越え、今や万の軍勢となったエレメンタル達。そいつらへの破格ともいえる強力なバフ、それがそのままフィルルの糧となるのだ。
フィルル・ルルル・ルルレット
職業:【獣戦鬼】
レベル:100(合計レベル:500)
HP:6526(+2480000)
MP:6631(+2480000)
SP:642(+2480000)
STR:545(+248000)
AGI:395(+248000)
END:496(+248000)
DEX:288(+248000)
LUC:79(+248000)
《
一番ステータスの高い
その全てのステータス上昇数値の合計がフィルルのステータスに加算されることによって、フィルルは今地上最強の人間となった。
フィルルは【獣断大剣】を構え、【クリスタリヴ】との距離を詰め、三十三連斬を放つ。
それは多くの人間にとって目にもとまらぬ速さ、否、目にも映らぬ速さであった。音の二十五倍近い速さで行われれば無理もないことである。
そして、せいぜい六万程度のENDしか持たぬ【クリスタリヴ】にとって防げるはずもない二十五万を超える威力の斬撃。
その三十三連斬は六百万という【クリスタリヴ】のHPを即座に削り切り、その巨大なクリスタルを消失させた。それはコルから託された【獣断大剣】の崩壊と共に。
それは必殺スキルが発動されてから刹那にも満たない間に起きた出来事。それを正しく観測できたのはただ一つのアナウンスのみだった。
【<UBM>【三源元素 クリスタリヴ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】
【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【三源輝套 クリスタリヴ】を贈与します】
◇
エレメンタル達にあったのは空白だった。
目の前の男が消え失せ、親からの強化が失われた。彼らが理解出来たのはそこまで。
なぜ、男が消えたのか?なぜ、親からのバフが消えたのか?その疑問は彼らの動きを停止させる。
対して、フィルルは止まらない。
エレメンタル達を生み出す【クリスタリブ】を倒したとはいえ、生み出されたエレメンタル達が消えるわけではない。
何より、復讐の大本は【クリスタリブ】とはいえ、実際にセプータの住人、そして虎丸達を殺したのは生み出されたエレメンタル達。
フィルルが【クリスタリブ】を倒しただけで止まる道理はなかった。
しかし、既に従魔を失い、必殺スキルも敵のバフが消失したことで無用の長物と化した今、フィルルに戦闘を行う手段はないはずだった。
だが、ここに新たに戦う力は与えられた。因果な物とはいえ、使用を躊躇うフィルルではない。
「《瞬間装着》」
それはアイテムボックス内の防具を瞬時に装備するもの。フィルルのアイテムボックスの中にはほとんどまともな装備がなかったが、今この瞬間だけは違う。
【クリスタリブ】を倒した証左たる外套が存在する。【三源輝套 クリスタリブ】が。
それは蒼白い外套であった。だが、その輝きは見るものよって色を変える。あるものにとっては黒く輝き、あるものには赤く輝くように見えた。それは見る者の心象によって輝きを変える。
フィルルは神話級特典武具【三源輝套 クリスタリブ】のスキルを発動させる。
「《エレメンタル・プロダクション》」
生前【クリスタリブ】が使っていた百体の亜竜級エレメンタルを生み出すスキル。特典武具となったことでフィルルにアジャストされたこのスキルは瞬時に千体のエレメンタルを生み出した。
その能力はノーコストで瞬時に千体のエレメンタルを生み出すというもの。神話級特典武具とはいえ、破格のスキルである。破格であるがゆえにリソースが不足しており、重大な欠点を抱えている。
それは生み出されるエレメンタルのステータスの低さである。
【スポアエレメンタル】
HP:100
MP:100
SP:100
STR:10
AGI:10
END:10
DEX:10
LUC:10
そのステータスは下級職はおろかレベル0の人間にも負けうるほど。あまりにも弱いため、従属キャパシティが低いことは唯一の利点か。ある理由により、同程度の強さの【リトルゴブリン】よりもキャパシティは高いが、純竜級を従えるほどのキャパシティがあれば、問題なく千体のエレメンタルを使役できる。
しかしこれでは千体の数も意味がない。リソースの都合とはいえ、生み出すエレメンタルがあまりにも貧弱すぎる。【クリスタリヴ】が生みだした名もなき亜竜級エレメンタル一体に殲滅される可能性があるほどだ。
ただし、これを指揮するのがフィルルでなければの話だが…
「《魔物強化》」
それは配下の魔物のステータスを六十パーセント上昇させるもの。しかし、【スポアエレメンタル】のステータスがあまりにも貧弱のためHPでも60、STRといった三値は6しか上昇しない。あまりにも小さい強化、まさしく雀の涙といったところだろう。
しかし、フィルルには【アンフィテアトルム】がある。
「《光る劇場の脇役》」
それはパーティー内のスキルによるステータス上昇数値の半分を他のモンスターに加算するというもの。
一体のエレメンタルを強化する数値の半分が他の九九九のエレメンタルに加算される。そしてそれは千体分行われる。
【スポアエレメンタル】
HP:100(+30030)
MP:100(+30030)
SP:100(+30030)
STR:10(+3003)
AGI:10(+3003)
END:10(+3003)
DEX:10(+3003)
LUC:10(+3003)
それは亜竜級を超えるステータス。ノーコストで亜竜級を超えるエレメンタルを千体を生みだしたことになる。胞子の群れは即座に散らばり、敵であるエレメンタルを滅ぼしていく。
【三源元素 クリスタリヴ】が生みだした一万の亜竜級エレメンタルと【三源輝套 クリスタリヴ】が生みだした千体の亜竜級を超えるエレメンタル。
元を辿れば同じ親から生まれたエレメンタルの戦いは指揮者の有無によって勝敗の傾きをフィルル側に傾かせる。
その天秤を破壊すべく三体のエレメンタルが現れる。【アトモス】、【アース】、【オーシャン】の三体である。元より伝説級に近いステータスを誇っている。それは強化された胞子のエレメンタル達でも相手にならない。
三体のエレメンタルが攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、鉄拳による制裁が行われた。その攻撃の主はほかならぬフィルルである。
《輝く劇場の主役》はパーティー内のスキルによるステータス上昇数値をフィルルのステータスに加算するもの。超級になった今、最大補足数は十四。
故に現在のフィルルのステータスは…
フィルル・ルルル・ルルレット
職業:【獣戦鬼】
レベル:100(合計レベル:500)
HP:6526(+420420)
MP:6631(+420420)
SP:642(+420420)
STR:545(+42042)
AGI:395(+42042)
END:496(+42042)
DEX:288(+42042)
LUC:79(+42042)
《終劇は万雷の喝采と共に》を使った時とは天と地ほどのステータス差があるが、それでもなお神話級のステータスを誇る。このステータスを相手に三体のエレメンタルが勝てる道理はなく、程無くして三体ともがフィルルの拳でその躯幹を砕かれた。そして、フィルルは胞子達と共に残りの雑兵を殲滅する。
◇
フィルルが【クリスタリヴ】を討伐し、残されたエレメンタル達を殲滅している最中、ノスフェラは砕かれた半身を起こし、同様に砕かれた甲骸と兵骸を回収する。アンデットとは言え、再生が起こっていない所を見ると相当なダメージを負っているらしい。再度の使用は厳しいかもしれない。
ただし、躰が…いや骸が残っているだけ、マシかもしれない。フィルルの従魔である虎丸達はその身でフィルルをかばったためか、骸すら残らず砕け散ってしまった。
…《終劇は万雷の喝采と共に》か。皮肉なスキル名だ。
このままいけば確かに戦いは終わるだろう
フィルルの勝利によって
まさしくそれは終劇といえる
だが、万雷の喝采はどこにある?
親しい村人を皆殺しにされ
その復讐に立ち
今度は従魔を殺される
今、フィルルを駆り立てているのはその復讐心
このスキルによって復讐は無事成し遂げるだろう
だが、死んだものたちは戻ってこない
この戦いを終えてフィルルを迎える喝采などどこにある?
万雷の喝采はいったいどこに?
なら私にできることは…
「…【屍骸王】をナメルなよ!」
それは断固たる決意。
男が復讐心によって進化を果たしたというのなら、その決意もまた彼女を新たな次元へと誘う。
◇
【…への転職クエストが解放されました】
戦いが終わり、何かのアナウンスが聞こえたが、今の俺にはどうでも良かった。
復讐は果たせた。ダッツァーやコル、そして虎丸達の復讐はできたのだ。
しかし、そこには一切の満足心はなく。
ただ、虚しさだけが残った…
重くなった身体を引きずりながら、ノスフェラたちがいる…虎丸達が死んだ場所へ向かう。
だが、その足は思うように進まない。
気が滅入っているせいかもしれない。
虎丸が死んでしまったのが一番心に大きいダメージを残している。
悲痛な気持ちのまま、向かった先で待っていたのは…
「にゃー」
虎丸だった。
姿形、種族は変わっていたがそこには確かに虎丸がいた。
俺は虎丸と抱擁を交わし、涙を流す。
きっとその涙は、ダッツァーの流した涙とは違う意味を持っていた。
セプータ帰還編 終劇