"軍団最強”の男   作:いまげ

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気づかれないもんだなーと思いましたまる


23.幻獣旅団

□霊都アムニール 【軍神】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「…というわけで”幻獣旅団”と戦うことになりました」

「いや、説明する気ゼロだねそれ」

 

 いやだって俺も正直よく分かってないし。

 

「まあやるならフィルル一人でやりなよ。こっちは試したいことがいろいろあるからネェ」

「えー、ノスフェラさん手伝ってくれないのー」

「…”幻獣旅団”はいろいろとキナ臭いんだ。それになによりめんどくさそうだからネェ」

 

 ズルいぞ!俺もホントはめんどくさいのに!

 

「まあ、相手はマスターの盗賊集団なんだろ?正直、君だけで十分制圧可能だろうからネェ。私までいたら過剰戦力だよ」

「いや、相手は素性不明な世界を股に駆ける盗賊集団なんだろ?絶対すごい奴じゃん。絶対強い奴じゃん」

 

 ル○ン三世みたいな。絶対やばいだろ。

 

「…ハア、色々麻痺してるネェ。いいかい、君の生みだす【スポアエレメンタル】。あいつらは一体一体が亜竜級の三倍に匹敵する。それの千の軍勢だ。チンケな盗賊集団どころか小国だって落とせてもおかしくないんだ。それを所有している君が、<超級>になった君が、今更”幻獣旅団”なんかにやられるわけがないんだよ」

 

「………」

 

 そう言われるとなんとかなりそうな気がする。

 

 そうだよな。

 <超級>だもんな俺。

 未だ到達した奴は二桁いるかどうかといわれている<超級>。

 まして今の俺は【軍神】という超級職まで得た。

 <Infinite Dendrogram>のトッププレイヤーといっても差し支えないレベルだもんな。

 

「よっしゃ、いっちょやってみっか」

 

 そうして俺はおっさんが言っていた、クエストの集合場所へと向かう。おっさんの頼みだ。サクッと終わらせてくるか。

 

 ◇

 

「貴様らは儂の財宝を守る番犬。わかったか、主人の声に尻尾を振っていればいいのだ!」

 

 …前言撤回。すごいやる気が出ない。

 

「マスターを莫大な金で雇ってやったのは他でもないこの儂だ。いいか!貴様らは金のためなら何でもする下賤な犬だ。儂に逆らおうなんて考えるんじゃないぞ!!」

 

 …何言ってるかわかんねーけど、とりあえずぶん殴っていいかな?

 

「クソ!!”幻獣旅団”め。なぜ儂のモノを奪おうなどと…」

 

 …この人、情緒不安定すぎない?

 

「とにかく、貴様らは旅団を倒すことだけ考えろ!どんな手を使ってもな!」

 

 そう言って屋敷に戻っていく肥えたおっさん。

 

 ちなみに彼の演説は寒空の下、屋敷の外で行われました。すんごい寒いです。

 

 …どうやら今の態度に機嫌を悪くしたのは俺だけではないらしい。他にいるマスターたちも口々に文句を言っていた。

 

 俺の他にこのクエストを受けるマスターは…五人か。

 ”幻獣旅団”を迎え撃つのに果たして多いのか少ないのか。

 少なくともここからさらに数が減りそうだな、そう思っているとその中の一人が俺に声をかけてくる。

 

「俺はマルコ、よろしく。君は?」

 

 身長は190cmくらいだろうか。黒髪の青年が自己紹介をし、握手を求めてくる。

 

「俺はフィルル・ルルル・ルルレット、よろしくな。しかし、なんなんだあいつ。相当やばい奴だろ」

 

 さっきの態度にいかんせんムカついている。なんでおっさんの頼みとは言え、あんな奴の護衛なんかしなくてはならないのか。

 

「Mr.ドン・コルガッツォ。霊都西部の物流を支配している男だよ。そのせいか金銭やマジックアイテムもたくさん所有しているという話だ。霊都の商人はまず彼に逆らえないって話だよ」

 

 ああー。だから、おっさんもあんな顔してたのか。

 ホントは引き受けたくなかったんだろうけど、マスターを紹介しなければ商売に支障をきたすってことか。

 あるいはこの件で覚えを良くしておこうという魂胆があるのかもしれない。おっさんも商人、抜け目はないはずだ。

 

「しかし、君はどうしてこの護衛クエストを受けたんだい?ドン・コルガッツォのことも知らないで受けるなんて…」

「知り合いの店主からこのクエストを受けるように頼まれてな。お得意様だからご機嫌伺いだって言ってな」

「…なるほどね。僕らは正直金目当てだよ。さっきコルガッツォが言っていた通り、このクエストには莫大な報酬が出ている。前払いでもかなりの額がね。その報奨金目当てでみんな集まったのさ」

 

 …俺その前金もらってないんだけど。

 

 ハッ!

 さてはおっさん俺の前金を!

 どんだけ抜け目ないんだよ!!

 それでも信用第一の商人か!!!

 

「まあ、お金目当ての僕らで”幻獣旅団”を止められるかは正直微妙な所だけどね」

「”幻獣旅団”かー。やっぱり旅団ていうくらいだから千人単位の盗賊集団なのか?」

 

 旅団って確か結構大きめの部隊のことを表していた気がする。マスターが千人いたらそりゃどんな盗みでもうまくいくだろう。エンブリオもあるし。

 

「いや、聞いた話によるとメンバーは十人前後らしいよ」

「え?全然数少ないじゃん。なんで旅団なんて名乗ってるの?算数できないの?」

 

 百倍だぞ百倍。そんな人数でよく旅団が名乗れたな。”幻獣小隊”か”幻獣分隊”のほうがあってるんじゃねーの。

 

「…盗賊団のネーミングセンスに文句を言ってもね。それにマスターは過剰な名前を付けたがる傾向にあるし」

「そういうもんか」

 

 まあ、確かにネーミングセンス酷い奴っているよな。ノスフェラとか。

 

「それにメンバー全員がカンストした上級マスターって言われているからね。戦力的には旅団といっても差し支えないはずだよ。才能という限界があるティアンからすれば一般に言われている旅団以上の戦力であることに間違いはない」

「だけどこっちもマスターが六人もいるんだぜ、余裕だろ」

 

 数の上では”幻獣旅団”のほうが上だが、俺一人で十分吹き飛ばせる戦力差だろう。

 

「確かに余裕だろうね。君は僕たちと違って随分強いみたいだし」

「え?」

「その外套、特典武具だろう。UBMをMVP討伐できるなんて相当な実力者だ」

「…いや、相性が良かっただけだ」

 

 ノスフェラなんて三体もMVP討伐してますし。

 

「相性が良いくらいじゃMVPにはなれないよ。旅団じゃないけど、盗めるものなら盗んでみたいものだよ、特典武具は」

「…残念だけど、特典武具は盗めないからなー」

 

 特典武具は譲渡・売却不可アイテム。いくら旅団でも特典武具は盗めない。それこそ【強盗】や【盗賊】の超級職でも特典武具は盗めないだろう。

 

「そう、特典武具(・・・・)は盗めない。いくら”幻獣旅団”でも特典武具はね。…まあ彼らの狙いはコルガッツォの私財だろうから、君の特典武具を盗まれるなんてことはまずないだろうけど」

 

 そりゃそうだ。…決死の思いで手に入れたものなんだこれは。誰かに奪われてたまるか。

 

「…私財ねぇ。やっぱり義賊ってのはホントなのか?小悪党から金を巻き上げて、それを貧しい奴らに配るなんて」

「マスターだからね。そういうロールプレイ(・・・・・・)をしているという可能性は十分ある。でも眉唾なんだよね。彼らはそもそも盗みなんてしていないという声もあれば、真逆の命すら平気で奪う強盗だって声もある。予告状を出すのは怪盗の領分だし…」

 

 情報が錯綜している。…もしかしたら”幻獣旅団”が自身の尻尾をつかませないためにいろいろな情報を流しているというのも考えられるか。

 

「予告状と言えば、盗みは今日の夜十二時に行われるらしい。まさかその時間にログインできないってことはないよね」

「ログインできないってことはないけど、その時間帯に尿意や空腹アナウンスが出ないようにしておかないとな。一回抜けるわ」

「分かった。夜十時にはログインしておいてくれ」

「分かっているよ」

 

 夜のクエストに備えてログアウトをし、リアルの支度を済ませる俺。…そしてその間も暗躍する影達。

 

 ◇

 

 きっかり夜十時にログインをする俺。そこにはマルコを含め、コルガッツォに雇われた五人のマスターが顔を合わせていた。

 

「戻ってきたね。フィルル」

「おう。マルコ達も休めたのか」

「ああ。それと作戦会議も少しね」

 

 作戦会議?俺抜きで?

 

「彼らのエンブリオの能力確認とそれをプランに入れた作戦をね」

 

 なるほど。確かにエンブリオの能力は千差万別。それを使えば”幻獣旅団”の盗みを防げるかもしれない。

 

「そう言えば、君のエンブリオは…」

 

 キュイーン、キュイーン、キュイーン…

 

「なんだこの音?」

「…彼のエンブリオの能力だよ。範囲内に入った侵入者を知らせてくれる」

「ってことは”幻獣旅団”がもう来たのか?」

「決めつけは禁物だよ。仮に旅団だとしても陽動ということも考えられる」

 

 旅団は神出鬼没の盗賊集団。エンブリオとはいえ、センサーに簡単に引っかかるような連中じゃないはず。マルコの言う通りわざとセンサーに捕まることで注意を集め、陽動に使うというのは十分に考えられる。

 

「申し訳ないがここで多くの人員を割くことはできない」

「だからといってこの警報を無視するわけにもいかないだろ。裏の裏を読まれているということもある」

 

 俺たちが陽動だと思い込んでいたものが本隊だったなんてことになりかねない。

 

「…確かにフィルルと言う通りだ。すまないが君一人で反応があった場所に向かってくれないか?仮に本物の”幻獣旅団”でも君ひとりなら十分対処できるはずだ」

「…分かった。まかせろ!!」

 

 そして俺は反応があったポイントに向かう。そこで誰と出会うかを知らないまま。

 

「フィルル。任せたよ。…さあ俺たちの仕事を続けるぞ」

 

 ◇

 

 俺が警報がなったポイントに近づくと、そこには四人の人影があった。そいつらは全員同じような乗り物に乗っているようだった。まるで空を飛ぶサーフボード(・・・・・・)のような乗り物に。

 

 目立つような動きだ。罠の可能性も十分ある。だが…ここで見過ごすわけにもいかない。

 

「止まれ。ここはドン・コルガッツォの屋敷だ。それ以上近づけば、”幻獣旅団”とみなして迎撃する」

 

 俺の警告に立ち止まる人影達。…いや今のは警告よりも俺の声そのものに立ち止まったようではなかったか?

 

「…その声まさか、フィルルなのか」

 

 俺はその声を聞く。

 

 約束の声を。

 

 旅を勇気づけたこの世界の友の声を。

 

「フルメタル…なのか」

 

 俺はその瞬間ある情報を思い出していた。

 

 ”幻獣旅団”

 

 その名の由来はメンバー全員が幻獣をモチーフとしたエンブリオだということ。

 

 そして、フルメタルの、ゆるり、ドリルマン、ロゼのエンブリオは幻獣をモチーフとしていることを。

 

「お前らが”幻獣旅団”なのか?」

 




ガネーシャ?象の幻獣だろ(すっとぼけ)

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