"軍団最強”の男   作:いまげ

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マルコはそんな悪い奴じゃないよ


26.マルコ・ポーロ

 ◇

 

 マルコの嘲りの言葉に対して、フルメタルが、ロゼが、ドリルマンが、ゆるりが絶叫し襲いかかろうとする。だがしかし、フルメタル達は身動きひとつとることはできなかった。

 

 周りに張り巡らされたされた幾千幾多の糸が原因である。上級エンブリオの必殺スキルによって生み出されたその糸は粘着性や強度が異常に発達していた。

 

 しかし、それで動きを止めるフィルルではない。【三源輝套 クリスタリブ】のスキル、《エレメンタルプロダクション》を発動し、【スポアエレメンタル】を大量展開する。しかし、生み出された胞子たちもまた、その糸に体を絡まれてしまい、身動きをとることができない。

 

 だが、それはフィルルの想定通り。彼には【喝采劇場 アンフィテアトルム】がある。自身と【スポアエレメンタル】のステータスを強化すれば糸を無力化できると考え…動くことができなかった。

 

 【輝く劇場の主役】により、ステータスだけでいえば神話級に匹敵するフィルル。その膂力をもってしてもその糸から逃れることはできず、動きを封じられてしまっていた。

 

「神話級特典武具をもっているから、不安だったんだがな。無力化できたみたいで良かったぜ」

 

 恐らくはこの糸を展開しているマスターがフィルルに対して、言葉を放つ。フィルルはそれをあえて無視し、彼らのリーダーであろうマルコに声をかける。

 

「マルコ。説明をしろ」

「説明とは一体何を?」

「全てだ!!」

 

 フィルルの威圧にどこ吹く風のマルコ。だが、フィルルの問いに対して、いやその表情に対して満面の笑みを浮かべ全てを語りだした。

 

「全てと言われましてもね。そうですね、まずはなぜ俺たちが慈善事業に興味がある振りをしてフルメタルたちに近づいたかですが、既にフルメタルに答えたとおり雇い主の命令です。その方はアルター王国の有力者なのですが、マスターが無償の奉仕活動をしているのがお気に召さなかったようです。マスターにそんなことをやられては搾取している側の彼の利益が減ってしまうと考えたわけですね。まして、アルター王国に所属している訳でもないフリーのマスターなど潰す理由しかありませんでした。だから、以前から彼の手足となっていた私たちにフルメタル達を潰せと言われました。方法を考えたのも彼です。”幻獣旅団”の一員として慈善活動を支える傍ら、犯罪行為を繰り返すようにね。誤算があったとすれば、民衆の反応でしょうか。あろうことか、”幻獣旅団”を『正義』の義賊として持て囃したのですから。自分のことながら笑いが止まりませんでしたよ。ああ、なんと民衆は愚かなのだろうと。そこから、雇い主の指示で犯罪行為はエスカレートさせていきました。 予告状を送り”幻獣旅団”の存在を誇示させたりもしました。それでも民衆の熱狂は止まりませんでした。しかし、何より笑えたのはその状況に悦に入ったいたフルメタルたちでしたよ。フフフ。まあ、そんな状況を雇い主が許すわけもなく次は強盗殺人をすることになりました。ターゲットは雇い主の商売敵。ちなみに今まで盗んだものは全て、雇い主の元にあります。金品財宝、マジックアイテム、機密書類などをね。まったく、”幻獣旅団”の悪名を広げるだけにあきたらず、自身の私腹を肥やすとは素晴らしい悪党でしたよ、彼は。…ですが、やはり面白かったですね、あのときは。”幻獣旅団”が『正義』から『悪』に変わる瞬間、そのときのフルメタルたちと民衆の顔といったら。あれだけでもこのゲームをやっていた甲斐があったというもの。そして、いままで気にもしていなかった盗賊の行方を必死に探しだす様。そして、犯人が俺たちだと知ったときの様。そして、理由を告げたときの様。ア、アア、いま思い出しただけでも絶頂しそうです。…そういえば一番大事なことを伝えるのを忘れてました。私たちの雇い主、その名前は…いえ、やめておきましょう。語っても意味のないことです。既に私たちに殺された(・・・・)男のことなど語ってもね。ええ、本当に大した悪党でしたよ。強盗殺人事件の際、フルメタルたちだけでなく、俺達も広域指名手配されてしまいましてね。事を起こしてもフルメタル達だけが指名手配されるって話だったんですが…まあ、裏切られましたね。あるいは俺達への締め付けを強めて、より手綱を握ろうとしたんでしょうが、逆効果でしたね。しかし、雇い主を殺すときも興奮しましたね。自分が殺されるとは微塵も思っていない人間を真正面からいたぶって殺すのは。あの瞬間を味わえたのなら、指名手配になった甲斐があったというもの。そもそも、指名手配になっても殺されなければ問題はないですからね。しかし、そのためには戦力がいります。だから今回の盗みを考えました。ええ、今回のお宝は至高の一品。これがあれば監獄なぞ怖くはない。お宝は雇い主の裏ルートから手に入れた情報です。まったく、殺してからも役に立つなんて見上げた雇い主ですよ。盗みのためのマジックアイテムもたくさん仕入れることができましたしね。それに今回の事件で”幻獣旅団”の名前を出せば未だ監獄に送られていないフルメタル達を”監獄”に送るという最高の光景を目にできそうでしたしね。しかし、フィルル、あなたの存在は想定外でしたよ。今回の護衛クエストの関係者は全て”幻獣旅団”のもので固めていたというのに。しかも、神話級の特典武具を持っているとなれば警戒します。だから、予定を変更してフィルルとフルメタルをぶつけることにしました。しかし、また誤算が…まさか、フィルルとフルメタルが知己だったとは。まあ、仲間達が殺し合うという光景を見させていただいただけで幸運でしたよ。あれは最高のご馳走でした。だからデザートにあなた方を”監獄”に送ろうと思います。それはそれは最高の一瞬でしょう。ああ、安心してくださいフィルル。あなたも監獄送りです。盗みを犯したあとも、あの男を生かしている理由はただひとつ。証言してもらうためですよ、護衛クエストにかかわっている全員が”幻獣旅団”だと。そうすればフィルル、あなたも無事に”監獄”に行けます。否定すればすぐに間違いだとわかるでしょうが、いまここで殺されてしまえば、三日間はこのゲームに関われない。それだけの時間があれば、君のつぎのログイン先は”監獄”。掃き溜めのなかで自らの無実を叫ぶしかないのです」

 

「そうか…なら死ね」

 

 瞬間、張り巡らされた数多の糸に絡まれていたはずの千の胞子が一斉に発光し、大爆発を引き起こした。それは糸を燃やし尽くし、マルコ達を包み込んで彼らを死へと、”監獄”へと誘う。

 

 ◇

 

 

 【三源元素 クリスタリヴ】の生みだすエレメンタルたち。彼らの攻撃の中で最も強力なのは自身のMPを破壊エネルギーに変換して放出するオーラ攻撃である。実際にその攻撃でフィルルは従魔のすべてを失い、ノスフェラは甲骸と兵骸と自身の半身を砕かれている。

 故に【三源元素 クリスタリヴ】が神話級特典武具【三源輝套 クリスタリヴ】となったあとでも変わらない。《エレメンタルプロダクション》で生みだした【スポアエレメンタル】もまたオーラ攻撃が可能なのである。

 

 しかし、本来のMPで行われるオーラ攻撃は【リトルゴブリン】を殺すことすらできないだろう。しかし、【光る劇場の脇役】によって、【スポアエレメンタル】はカンストした魔法職と同等なMPを得ている。それが千体。その同時オーラ攻撃は上級マスター五人など容易く消し去る…はずだった。

 

「中々の威力です。六枚は砕かれましたね。他の皆さんは…今ので”監獄”送りですか。非常に残念です」 

 

 一番殺したかった男は平然とその場に立っていた。

 

「どういう理屈だ!あの攻撃を喰らって」

「考えられるとすれば、エンブリオの防御スキルか」

 

 フルメタル達がマルコがどうやってフィルルの攻撃を防いだのか推測している最中もマルコはその語りを止めることはない。

 

「ええ、非常に残念です。…私が彼らを”監獄”に送りたかったのに。共に悪事を働き、雇い主に裏切られ殺し、喜びも悲しみも共にした彼ら。そんな彼らを俺がこの手で殺し、”監獄”送りにする。その日をどれだけ待ちわびていたことか。ゆっくりとゆっくりと熟すその禁断の果実を口にする日を、今か今かと待ち焦がれていたというのに…まったく殺しますよ」

 

 その日、初めてマルコは怒りを見せた。仲間を殺されたことではない。それは飛びきりおいしい食事を目の前で取られてしまったことに癇癪を起こす子供のような怒りであった。

 

 だが、今やフィルルたちを縛る糸はない。故にフィルルは超音速機動でマルコに攻撃を仕掛ける。だが、その攻撃をマルコは容易くいなす。

 

 カンの良さで防いだのかと、フィルルは拳による猛攻を止めることはない。しかし、拳は一度もマルコを捉えることはない。まして、マルコはフィルルの拳に合わせてカウンターを仕掛ける。それは見事成功し、フィルルの身体を吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばされながら、フィルルは疑問を覚える。

 

 おかしい。奴はカンストした上級マスター。そのジョブは【剛闘士】。いくら持ち前の戦闘センスがあっても十倍以上のステ―タス差をひっくり返すことはできないはず。

 

「やはりエンブリオの能力か」

 

 体勢を戻しながら、そう結論付けるフィルル。

 

 その間にフルメタルとロゼがマルコに攻撃を仕掛ける。フルメタルは拳に【ナーガ】を纏い、ロゼは再び必殺スキルを発動する。さらに、ドリルマンも自身のエンブリオ【ユニコーン】を展開する。

 

 第六形態に到達したドリルマンのエンブリオ、【回転列馬 ユニコーン】は巨大なドリルが付いた砲塔列車である。小回りが利かないとはいえ、その最高速度は超音速。その速度と回転するドリルにより起こる衝突は伝説モンスターすら容易く礫殺する。

 

 しかし、その一撃をマルコは容易く回避する。マルコの回避速度もまた超音速。同じ超音速機動同士ではどうしても小回りが利く方が有利となる。

 

 ロゼの超々音速の矢や砲塔列車の突撃、フルメタルの拳のラッシュ、そしてフィルルの音の四倍の速さの怒涛の攻撃。それらすべてを相手にマルコは生き残っていた。

 

 【スポアエレメンタル】のオーラ攻撃を防ぐ防御力、超音速起動が可能な速度、そしてカウンターとはいえ、フィルルにダメージを与える攻撃力。

 

「奴のエンブリオの能力は一体なんなんだ?」

 

 




マルコはかなりヤバイ奴だよ。

果たして、マルコのエンブリオの能力は一体なんなのか。次回までに考えておこう(作者が)

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