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マルコのエンブリオの能力は一体なんなのか。
フィルルは戦いの最中もその推測を加速させていく。
現状考えられるのはステータス上昇能力。
神話級のステータスを誇るフィルル相手に格闘戦をして殴り勝つことは最低でもその半分のステータス、つまり伝説級以上のステータスが必要であろう。現にマルコの今の動きやパワーは古代伝説級にも匹敵している。
しかし、フィルルは真っ先にその可能性を否定していた。
フィルルのエンブリオ【喝采劇場 アンフィテアトルム】の必殺スキル、《終劇は万雷の喝采と共に》は他者のスキルによるステータス上昇を自身に加えるというもの。
その性質上、フィルルは【アンフィテアトルム】の領域内のスキルによるステータス上昇を感覚的に知ることができる。
そして、マルコにはその反応がない。つまり、破格のステータスを獲得していながら、マルコはステータス強化スキルを全く使っていないのだ。
考えられるとすれば…スキルではないステータス上昇。しかし、そんなことがありえるのか?
<Infinite Dendrogram>の世界でステータスをあげる方法は大きく分けて三つ。ジョブレベルを上昇させることによるステータスアップ。装備品によるステータスアップ。そしてスキルによるステータスアップだ。
しかし、スキル以外の方法ではどれも大きなステータス上昇を見込めない。まして、マルコのジョブは【剛闘士】、ステータス上昇に優れているジョブではない。
では消去法で装備品か?マルコは雇い主の遺産により強力な装備品を得ることは容易いだろう。しかし、強力な装備品にはレベル制限が付きまとう。それこそ、合計レベル五百の人間が超級職を圧倒するほどのステータスを得ることは難しいだろう。
レベル制限のない特典武具による可能性も考えたが、それによる装備補正の限度もしれてる。ステータスを十倍近く強化するなんてことはできないはずだ。
…そこでフィルルはマルコの言葉を反芻する。
「まさか…だがレベル制限によらない装備品ならもう一つ存在する…か」
そしてそこから導き出される奴のエンブリオの正体は…
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フルメタル達とマルコの激突は白熱していた。
四対一という不利な状況ながらもフルメタル達の猛攻を凌いでいるマルコ。その顔には笑みを浮かべ、どこか余裕すら感じさせるようだった。
対して数の上で有利なはずのフルメタルたちは攻めきれない様子にいらだっているようだった。
…だが、それもここまでだ。フィルルが再び戦線に参加し、【スポアエレメンタル】を放ちマルコを取り囲むようにする。
この包囲網を突破するのは簡単ではない。簡単ではないが…マルコのステータスからすれば、小さな穴を見つけ抜け出すことは十分可能だった。
しかし、その穴はフィルルの作った罠。あえて、包囲網に穴を作りマルコの進行方向を限定させた上で脱出させる。そしてマルコが脱出した瞬間に猛攻撃を仕掛ける。
それは不可避のオーラ攻撃。しかし、それを喰らってもマルコは立ち止まらない。その攻撃の中を掻い潜り、否、その身に攻撃を受けながらも生き残った。
その一部始終を見届け、フィルルは結論付けた。今の
「奴のエンブリオはアクセサリーの装備数を上昇させる能力を持っている」
それはマルコのエンブリオの正体の半分を看破していた。
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マルコのエンブリオの名は【黄金無装 ファフニール】。第六形態に到達している黄金の指輪の形をしたエンブリオである。
その能力は単純明快。アイテムボックス内のアクセサリーを『装備状態』にできるというもの。即ち、装備せずともアイテムボックスに入れておくだけでその能力を得られるということだ。
そして【黄金無装 ファフニール】の常時発動型必殺スキル《
アイテムボックスが故に外的攻撃でアクセサリーが破壊される可能性は低く、さらに能力を他人に知られる可能性は限りなく小さい。現に元パーティメンバーのフルメタルや”監獄”送りとなったマルコの仲間はそのことを全く知らなかった。
能力発動中にアイテムボックス内で壊れたアクセサリーはその場に放出されるという奇妙なデメリットを抱えていたが、その能力は凄まじい。
何より【ファフニール】の能力で最もシナジーが大きいアクセサリーは【救命のブローチ】である。
【ブローチ】は《九死に一生》という致命ダメージを受けた際に一度だけ無効化するという効果を持っている。破格の性能故に【救命のブローチ】は破損した場合、24時間は【救命のブローチ】を装備できないという制約がある。
しかし、【ファフニール】はその制約を無力化できる。実際に装備するのではなく、『装備状態』にするという特殊な能力が生みだした奇蹟、あるいはエラー。超常の力をもつエンブリオだからこそ、マルコは【救命のブローチ】を24時間という制限なく使うことができる。
百の内、七十をSTR、AGIの上昇させるアクセサリーを、残り三十を【救命のブローチ】に設定している。三十はマルコの持っている【救命のブローチ】の数そのものだったが、いまやその残りは二十四枚。
マルコとしてもこれ以上の【救命のブローチ】の破壊は避けたいところだった。
しかし、慎重に動こうとした瞬間、フィルルに自身のエンブリオの能力を半ば当てられたマルコはその状況に
「素晴らしい、素晴らしいです。フィルル。半分だけとはいえ、私の【ファフニール】の能力を当てるだなんて。せっかくの殺意も吹き飛んでしまいました!ヨロコビのあまりにね。ご褒美に素晴らしいことをお教えしましょう。あなたはもう気づいているかもしれませんが私は後二十四枚の【救命のブローチ】を使えます。どうです?絶望しましたか?しないでしょうね!ええ!最初私が持っていた【救命のブローチ】の数は三十。その二割をあなた一人に砕かれている。このまま戦闘が長引けば、あなた一人にすべての【ブローチ】と私の命が奪われることになる。ですが、この俺に何度も同じ手が通用すると思いますか?断言しましょう。これから先あなたの攻撃は私を傷つけることは…」
「長くなりそうだし、勘違いしているようだから言っとくぜ。お前を殺すのは俺じゃない。フルメタル達だ」
その言葉の意味を図ろうとしたマルコの一瞬の隙、その隙をフルメタルの拳は見逃さない。
「《ストームゥゥ・フィストォォォッォ!!!》」
それは五十を超える鉄拳の嵐。その全てをマルコは避けることができず、その拳を全身に叩き込まれた。
本来ならば、隙をついたところで精々亜音速のフルメタルの攻撃など避けることは容易い。だが、この時のフルメタルはサーフボードに乗っていた。そうゆるりのエンブリオである【飛翔歌唱対翼 セイレーン】にだ。
そしてゆるりは必殺スキルである《
しかし、いくらステータスを強化していようと相手はあのマルコ。一瞬の隙をつき拳を叩き込むのは難しい。それを為したのは紛れもなくフルメタルの実力と彼らのチームワークによるもの。
王国のランカーとの決闘や、討伐クエストで培った戦闘技術は彼らを決して裏切ったりはしなかったのだ。
「で、す、が、それになんの意味があるのです?あなたの拳で砕かれた【救命のブローチ】の数を教えてあげましょうか!ゼロですよ、ゼロ!フルメタル!あなたの貧弱な拳ではいくら攻撃をしたところで無意味!さあ、絶望を教えて…」
「気づいていないのか?お前はもう終わっている」
フルメタルが告げたその言葉にマルコは激昂する。
「人が、まだ、しゃべってる、途中でしょうがぁぁああ!」
マルコがフルメタルに殴りかかろうとしたその瞬間、地面を踏み込んだ足が砕け散った。いや、もはや足と呼べるものは存在していなかった。
それもそのはず、フルメタルの籠手型のエンブリオ【毒纏拳牙 ナーガ】の能力、《毒牙減衰》によってマルコのステータスは大幅に削られていた。
【救命のブローチ】を頼りにしていたためか、マルコはアクセサリーでENDを強化することはなく、その数値は三千にも届かない。そして、ステータスが高いといっても相手は同じレベルのマスター。減衰されることなく、放たれた五十の毒牙はマルコのENDをマイナス二千近くにまで下げていた。
よってマルコは自ら踏み込んだ反動で骨が折れ、肉が崩れる。その足では自慢の超音速機動もできない。いくら【救命のブローチ】があろうともただ砕かれるだけ…フルメタルが告げていたとおり、マルコはフルメタルの拳を受けた時点で敗北が、”監獄”送りが決定していた。
「さてと、お前にあといくつ【救命のブローチ】があるかは知らないし、どうでもいい。だけどな。列車に轢かれ続けて一体いつまで持つかは興味あるな」
足が砕かれ地面に平伏し身動き一つ取れないマルコ。そんな彼に近づいてくるのは巨大なドリルを回転させる巨大な鉄列車。
これから起こるのは圧倒的な殺戮。最早豆腐以下の強度となったマルコの全身を轢き潰していく【回転列馬 ユニコーン】。【救命のブローチ】によって即死はしないだろうが…それはただの生き地獄。二十四の【救命のブローチ】が砕かれるまでの間、マルコは自身の体を永遠と礫殺されるのであった。
◇
「終わったか…」
「ああ、これでマルコを”監獄”に…」
その瞬間、【回転列馬 ユニコーン】が切り刻まれ破壊される。それを為したのはまさか今”監獄”に送ったはずのマルコなのかと疑問に思う一同。
…だがマルコの方がましだっただろう。
その斬撃は【回転列馬 ユニコーン】によってマルコの全身が砕かれる過程で、コルガッツォから盗みだした
そこから溢れ出たのは異形の悪魔。細長い腕とそれに持つ双刀、非常に発達した逆関節の脚、そして肉を極限まで削ぎ落としたその体躯からは刃の如き鋭い殺気を放っていた。
それこそは古代伝説級UBM【錬鉄武双 シノギタチ】である。
【悲報】マルコは前座