◇
…ああ、やられてしまいましたね。フルメタルのエンブリオはステータスを減少させるもの。初めての体験ですが、おそらくENDがマイナスになると肉体が自身の力によって砕けてしまうのでしょう。私としたことが迂闊でした。肉体が動かなければAGI三万も無駄。そして身動きが取れなければ幾ら【救命のブローチ】があっても意味はない。列車に轢かれ続けてジエンドですね。”監獄”に送られてしまうとは…楽しみですね。”監獄”は悪党たちの巣窟。その中でどれほど素晴らしい光景が見られるかと思うと胸が躍ります。フルメタルにやられたことは腹立たしいですが…どうせ彼らもすぐに”監獄”送りです。俺を殺すのに列車で殺したのはいいですが、それではあれが壊れて中のモノが出てきてしまう。神話級UBMを倒したフィルルがいるとはいえ、フルメタル達はまず助かりませんね。”監獄”送り決定です。ええ、”監獄”に堕ちた彼らとまた遊びに興じるとしましょう。
◇
古代伝説級UBM【錬鉄武双 シノギタチ】は珠に封じられていた存在である。それ故にその球が砕かれればそこからはその中身が溢れ出る。
ではUBMが封じられている珠とはそもそも何か。
UBMを封じるなどという行為はだれにとっても不可能のはず。だが、ここに例外が存在する。
それは六〇〇年前の【龍帝】黄龍人外の手によるもの。歴代の【龍帝】の中でも最強と謳われた黄河の、いや東方の頂点。
その強さ故に彼は多くのUBMを討伐し、そして考えていた。
彼一人が多くのUBMを倒してもそれは彼ひとりだけの力。それでは黄河は発展しない。
彼だけでなく、多くの者に強大な力を使わせる必要がある。
もちろん歴代最強の【龍帝】とは言え尋常な道のりではなかった。
だが、彼のその執念はその術を生みだした。強大なモンスターを封じ込めて使役する術、宝物獣の珠である。
それは内部に<UBM>を生きたまま閉じ込める物質化した結界である。そして、球はその内部に封じ込められた<UBM>の力の一端を引き出し、行使することが可能である。
実際にマルコは【錬鉄武双 シノギタチ】の能力の一部を使っている。
フルメタル達との戦いでマルコはアイテムボックス内のアクセサリーの内、三十を【救命のブローチ】、残り七十をSTR、AGIを上昇させるアクセサリーにそれぞれ三十五ずつ設定していた。
ただそのアクセサリーは【救命のブローチ】に比べれれば価値は些か以上に劣るもの。
レジェンダリアではステータスを固定値で100上昇させるマジックアイテムが多く流通している。マルコの用いていたアクセサリーはそれの上位版でステータスを固定値で300上昇させるもの。
これを【黄金無装 ファフニール】で装備すれば確かにSTRとAGIは一万以上上昇する。伝説級に匹敵するステータスを獲得できることになる。だが、それでは神話級のステータスを誇るフィルルには通用しない。
しかし、それを覆したのが宝物獣の珠である。
それは【錬鉄武双 シノギタチ】が持つスキルの一つ、《武双強化》によるもの。それは武具を強化することができるスキル。武具の性能を三倍にするというモノ。
それにより、ステータスの上昇は三万を超えて、彼の戦闘センスとジョブスキルを掛け合わせれば十分フィルルに対応できるものとなる。さらには【救命のブローチ】にも強化が加わり、その継戦能力に磨きがかかる。
故にマルコのエンブリオ【黄金無装 ファフニール】と【錬鉄武双 シノギタチ】のシナジーは最高峰。マルコがコルガッツォからそれを盗みだしたのも納得がいくというもの。
だが、そもそもなぜコルガッツォは宝物獣の珠を持っていたのか。
歴代最強と謳われた【龍帝】黄龍人外は数多くの宝物獣の珠を生みだしたが、自らの寿命には勝てなかった。そして【龍帝】が死んだ後にあったのは、次期皇帝の座を争う醜い内乱であった。
それ自体はあまりにもあっけなく解決するのだが、その長い戦いのなかでも一度も宝物獣の珠は使われなかった。
多くの理由があるが、一番大きいものは宝物庫の存在であろう。宝物獣の珠が収められた最奥宝物庫は、皇帝か【龍帝】にしかカギを開けることが許されない。
正規の手順を踏まねば、宝物庫ごと世界から消滅するという機能もあったため、後継者争いをしている黄河には宝物庫を開けられるものは存在しない。
そして、皇帝が決定した内戦終結後も宝物庫から宝物獣の珠から出されることはなかった。
…ただ一度の例外を除いて。
それは皇帝が、西方へ旅立つ民に”虎”の珠を与えたとき。そのとき、確かに宝物庫は開かれた。
一度開けられてしまえば、そこに付け入る隙ができる。
当時の【盗賊王】にして【強奪王】、そして【大怪盗】の三つの超級職に就いたモノの手口。宝物庫を開けた皇帝にも気づかれることなく、いくつかの宝物獣の珠を盗みだした。
【龍帝】黄龍人外が遺した魔術式トラップを満載した宝物庫はそのモノにしても盗みは容易ではなかったが、それでも片手で数えられるほどの数は盗みだして、自らの一生の宝とした。
その後600年の月日が流れ、そのうちの一つである【錬鉄武双 シノギタチ】を封じた宝物獣の珠を霊都西方の流通を支配していたコルガッツォが手に入れた。
そしてその情報を裏社会で暗躍するマルコの雇い主、いやマルコに知られてしまったが故に今回の事件は起こったのだ。
◇
600年の長い月日、結界からようやく解放された【シノギタチ】が真っ先に考えたのは如何に自らの腕を取り戻すかということ。
『600年。UBMの我が身とはいえ、余りにも長い月日。瞑想する時間はあれど、鍛錬する自由はなし。この身が解き放たれた今日という日に感謝を。そしてそれを為した貴殿らにも同等の感謝を』
言葉を発し、フィルルたちに自らの現状とそこから解放したことに対する感謝の言葉を伝えてくる【シノギタチ】。
だが、フィルルたちはその言葉を額面通りに受け取ることはできなかった。なぜなら【シノギタチ】が発する刃の如き鋭い殺気は今この瞬間も鈍ることはなく、より研ぎ澄まされているからだ。
『戦いを見ていた。貴殿らと賊との戦いだ。珠に封じられた身ではあったが、あれは素晴らしき仕合であったよ』
その刃はこの瞬間も標的を探していた。
『貴殿らに最大の賛辞を。あるいは貴殿らと戦えば、この身の錆も取れるやもしれん』
そしてその刃はフィルルの首元に突きつけられる。
『嫌とは言ってくれるなよ、素晴らしき好敵手たちよ。では…死合おうぞ』
その瞬間、フィルルは首を斬られる自分の姿を幻視した。
『【錬鉄武双 シノギタチ】、推して参る!!!』
その言葉と同時、双刃が超音速で迫る。
フィルルは【シノギタチ】の気迫に押されつつも戦闘体勢をとる。今見たのは自らの恐怖心が生みだした幻想と信じて。
「そうだ。奴は所詮、古代伝説級UBM。そのステータスは俺よりも低い」
その言葉は真実。神話級のステータスを誇るフィルルの速度はステータスに秀でる純粋性能型ではない【シノギタチ】に劣るものではない。
その速度には四倍近い差があった。…だが【シノギタチ】の動きをフィルルは捉えることができない。逆関節の脚が生みだす独特な歩法が故に、【シノギタチ】は容易くその距離を詰めた。
そして、その双刃もまた人では成し得ぬ軌道によって、フィルルの首を容易く切り裂く。それはフィルルが見た幻視、その再現である。
しかし、それもまさしく幻。《ライフリンク》によってダメージを虎丸に肩代わりさせているが故に、フィルルにダメージはなく、首も胴体から離れてはいない。
だが、その光景に一切の疑問を持つことなく、双刃を振るい続ける【シノギタチ】。それは敵を殺すまでは敵を斬り刻み続けるという意思があるが故に。
逆に疑問を覚えるべきは【シノギタチ】の攻撃である。
今の攻撃は《ライフリンク》がなければ、フィルルの首が飛んでいたことを意味している。それは神話級の耐久力を誇るフィルルの体表を古代伝説級UBMであるはずの【シノギタチ】が切り裂いたということをだ。
それは《武双強化》だけでなく、もう一つのスキル《武双投影》によるもの。自らに利する武具を生みだすスキル。これに《武双強化》が適用されることで、【シノギタチ】の振るう双刃は
故に【シノギタチ】の猛攻が続けば、不死の虎丸といえどその許容量を超え、《ライフリンク》が機能せず、フィルルに死を齎すことになる。
その瞬間、双刃の悪魔に超々音速で迫る一筋の矢。それを躱し、矢を放った相手を一瞥する【シノギタチ】。
それは【シノギタチ】に隙を作り、フィルルの窮地を救う起死回生の矢。
さらに第二の矢がロゼによって放たれる。それは必殺スキル状態で放たれる《バーストサジタリア》。古代伝説級UBMであろうとも当たれば大ダメージを与えうるもの。
しかし、あろうことは【シノギタチ】は二度目の矢を、AGIでいえば自身の十倍に匹敵する速度で迫るその矢を切り捨てた。
その光景に驚きつつも、矢を番えることを止めぬ、ロゼ。
そして、第三の矢を放つと同時に、自らの側腹部を一条の閃光がかすめ、血を吹き出すロゼ。
ゆるりはそれを見てすぐさまロゼに回復魔法をかける。ゆるりの迅速かつ適切な処理によってその傷は塞がる。元より致命傷ではないため、ロゼの戦闘続行も可能だろう。
しかし…それよりも今見た光景に絶句するフィルル。
AGIで勝るフィルルには今の
自身に迫る矢を、貫通力に秀でたはずの【弓聖】の奥義たる一射を【シノギタチ】はその刃で受け止め、一切の威力を殺すことなく、
あるいはそれがUBMの持つ特異なスキル、例えば反射やカウンターといったものによって引き起こされたのであればまだわかる。古代伝説級UBMではそれくらいの芸当もありえるだろう。
だが今のは違う。スキルではない、純粋な技術。圧倒的な技巧によって引き起こされた御業。
そして、それを為した【シノギタチ】は…
『やはり
フィルルからすれば何よりも恐ろしいのはその衰えているはずの技巧である。超々音速で迫る矢を敵に向けて剣で打ち返すなど見たことも聞いたこともなかった。
◇
【錬鉄武双 シノギタチ】はステータスはそこまで高くなく純粋性能型とは言えない。
武具を生みだし、強化するスキルはほかの古代伝説級UBMに比べ別段優れているわけではなく、決して多重技巧型とも言えない。
まして、ある一つのシチュエーションで無敵を誇るための固有能力をもつ条件特化型とも言えない。
だがここにヒントがある。
仮に、【シノギタチ】が人間範疇生物であれば、剣スキル特化超級職【剣神】の座に就いたであろうほどの才覚を有しているということ。
そう、【錬鉄武双 シノギタチ】は世にも珍しい
いつにもまして、ツッコミ所多目だったな(反省)
でもこれがこの二次の魅力だから(真顔)
勢いだけしか取り得ないから(泣き)