"軍団最強”の男   作:いまげ

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29.約束の果て

 ◇

 

 超絶技巧を持つ悪魔、【錬鉄武双 シノギタチ】はあらゆる場面に対応した剣と技を持っている。故に、自らに迫る矢を相手に跳ね返すといったものもUBMの固有スキルといえるものも剣技において行える。

 

 《剣鏡》は相手の遠距離物理攻撃を一切のエネルギーの減衰無しに相手に否、望む方向へ流せる柔の剣。そしてそれが【シノギタチ】の剣技のすべてではなく、極一部。そう、まさしく【シノギタチ】は”剣”の悪魔であった。

 

 ◇

 

「奴に遠距離物理攻撃が通用しないのは分かった。…だが、これならどうだ!!」

 

 ロゼの矢に対応している間に、虎丸をジュエルに戻し自らの体勢を立て直していたフィルル。さらに【シノギタチ】の周囲に【スポアエレメンタル】を展開する。

 

「剣で矢を跳ね返せても、魔法のオーラは跳ね返せないだろうが!!!」

 

 瞬間、【スポアエレメンタル】達が発光する。それは胞子達のオーラ攻撃の合図。

 

 【シノギタチ】は何か(・・)を察したかのように両手の双剣を捨てる。剣の悪魔にはそこから起こる圧倒的破壊に推測ができたのか。

 

 今の【スポアエレメンタル】のオーラ攻撃の威力は【紅蓮術師】の最大魔法、《クリムゾン・スフィア》を超える。そしてそれが千体分行われる。

 

 伝説級UBMですら瞬殺できるほどの物量爆破魔法攻撃。

 

 そして、それはステータスや耐久値は伝説級程度の【シノギタチ】も同じ。もし、直撃すればそれだけで決着が着くほどだ。

 

 そう、もし直撃すれば(・・・・・・・)

 

 爆発が止み、砂埃が掻き消え、姿を現した【シノギタチ】は全くの無傷であった。その両手には捨てたはずの双剣がいや、先ほどの業物とは似ても似つかぬ双刃を構えていた。

 

『ぬかったな、好敵手よ。今の技なら我が身を降せるとおもうたか。未知の技であればそれもありえたかもしれん。が、それは既に二度見ておる。珠の中でな。既知の技、ならば通じる通りなし』

 

「…ありえねえ。千の魔法攻撃だぞ!その全てを斬ったとでも言うつもりか!!」

 

『奇妙なことをいう。千の魔法を防ぐのに千の斬撃はいらぬ。ただ、空を割く斬撃(・・・・・・)をいくつか用意すればよいだけのこと』

 

「何を…何を言ってやがる」

 

 その言葉の意味をフィルルは理解できなかった。いやそこにいるものは誰も理解できなかった。それを為した【シノギタチ】以外は。

 

『空を割く剣を投影し、強化し、振るう。すればそこには空の壁ができるは道理。それを突破できる魔法は数少なく、貴殿の胞子の魔法ではそれが成せなかったというだけだ』

 

「…ハ、ハハ、半分も理解できねーぞ、クソが!!」

 

 それは”剣”の天才たる悪魔の言葉。常人に理解できるはずはなかった。ただ、分かったのは剣の悪魔に魔法攻撃は通用しないということだけ。

 

 【シノギタチ】の言葉を補足するならば、《武双投影》によってを空間を斬ることができる剣を生みだし、《武双強化》によって空間切断能力を強化。剣技によって自身の周りに空間の切れ目を生みだし、その空間の瑕疵が修復されることによってできる歪みをもって魔法を防ぐ盾としたのだ。

 

 名を《征空剣》、【シノギタチ】が持つ攻性防御結界である。

 無論欠点もある。空間を斬る剣とは何よりも鋭い剣。そして何よりも鋭い剣というのは何よりも脆い剣である。故にその剣は空間以外を斬ることはできない。

 物質を斬ろうすれば、その剣はすぐさま砕けてしまう。そのため、その剣を使うタイミングは極端に限られる。が、【シノギタチ】にとってすれば、そのタイミングを間違えるはずもなく、彼を守る最強の剣になり得るのだ。

 

 ◇

 

「魔法が通用しないのなら物理攻撃。より圧倒的なステータスで攻めるしかない…か」

 

 しかし、相手は剣の技巧が頭がおかしなことになっている悪魔だ。神話級のステータスでも相手になっていない現状を踏まえれば、今の倍以上のステータスが必要である。

 

 そのための方法は【アンフィテアトルム】の必殺スキル、《終劇は万雷の喝采と共に》をほかにない。

しかし、《終劇》はスキルによるステータス上昇にしか効果がない。

 

 そして、【シノギタチ】は武具を投影し強化するだけ。そこには一切のステータスの強化はない。故に今、この状況で《終劇》の対象となるものはない。

 

 だが、それも終わる。逆転の協奏曲が奏でられるからだ。

 

「《絶唱の協奏曲!》」

 

 その歌声はゆるりのエンブリオ【飛翔歌唱対翼 セイレーン】の必殺スキル。自身のHPを代償【セイレーン】に騎乗しているもののステータスを大幅上昇させるもの。自身の回復とクールタイムから再び歌われたその歌はまさしく反旗の狼煙である。

 

 必殺スキルのバフによって、フルメタルとドリルマンのステータスは伝説級に匹敵するものとなる。そして、ロゼは神話級に匹敵するステータスに。 ステータスだけならば、【シノギタチ】に並ぶほどになったことで、一転攻勢に出る。

 

 しかし、相手はあの剣の天才、【シノギタチ】である。

 ステータスが並び、越しただけではその剣筋は曇ることなく、後手に回ることもない。空を斬った剣を投げ捨て、最も親しみなれた双剣を生み出し、切り結んでいく。

 

 これが圧倒的技巧が為せる技だというのなら、それを圧倒できるのは圧倒的膂力のみ。

 

 だとすれば…

 

「《終劇は万雷の喝采と共に!》」

 

 そう、フィルルとフルメタルたちは仲間で、今同じ相手を敵にしている。しかし、パーティーを組んでいるわけではない。

 

 故にフルメタル達も《終劇》の対象となる。【アンフィテアトルム】のスキル《主役》、《脇役》、《終劇》の三重使用によってフィルルのステータスは更なる大幅上昇をみせ、STR、AGI、ENDの数値は10万オーバーになる。

 

 速さは音の十倍を超え、一撃の威力は【シノギタチ】にとって一撃一撃が致命的なものとなり、防御力は神話級金属を両断できる【シノギタチ】でも断ち切れぬものとなる。

 

 それを、フィルルから発する威圧感を感じた【シノギタチ】は、ただただ感謝(・・)した。これほどの強敵と見会える機会などそうありはしない。そんな存在が自身が珠から解放された日に出会える、神というものがいるのなら感謝を捧げたいほどであった。

 

 フィルルが動く。音の壁を容易く破り、剣の悪魔に接近する。悪魔は自身に射たれた矢と同じように切り捨てる。速度であれば、同等以上の矢を切り捨て、跳ね返す悪魔にとってその速度は十分対応可能。

 

 しかし、その一振りは空を切る。

 

 ただ直進する矢と違い、その男は自由自在に地を駆け、野を走る。それに対応することは【シノギタチ】にとっても至難の技であった。

 そんな状態にあってもフィルルの攻撃を全て防ぎきるその才覚は驚嘆に値する。さらに、切り結ぶこと数度、【シノギタチ】の剣がフィルルを捉え始める。

 

 直進する矢ではないとしても、その動きには癖や好み、法則性が生まれる。それを完璧に読みきり、フィルルの首元に刃を突き立てる。しかし、元より【シノギタチ】では今のフィルルを斬れぬことは、何よりその【シノギタチ】が知っていた。その斬擊はフィルルの動きを一瞬止めるだけに留まる。

 

 だが、【シノギタチ】は此れで良いとフィルルに対して同じようなやり取りを繰り返す。首筋への攻撃は頚部に起こる状態異常を引き起こしやすい。今も度重なる首への攻撃でフィルルは軽い【窒息】状態になり動きを止めていた。。

 

 それは致命的な隙。しかし、そこにいるのはフィルルだけではない。フルメタル達がいる。

 

 フルメタルの拳は当たればステータスを減らし、列車を斬られても展開可能なドリルマンの第一形態のドリルは【シノギタチ】の身体を容易く貫き、ロゼの矢は更に速度と貫通力を増し【シノギタチ】の死角を狙う。

 

 だが、【シノギタチ】にとってそれらは雑音でしかなかった。

 

 真なる好敵手は眼前の男ただ一人。他の者はそれを盛り上げる舞台装置(・・・・)でしかない。ならば相応に相応しい態度がある。

 

『邪魔をするな!』

 

 剣の悪魔は依然宣言した通り、飛んできた矢を脳天に跳ね返した。

 

 そう、ゆるり(・・・)の脳天へと。

 

 【シノギタチ】は知っていた。彼らがステータスを自分に匹敵するほどに引き上げられたのはサーフボードを操る女のスキルであると。ならば、女を殺せばそのバフは無くなるは道理。

 

 唯一、誤算があるとすれば、ゆるりを殺せば今のフィルルの超ステータスも消失すること。だが、さすがの【シノギタチ】もそこまでは承知していない。

 

 命のやり取りの果ての成長を望むのなら、それは悪手とえる。だが、フィルルの超ステータスは途切れることはない。

 

 脳天を貫かれたゆるりは、今もなおその命を燃やす絶唱をしているからだ。

 

《ラスト・コマンド》

 

 【死兵】が持つ唯一のスキル。これによって死して後も動き続ける事ができる。ゆるりの必殺スキルはパーティーの要。ステータスを上げるために命を削り続ける故に、死とは隣り合わせ。だからこそ、死んでも歌い続けることを選んだ。

 

 ゆるりは脳天を貫かれた今でも歌い続ける。だがそれは、《ラスト・コマンド》が切れた後に、逆転の協奏曲が終わった後にゆるりが“監獄”に送られることを意味していた。そして、そのバフが持つのもあと数十秒。決着をつけるなら短時間で勝利を得るしかない。

 

「うぉおおぉぉお!」

 

 そのスキルの発動に気付いたロゼが、ドリルマンが特攻を仕掛ける。たが、それに対する【シノギタチ】の対応は冷酷だった。

 

『よく見れば、面白い武器を持っているな。…うむ、使ってみるか(・・・・・・)

 

 そして、【シノギタチ】は新たな(ドリル)を作り出した。それは魔力を喰らい、回転する凶悪な牙。それはドリルマンのエンブリオを参考に作った剣。戦いの最中に敵の武器を真似て作るなど、まさにフィルル以外を相手にしていないという意思表示に他ならない。

 

 回転によって生み出される渦はそれ全てが斬擊。よってその渦に巻き込まれたドリルマンとロゼは両腕と胴体を切り裂かれる。二人は最早戦いをできる状態ではなく、【出血】といった状態異常で遠くない未来、死が確定していた。

 

『ふむ。威力は申し分なし。が、大味が過ぎるな。魔力の消費も多い。なにより、もはやこれは()ではない』

 

 そういって今、生み出した剣を、二人の人間に終止符を打った武器を投げ捨てた。作った武器にも殺した敵にも既に興味は失っていた。

 

 だが、それは剣を捨てたことに変わり無く、その隙を見逃す者はいない。

 

「《ストーム・フィストォォオ!》」

『既知の技は効かんといった!』

 

 【シノギタチ】は一瞬でカタナを投影する。五十の拳の嵐、それに対応するのはそれを超える剣の嵐。《剛華剣嵐》は剣を振る速度を上げ、相手の物理攻撃に対応する、【シノギタチ】の第二の盾。

 

 そして、その剣は相手の攻撃を防ぐだけではなく、フルメタルの身体も切り裂いていた。この剣撃で他のメンバーと同様にフルメタルも“監獄”に送られることが確定していた。

 

『もうひとつの試作品は申し分なし。なにより、六百年の瞑想の故に生み出した対【龍帝】特化の剣。劣るほうが可笑しいか』

 

 それは一本のカタナ。それは“竜”ならざる“龍”を殺す剣。“龍”特攻を持った唯一の剣。【龍帝】黄龍人外を殺すためだけの剣。名を”鏖龍刃劾”。ただの人間を殺すには過ぎた剣。

 

「……」

 

 フィルルは無言で突撃をする。先ほどまでの動きが嘘のような一直線。己の全体重を乗せた拳をぶつける。

 

 対して、【シノギタチ】はそのカタナを構える。【シノギタチ】には既に勝ち筋が見えていた。度重なる頸部への斬撃。それは全て同じ個所(・・・・)への攻撃。

 

 水滴岩を穿つという言葉がある。軒下から落ちるわずかな雨垂れでも、長い間同じ所に落ち続ければ、ついには硬い石に穴をあける意味だ。

 

 今、【シノギタチ】が為そうとしているのはまさしくそれ。【シノギタチ】の斬撃ではフィルルの首を断つことはできない。だが寸分違わず、同じ個所に斬撃を続ければいつかはその首を断てるということだ。

 

 そして、その時は今。

 

 既に十度、同じ首を、箇所を狙っている。そもそもこちらは水滴などではなく、衝撃で相手の動きを止めることができる威力。ならばここが決死のタイミング。

 

 この斬撃でその首を断つ。故に、【シノギタチ】もその一撃に全力を込める。最早相手に回避はなく、全力な攻撃のぶつかり合い。速度で圧倒的に劣る【シノギタチ】ではあったが、その技巧では圧倒的に勝っている。相手の動きを完全に読み切り、フィルルの拳が当たるよりもわずか先に”鏖龍刃劾”がその首に当たる。

 

 故に勝敗は決した。フィルルの首を断つ…ことなく、”鏖龍刃劾”は砕け散った。

 

 【シノギタチ】に生じたのは疑問。だが、その疑問が解消することなく、フィルルの拳が【シノギタチ】の顔面にめり込む。思考が封じられた【シノギタチ】に襲うのは二の拳。それは【シノギタチ】の身体を抉り、コアを剥き出しにし、三の拳でそのコアを破壊した。

 

 【<UBM>【錬鉄武双 シノギタチ】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】

 

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】

 

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【武双勲章 シノギタチ】を贈与します】

 

 決着が着いたアナウンスが鳴る。フィルルの拳が【シノギタチ】を制したのだ。フィルルの拳の威力と【シノギタチ】の耐久力の低さからすれば、当たりさえすれば決着は一瞬。

 

 しかし、”龍”殺しの特攻を持ち、対【龍帝】を想定して作られた”鏖龍刃劾”はなぜ砕かれたのか。それを為したのは他でもない、フルメタルのエンブリオ、【毒纏拳牙 ナーガ】の第二スキル《毒牙減弱》によるもの。

 

 《毒牙減弱》は装備品やマテリアルに接触する度に耐久値を減少させるスキル。故に五十の拳をその剣で全て防いだ”鏖龍刃劾”の耐久値は風前の灯。フィルルの首へ攻撃した衝撃で砕け散ったのだ。まさしく、フィルルとフルメタルと、そのパーティーで勝ち取ったその勝利だった。

 

 だが、勝利の余韻に浸っている場合ではない。UBMとの死闘のあと待っているのは…彼らとの別れだった。

 

「フルメタル!!」

「約束は…果たしたぞ、フィルル」

 

 そう言って、フルメタルはデスぺナルティとなった。ロゼもドリルマンもゆるりも既に消え失せた。残ったのは、フィルルただ一人だった。

 

 交わしたい言葉はたくさんあったのに、伝えたい言葉はたくさんあったのに、それを伝えることはもうできない。彼らはもう”監獄”へ行ってしまった。

 

 そう、今ここに”幻獣旅団”は壊滅した。

 

「…」

 

 その瞬間のフィルルの思いは誰にも推し量ることはできない。

 

 ◇

 

 ”幻獣旅団”の事件から数か月。

 

 今”幻獣旅団”という言葉を聞いて『正義』の義賊、あるいは『悪』の犯罪集団を思い浮かべるものはいない。

 

 それは一人の男の、いや一人の<超級>の二つ名。

 

 不死の獣を従え、幾千幾多の幻霊を操る男の二つ名。

 

 後に”軍団最強”と呼ばれる<超級>の、フィルル・ルルル・ルルレットのもう一つの二つ名である。

 

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