□霊都アムニール 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット
【ジュエル】から現れた虎模様の子猫は俺の周りを歩きながらあくびをしている。
「おっさん、こいつは?」
「そいつは【リトルタイガーキャット】といってな。この店で【従魔師】を始める奴に何体か勧めてるモンスターの一体だ」
「そうか、神じゃなくてオ◯キド博士だったのか」
「誰だ、そいつは!?」
おっさんと談笑していると【リトルタイガーキャット】がいつの間にか俺の頭の上にのぼっていた。
「おーい、どうした子猫ちゃん。俺の頭がそんなに気にいったのか?」
「そいつはテイムモンスターの中でも人懐っこいから初心者にお勧めなんだ。本来なら【ジュエル】込みでもそれなりの値段はするんだが…ま、さっきも言ったがマスターに対する先行投資だ。おまえのためじゃねぞ」
「おっさん、…素直じゃないんだから」
「うるせえよ。投資した分はしっかり返してくれよ。【従魔師】としてな」
【従魔師】にはモンスターを隷属させた後に売却して生計を立てる者も多い。
この店はそういったティアンの【従魔師】との協力で成り立っている店らしい。
だからこそ、初心者の【従魔師】に対しても手厚いし、ましてそれがマスターならば殊更だろう。
なぜなら、マスターは死なないのだから。
たとえ殺されたとしても、こちらの時間で三日後には復活する。顧客相手としてこれほどよい存在はいないだろう。
…まあ、おっさんにどれだけの思惑があるかは知らんが、おっさんの厚意であることには間違いない。素直にお礼を言っておくか。
「おっさん、ありがとうな」
「急にしおらしくなるんじゃねえよ、ったく。それよりそいつに名前をつけてやれよ」
そういっておっさんは照れたように俺の頭の上を指さした。
俺の頭の上にいる【リトルタイガーキャット】を。
やはりきたか、名づけイベント。だが、安心してくれお前にふさわしい名前はもう決めてある。
「お前の名前は虎丸だ。【リトルタイガーキャット】の、虎丸」
…おっさんが残念そうな顔を向けてくるが、気のせいだろう。
「…はあ、ま、お前さんのセンスだから何も言わんが。これからは【従魔師】のレベル上げをしていくんだろう?【リトルタイガーキャット】は霊都の周辺にいるモンスターと比べてそこまで強くないから気をつけろよ」
「ああ、ほんとにいろいろありがとうなおっさん」
そういって俺はお礼を言って店を、そして街の外へと出て初めて戦闘を行う。
【クエスト【施す者―アンドリュー・ダールトン】を達成しました】
◇
「じゃあ、レベル上げを始めるとしますか」
「ニャー」
目の前にはいるのは【リトルゴブリン】というモンスター。一目見ただけで雑魚モンスターとわかる。ただし、そのリアル感はほかでは味わえないものだ。
俺はチュートリアルでチェシャからもらった模擬剣を構え、虎丸は俺の頭から飛び降りて爪を伸ばしている。
「いくぞ」
先制攻撃とばかりに模擬剣をゴブリンにたたきつける。
ゴブリンは避ける様子もなく模擬剣の殴打を喰らいふらつく。それに追い打ちをかけるように虎丸が伸びた爪でゴブリンを切り裂く。
そうするとゴブリンは死体を残すことなく消えていった。
「随分とあっさり終わったな」
「ニャー」
手ごたえのなさを感じていたが、この辺には初心者でも倒せるようなモンスターしかいないだろうし、二体一じゃこんなもんか。
そう思っていると今度は【パシラビット】というモンスターがあらわれた。
「逃がすかよ」
「ニャー」
◇
雑魚モンスターを狩ること数時間。【従魔師】のレベルが上昇して二つのスキルを覚えた。
《従属拡張》
自身の従属キャパシティを増やす。
パッシブスキル
《魔物強化》
配下のモンスターの能力を上昇させる。
パッシブスキル
≪従属拡張≫で従属キャパシティを増やすのはありがたい。
<Infinite Dendrogram>におけるパーティ人数は六人。これには<マスター>やティアンだけではなくテイムモンスターやガードナーの<エンブリオ>を入れることも出来る。もちろん俺にはそんな人もエンブリオもいないが()
テイムモンスターをパーティに入れて戦闘した場合のデメリットはパーティの枠を圧迫することだが俺の場合はそこまでではない。俺にはそんな人が()
逆にパーティメンバーにカウントせず、所有者の戦力の一部としてパーティにカウントしないことも出来る。ここで必要になるのが従属キャパシティだ。
メリットは当然ながらパーティの枠を圧迫しないこと。さらにモンスターの得るはずだった経験値の半分がモンスターではなく【従魔師】に入ることだ。
そしてデメリットは従属キャパシティが必要になること。
俺の現在の従属キャパシティは300くらいで、虎丸もこの枠に収まっている。
キャパシティまでなら戦闘中にモンスターを使役することが出来るが、掛かるキャパシティは個体によって異なり、モンスターの『種族の強さ×レベル』で算出される。
つまり、今はキャパシティ内に収まっている虎丸も、レベルの上昇に従ってキャパシティ内から外れる可能性もあるのだ。
さらにこれから使役するモンスターを増やしていくことや万に一つパーティープレイをすることになれば従属キャパシティは多いに越したことはない。
参考意見:鳥獣商店の店主のおっさん
《魔物強化》は言うまでもなく強力だ。
今はまだスキルレベル1だが、それでも虎丸のステータスを10%もアップしている。よりレベル上げもはかどるというものだ。
そうして俺はさらなるレベル上昇のため、雑魚モンスター狩りを再開する。
◇
レベル上げの狩りを終えて俺は霊都に戻る。その道すがら狩りをしている他のマスターの姿を眺める。
チュートリアルで見た衣装のものばかりだが、よく見れば細部が違う。
あるものは王冠。
頭に黄金に輝く王冠を携え、戦っている。
あるものはサーフボード。
そのサーフボードに乗り空中を飛んでいる。
あるものはドリル。
両手に持ったドリルでモンスターを追い回している。
あるものは象。
大きな象に乗り、雑魚モンスターを礫殺している(羨ましい)
「いいよなー。ガードナーのエンブリオ。それに比べて俺のエンブリオはどう使えばいいか…ん?待てよ。あのスキルとの組み合わせなら使えるんじゃないか?」
後半はほとんど原作1章の焼き直し(劣化コピーともいう)になりました。
勘のいい人なら彼のエンブリオについて予測がついているはず。
ちなみにステータス補正はMPのみD、それ以外はGとなっております。
最初の戦闘を【従魔師】の彼が楽に勝てたのも実は虎丸のおかげです。ポ◯モンでいえば、虎丸はレベル5。野生のモンスターは2から3といった有様ですから。
え?店主のおっさんといってることがちがう?彼のことが心配で油断するなといいたかったんですよ。