"軍団最強”の男   作:いまげ

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誰やねんって方は16話をお読みください。


32.鳳城院秀臣

 ◇

 

「誰やねん」

「…あー、変態だよ」

「変態ではない。”美食家”だ!」

「いや、そこは我等の名前を名乗るべきではないか?」

 

 黒と白が混ざりあった髪色をしている美しい少女が、”美食家”と名乗った変態へ突っ込む。しかし、こいつ、まさか…

 

「それもそうだ。私としたことがまたも礼儀を。私の名前は鳳城院秀臣」

「我はライブラ。秀臣のエンブリオだ」

「よろしく頼むよ、”幻獣旅団”君」

 

 やっぱりメイデンか。

 ノスフェラのエンブリオ、【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】の女性版。男性のアポストルに対して、女性のメイデン。始めて見るがそれよりも気になるのは…

 

「…俺のこと知ってんのか?」

「知っているとも。西方三国を飛び回っているフリーの<超級>ともなればね」

「そりゃどうも」

 

 俺も有名になったもんだ。まあ、あえて目立つ行為をしてきたせいもあるのだが…

 

「ここにいるのは、やはり人助けというわけかな?」

「見りゃわかんだろ。ちげーよ(・・・・)。そう言うアンタは何しに来たんだ?”美食家”様が来るようなところじゃねーぞ、ここは」

 

 そう、ここはドライフ皇国最北端の地域。不凍港ゆえに海洋国家グランバロアとの交易で隆盛を誇っていた港町。先ほどフィルルが乗り込もうとした船がいくつも備えてある。故に、船には困ることはない。

 

 そう、船には困ることはない。

 しかし、無くて困るモノがある。

 それは食料。

 この港町には既に食料と呼べるものはない。

 されど、この街には食料が無くて困る人など一人もいない。

 既に住民は皆、餓死して死んでしまっているからだ。

 

 最早死の街とも言えるその街に訪れたのは、食料が無くて困っていると聞いたためだ。しかし、その訪問は見ての通り手遅れだった。

 

 そして、その光景は見慣れた(・・・・)ものだった。このほかにもドライフ北部の地域を訪れたことがあったが、何処も食料不足で悲惨な有様だった。

 言い方は悪いが、この街の光景にも見慣れてしまっていたし、これ以上ここにいても、俺たちにできることはないと考え、他国に渡り、別の問題の解決を考えていたくらいだ。

 

 そうだからこそ…

 

「”美食家”様の舌にあう食べ物なんてねーぞ、ここには」

「知っているとも。”食”の事情には通じている。ここが今、どういう有様なのかもね」

「だったらどうして…」

「ここに来たのはUBMの情報を得たからだ」

「UBMだと」

 

 確かに街に人がいないとなりゃUBMやモンスターが蔓延りそうなもんだが、そんな情報一度も聞いてねーぞ。

 

「ああ、<DIN>が手にした極秘情報。お得意様にしか教えないと言っていたよ」

「あそこの情報かい。じゃあ、間違いはないだろうネェ」

「つまり、UBMの特典武具狙いってことか」

「UBMがどれ程の極上食材になるか興味は尽きないからな」

「あ?食材?武具じゃなくてか?」

 

 俺が疑問を呈した瞬間、

 

「鳳城院秀臣だよね?」

 

 またも聞き覚えのない声を後ろからかけられた。

 そこにいたのは小柄の少年。少年は両手をポケットに隠し、頭から兎の耳を生やしていた。

 気合の入ったアバターだ。

 女だったらバニーガールだったのに。

 まあ変なアバターといえば、隣にもっとやばい奴がいるけど。

 

「そっちは、フィルル・ルルル・ルルレットとノスフェラ・トゥか。君たちには用はないから」

「?」

 

 瞬間、その少年は姿を消し、鳳城院の眼前に現れた。そして、その時には既に攻撃を終えていた。

 

「【救命のブローチ】は砕いたよ。次はどうする?」

 

 そういって、兎男はまたも姿を消す。そして、【ブローチ】を砕かれた鳳城院もまた姿を消す。いつの間にかメイデンの少女がいなくなっている。

 

 エンブリオを使用したのか。その疑問に答えるように兎男は驚きを口にする。

 

「へえ、君も超々音速できるのかい?それが君のメイデンの能力か」

「だとしたら、どうだというのだ!」

「でも僕より遅いから意味ないね」

 

 その瞬間、鳳城院の目の前にまたもや、兎男が出現する。だが、踵のギロチン攻撃は鳳城院に当たることはなく、空を切る。

 

「速いのはトップスピードだけ。攻撃時の速度は私より遅い」

「…」

 

 鳳城院の言うとおりだ。兎男の動きは俺でも見切ることができない。しかし、攻撃の際は必ずと言っていいほど停止している。その隙は僅かなものだろう。しかし、超々音速移動ができる鳳城院には致命的な隙だ。

 

 しかし、鳳城院はどうやって超々音速機動を?

 

 アンフィテアトルムによってあいつがスキルによるステータス上昇をしていないことはわかる。だというのに、アイツは超々音速機動している。

 仮にアイツが超級職だったとしても、素のステータスだけでAGIが10万を超えるなんてことはありえないだろうし、まさか、ジョブスキルにAGIの成長補正があるということもあるまい。

 

「ふーん、その速度でノンストップに動き回れるってことはENDも随分高いのかな?さすがは【食王】といったところだね」

「ふむ、私は兎肉にも目がないよ。なにせ【食王】だからね。その五体を捌いていただこうかな?【兎神】くん!!」

 

 その言葉を皮切りに超々音速同士の二人の戦いは更に加速していく。

 

 ◇

 

(…さすがに面倒になってきたな)

 

 今この瞬間も鳳城院の体に爆弾やジェム、金属のブーツでの攻撃を試みる。

 しかし、攻撃の際、自らの攻撃の衝撃をなくすために減速しなければならない彼にとって、鳳城院の速度は自身よりも劣るといえ、簡単に対処されてしまう。

 

 逆に鳳城院の攻撃は彼が回避を選べば容易に躱せるほどであり、このままでいけば決着が付かず千日手になってしまう。  

 

(おそらく、この速度はスキルの効果によるもの。ってことは時間切れを狙うのが定石かな?…でもね、ここいらにいた第六形態の奴等は全てPKできたんだ。あとは君だけ。僕は忙しいんだ。君みたいな奴にいつまでも時間をかけていられない。さて…必殺スキルを使うか)

 

「《世界は右に、主観は左に…」

 

 彼が必殺スキルを使おうとした瞬間、謎の感覚が彼を襲う。

 

(…え?僕のAGIが半減した?…鳳城院の能力?いや、アイツのAGIも半減している。じゃあ一体誰の?…まさかアレか!)

 

 ◇

 

 戦いを仕掛けてきた兎男が、姿を急に消した。何だったんだ一体?

 

「私のステータスが半減している!何故だ!」

「私もだネェ」

「え?」

 

 鳳城院とノスフェラの声に自身の簡易ステータスを確認しようとした瞬間、地響きのような叫び声が轟いた。

 

「DooOoooOOOO!!!」

 

 それは全長20メートルを超えた、悪鬼。緑色の肢体の上に強固な白色の外骨格を纏う羅刹。

 

「【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】?まさか、これが<DIN>の言っていたUBMなのか?」

 

 鳳城院が言葉を発した瞬間、【ネトラプレシス】なる悪鬼目がけて、何かが放出された。

 それは…水。超高水圧で放出された水の一閃。

 その切れ味たるや、神話級金属すらも両断可能と思われるほど。

 そして、その水の一閃を受けて【ネトラプレシス】は無傷であった。

 

「なんなんだ一体?」

 

 俺はその水の一閃の放出元を見る。

 そこは海上。

 そしてそこより、姿を現すは巨大な水。半径50メートルはあろうかという巨大な水の球体だった。

 

「海上にもUBM。あっちは…【海玉唯在 メテロ】か。どうなっているんだ。UBMが二体も…」

「どうやら二体じゃないみたいだぜ」

「?」

 

 俺の言葉に疑問を浮かべるノスフェラ。しかし、すぐにその言葉の意味を知ることとなる。

 

 【ネトラプレシス】と【メテロ】に斬撃が走る。その斬撃を【ネトラプレシス】は自身の肉体の強度で受けきり、【メテロ】は《液状生命体》ゆえに肉体は切り裂かれてもその傷がすぐに塞がる。

 

 そして、それを為した者は…

 

「”陸”、”海”ときて最後は”空”か。【一切皆空 アヴァシンハ】さんよ!」

 

 大空より来るその形状不明な物体。全長100メートルは超える、黒紫色の結晶の如き輝きを放つ災厄である。

 

 そう、その場には奇しくも(・・・・)三体のUBMが集合していた。

 

 ◇

 

「…こんなことがあり得るのか?こんな場所に最上位の神話級UBM三体が鉢合わせるなんて」

 

 いち早く、異変に気づきその場から立ち去った兎男こと、【兎神】クロノ・クラウンはその光景に絶句していた。彼自身は【ネトラプレシス】の存在に気づきその場を去ったのだ。なぜなら彼は【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】がレベル100に到達した最上位の神話級UBMだと知っていたからだ。

 

 彼はドライフ皇国最強のPKにして、ドライフ皇国最強の準<超級>、そして管理AI12号ラビットでもある。そして、そんな彼は誰よりもその光景の異常さに気づいていた。

 

「【ネトラプレシス】だけならまだわかる。<厳冬山脈>から降りてくるはずはないと思っていたけど…。しかし、他の二体もだなんて」

 

 一応はドライフに籍を置く、クロノは周辺に存在する強力なUBMを知っていた。彼は最大で音の百倍以上の速さで動くことができるが、そんな彼すらも容易く仕留めるUBMの存在をあらかじめ知っておくことで、デスペナルティを防ぐためだ。

 

 彼にとって、世界を回る身体であるアバターを失うことは何よりも避けなければならないことだからだ。

 

 彼は【ネトラプレシス】のことを勿論知っていた。<厳冬山脈>に住まう最強の鬼。そこを住処にしている地竜や怪鳥であっても触れることすら許されない存在。【地竜王 マザードラグランド】や【彗星神鳥 ツングースカ】と同様に恐れられる存在。

 数百年前から<厳冬山脈>の山奥に籠っていたはずだが、気まぐれで降りてきたという可能性は否定できない。

 

 そして、そのクロノをして他の二体のUBMの存在は知らなかった。唯一分かるのはあれらの名前とそのレベル。【ネトラプレシス】と同様にレベル100に到達した最上級の神話級UBMであること。

 

「しかし、あの二体はなぜここに?僕が知らないってことは黄河か天地産のUBMってことだろうけど」

 

 あるいは【メテロ】のほうは四海のどこかで生まれたUBMかと、クロノが推察したその時、度肝を抜く光景が見られた。

 

「アイツらまさか、たった三人であの三体をどうにかするつもりか!」

 

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