"軍団最強”の男   作:いまげ

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正直、この話を投稿するのが一番怖い(主にバッシング)



34.【屍骸王】VS【海玉唯在】

 ◇

 

 ノスフェラが生みだしたアンデット、それはかつて神話級UBM【三源元素 クリスタリヴ】とそれが生みだしたエレメンタルの群れに打ち砕かれたアンデットモンスターを融合させてできている。

 

 【屍骸王】の奥義である【屍魂混合】は異なるモンスターのパーツを組みあわせてアンデットにできるというもの。

 

 故に、ノスフェラは伝説級UBM【甲竜王 ドラグアーマー】を基にした甲骸、古代伝説級UBMを基にした兵骸の残骸を掛け合わせ、さらに怨念のクリスタルによる強化を盛り込んでいる。

 

 その名は髄骸。兵骸の脚と凍結能力と武具生成能力、甲骸の装甲と竜王気、火炎とカウンター能力とを掛け合わせている。そのポテンシャルは神話級UBMにも匹敵するものである。

 

「海上に位置するUBMを降せないとでも思うかい?」

 

 髄骸はそのまま海上を超音速機動で駆ける。その理屈は単純、海水を凍結させて足場へと変えているのである。しかし、彼我の距離が縮まるなか、【メテロ】が見過ごすはずがない。

 

 【メテロ】より放たれるのは超水圧カッターである。名を《水閃》といい、それは神話級金属すら容易に両断する。例え髄骸であろうとも、喰らえば肉体をバラバラにされるだろう。だが、髄骸はそれを掻い潜っていく。

 

「いくら威力と速度を兼ね備えた超水圧カッターでも、発射地点が分かっていれば対応するのは難しくないネェ」

 

 そう言いながら、ノスフェラは髄骸を《死霊術》にて巧みに操りさらに距離を詰めていく。その最中、ノスフェラは独りあることを思う。随分アンデットの操作がうまくなったものだと。

 

 始めた頃は、自身の身体(・・・・・)すら動かせなかったというのに。

 

 ◇

 

 牧島希海には不満があった。

 両親が仕事で忙しいことである。

 両親とも働いており、共に出張などが多い身だ。

 仕方ないといえばそれまでだが、まだ幼い彼女には親の温もりが欲しかった。

 

 それでも彼女は年の割りには物分かりがいい子であった。

 親ではなく、別の家族から温もりを得ようとしたのである。

 それが飼い猫のトラである。

 それは彼女が五歳のころからの親友にして家族だ。

 彼女はトラがいることで心があったまるのを感じていた。

 

 それから誕生日毎に彼女は動物をねだった。

 両親は迷うことなく、それを買い与えた。

 彼女は飼い猫たちと幸せに暮らしていた。

 

 事件が起こったのは七歳の彼女を置いて両親共に海外出張に行くことになった時だ。

 無論、子供一人を置いて家を空けるなど無謀である。

 今までは忙しいとはいえ、両親のどちらかが家にいた。

 しかし、今回は両親とも三か月以上いなくなるのだ。

 両親は勿論心配した。

 だが、彼女は親が想像した以上に聡い子だった。

 教えたことは忠実に守り、家事代行システムといったロボットの力を借りて、問題なく過ごして見せた。

 それを見た両親は安堵した。

 

 ああ、これなら安心したと。

 

 そうして、短い彼女の一人暮らしは始まった。

 親と離れ離れになるのは寂しいが、それでもトラたちがいる。

 彼女は寂しくはなかった。

 

 毎日、欠かさず両親とのTV通話を行い、近況報告も怠らない。

 そうとも、両親とも忙しいだけで彼女のことが嫌いなわけではない。

 こうして心配をして毎日電話をくれる。

 彼女にはそれがうれしく、少しだけ寂しかった。

 

 だが、彼女は最も大切なことを教わっておらず、両親も教えていなかった。

 

 三か月の海外出張が終わった後、両親が見た光景は死臭漂う部屋の中で骨を剥き出しにしたトラと遊ぶ自分たちの娘であった。

 

 そう、彼女は生物の死というものを分かっていなかったのだ。

 いつしか動かなくなったトラを死んだと理解できず、いやそういう状態があることも知らず、遊び続けた。

 故にトラの死体は損壊した。

 そして、子供の無邪気さ故に、それを気持ち悪く思うこともなく過ごしてしまった。

 何より、死んでいるはずのトラに両親よりも温もり(・・・)を感じていたからだ。

 

 両親の行動は速かった。すぐさま、虎の屍骸を処分し、娘に再教育を行った。

 生き物には死があること。

 死体を弄んではいけないこと。

 骸はすぐに供養すること。

 …そして、金輪際、生き物に触れないこと。

 

 両親にも罪悪感があったのだろう。だが、それよりも娘がこれ以上過ちを起こさないように原因を根本から断った。

 それは彼女が14歳になっても続いていた。

 

 彼女は既に死も尊厳も十二分に学んでいた。

 元より聡い彼女はそれ以降問題を起こすこともなく成長した。

 だが、両親は彼女に動物と触れ合うことを赦さなかった。

 

 そして、14歳の彼女は歪んだ反抗期を迎えていた。

 元より、自身に温もりを与えてくれた存在である動物たちとのかかわりを断たれてしまってはそうもなろう。

 

 彼女は直訴した。

 動物と触れ合う権利を返してくれと。

 両親は沈黙し、幾らかの時間が経った後、あるゲーム機を渡した。

 このゲームはリアルと変わらないとまで言われるリアリティがある。

 この中で生き物たちと触れあって問題がなければ、赦すといった。

 

 或いは彼女がもう少し若ければ、或いはもう少し成熟していれば、その提案は素晴らしいものであっただろう。

 だが彼女は今、反抗期であった。

 そのゲームを強引に受け取り、自室に籠ってしまった。

 

 ”私は動物たちの温もりを感じたいだけなのに、ゲームの中で我慢しろって?そこまで言うなら、とことんやってやる!”

 

 彼女は反抗期故の行き場のない怒りを胸に両親の望む真逆の道を突き進んだ。

 アバターネームを不死者を意味する”ノスフェラトゥ”へと変えた。

 アバターも自身の身体をベースに全身白骨の骸骨少女となった。

 その歪んだ熱情はさらに突き進む…はずだった。

 

 降り立ったレジェンダリアの地で彼女は身動きひとつ取れなかった。

 それもそのはず、全身白骨のアバターなど動けるはずもない。

 

 親の命令で<Infinite Dendrogram>をやらされ、自らの好きな動物たちと触れあえない。このゲームをまともにプレイしなければ、それは一生適わない。

 

 そうして動けない身体のまま、屈折した感情が渦巻き、そして…

 

「大丈夫ですか、ノスフェラ様?」

 

 一人の男の子が現れた。

 

 彼は彼女をおぶってジョブクリスタルの前まで連れていってくれた。

 彼女よりもこの世界に詳しい彼は、彼女が付くべきジョブを教えてくれた。

 《死霊術》を使い、自身の身体を動かす術を教えてくれた。

 そして、彼が生みだした怨念の使い方を。

 

 それは両親の望んだ道ではなかっただろう。

 だが、それでも彼女は今、両親に感謝している。

 この世界に連れてきてくれたことを。

 

 そう、この世界は彼女に素晴らしい宝物と温もりをくれた。

 

 ◇

 

「人が感慨に浸っているというのに容赦ないネェ」

 

 ノスフェラはそう言いながら、周りを見渡した。そこには幾千幾多の水でできた人形がいた。そいつらのステータスは下級職程度といったところだが、塵も積もれば山となる。

 

「まるで【クリスタリヴ】だ。水を超高圧カッターにして打ち出す能力と、海水を基に数多の人形を生みだす能力。さらに人形も奴自身も《液状生命体》と来たか、多重技巧型の極みだネェ、これは」

 

 今、この瞬間も髄骸がその剣や銃で敵を討ち飛ばしていくが、すぐに再生していく。

 

 《液状生命体》は水そのものの肉体を意味し、分裂したり、体積を増やしたり、物理攻撃を無効にしたりなどといった強力な防御能力を有している。

 

 故に有効打は髄骸の火炎、凍結能力といったもの。だが、それで数を減らしていくが、それは【海玉唯在】が生みだす《水人連隊》からすれば微々たる量。なにより、それだけが脅威ではない。

 

 【メテロ】から放たれる《水閃》が髄骸を切り裂いた。一瞬の隙、それをあの水の球体は見逃さなかった。髄骸はアンデット故に、聖水ではないただの水では大したダメージにならず、即座に肉体の縫合が始まる。

 

 今回も攻撃などなかったかのように立ちあがり、攻撃を再開していく。しかし…

 

「…やばいネェ」

 

 《水人連隊》がノスフェラのいる陸地に迫ってきていた。これはまさしく、個人戦闘型と広域制圧型の戦闘の縮図。髄骸という個人戦闘型は戦いで死ぬことはないが、その防衛目標であるノスフェラが落とされる。超級職といっても生産職であるノスフェラは例えサブに【大死霊】を持っていても戦闘力は微々たるもの。相手が《液状生命体》となれば尚のこと。

 

「…」

 

 迷いは一瞬。考えたのは周りへの影響だけだった。

 

「良かったよ、ここいらがゴーストタウンで。海上やほかの生態系に影響はあるかもしれないけど、まああんなのがいる時点で今更だしネェ」

 

 そう言いながらノスフェラは髄骸の《死霊術》を解き、アイテムボックスより20の【怨念のクリスタル】を取り出す。

 

「ヨモ。必殺スキルを使う」

『了解です。ノスフェラ様』

 

 その瞬間、彼女のエンブリオ【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】はその身をノスフェラが座る玉座へと変える。その玉座に腰掛け、ノスフェラはさらに二つのクリスタルを取り出す。白と黒、対称な色のクリスタルを。

 

「さてと。王国を襲った超魔竜【グローリア】、その片鱗を味わってみるかい」

『《穢土の浄魂、浄土の穢魂(ヨモツ)反転するは我が境界にて(ヒラサカ)》』

 

 瞬間、ノスフェラの持っていた十つの【怨念のクリスタル】が黒く輝き砕け散る。黒紫の莫大な怨念がその場に漂い、黒のクリスタルからは黒い魂が飛び出し、混ざり合うように渦を巻き、カタチを変えていく。

 

 それは竜。子を狙われ、番を殺された悲劇の竜。UBMであったが、人間に殺されるのではなく、別のUBMに殺されたためにその魂は、その怨念は変換されることなく、<境界山脈>を漂い続けた。

 

 故に、その能力をノスフェラは生前以上の力(・・・・・・)で扱うことができる。

 

『《怨・絶死結界》』

 

 その瞬間、《水人連隊》は消え去った。それもそのはず、《怨・絶死結界》は合計レベル499以下の人間と99以下のモンスターを絶死させる能力を持つ。

 

 その破格のスキルは【死竜王 ドラグデス】本来の絶死結界を怨念によって強化したことによる。

 【死竜王】の絶死結界はレベル250以下まで、モンスターならば50以下までの相手しか抹殺できなかった。それを強化したのは<超級>に到達した【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】の必殺スキルによるもの。

 より強い怨念を生み出すことに特化した【ヨモツヒラサカ】は<超級エンブリオ>となったことで、怨念が生前保有していたスキルをさらに強化した状態で放つことが可能である。

 

「まあでも、生き残っているよネェ。【海玉唯在】のレベルは100かそれ以上といったところか」

 

 だが、このままでは【死竜王】の力も無意味なものになってしまう。必殺スキルの維持時間は10秒。それを過ぎれば再び、《水人連隊》が猛威を振るうことは想像に難くない。

 

 ならば…

 

「番を呼び出すだけだネェ」

 

 先ほどと同じように十つの【怨念のクリスタル】が黒く輝き砕け散る。違うのは白いクリスタルから白い魂が飛び出したこと。それらは混ざり合い、竜のカタチを模っていく。

 

「いくら《液状生命体》でも身体を蒸発させられたら無意味だよネェ」

『《(デッドリー)終極(オーバードライブ)》』

 

 すべてを飲み込む暗黒の極光。

 それもまた、【光竜王 ドラグシャイン】の光のブレス《終極》を怨念で強化したモノ。その輝きは【海玉唯在 メテロ】の全てを飲みこみ、跡形もなく消し去った。

 




自分としては伏線を巻いていたつもりだけど、ノスフェラが【光竜王】と【死竜王】を使うことに気づけた人は何人いたのか。
唐突と感じていなければ良いのですが…
え?矛盾?肩の力抜けよ(露骨な話題変換)

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