"軍団最強”の男   作:いまげ
<< 前の話 次の話 >>

35 / 50
え?ノスフェラがチートだって?大丈夫、フィルルが一番チートです。


35.【軍神】VS【一切皆空】

 ◇

 

「相手は空を飛ぶ飛行物体。まず、空を飛べないと相手にすらならないか」

 

 大空を飛ぶその形状不明な物体、【一切皆空 アヴァシンハ】はその飛行能力により、大抵の者は傷を与えることすらできない。

 【アヴァシンハ】が位置するのは上空三千メートル。尋常な手段ではまず、到達しえない高さである。

 

「狩ってて良かった、UBMと」

 

 【天翔駆甲 クィスヤッコ】を装備したフィルルは何気ない仕草でそのまま空を歩く。それもそのはず、【天翔駆甲】の有する能力《天駆》は単純明快、空を歩行できる能力である。

 今、フィルルは地面を駆けるように、いや地面を駆けるよりも速く空を駆けることができる。

 

 そして、フィルルは【三源輝套 クリスタリブ】のスキル、《エレメンタル・プロダクション》を使い、瞬時に三千(・・)の【スポアエレメンタル】を生みだした。

 【軍神】のスキルに《軍団》というものがある。その能力は自身のパーティー枠を拡張するというもので、最低でも千の拡張を可能とする。

 今のフィルルの《軍団》のスキルレベルは2。故に二千体のパーティー枠の拡張が可能。結果、フィルルは従属キャパシティとパーティー枠によって三千体の【スポアエレメンタル】を操れることになる。

 

 本来は、レベル0の子供にも劣る胞子の群れ。だが、フィルルという【軍神】の手によって、爆発的強化を受ける。【高位従魔師】の《魔物強化》と【喝采劇場 アンフィテアトルム】の《光る劇場の脇役》のコンボによって胞子達は伝説級に匹敵するステータスを手に入れた。

 

 そしてさらに《輝く劇場の主役》の効果によってフィルルのSTRやAGIといったステータスは六桁に到達した。故に、超々音速で空を駆けることが可能。そのまま【アヴァシンハ】との距離三千メートルを一秒で詰めた。

 

 フィルルはそのままアイテムボックスから双剣を取り出す。それはかつての強敵、【錬鉄武双 シノギタチ】が遺した双剣である。【シノギタチ】が《武双投影》によって生みだした数々の名剣は、彼が死した後も残り続けた。その名剣はティアンやマスターが作った業物を遥かに凌ぐ。フィルルはそれを手に取り、【アヴァシンハ】に斬りつける。

 

 それは【双剣聖】の奥義、《クロスホライゾン》。それは天地を分かつ斬撃を掛け合わせて行うもの。威力だけなら彼が持ちうる中で最強を誇る。

 フィルルは自身の戦闘能力を高めるために、今や効果の薄くなった【獣戦士】や【獣戦鬼】といったジョブをリセットし、【双剣聖】というジョブを手に入れた。

 それはステータスはあっても戦闘スキルや技術が足りなかった彼には最適のジョブ。双剣という武器スキル故に【軍神】でもそのスキルや奥義が発動可能。故にその斬撃は【アヴァシンハ】を容易く切り裂き…フィルル自身も斬り裂かれた。

 

 その威力はフィルルの与えた斬撃の10倍の威力を持っていた。尋常であれば、そのままフィルルは死んでいただろう。しかし、《ライフリンク》状態にあった虎丸がそのダメージを肩代わりしたため、ダメージは軽微。だが、今ので虎丸は限界、ジュエルに戻しながらフィルルは考察する。

 

(…斬撃、いやカマイタチか。最初に他のUBMに使っていたスキルと同種、だが威力が違いすぎる。最初の威力を考えれば、ENDが五千もあれば問題なく防げる程度の威力しかないはず。だが今のは…)

 

 その考察は正しい。【一切皆空 アヴァシンハ】のスキル、《帝刻》はカマイタチを生みだす。ただしリソースの関係か威力は大幅に抑えられている。フィルルの言うとおり、超級職や伝説級UBMであれば攻撃を喰らっても問題ない。また仮に耐久力が足りずとも、そのカマイタチはAGIが一万もあれば、容易に躱せる。

 

 故に、カマイタチの威力が百万近くになり、フィルルに気取られることもなく攻撃をできるはずもない。今も追撃とばかりにカマイタチを作り攻撃してくるが問題なく躱せている。

 

「タネがあるとしたら、まあ間違いなくUBMのスキル。…今与えた傷が塞がっているのも含めてな」

 

 UBMにはUBMたる所以がある。今、【アヴァシンハ】の傷を癒したのは《天命置換》というスキル。一定時間毎に自身の周囲の空気を糧としてHPを回復するスキル。

 しかし、回復能力とただカマイタチを作るだけのモンスターが神話級UBMとなれるはずもない。

 

「…考えられるとしたら、俺の行動を利用したモノ、カウンターか」

 

 フィルルの冴えは留まることを知らない。そもそものカマイタチの威力がフィルルの与えた威力の丁度10倍の威力を持っているというのが、それを補強した。

 

(恐らくは…与えられたダメージの十倍の威力を持ったカマイタチを作るスキル。いや発生速度を考えれば…)

 

 その考察もまた正しい。

 

 【一切皆空 アヴァシンハ】のスキル、《絶対反逆空滅帝刻》は自動で与えられたダメージの10倍の威力のカマイタチをその威力と同等の速度、飛距離で放つ。

 それはまさしく、最強のスキル。攻撃をすればその十倍返しが返ってくる。それは例え、【アヴァシンハ】を殺せる力を持っていたとしても、その力が自身を殺す鎌となるということ。

 

 故に、最強と目される神話級UBMや<超級>であっても、【アヴァシンハ】を害することはできない。【アヴァシンハ】はそうして長い生を生きてきた。

 外敵を煽る攻撃を続け、反撃してきた相手を更なるカウンターで殺す。【アヴァシンハ】自体も巨体に見合った莫大なHPを持ち、さらに受けた傷は自身の超高速回復能力で無為とする。戦闘においてこれほど厄介なUBMはいない。

 

「攻撃してきた相手に対して、カウンターを行う、か…試してみるか」

 

 そう言ってフィルルは【スポアエレメンタル】の一体を飛ばして攻撃を行わせる。そして、胞子は輝きオーラ攻撃を放つ。それは超級職の攻撃魔法にも匹敵する威力。

 それが【アヴァシンハ】に直撃した瞬間、攻撃をした【スポアエレメンタル】はカマイタチに切り裂かれた。そして、その胞子を生みだしたフィルルは切り裂かれていない。

 

 その瞬間、フィルルの顔は凶悪に歪む。

 

「カウンター攻撃に特化したUBM。そのカウンターを生かすための回復能力と莫大なHP。…なるほど条件特化型の極みだな。攻撃をしない限り、大した脅威にはならないが、相手へのカウンターという状況に関して言えば、それは神話級をも遥かに越えうる。…だが、それ故に俺には勝てない」

 

 それと呼応するように【スポアエレメンタル】達が一斉に牙をむく。それは【一切皆空 アヴァシンハ】のHPを削り、その十倍の威力を持ったカマイタチのカウンターで死に失せた。

 

 だが、殺したはずの【スポアエレメンタル】の群れがそこにはいた。そして先ほどと同様にオーラ攻撃を行い、死んでいく。驚異的なHPを持っている【アヴァシンハ】からしても、その威力は脅威的なもの。

 

 しかし、本来ならばその攻撃をしたものは死んでいるはず。それでも胞子達は死に失せることはなく、攻撃を続けている。いや、厳密には死んでいる。だが、胞子達が死ぬ以上の速度で補充されていくのだ。

 

 神話級特典武具【三源輝套 クリスタリヴ】はノーコストで瞬時に千体の【スポアエレメンタル】を生みだす能力。強力なスキルではあるが、短いながらもクールタイムが存在する。本来であれば、一度に三千体の胞子を産み出し、殺されたそばからクールタイムを無視して更に召喚などはできない。

 

 だが、フィルルにはもう一つ特典武具がある。耳に輝くイヤリングのアクセサリー、【武双勲章 シノギタチ】である。【武双勲章】は装備補正を持たず、ただ一つのスキルしか持たない。そのスキルとは《武双極化》。その能力は装備品を、いや特典武具のみを強化するスキル。

 【シノギタチ】を討伐した際、フィルルにとって最強の武器は紛れもなく【三源輝套 クリスタリヴ】である。故に、その特典武具は【クリスタリヴ】をより強化する形でアジャストした。

 よって、今の【三源輝套】の《エレメンタルプロダクション》は三千の胞子をノーコストで瞬時に生み出し、クールタイムも極端に短いため、連続使用ができる。

 

 故に三千の胞子が殺されても瞬時にその補充ができる。だが、その無限に匹敵する胞子の群れによるオーラ攻撃は、【アヴァシンハ】を殺しきれない。

 

 それは《天命置換》のよるもの。

 過去、グランバロアに襲来したSUBM【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】が有する周囲の水を肉体や武装に置換するスキル、《蒼海置換》に酷似した力。

 回復能力に特化して尚、《蒼海置換》には届き得ないが、それでもその回復能力は強力である。いまも、こうして胞子達のオーラ攻撃を受けてなお、そのHPは微減程度である。

 

「全く厄介な手合いだな。他のUBMの動向も気になる。いつまでもこいつ一人にかかりっきりというわけにもいかない。…仕方ない、火種を増やして一気に片をつける」

 

 そうして新たに生み出された【スポアエレメンタル】の群れは【アヴァシンハ】へ密着するように展開される。そして、零距離からのオーラ攻撃を放ち、【アヴァシンハ】のHPを削る。そして、《絶対反逆空滅帝刻》によってその肉体を切り裂かれ、胞子たちは…爆発した。

 

 その爆発によって【アヴァシンハ】は更にダメージを受け、《絶対反逆空滅帝刻》は発動しなかった。それもそのはず、攻撃を加えたモノに自動で行われるため、既に死んでしまったモノに対しては発動しない。

 そして、フィルルがHPを削る速度と【アヴァシンハ】のHPを回復する速度の天秤は崩れ、瞬く間に【アヴァシンハ】のHPは削られていく。

 

 そして、【一切皆空 アヴァシンハ】の最後のHPが削られ、“空”の神話の怪物は消え失せた。

 

 【<UBM>【一切皆空 アヴァシンハ】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】  

 

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】  

 

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【絶空甲刻 アヴァシンハ】を贈与します】

 

 【一切皆空 アヴァシンハ】の討伐アナウンスが聞こえた直後、

 

「我の馳走を奪うか、雑魚如きが」

 

 フィルルの肉体を何かが貫いた。








※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。