"軍団最強”の男   作:いまげ

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38.技と技、力と力

 破滅の時は近い

 

 ◇

 

 【天地海闢 メテロ】は恐ろしい能力を幾つか持っているが、最も恐ろしいのは《三態自在》のスキルである。

 

 三態とは、固体、液体、気体の物質の状態を指し、《三態自在》の力によって【メテロ】は自由に行き来できる。

 

 それが意味することは大きい。

 

 全ての生物にとって死に等しい肉体の蒸発も【メテロ】にとっては通常の状態の一つでしかない。故に【メテロ】は自身の肉体を灼ききる暗黒の極光を喰らっても、肉体が蒸発して、それだけである。容易に固体の状態に戻ることができる【メテロ】にとって肉体の蒸発はダメージになり得ない。 

 

 純粋性能型の神話級UBMを越えるステータスを持つ固体状態。《液状生命体》を備え、圧倒的防御能力と対応力を持つ液体状態。そして、ありとあらゆる攻撃を食らうことがなく、移動能力と隠密性に優れた気体状態。

 

 この三態を行き来できる【メテロ】は今、《三態自在》をさらに有効に使う新たなる技を生み出した。自身の肉体を核に水蒸気爆発を起こす、《髄液爆覇》である。

 

 その威力は想像を絶するほどであり、神話級UBMを容易く一撃で葬り、フィルル相手でもあと一歩というところまで追い詰めるほど。本来ならその威力は自らの肉体を犠牲に行う最終奥義とも言える技。だが【メテロ】にとっては水蒸気爆発で自らの肉体を木っ端微塵にし、水蒸気に変わったとしてもすぐに一番ステータスの高い固体状態に移れる。

 

 相手からすれば自爆した相手が眼前に現れるという悪夢以外の何物でもない光景。さらに液体状態から固体状態に移ることは瞬時に行われるため、気体という膨大な体積から小さな固体への転身を利用し千の距離すらも容易く詰める。

 

 そう、《髄液爆覇》からの攻撃は不可避のコンボである。まして、使われた技はただの《水閃》ではなく《水窮閃》。大海を介して放つ《水閃》と違い、《水窮閃》は【メテロ】自身が自らの肉体から放つ技。《水閃》とは技の威力も何もかもが桁違いのモノ。

 

 それを額にぶち込まれたフィルルは…生きていた。そして、いつの間にか周りを浮遊していた胞子は爆発し【メテロ】を飲み込んだ。

 

「…なるほどな。我はお前の一瞬の隙をついた。だが、お前は刹那の時があれば胞子を生みだし、ダメージを無効化できるということか」

 

 そう、【メテロ】の失敗はフィルルの目の前に姿を現したこと。虚を突かれたとはいえ、僅かな時で【スポアエレメンタル】を生みだせるフィルルにとってそれは死線に繋がるモノ。もしこれが背部に出現し、脳天を撃ち抜いていればそのまま勝てたかもしれない。だが、生まれたばかりの【メテロ】の詰めの甘さがそこで出てしまった。

 

「貴様の無限に胞子を生みだし、肩代わりさせる能力。我はこの身を活かした圧倒的な不死身の能力。互いに生存力と継戦能力に特化しており、決着はつかぬ。千日手ということだな」

「…」

「…ではもう一度だ!」

「!?」

 

 その瞬間、【メテロ】は再び、《髄液爆覇》を使った。そう、無限に胞子を生むフィルルを止めるには超広域殲滅攻撃しかない。それはさきほど、【メテロ】自身が証明して見せたこと。先ほどは【救命のブローチ】によって命をつないだフィルルだったが、それで【ブローチ】が砕かれてしまっている。故に次の《髄液爆覇》を防ぎ切る術はフィルルにはなく死を覚悟したフィルル。

 

 だが、爆発は確かに起きたものの、その威力は先刻の半分程度しかなかった。故にフィルルは【スポアエレメンタル】の過半数を失う程度で済んだ。勿論、ダメージは一切受けていない。

 

「…威力が下がっている。連続使用には制限がかかっているのか?…ッ!」

 

 フィルルは大海から放たれる《水閃》の群れを躱しながら、考えを改める。

 

(そもそも、この《水閃》の連続攻撃や同時攻撃を躱せていることがおかしい。先ほどまでの威力であれば俺は身動き一つ取れず、やられていたはずだ。だが、どの技のキレも落ちている。これもあの爆発の副作用か?)

 

 色々な考えが過るが、チャンスであることに変わりはない。自身の勝ちに繋げるための計略をフィルルは考える。その手に先ほど得た新たな力を纏いながら。

 

 【メテロ】は考えていた。自身の肉体を気体状態から固体状態に移すこともなく、水蒸気のまま周囲を浮遊していた。気体状態であっても《水閃》の連続攻撃や同時照射は問題なく使える。だが、威力が明らかに下がっている。これは気体状態だからというわけではなく、そもそも三態の違いで《水閃》の威力は左右されない。

 仮に固体状態に戻って《水閃》を使っても威力は低いままだろうという予感がある。だからこそ、【メテロ】は固体状態に戻ることなく、様子をうかがっているのだ。

 

(考えられるとすれば、やはり《髄液爆覇》か?発動することでステータスが低下するデメリットが存在したか?…あり得ん。我が作った技にそのような欠陥があるはずもない。まして、使うたびにステータスが低下するのであれば、二度目の使用でこの身は更に弱っていたはずだが、それもない。だとしたら全く別のトリガーか)

 

 【メテロ】はその瞬間、自らの肉体を固体状態に戻した。迷っていても仕方がない。行動を起こすことでトリガーのカギを探る。そう考え、《水閃》を超える威力を持つ《水窮閃》を放つ。だが、高い威力を持っているはずの《水窮閃》は先ほどの《水閃》程度の威力しか持ち合わせていなかった。

 

 その事実に苛立ちながらも、【メテロ】はフィルルを、いやフィルルの纏っている外套を狙う。幾度の戦闘の中で胞子を生みだしているのが外套であることに確信を持っていた。フィルルではなく、その最強コンボの源である外套を狙う、実に合理的な作戦であった。

 

 フィルルは瞬間的に現れた【メテロ】に驚きつつも、その狙いに正しく気付き、ギリギリのところでその攻撃を躱す。いや、外套への攻撃を自身の肉体で庇ったのだ。

 

その瞬間、周囲に漂う胞子は爆発し、フィルルからはカマイタチ(・・・・・)が放たれた。そのカマイタチに面喰う【メテロ】であったが、所詮はただのカマイタチ。固体状態では破格のステータスを、液体状態でも《液状生命体》という破格の防御スキルを持つ自身の肉体を傷つけることができるモノなどないと、若さ故の傲慢さが出た。

 

 そして、そのカマイタチをその身に喰らい、【メテロ】は生まれて始めてダメージを負った。それは《水窮閃》がフィルルに与えるはずだったダメージの二倍の固定ダメージ(・・・・・・)を与えたのだ。

 

「…よし!」

 

 その光景を見たフィルルは確信する。やはり【天地海闢 メテロ】には固定ダメージが通用すると。

 

 彼が先刻倒した神話級UBM【一切皆空 アヴァシンハ】の特典武具、【絶空甲刻 アヴァシンハ】は籠手型の装備品。そしてそれの有する能力は《絶空帝刻》、【アヴァシンハ】が有していた《絶対反逆空滅帝刻》をマスターであるフィルルに向けてアジャストしたモノ。

 

 発動中、自身に与えられたダメージを倍化した固定ダメージ・防御能力無視のカマイタチをその威力と同等の速度、飛距離で自動で放つ。神話級特典武具の持つリソースを装備補正に回さず、スキル一つに特化したが故の強力無比の性能である。そしてこれは【メテロ】を倒し得る切り札になり得る。

 

 だが、これはある意味当たり前のこと。三神激突を計画したジャバウォックは、三体の神話級UBMが戦いを経てレベル100の壁を超える事を期待していた。つまり、誰もが誰かを倒せる手はずだった。故に【メテロ】の切り札になり得るのは他でもない【アヴァシンハ】と【ネトラプレシス】に他ならないのだ。

 

 それは【メテロ】がレベル100の壁を超えイレギュラーとなり、【天地海闢 メテロ】になった後でも変わらない。【メテロ】の《液状生命体》に対抗できる【アヴァシンハ】の《絶空帝刻》はこの場において強力なキラーアイテムだ。

 

 【メテロ】は生まれて初めてダメージを与えたフィルルを愛おしそうに眺め、そして激昂したように《水窮閃》を乱射した。それは激昂した彼が新たに生みだしたスキル、《海無水窮連閃》である。

 

 【メテロ】自身の肉体から放たれる《水窮閃》を一瞬で千発以上連射し、叩き込む最強の技。或いは初めにそれを使えていれば、それだけで勝ちは【メテロ】のモノだったとさえ思わせるほどの連射撃。

 

 だが、どういう訳かステータスが半減している【メテロ】の《海無水窮連閃》は、今のフィルルにとって死を確定させるほどのモノではない。むしろその連射を利用し、《絶空帝刻》を多重発動させる。

 《海無水窮連閃》に対応するように放たれる《絶空帝刻》、その全ては【メテロ】に直撃し、半減している【メテロ】のHPをさらに減少させる。

 

 このまま、【メテロ】の怒り狂った攻撃が続けばフィルルの勝利が確定する。そうフィルルが思った瞬間に巨大な拳が迫った。フィルルは寸前のところでその攻撃を躱す。そして、空中で行われているはずの二人の戦いに加勢した()を見やる。その拳の威力や速度は、それが模しているモノのステータスを完全に再現していた。そう【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】を。

 

 【海玉唯在 メテロ】は《水人連隊》というスキルを有していた。それは海水から数多の水兵を生みだすというモノ。一体一体は下級職程度だが、《液状生命体》でできたその幾千の大群は強力無比である。

 

 そして【天地海闢 メテロ】はそれをさらに昇華させた。【海玉唯在】が数や量に重点を置いていたのに対して、【天地海闢】は質と強さと技に重点を置いた。幾多の水兵を生みだすのではなく、最強の個を模り、生み出す。それに相応しい相手は彼をイレギュラーへと誘う糧となった【殺陸兵鬼】をおいて他にない。 

 

 【メテロ】は気づいていた。数多の攻撃は攻略の糸口を探していたため。そして今、答えは得た。敵のカウンターは攻撃者に対して行われるもの。ならば、攻撃者に別のモノを仕立て上げればいい。そこで《殺海兵鬼》で生みだされた水鬼を介して攻撃を行うことに決めたのだ。

 

 だが、水鬼が一体増えたところでフィルルの優勢は傾くことはない。フィルルが無尽蔵に生みだす胞子とそれが生みだす継戦能力を覆すことはできないと。そうフィルルが思った瞬間、水鬼は水蒸気爆発(・・・・・)を起こした。その威力は【メテロ】が二度目に放った《髄液爆覇》に匹敵する。

 

「海水でできた水鬼だ。《髄液爆覇》を使えない訳がないだろう」

 




ホンマ、チートとチートのぶつかり合いやわ(反省)

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