"軍団最強”の男   作:いまげ

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39.最期の力

 破滅の時は来た

 

 ◇

 

 《殺海兵鬼》で生みだされた水鬼はそれを基にした【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】のステータスを完全に再現している。また、純粋性能型神話級UBMのステータスに加えて《液状生命体》といったスキルを持ち合わせている。

 それだけでも十分に脅威すぎる存在。だが、水鬼はさらに自らの海水の肉体を基に、《水閃》や《髄液爆覇》といったスキルも問題なく使うことができる。そのままUBMに認定されるほどのスペックを有している。純粋性能型の神話級のステータスで引き起こす《髄液爆覇》の威力は強烈の一言。

 

 しかし…

 

「ステータスに比例した水蒸気爆発を起こす《髄液爆覇》。それを水鬼で起こしてみたが…お前を倒し切るには足りんか」

 

 それでもフィルルと胞子の大軍を殺し切るには足りなかった。神話級の水鬼の水蒸気爆発を以ってしてもだ。

 爆発の中から無傷で現れるフィルル、だが装備している【絶空甲刻】の《絶空帝刻》は発動しなかった。それもそのはず、フィルルにダメージを与えた水鬼は既に消失している。

 攻撃したものがいないのであれば、カウンターが発生しないのは道理、それは奇しくも【アヴァシンハ】を倒したフィルルと同じやり方だった。

 

 

 しかし、フィルルにダメージがないのでは意味がない。

 最早、フィルルを倒すには【メテロ】自身の本来のステータスで引き起こす《髄液爆覇》でしか仕留めきれない。だが、今の【メテロ】のステータスは半減しておりそれは叶わない。

 

 そして、フィルルに直接攻撃を加える愚を【メテロ】は行わない。また、この戦いが千日手に至るかと思われた。

 

 だが…

 

「ならば、数を増やすだけだ」

 

 その瞬間、大海より三体の水鬼が生みだされた。そして、三体の水鬼による連鎖《髄液爆覇》、それは最初に【メテロ】が引き起こした水蒸気爆発に匹敵する。

 その直撃を受ければ、【救命のブローチ】を既に失っているフィルルは死ぬ。そして、その三体の水鬼はフィルルを囲むように展開していた。

 それ故にフィルルがその位置に存在している限り、その爆発を逃れる術はない。水蒸気爆発はフィルルを飲み込むように炸裂し、消し飛ばした。

 

「フム、生みだせる水鬼は三体が限度か。まあいい、三体の水鬼の猛攻から逃れる術はない。アイツは死んだな」

 

 UBMになり得るほどのスペックを有している水鬼だが、決してUBMとなることはない。第一に、【メテロ】が生みだした眷属であること。第二に…【メテロ】は同一のモノを何体でも生みだせるからだ。

 同時に生みだし、使役できるのは三体が限度だが、それの意味することは大きい。減ってもさらに次を呼び出せるということだからだ。

 

 この戦いの勝敗は決した。強敵であったが打倒した。

 その過程で【メテロ】は数多の力を開花させた。ならば【メテロ】が望むのは新たなる強敵との戦い。それは自らに更なる成長と飛躍を齎すと認識したが故に。

 

 しかしその瞬間、数多の火炎が【メテロ】の身に突き刺さる。本来であれば、ただの火炎攻撃など《液状生命体》である【メテロ】には一切のダメージを与えないはずだった。だが、それは微量ながら、【メテロ】のHPを削り、ダメージを与えていた。

 

 そしてどういう理屈かは分からない。だがそんなことができるのは…

 

「生きていたか…」

「何度その爆発を受けてきたと思ってる。対処法は、いや軍略は既に出来てるさ!」

 

 そう、フィルルは【メテロ】に勝つために新たに二つの軍団スキル、すなわち軍略を生みだしていた。強敵との戦いで数多の力を開花させたのは何も【メテロ】だけではない。その相手であるフィルルもまた同様だ。

 

 フィルルが《机上の空略》で新たに生みだしたスキルは《転置の陣》と《犠焔の陣》の二つ。

 

 《転置の陣》はフィルルも習得している【高位従魔師】のスキル、《キャスリング》を軍団用にカスタマイズしたもの。《キャスリング》は手持ちのモンスターと自分の位置を入れ替えるスキルだが、有効射程が然程長くない。フィルルはその有効距離とクールタイム減少という最適のカスタマイズを加えた。

 

 三体の水鬼による連鎖《髄液爆覇》も一番離れていた【スポアエレメンタル】と自身の位置を入れ替えて直撃を避けたのだ。そして、今度は【メテロ】に最も近い【スポアエレメンタル】と自身の位置を入れ替えて奇襲をかけた。

 

 放ったのは《犠焔の陣》で生みだされた蒼い焔。それは噂に聞いたこの国の超級、【魔将軍】が有するスキル、《コンバージョン・デモン・フレア》をカスタマイズしたモノ。

 《コンバージョン・デモン・フレア》は呼び出した配下の悪魔を消し去り、消去した悪魔1体につき、100のダメージを与える攻撃魔法に変換する。フィルルはこのスキルを基に、配下のモンスターを消し去り、消去したモンスター一体につき、接触した相手に100の固定ダメージを与える蒼い焔へと変換した。さらにこの蒼い焔への変換速度も焔の速度も《コンバージョン・デモン・フレア》の炎よりも格段に速い。

 

 この二つのスキルはフィルルが【メテロ】を倒すために生みだしたキラースキル。絶死の威力を持つ《髄液爆覇》から逃れる術と固定ダメージしか通らない【メテロ】へダメージを通す術、この二つの組み合わせはフィルルを勝利に導く。

 

 再び《犠焔の陣》を展開するフィルル。与えるダメージは微量だが、無限に近い生存能力を持っているフィルルには些細なこと。固定ダメージを永遠と与え続け、どのような耐久力、防御能力持つものを死に至らしめる、それこそが《犠焔の陣》。その危険性に気づいた【メテロ】は即座に回避行動をとる。

 

 不意を突かれた奇襲攻撃ならまだしも、認識している今の状態でその蒼い焔は十分に回避できる。例えステータスが半減した今の状態でも…

 

 そう【メテロ】が思考した瞬間、そのステータスが更に半減した。本来のステータスから四分の一となった【メテロ】の回避行動もむなしく、蒼い焔が直撃した。《液状生命体》の効果も無効にする蒼い焔は【メテロ】の生命を灼き、その命は風前の灯となった。

 

 ではそもそも、今まで【天地海闢 メテロ】のステータスを半減させていたのは誰だったのか。それは他でもない【メテロ】が倒した【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】である。

 【ネトラプレシス】の能力、《頽廃領地》は領域内に存在するモノのステータスを半減させる。そしてHPが減少する度にその半減能力を強めていく。

 

 ではそのHPが0になればどうなるのか。それこそが【ネトラプレシス】の最終奥義、《頽廃怨地》の発動トリガー。ジャバウォックですら知りえない彼の最後の切り札。

 自身のHPがゼロになった時、自身のHPをゼロにしたもののステータスを永続的に半減し続けるというモノ。そして、それは一定時間ごとに半減の力を強めていく。

 

 それ故に、【ネトラプレシス】を倒した者のステータスは長い時間をかけて、最終的にステータスが下級職以下の存在となる。それはイレギュラーとなった【メテロ】でも例外ではない。【ネトラプレシス】を倒したことでイレギュラーとなった【メテロ】もその時点では神話級、耐性もそれに準じている。それ故に死をトリガーとする《頽廃怨地》はレジストされることもなく、万全に発揮している。

 

 【メテロ】は既にステータスを二度半減されており、本来のステータスの四分の一になっている。最早、そのステータスは神話級以下のモノになっており、さらに時間を経れば、そのステータスは伝説級以下となり、最終的にレベル0の人間にすら劣るものとなる。如何に《液状生命体》であるとはいえ、死の危険性は極限まで高まる。

 

 そう、【ネトラプレシス】を倒してイレギュラーになった【メテロ】は、【ネトラプレシス】を倒したが故にそう遠くない未来、死が確定していた。

 

 ◇

 

 【ネトラプレシス】の能力から自身の今の状態に対する答えを得た【メテロ】、彼が取った行動は決死の逃走であった。せっかく新たに生まれた命だ。そして目の前にいるのは自身を殺す術を持つ不死身の人間。死から逃げるのは当然であった。

 

 【メテロ】は自身の肉体を《髄液爆覇》によって水蒸気にして拡散させた。フィルルの持つ攻め札は《絶空帝刻》によるカマイタチと《犠焔の陣》の蒼い焔。その内、カマイタチは攻撃を加えなければ発動せず、蒼い焔は接触しなければ効果を発揮しない。そう、気体状態の【メテロ】を傷つける術はフィルルには無い。いや、《液状生命体》を超える防御能力を持つ気体状態の【メテロ】を倒せるモノなどいない。

 

「逃げ切れると思うかネェ、キミはワタシの獲物だよ」

 

 そう彼女以外には。【屍骸王】である彼女を除いては。

 

 【メテロ】に五体を切り裂かれたノスフェラは今、その肉体の復活を果たした。その眼前に移るのは無様にも逃走を図ろうとする敵対者であった。そんなモノ彼女が許すわけがない。そしてノスフェラには気体状態となった【メテロ】を倒す術が、怨念が存在する。

 

「本日三度目の必殺スキルだ。問題はないかいヨモ?」

『問題なく』

「それは上々。じゃあ、あのいけ好かないUBMを倒すとするかネェ」

 

 その言葉のあと、ノスフェラはアイテムボックスから四つの【怨念のクリスタル】と薄黒いクリスタルを取り出す。そして、ヨモはノスフェラの座る玉座となり、

 

「《穢土の浄魂、浄土の穢魂(ヨモツ)反転するは我が境界にて(ヒラサカ)》」

 

 その瞬間、ノスフェラの持っていた四つの【怨念のクリスタル】が黒く輝き砕け散る。黒紫の莫大な怨念がその場に漂い、最後のクリスタルからは赤黒い魂が飛び出し、混ざり合うように渦を巻き、カタチを変えていく。

 渦から黒紫色の腕が伸び、順に胴が、両足が、顔が形成される。まさに人型の怨念というべきそれは莫大な殺気と怨念を振りまく男の姿だった。

 

「さあ、【生贄】は他でもないこの私だ。思う存分暴れるがいい」

 

【《DeddddddddryyyyyyyyyyySacrificeeeeeeeeVaniiishinggg》!!!】

 

 スキルの発動と同時、【生贄(ノスフェラ)】は即座に消え失せ、敵であった【天地海闢 メテロ】もこの世から存在ごと消え失せた。あの【メテロ】を消し去ったスキルは領域内に存在するHP三十万以下のモノを即座に消失させるスキル。

 例え気体状態であってもそこに存在する以上、このスキルの対象となる。そしてあの場にHP三十万以下の者は【メテロ】しか存在しなかった。気体状態という無敵を以ってしても、その技を避ける術はなく【天地海闢 メテロ】は消え失せたのだ。

 

 【<UBM>【天地海闢 メテロ】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【天地海誕 メテロ】を贈与します】

 




簡単にまとめた【天地海闢 メテロ】

①六桁を誇るステータス
②《液状生命体》
③《水閃》や《髄液爆覇》、《殺海兵鬼》といった強力スキルを生みだし繰り出す
④負けそうになったら無敵の気体状態で逃亡する

正直、フィルル一人では勝てなかった。

一番のMVPは【ネトラプレシス】。ステータスが半減されたことで《水閃》や《髄液爆覇》の威力が減少したため。本来のステータスであれば、フィルルは早々にやられていた。
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