□霊都アムニール 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット
今日も俺は街の外でレベル上げに励み、落ち着いたら霊都に戻るを繰り返していた。
やはり<Infinite Dendrogram>でもレベルが上がるにつれて必要経験値が増えてきている。
かといって低レベル帯の時と比べてレベルアップのペースが落ちているかと言われればそれはNOだ。
理由は狩り場所の変更。
初めの頃狩りを行っていた場所よりも遠くに来ている。やはり霊都から離れれば離れるほど出現モンスターは強力になっていく。よい強いモンスターを倒せばより多くの経験値をもらえるのでリターンも大きいというわけだ。
ただ、強力なモンスターの一体、【ブラッドウルフ】というモンスターを初めて見たときは苦戦をするのではないかと思った。
しかし、苦戦という苦戦もないままウルフを倒すことができた。
【従魔師】のレベルで言えば、下級職の折り返し、25にも到達している。そのレベルであれば苦戦する相手ではないということだろう。
また、虎丸も経験値を得ているためかどんどん大きくなっている。おっさんが言うにはそろそろ進化するのではないかということだった。虎丸の場合【リトルタイガーキャット】から【タイガーキャット】というモンスターに進化するらしい。
何より大きいのは俺のエンブリオ、【喝采劇場 アンフィテアトルム】と【従魔師】のシナジーのおかげでもある。このシナジーのおかげでより戦いやすくなっており、俺も積極的に攻撃に回れる。
唯一の難点がアンフィテアトルムを使うにはMPが必要ということだ。今もこうしてMP回復ポーションでMPを回復している。
エンブリオにはステータス補正というものがあり、アンフィテアトルムはMPの補正のみ高いのだが、【従魔師】自体のMPがそこまで多いわけではないのでMP管理が大事なのである。
狩りで得たモンスターのドロップ品の多くは換金し、多くはHPとMPの回復ポーションに消えて、残りは装備品の新調のため貯めこんでいる。
「これじゃあ、いつおっさんに借りを返せるかわかったもんじゃないな」
今朝も狩りに行く前におっさんと虎丸の話をしてからきたが、世話になりっぱなしだしな。
今こうして飲んでいるポーションの安い仕入れ方も教えてくれたのはおっさんだった。
「そろそろ俺もパーティを組んでみるか?」
一人でここまで狩りを続けてきたが、やはりソロの狩りは効率が悪い。
倒したモンスターからドロップする素材と戦闘に使う消耗品、さらに装備のためのお金。一応まだ黒字だが、これからもそれが維持できるかはわからんしな。何より、ひとりだけだと初見殺しが怖すぎる。
この前なんかマスターの【剣士】っぽい奴がゴリラみたいなモンスターに挑んで殺されてたもんな。
あのゴリラ、おっさんが言ってた亜竜クラスってやつだろうが…今の俺でもおそらく勝てない。それこそパーティーを組んでようやくといったところだろう。
何より俺は【従魔師】だから虎丸が死んだら一気におしまいとなる。
マスターと違いテイムモンスターは死んでしまう。そして、テイムモンスターを失った【従魔師】なぞ簡単に殺されてしまうだろう。
この場所であのゴリラと同じようなモンスターは早々見ないが用心に越したことはない。見つけたらすぐに逃げる、これ大事。
「しかし、パーティーを組むといってもどうしたもんかな」
「ニャー?」
俺みたいなやつをパーティーに入れてくれる奴なんているかな?こっちにはリアルの知り合いはひとりもいない。パーティーを組めるか一抹の不安を感じる。そう思いながら多くのマスターが集まるという冒険者ギルドに向かった。
◇
結論からいえばパーティーが組めるかどうかなんてのは杞憂だった。
冒険者ギルドではクエストために臨時パーティを組むことはめずらしくなく、マスターがルーキーばかりということもあり、多くのマスターが手と手を組みクエストに挑んでいた。
俺もその臨時パーティーに運よく入ることができた。メンバーのうち何人かは街中で見たことがあるメンツもいる。今は集まったパーティーで自己紹介とクエストのおさらいをしていた。
「俺はフルメタル。【拳士】をやっている。今回のクエストは俺が仕切らせてもらうが異論はないか?」
「「「「「・・・・・」」」」」
「…ないようだな。今回のクエストは霊都の東部周辺に出現した亜竜級モンスター【ブラック・ドルイド】の討伐だ。相手は亜竜クラス。全員が下級職のこのパーティーなら倒せるだろう。何より我々にはエンブリオがある。初心者同士で手探りだろうが頑張ろう」
「オー」
「ニャー」
とりあえず返事をしておく俺と虎丸。
そうするとフルメタルさんは苦笑したように俺を見つめる。
「掛け声ありがとう。君の名前は?」
「フィルル・ルルル・ルルレット。【従魔師】をやっている。でこっちの猫が虎丸。よろしくな」
「なにその猫かわいいー」
自己紹介を終えるとさっそく俺の虎丸に食いついてくる女の子。
「あっと。わたしの名前はゆるり。【司祭】やってまーす」
「ああよろしく。回復役がいてくれるのはうれしいよ」
「はーい、がんばりまーす」
なんかゆるそうな子だなー。正直タイプかも。
ま、こっちじゃ女の子でもリアルじゃどうかはわからないしな。むしろあーゆうタイプはネカマに多い(独断と偏見)
そういやどっかで見たことあるとおもったら、そういやあの子のエンブリオって…
「次は自分であるな。自分の名前はドリルマン。【蛮戦士】をしているのである。よろしく頼むのである」
「ああ頼まれた。【蛮戦士】ってのはなにができるんだ」
「【蛮戦士】自体はオールラウンダーであるが、自分は防御を得意としているのである」
「タンクか。いいメンツだ」
…その語尾はキャラ設定なんですかね?
てかドリルマンで思いだしたがこいつのエンブリオって確かドリル…
「私はロゼ・オクリエ。【狩人】をやっている」
「【狩人】か。討伐クエストには欠かせないな」
「ちょっとタンマ。あんたは【狩人】なのか?【従魔師】ではなく?」
俺はつい聞いてしまった。
俺はこの女を知っている。この女のエンブリオを知っている。
この女のエンブリオは”象”。そうガードナーである。
このパーティーのメンツはフルメンバーの6人。
【従魔師】ではない【狩人】では従属キャパシティは満たせないだろう。つまり、ガ-ドナーである彼女のエンブリオは機能しなくなる。
そう思い、疑問を呈したのだが、
「…君は【従魔師】だったね。それもガードナーではなく野生のモンスターを扱う【従魔師】。君が何を思ってその疑問を抱いたか予測がついたよ」
「…?」
「君は知らないだろうが…ガードナーの従属コストは0だよ」
「…なん…だと」
「考えてもみたまえ。もし、コストが0でなければ、ガードナーに孵化したものは従魔師系統にならなければ自分の<エンブリオ>さえまともに扱えなくなってしまうだろう」
…たしかに。くそ、ガードナーにそんな隠された特典があるなんて。こいつ羨ましすぎるぞ。
「急に泣き出して一体君はどうしたんだ?」
「おーい、フィルル君。最後の一人の紹介がまだ終わっていないんだ。落ち着いてくれるかな?」
「フィルルさんハンカチでーす」
「心を強く持つのである、少年」
みんなにドン引きされつつ、心配される情けない男の姿がそこにはあった。
「すいません、俺ガードナー恐怖症なんです。俺に構わず紹介を続けてください」
「ガードナー恐怖症って…」
「やれやれ、最後は君だ」
フルメタルさんが促すと最後のイケメン王子は随分と間を置いて自己紹介を行った。
「…僕はフィガロ。【闘士】の、フィガロ」
言いたいとことはわかります。
なぜ、エンブリオの詳細を言わないのか。
なぜフィガロを出してしまったのか。
理由はそっちの方が面白そうだからです。
フィガロファンの人申し訳ない。