"軍団最強”の男   作:いまげ

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エピローグ


40.嵐の後の

 <三神激突>の行く末を見ていた二人の管理AIはその結末を見届けた。結末は首謀者の望んだ結果では決してなかったが。

 

「…」

「【グローリア】に続いて、またも君の策は失敗したってところだね」

 

 そう言いながら、管理AI十二号であるラピッドはその場から立ち去る。

 

「これに懲りたら、真面目に自分の仕事をこなすんだね」

 

 部屋を立ち去る寸前に部屋の主に放った言葉に対して、管理AI四号であるジャバウォックは言葉を返す。

 

「…そうだな。次は黄河へ【四霊万象 スーリン】を投下する予定だ。そのための調整をしていかなければならないからな」

「まあ、頑張ることだね、僕には関係のないことだけど」

「だが、お前もすぐに忙しくなる。ドライフの政変は終わり、王国との戦争となる。お前の出番だ十二号」

「…」

 

 その言葉に対してラピッドは苦々しい表情を向ける。それは彼にとって逆鱗に触れるものだったからだ。吐き出したい思いはあっただろうが、何も言わずそのまま立ち去っていくラピッド。そしてそれに興味を示さず今の戦いのデータの分析をするジャバウォック。

 

【霞纏鬼 カイゼルデモン】

 最終到達レベル:46

 討伐MVP:【超弓武者】シュバルツ・ゲッヘ Lv580(合計レベル1080)

 <エンブリオ>:【窮弓射 イージス】

 MVP特典:伝説級【霞纏矢 カイゼルデモン】

 

【鋼鉄血 ヴェキナ】

 最終到達レベル:73

 討伐MVP:【死商王】マルス Lv666(合計レベル 1166)

 <エンブリオ>:【弩級工廠 アレス】

 MVP特典:古代伝説級【鋼鉄液 ヴェキナ】

 

【塞天去死 モンショウ】

 最終到達レベル:51

 討伐MVP:【鎌神】華刈姫 Lv235(合計レベル735)

 <エンブリオ>:なし

 MVP特典:伝説級【塞天眼 モンショウ】

 

【一切皆空 アヴァシンハ】

 最終到達レベル:100

 討伐MVP:【軍神】フィルル・ルルル・ルルレット Lv187(合計レベル687)

 <エンブリオ>:【喝采劇場 アンフィテアトルム】

 MVP特典:神話級【絶空甲刻 アヴァシンハ】

 

【天地海闢 メテロ】

 最終到達レベル:101

 討伐MVP:【軍神】フィルル・ルルル・ルルレット Lv187(合計レベル687)

 <エンブリオ>:【喝采劇場 アンフィテアトルム】

 MVP特典:神話級【天地海誕 メテロ】

 

「人選を誤ったか。【殺陸兵鬼】があんな隠し玉を持っていようとは…」

 

 ジャバウォックの脳裏に過るのは【殺陸兵鬼】の最終奥義《頽廃怨地》についてだ。あれがなければ、新たに生まれたイレギュラー【天地海闢 メテロ】はドライフを蹂躙し、新たな<超級>を生みだしていただろうことは想像に難くない。

 

 しかし結果を見れば、【ネトラプレシス】の最終奥義があったとはいえ、【軍神】と【屍骸王】の二人によって討伐されている。管理AI一三号であるチェシャに匹敵する生存能力を持つ<超級>とあの【グローリア】の両親の怨念を使役する<超級>の二人によってだ。

 

 SUBMに匹敵するとはいえ、イレギュラーはあくまで神話級UBM、故に特典武具は超級武具と違い複数ではなく、単一のモノしか落とさない。

 つまり、【天地海闢 メテロ】の特典武具は一つ。それはイレギュラーの持つリソースが一つに集約されるということ。神話級武具であるため、装備補正はそれに準ずるが、スキルはイレギュラーのものに準じる。さらにステータス補正のないスキル特化の特典武具となればそのスキルは計り知れない。

 

 そして【天地海闢 メテロ】の特性から考えられる神話級特典武具【天地海誕 メテロ】の能力は…

 

「【軍神】フィルル・ルルル・ルルレットか。さて、彼は…【メテロ】を扱い切れるかな?」

 

 ◇

 

「いやー、恐ろしい戦いだったねぇ。まさかあんな最北端の場所であんなモンスターが現れるなんてねぇ」

 

 彼、いや彼女は【大教授】Mr.フランクリン。彼女がいるのはドライフ皇国のトップクランである<叡智の三角>の本拠地、その中心部にあるオーナーの私室。【グローリア】事件と同様に彼女はドライフ最北端の街で起こった三体の神話級UBMの衝突、それを発端とする<マスター>とUBMの争い、そして誕生したイレギュラーとの大戦闘を映像としてみていた。

 

 彼女が最北端で神話級UBMが出現することを知っていたのは他でもない、<DIN>からの情報だ。準<超級>のマスターにのみ広布されたUBMの出現情報。彼女はその情報の真偽を確かめるべく偵察用モンスターを送り観察をしていたのだが、情報が正しいとわかった時には既に戦闘は始まっており、彼女が手を出せる状況ではなくなっていた。

 

「そもそも、手を出せたところで私に倒せたかといえば、疑問だねぇ。…どれもレベル100に到達した神話級モンスター。例え対策を立てて、アンチモンスターを作れたとしても、リソースが足らず勝負にならないでしょうね」

 

 彼女は完璧すぎる見立てを立てた。それは自身の能力のなさを認めるようなものだが、気にすることは欠片もなかった。それよりも気になることが多すぎたからだ。

 

「最後のUBM、あれは神話級の領域を逸脱していた。【グローリア】には劣るでしょうけど、それと同格の存在。つまりSUBMもしくはイレギュラーってこと。そしてそんな奴相手に真正面から戦って生き残り、特典武具まで得た【軍神】か」

 

 【軍神】の名ならば彼女も知っていた。”幻獣旅団”の二つ名で呼ばれる【軍神】フィルル・ルルル・ルルレット。西方三国で慈善活動を行っている無所属のマスターだ。

 彼の能力について詳細は分かっていないが、《軍団》スキルを持ち、千を超えるエレメンタルと不死の獣を操るとされている。そして、今回の映像から考えられるのは…

 

「随分と配下のモンスターと《軍団》スキルを使いこなすものだ。全くうちの【魔将軍】閣下にも見習ってほしいもんだねぇ」

 

 彼女は映像に映る【軍神】とドライフの決闘ランキング一位【魔将軍】との戦いの差に嘆息した。彼のエンブリオは言うまでもなく強力なのだが、それを活かすジョブ構成も戦術プランもない【魔将軍】には正に宝の持ち腐れと彼女は鼻で笑った。

 

「まあそうは言っても皇国の最大戦力の一人であることには変わりはないんだけどねぇ」 

 

 ドライフの<超級>は【獣王】と【魔将軍】のみ。この数は他国と比較してもやはり少ないと言わざるを得ないだろう。それに何より…

 

「次期皇王はラインハルト殿下に決まった。まあ”物理最強”の【獣王】が彼の陣営についたんだ。特務兵がどれほどのモノであってもこの結果は見えていたさ」

 

 ”物理最強”の【獣王】とティアン最多戦力保持者の【無将軍】、この二人を抱えるラインハルト陣営が政変で負けることなどありえなかった。特務兵が雇った<超級>すらも退け皇王の座を射止めたのだ。

 

「しかしそうなると王国との戦争は決定的だねぇ。…西方三国で慈善活動を行うフリーの<超級>か。新しい皇王へ早速プレゼントと行こうじゃないか」

 

 新しい皇王の目的を知っていたフランクリンは情報という手土産を持って皇王宮へと向かうのだった。

 

 ◇

 

 

【<UBM>【天地海闢 メテロ】が討伐されました】

 

【MVPを選出します】

 

【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】

 

【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【天地海誕 メテロ】を贈与します】

 

「…」

 

 そのアナウンスは今まで生死を賭けた戦いをしていた相手が死に絶えたことを意味していた。

 《髄液爆覇》によって自身の身体を水蒸気に変え、気体状態で逃亡を図ったはずだったが、ノスフェラの必殺スキルによって、そのまま殺されてしまった。

 

「今回は自分を【生贄】にしたのか…」

 

 フィルルの脳裏によぎったのは彼女と初めてUBMと戦ったときのことだった。【甲竜王 ドラグアーマー】を倒すためにフィルルを【生贄】にして攻撃を放ったあのときとのことを。

 

「【贄喰】のあのスキルなら確かに気体状態だろうが関係ない。一定以下のHPの存在を消すってシロモノだからな。しかし、俺がMVPに選ばれるとは…」

 

 フィルルは獲得した神話級特典武具【天地海誕 メテロ】の詳細を確認する。

 

【天地海誕 メテロ】

<神話級特典武具>

海玉から生まれし、固体、液体、気体の三態を自在に行き来する亜人の概念を具現化した神滅具。

数多の生命を喰らい糧として、解き放つ力を持つ。

※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし

 

・装備補正

 なし

 

・装備スキル

 《天地海闢》

 

「…」

 

 あまりの性能に絶句した。【天地海誕】の持つ唯一のスキル、《天地海闢》はそれほどとんでもないものだった。フィルルにアジャストしたとはいえここまで破格のスキルになるとは…

 

 しかし、申し訳なくも思っていた。最初に【海玉唯在 メテロ】と戦っていたのはノスフェラだ。そして、【天地海闢 メテロ】の言葉を信じるならば、【海玉唯在】が追い詰められたことで【天地海闢】が生まれた。ならば、貢献度は同じではないかとフィルルは考えていた。

 

 実際は《怨・終極》で身体を蒸発させただけで【メテロ】自身にはダメージを与えておらず、止めを差しただけのため、フィルルがMVPに選ばれることに不思議はないのだが、彼はそれを知る余地もない。

 

「ノスフェラに謝んないとだな、獲物横取りしてゴメンって。…しかし、アイツはデスペナになったわけだしカルディナへ行くのは当分お預けか」

 

 ノスフェラのデスペナルティを明けるのを待たなければならないため、最低でも三日間はカルディナへは向かえない。

 

「そういや、復活するセーブポイントは何処に設定していたっけか?」

 

 《超級》になってからデスペナの危険に晒されたことなどそう多くは無かったため、セーブポイントのことが疎かになっていた。

 

「ああ、皇都ヴァンデルヘイムか。しょうがねえ、とりあえず、ノスフェラが復活するまでに皇都に戻るか。ちょっと遠いが、三日もあれば十分だな」

 

 そして、フィルルは皇都に戻る。だが、皇都でフィルルを待ち受けるのはノスフェラだけでなく、戦争を前にした皇国の陰謀と策略だった。

 

 

 




最終章とは何だったのか。

もう少しだけ続けてみます。

ただこれまで以上に批判が多くなりそうで怖い

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