"軍団最強”の男   作:いまげ

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戦争が始まる。
正直どう着地するかわからん。
変な感じになるかもですがご容赦を。


戦争編
41.皇都


 【天地海闢 メテロ】との戦いの疲れもあったため、一度ログアウトしてから戻ってきたフィルル。デスぺナ明けのノスフェラと落ち合うためにも皇都ヴァンデルヘイムに戻らなくてはならないが…

 

「しかし、皇都に戻るっていってもどうするかな」

 

 歩きながら、皇都への道を思い返す。

 しかし、思いだせなかった。

 なにせ今フィルルがいるのはドライフ最北端の街。より詳しく言うなら、飢餓で滅んだ街だ。その問題の解決のために駆け付けたためか、道をよく覚えていなかった。

 

 皇都に戻る道はあるにはあったが、この辺の道は入り組んでおり、まっすぐ進めば皇都に着くというものでもなかった。

 

「こういうのはいつもノスフェラにまかせっきりだったからなー」

 

 大抵の場合は、同行しているノスフェラか、そのエンブリオである四方都が道案内をしてくれていた。そのためか、フィルル自身が道を覚えるということはあまりしなかった。

 

「まあ、最北端の街っていうくらいだし、南に進んでいればいずれ着くだろ」

 

 そう言って南に歩きだすフィルルであったが…

 

「南に進みたいんだがなー。どうしてこんなところに森があるのか。突っ切ればいいんだろうけど、そもそも来た時に森を抜けた記憶がねえ」

 

 フィルルは道に迷っていた。現実世界では彼を助けてくれる地図アプリがこのデンドロの世界には存在しない。(実際には同様なものは存在するが、フィルルは持っていない)

 だが、今回は地図アプリがなくて正解だっただろう。もし持っていれば、余計に混乱しただろうからだ。

 

 なんとか森を抜けようとしたフィルルであったが、それは叶わない。

 森を無事に抜けたと思ったら、元いた場所に戻ってしまう。何度か同じことを繰り返し、それでも結局元いた場所に戻ってしまった。

 

 それもそのはず、本来そこには森は存在しない。

 そもそも、ドライフの最北端に近いこの場所にフィルルが迷うほどの森林があるはずがないのだ。

 そう、ここにいるのは【幻壺首魁 ポラノーシス】、逸話級のUBMだ。

 

 【ポラノーシス】は壺型モンスター。

 その能力は構築。

 自身の周りの空間を自身の望むように構築することができる。

 そして、構築したモノをさらに再構築する能力を持っている。

 その能力で森林を構築し、その森に人間やモンスターを誘い込み、森林の再構築を繰り返すことで相手を脱出させず、弱り果てたところを喰らうUBM。

 

 本来であれば、フィルルは森林を抜けることすらできなかった。

 それが今回、フィルルが森を脱出できたのは運が良いからではない。

 【ポラノーシス】がフィルルの力量を正しく測り、フィルルを相手にしては勝ちきれないと踏んだためだ。

 そのため、閉じ込めるのではなく、元の位置に戻らせることでフィルルとの接触という身の危険から身を守ろうとした。

 フィルルを素通りさせるという選択肢もあったが、自身を発見されてしまう可能性を考えてその選択肢は捨てた。 

 

 そして、それは正解だった。

 

「あー、もうめんどくせー。南に直進すりゃ皇都には着くんだ。だったら道を辿る必要も、森を抜ける必要もねぇ」

 

 そう言ってフィルルは空を駆ける。眼前の森林がUBMが生みだした偽りの景色だということに気づかぬまま。

 

 そして、それは【天翔駆甲 クィスヤッコ】の能力、《天駆》によるモノ。空中歩行能力を持ち、さらに、空中移動時に高いAGI補正がかかる。その補正値は50%、つまり空中移動時はAGIが1.5倍になる。

 そして空中にはフィルルの動きを阻害するものはない。彼を惑わせる街道や獣道、そして【ポラノーシス】が構築した森林もなく、まっすぐ南を目指す。

 

 これで皇都にたどり着けると安堵するフィルル。だが、何より安堵したのは森林を生みだしていた【ポラノーシス】に他ならない。

 

 ◇

 

 空中を歩行しながらフィルルはふと思いを走らす。 

 

「…そういや【シノギタチ】をこれに使ったことはなかったな。試してみるか」

 

 フィルルは【武双勲章 シノギタチ】の能力、《武双極化》は特典武具の性能を強化するスキル。普段は自身の最大の武装、【三源輝套 クリスタリヴ】にのみ効果を発動している。そうした方が、自身の戦闘力や継戦能力、生存能力が格段に上がるからだ。

 

 何より、そんなことを考えるまでもなく、【クリスタリヴ】を強化して戦えばどんな相手にも勝てていた。だが、【天地海闢 メテロ】との戦いで自身の考えを改めた。持ち札は多いほうが良く、試せるならあらゆる手を追及する必要があった。

 

 幸い今は移動時、さらに言えば空中であるためフィルルを害する敵もそうは存在しない。実験するにはちょうどいい。《武双極化》の対象を【クリスタリヴ】から【クィスヤッコ】に変更する。

 

 その瞬間、フィルルの移動速度はさらに上昇する。それもそのはず、先ほどまでの50%のAGI補正が今は100%のAGI補正となっているからだ。空中移動時に限って言えば、AGIは2倍という破格の数値となる。

 

「AGI補正の2倍強化か。うん、なかなかいい結果だ」

 

 《武双極化》が強化できる能力には相性がある。

 例えば、【三源輝套 クリスタリヴ】を対象にすれば、保有するスキル《エレメンタルプロダクション》が強化される。だが、生みだす【スポアエレメンタル】のステータスを上昇させるのではなく、生みだす数やクールタイムを減少させるといった強化となる。

 これは特典武具の特徴をより強化するためだ。限られたリソースの中で強化するのであれば、その特徴を伸ばしたほうがいいという当然の帰結である。

 それが【天翔駆甲 クィスヤッコ】の場合は空中移動時のAGI補正が強化されるというわけだ。

 

「うーん。使い勝手は一番いいんだろうが、結局足が早くなるだけ。発展性はないなー」

 

 AGIが上昇するのはいいが、【軍神】のスキルの起点となる【クリスタリヴ】の方が優先度は高い。最大でAGIが20万オーバーとなるのはいい。【双剣聖】のスキルとの組み合わせも考えればAGIが高いに越したことはない。

 

 だが、フィルルの主な戦い方は、【スポアエレメンタル】を数多の陣と【アンフィテアトルム】で強化していくスタイル。【スポアエレメンタル】の供給に直結する、生産数やクールタイムは強敵との戦いになればなるほど重要となる。

 

 胞子が尽きてしまえば、残るのはステータスが糞雑魚となったフィルルと虎丸だけになってしまうからだ。そうなってしまえば、フィルルは上級マスターにすら劣るだろう。【スポアエレメンタル】の生産が滞るのは死活問題と言えた。

 

「いや待てよ?…試してみるか」

 

 ◇

 

「うーん、できるはできるけど、実践ではって感じだな」

 

 皇都に降り立ち、新しい試みについてまとめる。結論としては…できるはできるが、実践では使えるかはまだ不明といったところだ。そもそも、使う機会も早々来ないだろうなと見切りをつける。

 

「実験を兼ねていたからか、随分早く着いちまったな。しかし、なんか空気が悪いな」

 

 見渡す限り活気がない。つい先日まではこんな風ではなったはずだが…

 

「まあ、北方に飢餓で滅んだ街があるくらいだからな。皇都でもそのあおりを喰っているってところか。全く皇族は何をやって…ああそういうことか」

 

 この国の皇王はかの【グローリア】より来襲の一か月前にすでに亡くなっている。王政が滞るのも仕方ないといえるだろう。だとしても、今は喪も明け新たな皇王が決定したはずだ。それが誰かまでは分からないが…まだうまく内政を行えていないのか。

 

 いやだとしてもこの空気は…

 

「あ、おい。アンタ、皇王がどうなったか知ってるか?」

 

 フィルルは道を歩いていた白衣の男に声をかける。この世界で白衣を着ている男だなんて奇妙な男だが、十中八九マスターだろう。ドライフに所属しているマスターなら皇王が誰か、そしてこの淀んだ空気の理由を何か知っているだろうと問いを投げた。

 

「…歩きながらでもいいかい?」

「ああ」

「皇王はラインハルト殿下に決まったよ」

「ラインハルト?聞いたことないな」

「そうだねぇ。ラインハルト殿下は第三皇子の子。影も薄かったし、順当であれば皇王にはなれなかっただろうしねぇ」

 

 意味深な言い方だ。

 

「でも皇王は誕生したんだろう。だって言うのに…うまくいってないんじゃないのか?閉塞感漂う空気が漂っているぜ」

「ああ、それは仕方ないねぇ。いままでまともに国の運営はできなかったから」

 

 皇王なのに国の運営ができない?

 

「フィルル君は存外、世間知らずだねぇ。ラインハルト殿下は確かに皇王になった。前皇王の遺言通りにね。でも、それに反対する貴族が多かったからねぇ」

「…それはまあ、何というか。しかし、他の貴族ももっと気を利かせればいいのにな」

 

 前皇王の遺言通りに皇王になったものを疎んじたのか、気に食わなかったのかは知らないが、それで国民を不安にさせては意味がないだろうに。

 

「いや、他の貴族の考えることももっともだよ。自分たちの支持する皇子たちを皆殺しにされたとあってはね」

「…は?遺言通りに皇王になったんだよな。なんでそんなことに」

「遺言通りにやったからだろうねぇ。『身内で殺しあえ、勝者が皇王だ』なーんて遺言通りに」

 

 それ、そんな遺言残した前皇王が悪いんじゃ…

 

「で、皇族を皆殺しにして皇王になったのはいいけど、まあ、そりゃ遺恨は残るよねぇ。新しい皇王を倒すために皇国最大戦力である特務兵を差し向けるほどだから」

 

 特務兵。たしかドライフ特殊任務兵士団。カンストした人間や超級職を多く抱えるドライフ最強の戦闘集団だ。そんな奴らが新皇王を襲い掛かったのか。…よく生き残ったな。

 

「特務兵の奴らは<超級>も雇って皇王を潰そうとしたんだけどねぇ、皇王にも囲いの<超級>がいるから意味はなかったけど…」

「…」

「まあ、そんなこんなで皇王として正式に認められたのがつい昨日。やっと政治を行えるってわけさ」

「じゃあ、皇都はもう落ち着くんだな」

 

 内乱が終わり、ドライフは漸く新しい皇王の元で進んでいくだろう。

 

「それは…どうだろうねぇ。戦争が始まるからね」

「…え?」

「アルターとの戦争だ。まあ詳しい話は本人から聞いてくれよ」

 

 それってどういう?ここは…

 

「ようこそ、皇王宮へ。ドライフは君を歓迎するよ、”幻獣旅団”のフィルル・ルルル・ルルレット」

 

 




祝・フィルルに出会って殺されなかったUBMの登場(なお)

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