"軍団最強”の男   作:いまげ

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43.<超級激突>

「なん…だと…」

 

 皇王から放たれた言葉を、その意味をフィルルは受け止める。それは衝撃と戸惑いをフィルルにもたらした。

 

「どうして…アンタが…そのことを…」

「”幻獣旅団”。そんな二つ名で西方三国を歩きまわり、慈善行動などすればおおよそ察せられますよ。あなたと壊滅した”幻獣旅団”との関係とその目的もね」

 

 皇王はまるで何もかも分かったかのようにその言葉を述べた。

 

「過去に西方三国で慈善活動を行うパーティー、”幻獣旅団”が存在しました。ですがそのパーティーには黒い噂が付き纏っていました。慈善活動の傍らで犯罪行為に手を染めていると。そうした中、とうとう彼らは殺人を犯してしまします。マスターが行う犯罪の中でも最も重い殺人をね。その結果、”幻獣旅団”は全員指名手配となった。その後、レジェンダリアでの窃盗行為で全員が”監獄”へと送られました。そして、その後、”幻獣旅団”と呼ばれる一人のマスターが西方三国で活躍し始めました。ここに関係を見出せない者はいないでしょう」

「…」

 

 皇王の言葉は正しくフィルルの全てを見透かしていた。

 

「あなたも”幻獣旅団”の一味だったか、あるいは親しい関係だったか。あなたを見るに後者なのでしょう。そも”幻獣旅団”が犯罪者集団というのに明確な証拠はありませんでしたから。”幻獣旅団”のために行動しているといったところでしょうか。…あなたの表情を見るに”幻獣旅団”そのものに強い拘りがあるのでしょう」

 

 それは正しくフィルルの心情を読み取っていた。

 

「特に今回の戦争は…アルター王国を相手にするもの。あなたにとっても意義が深いものではないですか?”幻獣旅団”を内部から潰したのはアルター王国なのですから」

「…アンタ…本当にどこまで…」

「”幻獣旅団”のうち実際に犯罪を犯していたのは五人。あなたが親しくしていた四人は犯罪には手を染めていなかった。そう、彼ら四人はアルター王国の貴族に目を付けられ滅ぼされた。理由はただ一つ目障りだったから。そんなあなたの王国への憎しみは強いものでしょう」

 

 フィルルへ投げかけられる言葉はフィルルの中に突き刺さった憎しみの種を再び萌芽させようとする。それに抗うために別の言葉を投げかける。

 

「どうやって、そこまでの情報を…」

「皇王となった私に皇国中のマスターが協力してくれています。その中には過去の観測に特化したマスターもいます。たった1日で他国の事情をここまで調べ上げるほどのマスターがね。その人にあなたと”幻獣旅団”の関係を探ってもらいました」

 

 過去観測に特化したマスター。エンブリオの能力は多種多様。過去観測に特化したエンブリオであれば、そのような芸当も可能。そして、そのようなマスターが王国にも皇国にも五万といる。皇国が戦力の拡大を図るのは当然ともいえる。

 

「皇王権限で指名手配を解除すること、特赦は容易いことです。君の友達であるフルメタル、ゆるり、ロゼ、ドリルマンの四名を皇国所属のマスターとしてね」

 

 それはあまりにもフィルルにとって甘い毒であった。フルメタル達が今どうしているかはフィルルは知らない。監獄でこのゲームを楽しんでいるのか、それとも引退してしまったのか。それでも、帰れる場所があるというのは大きいなことだ。 

 フィルルはそんな皇王に屁理屈を返すので精いっぱいであった。

 

「同じことは王国でもできる。今の情報を持って王国に戦争の危機を知らせて、王国の戦力として戦争に参加する。その見返りとして”幻獣旅団”を…」

「”幻獣旅団”の発端となった王国で、ですか」

「…」

「試してみるのはいいでしょう。しかし、果たしてあなたの心はそれを許すでしょうか。そもそもあの王がそんなことを認めるとは思いませんが」

 

 皇王はフィルルがそんなことを言いだすのすら分かっていたように返答した。そして、それはフィルルの逃げ道を塞いでいった。

 

「まだ決めきれないようですね」

「…」

「なるほど…納得の問題ですか」

 

 今のフィルルは皇王の言うように宙ぶらりんのままであった。それは言葉次第でどちらにも転ぶということ。そんなフィルルを皇王はさらに動かそうとする。

 

「あなたには是非皇国の戦力となってもらいたい。しかし、あなたには王国の戦力となる選択肢ももちろんあります。おそらく皇国ほどの見返りは得られないでしょうがね」

「…」

「しかし、あなたたちは自由です。そんなマスターたちに私ができるのは譲歩と…提案です」

 

 それは…悪魔の囁き。

 

「この提案に乗っていただければ、その時点で”幻獣旅団”を特赦としましょう」

 

 或いは…天使の誘惑。

 

「条件は単純明快、決闘です。あなたが勝てばあなたの自由、こちらが勝てば皇国所属のマスターとなってもらいます」

「それは…」

「あなたたちマスターにとってわかりやすい全てを賭けたゲームですよ」

 

 ◇

 

「ここは…」

 

 フィルルが連れてこられた場所は皇王宮のさらに地下に存在する場所。そこは地下にあるはずなのに途上の皇王宮よりよほど広く、そして、その地下室を区切っている隔壁は神話級金属と複数の遮断魔法を組みあわせて作られた、構造だけをみれば現存する限り最硬の防御を誇る要塞ともいえる。

 

「フィルル君は先々期文明って知ってるかな?」

「先々期文明か。聞いたことがあるようなないような」

 

 フランクリンの言葉にフィルルは言葉をかえす。

 

 先々期文明とは現在の<Infinite Dendrogram>から約二千年前に存在した高度文明。名工フラグマンに代表されるように、現在よりも魔法技術や科学技術などが優れていた時代。

 ”煌玉馬”や”煌玉竜”、”煌玉人”といった遥かに卓越した兵器が幾つも存在した文明。

 

「先々期文明は機械文明、魔法技術が発展していてねぇ。それこそ、今の<超級>や神話級UBMに匹敵する兵器が幾つも存在するほどに」

「そいつは…すごいな」

 

 <超級>や神話級UBMは現在のこの世界で最上位の力を振るう者たちのこと。

 フィルルが知っている中でも桁違いの力を有している者たち。

 

 <超級>に限っても、怨念を生みだし、さらに死者蘇生に近い御業をも起こす者。

 時間経過と共に無限に装備品の性能を向上させる者。

 ジョブスキルを書き換え、神話級悪魔を複数召喚する者。

 

 また、神話級UBMではさらに吹っ飛んだものが多くなる。

 無尽蔵に配下を生みだし、強化する存在。

 驚異の回復能力と脅威のカウンター能力を持つ存在。

 そして…最強のステータスと数多のスキル、更に無敵の肉体を持った存在。

 

 誰もかれも最強クラスの実力を兼ね備えている。そんな者たちに匹敵する兵器が数多存在した時代。それは凄まじいものだろう。

 

「ここはねぇ…そんな最強クラスの兵器の地下実験場だよ」

「実験場?」

「元々ドライフはそんな先々期文明の信奉者が集まってできた国。その場所は先々期文明の痕跡が最も多く残っている所が選ばれた」

「ここもそんな場所の一つなのか?」

「ああ。現実世界で言えば核ミサイルの数倍の威力を持つ兵器を生みだしていたんだ。そんな兵器の実証、実験のためにはそれ専用の実験場が必要になるだろう?ここはまさしくそれだよ」

 

 神話級UBMの最強の一撃は核ミサイルの数倍にも匹敵する。それと同等かそれ以上の威力を持つ兵器。そんな兵器を開発し、試すにはそれ相応の実験場が必要というのは道理。ここのような幾多の神話級金属と魔法遮断機構が組み込まれたようなものがだ。

 

「なるほどな。…でもなんでそんなところに連れてきたんだ?決闘とか言っていたからてっきり闘技場に行くものだと思っていたんだが…」

 

 フィルルは皇王の提案を快諾した。

 決闘の結果に限らず、フルメタル達の指名手配は解かれる。それでフルメタル達がどう動くかはわからないが…それでもフィルルにとっては希望とはなる。またフルメタル達とこのゲームを楽しめるかもしれないという希望がだ。

 

 その上で決闘に勝利すれば、フィルルにとってはデメリットは存在せず、仮に負けたとしても皇国所属となるだけ。戦争に参加するかどうかもまたこちらの自由となり、そこまで大きなデメリットも存在しない。

 

 そのため、フィルルは皇王と【契約書】を交わし決闘の準備を進めていた。しかし、連れてこられた決闘場ではなく、地下の兵器実験場。これではフィルルでなくとも疑問が生まれるというものだ。

 

「ああそれは、人目を避ける為だよ。決闘場で超級同士が戦ったりしたら大変な騒ぎになるだろう?それを避ける為にね。それに君も下手に注目を集めたりはしたくないでしょ」

「そりゃまあ、確かに。だけど闘技場なら不透過にできるんじゃなかったか?」

「できるさ。だけども噂は流れる。そうなれば君のことをつけ回す連中も出るかもしれないだろう?」

 

 <超級>同士の決闘だなんてやっていたら誰でも見たがる。見れないとなればより過激な手段に出るものもいるかもしれない。そしてそんなことになれば、いずれフィルルの手の内がばれてしまう。

 それは危険な事と言える。対策を立てられてしまえば、フィルルの攻略は容易になるだろうからだ。

 

「闘技場でもなくともここでなら、人目を気にせず死闘ができるってわけだねぇ」

「なるほどな。確かにここの設備ならビクともしなさそうだな。しかし、闘技場でないとするなら相手は【魔将軍】ってわけじゃなさそうだな」

 

 ドライフにいる<超級>の一人、【魔将軍】ローガン・ゴットバルトは生贄を用いた召喚術を得意とするマスター。

 闘技場には結界が存在し、戦いのあとに受けたダメージや消費したアイテムが元に戻る。いつでも安全に全力の勝負をできるというわけだ。

 そして、そんな闘技場と【魔将軍】の組み合わせは最高峰。デメリットを気にせず、神話級悪魔を複数体率いるのはそれだけで脅威である。しかし…

 

「【魔将軍】相手なら楽勝だったのになー」

「そう思うかい?」

 

 フィルルと【魔将軍】の相性は最高だ。どうあがいても【魔将軍】ではフィルルには勝てない。フィルルの望む通り、手の内を隠したままでも勝利することは容易い。

 

 だがそうでないのであれば相手は… 

 

「ほら。君の戦い相手だよ」

 

 そこにはヤマアラシのような小動物を抱えた女性が佇んでいた。


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