"軍団最強”の男   作:いまげ

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どうあがいても批判が出そうな話、始まります。


44.VS【怪獣女王】

 目の前の相手を自分の戦いの相手だとフランクリンは言った。目の前のヤマアラシを抱えた女性をフィルルが戦うべき<超級>だと。

 

 ドライフ皇国の<超級>は二人。

 

 ”矛盾数式”と”物理最強”の二人。

 

 皇国最多の【魔将軍】と皇国最強の【獣王】の二人。

 

 だが、【魔将軍】ではない。だとするなら、目の前の相手は間違いなく…

 

「こいつが…”物理最強”か」

「”こいつ”呼ばわりとは…踏み潰されたいのですか」

 

 その瞬間、目の前の女から圧倒的な殺意が放たれる。いやそれは殺気ではないだろう。人間が蟻を踏み潰すときに何も感じないように、彼女は一滴の殺意も持っていない。ただ踏み潰すという意思だけがある。

 

 なら、俺が感じたのは…”危機感”。究極生物を前に死を意識させられたのだ。

 

 ”物理最強”

 

 皇国の討伐ランキングトップの【獣王】名称不明。

 

 そう、【獣王】の詳細はその名を含めてほとんどが不明である。

 

 数少ない情報として、先の皇王継承の内乱で現皇王の最強戦力として猛威を振るい、ラインハルトを皇王に導いたこと。

 

 さらに、そのジョブが獣戦士系統の超級職であるということ。…改めて確認するまでもない。【獣王】のメインウェポンは《獣心憑依》。【獣戦鬼】では最大60%であったそれを100%まで引き上げる。

 

 そう、従属キャパシティ内のモンスターのステータスを自身に加えるという破格のスキルをだ。

 

 そして、エンブリオはガードナー系列であること。それこそ語るまでもない。【獣戦士】のジョブに相応しいエンブリオは何かと聞かれれば百人が百人ともガードナーであると答えるだろう。…中には俺のような例外もいるだろうが。

 

 なにせガードナー獣戦士理論と呼ばれるくらいだ。ガードナーの従属キャパシティは0。その特性と《獣心憑依》のシナジーは最高峰。なにせノーコストで戦力が二倍になるようなものだからだ。

 

 さらに、【獣王】のエンブリオは、本来持ち合わせているスキルやマスターへのステータス補正を持ち合わせていないという。そう、ガードナーとしてのリソースを全てステータスに全振りした怪物なのだ。

 

 まさしく、ガードナー獣戦士理論の極致の体現者。

 

 俺としては複雑な思いでいっぱいだが…仕方のないことだろう。【獣王】を目指していたコルは既に死に、その【獣王】の座に就いたマスターには罪はない。俺個人の感傷というやつだ。

 

「…あー、すまなかった。アンタ名前は?」

「…」

『これから我が国の戦力となり得る存在です。丁重に扱ってくださいね』

「見ないと思ったらそんなところにいたのか…皇王様は」

 

 地下実験場の奥にガラス張りの壁があり、その奥に皇王は座していた。おそらく、起動した兵器の性能を観測する部屋なのだろう。

 

 その瞬間、隣にいたはずのフランクリンが皇王の横に出現した。転移スキルの一種…《キャスリング》だな。

 

『君たちの戦闘に巻き込まれると私たちはすぐに死んでしまうだろうからねぇ。一番安全なここから見物させてもらうよ』

 

 どうやらあのガラスは更に強固な防御術式を張り巡らしているらしい。

 

「…」

 

 俺が無言のまま目の前の女を見つめていると手に抱えたヤマアラシを下しつつ、口を開いた。

 

「レヴィアタン。それが私の名前です」

「レヴィアタンか。まるでエンブリオみたいな名前だな」

「…」

 

 そんな会話を遮るように皇王は再び観測室から魔法で拡張した声を届かせる。

 

『それでは決闘を始めてもらいます。ルールは先に【救命のブローチ】を破壊した者の勝ち。それ以外は本国の決闘ルールに準拠します』

「漸くか」

「ええ、そしてすぐに決着はつきます」

「…なるほど」

 

 そのまま両者が決闘の合図を待つ。そして…

 

『試合開始』

 

 皇王の言葉が三度響くと同時、レヴィアタンはそのまま俺に接近する。

 そして、右手の貫手を俺の鳩尾に目掛けて放つ。

 それは音の二倍以上の速さで行われた。

 おそらく、上級カンストのAGI型でも何が起こったかわからない速度で放たれたその大砲は、ステータスで言えば、AGIがギリギリで四桁に到達した俺では対応できなかっただろう。

 

「驚きました。ここまでの耐久力を持っているとは」

「そりゃどうも」

 

 レヴィアタンが放った貫手は俺の肉体に直撃し、それだけだった。

 その爪先さえも俺の皮膚を貫くことはなかった。

 だが、それもそうだろう。

 今の攻撃は精々攻撃力で三万にも満たないものだ。それに対して俺のENDは六桁に到達している。その数値差は近接戦闘において致命的だった。

 

 そのステータス差は俺の特典武具とエンブリオによるシナジー、ガードナー獣戦士理論を容易く上回るシナジーによって生みだされた。

 

 試合の開始と同時、【武双勲章 シノギタチ】の《武双極化》によって強化された【三源輝套 クリスタリヴ】のスキルを発動した。

 強化された《エレメンタル・プロダクション》によって生みだされた三千体の【スポアエレメンタル】、その全てに【高位従魔師】の《魔物強化》と【喝采劇場 アンフィテアトルム】の《光る劇場の脇役》、《輝く劇場の主役》を使うことで俺自身のステータスは急上昇を見せ、全てのステータスが六桁に到達する。

 

 それはごく短い時間の出来事。

 それこそ、迫るレヴィアタンの貫手に間に合うほどにだ。

 レヴィアタンが俺を殺すチャンスがあったとすれば、それは試合開始の瞬間だけ。

 最も無防備で危ない状態。

 だが、そこさえ乗り越えてしまえば、莫大なステータスと【軍神】のスキルによって得られる無限の残機を獲得できる。

 

 この状態になれば俺に負けはない。

 

「次はこっちの番だな」

 

 【錬鉄武双 シノギタチ】が残した双剣、《武双刀剣》を構え【双剣聖】の奥義《クロスホライゾン》を抜き放つ。それは音の10倍以上の速さでレヴィアタンに放たれる。四肢と首元を切断する軌道で放たれるその剣技をレヴィアタンは真正面から受けた。

 

 だが、その狙いは外れた。

 理由は単純。

 レヴィアタンの肉体が膨張し初めていたからだ。

 その膨張によって剣閃が歪められた。

 

 膨張を続け、人間の形を捨てながらレヴィアタンは言葉を紡ぐ。

 

丁重に(・・・)、ということでしたので、まずはメイデン体でと思いましたが…そこそこはやるようです』

 

 背にヤマアラシの如き棘を生やしていきながら、太古に滅びし恐竜が如き姿に変えていく。

 

『少しは楽しめそうです。殴り合い、とまではいかないでしょうが』

 

 四肢は如何なる怪物よりも隆々とした、暴力の化身となり果て、その身を揺らす。

 

『まずは、この一撃をどうします?』

 

 それは一〇〇メテルを超すほどの巨大な……怪獣、その右手が俺に向かってくる。それは音の20倍以上の速度を誇っていた。

 

 直撃。

 

 そして、その威力は上級エンブリオの必殺スキル、あるいは超級職の奥義に匹敵するほどだ。ただの右手の一振りがこの有様だ。

 

 死ぬかと思った。

 

 勿論、【救命のブローチ】が発動したというわけではない。【軍神】のスキル、《円環の陣》によって自らのダメージを配下のエレメンタルモンスターに肩代わりさせただけ。

 

 そして、肩代わりし、死んだ【スポアエレメンタル】はその屍体を核に爆発を起こす。《屍爆の陣》は自身の配下のエレメンタルモンスターが死亡したとき、そのモンスターを爆発させる。

 

 その威力はあの絶対なステータスを誇る【天地海闢 メテロ】にすら届きえた。なにせ伝説級のステータスを誇るモンスターの自爆攻撃に類するものと考えれば、それも当然だろう。

 

 だが、その威力を持ってしてもレヴィアタンを傷つけることはできなかった。

 考えられる理由はただ一つ。

 レヴィアタンはあの【メテロ】すら上回るステータスを有しているということになる。

 

『…やはり生き残っていますか。まったくゴキブリ並みの生存能力ですね』

 

 爆発を喰らったことを全く気にせずレヴィアタンは言葉を続ける。

 

(…やはり、ね。俺の情報が漏れているんだろうなあ)

 

 俺のステータスが高いことも、生存能力に特化していることも。

 

 …ふー。

 

「レヴィアタン、アンタマスターじゃなくてメイデンだったんだな」

 

 とりあえずの小休止。

 俺は気さくに話しかけてみる。

 決闘といいつつ、まあ死闘ではない訳で、これくらいの小話は許されるだろう。

 それになにより…

 

「しかしこれほど巨大なガードナーとはな」

 

 まさに神代の怪物。

 出鱈目な存在だ。

 ステータスは…大体俺の二倍近くか。

 まったく、俺でさえ全マスターの中でも最高クラスのステータスを誇っているっていうのに、正に桁違いのモンスターだ。

 

『【怪獣女王 レヴィアタン】、それが私の名です』

「なるほど、お似合いだ」

 

 怪獣の女王とはな。全く…興奮するぜ。

 

『…今、なぜか生命の危機を感じました。嫌悪感と言い換えてもいいものですが』

「失敬な。人をまるで変態を見るような目で見るな!」

 

 …なんか罵声が聞こえた気がする。ガードナー偏愛野郎的な。

 

「…アンタがガードナーとすると、そこのヤマアラシがマスターってことか」

『yup』

『あまり驚いているようには見えませんね』

「ああアバターが可笑しなことになってるマスターなんざ見飽きてるからな」

 

 全身白骨の奴とかな。

 

「で?ヤマアラシの嬢ちゃんは俺とは戦わないのか?【獣王】なんだろ?」

 

 言うまでもなく【獣王】とそのモンスターのコンビネーションは厄介だ。単純にステータス20万オーバーの奴が二体に増えるというだけで身の毛もよだつというものだ。

 

『ベヘモットが戦うまでもありません。私だけで十分です』

 

 レヴィアタンは再び身体を震わせ、その凶器とも言える五体を振りかざす。そして、俺はそれを避けることはできず、吹き飛ばされる。

 

 それはもう、サッカーボールといったくらいに吹き飛んだ。

 

(…マスターの名前はベヘモットっていうのか、なるほど)

 

 吹き飛ばされながらも俺は冷静に思考を走らせる。

 なにせ吹き飛ばされているといっても、見た目以上のことはない。

 ただ吹き飛ばされているだけ。

 俺自身には少しのダメージもない。

 周りを浮遊していた胞子が巻き添えで千体近く、俺の身代わりとして何体かが爆発して消え失せたくらいだ。

 その程度の損壊なら強化された【クリスタリヴ】によって瞬時に補充できる。

 実質、損失ゼロだ。

 

 逆に【怪獣女王 レヴィアタン】はその肉体を切り裂かれていた。

 そう、まるでカマイタチに切り裂かれたように。

  

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