"軍団最強”の男   作:いまげ

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45.VS【獣王】

 レヴィアタンに蹴り飛ばされること幾星霜、俺はもう自分はサッカーボールなのでは?という気持ちになっていた。

 

「全く無駄なことを続けるもんだ」

『…』

 

 蹴り飛ばされても俺自身には微塵のダメージもない。そして、攻撃を続けているはずのレヴィアタンは着実にダメージを負い続けていた。

 

 複数の裂傷を与えられてもなおレヴィアタンは攻撃を加える。そして、俺は吹き飛び、レヴィアタンはカマイタチに切り裂かれる。

 

 正直、これを繰り返しているだけでも勝てそうだな。

 

『神話級特典武具【絶空甲刻 アヴァシンハ】の能力だねぇ』

『あれがあの<三神激突>のなれの果てですか』

『元となった【一切皆空 アヴァシンハ】は回復能力とカウンター能力を持っていた。あれはカウンター能力に特化した特典武具のようだ』

 

 解説どうも、観客席さん。

 

 【アヴァシンハ】が持つ《絶空帝刻》は喰らったダメージを倍の威力、同等の速度、射程にして飛ばすスキル。そして、これは実際に俺がダメージを負っている必要はない。

 

 【救命のブローチ】や【身代わり竜鱗】などでダメージを無効化や軽減しても元々のダメージでスキルは発動する。つまり、《円環の陣》でダメージを【スポアエレメンタル】に肩代わりさせても、《絶空帝国》は問題なく発動する。

 そう、無限の残機を利用した《円環の陣》とカウンターに特化した《絶空帝刻》の前では最強の怪物すら倒し得る。

 

 レヴィアタンの攻撃で俺が受けるダメージは約10万。その二倍のダメージである約20万ダメージがその数字と同じ速度と射程を持って襲い掛かる。

 攻撃した直後のレヴィアタンは俺から放たれるそのカマイタチを避ける術はない。現に既に十を超えるカマイタチを受けている。

 

 …こいつどんだけHPあんだよ。すでに200万以上削ってるぞ。神話級UBMでもそれで死ぬ奴もいるっていうのに。

 

『ベヘモット、もういいですよ』

『OK』

 

 皇王のその言葉と同時、【獣王】が動きだした。

 

 …当然といえば当然だが、レヴィアタンより速いか!

 

 【獣王】はおそらく《瞬間装備》で身につけたであろう爪を振るう。その瞬間、その爪から衝撃波が放たれ、俺に直撃する。

 

『ベヘモットのサブジョブである【爪拳士】のアクティブスキル、《ウィングド・リッパ-》。【獣王】が持つ数少ない遠距離攻撃スキルだねぇ』

 

 解説サンクス、フランクリン。でもまあ、意味はない。胞子が生きている限り、俺にダメージはなく、それに見合ったカマイタチが今度は【獣王】、てめえを襲う。

 

 そのカマイタチが【獣王】に到達する直前、レヴィアタンが突如としてその間に現れ、そのカマイタチを自らの肉体で庇い喰らう。そしてレヴィアタンにダメージは…ない。

 …カマイタチは攻撃をした相手に当たらなければ少しのダメージもない。まして、レヴィアタンはその強固な体表で身を守っている。1ダメージも与えたか怪しいもんだ。

 

 だけど問題ない。カウンターが機能しなくても俺がダメージを負うことはない。何の問題も…

 

 次の瞬間、レヴィアタンは暴風の如き攻撃を再開した。その標的は勿論俺…ではなくその周囲を漂う【スポアエレメンタル】だった。

 その巨体を生かした、防ぐことはできない暴風雨が如き攻撃に胞子達は全滅した。

 

 【三源輝套 クリスタリヴ】の補充も間に合わない。この瞬間、俺のステータスは元々の値に戻る。そして、そのまま【獣王】が眼前に迫り、三連撃を振るう。

 

 ◇

 

(やっぱり。クラウディアの言う通り、必殺スキルは相手をも含めたモノってことだね)

 

 自身の攻撃を躱したフィルルを見ながら【獣王】は思考する。

 

 フランクリンから獲得した映像からフィルルのエンブリオがパーティー内のステータス上昇を自身にも加えることを、クラウディアは予測していた。そして、必殺スキルはその範囲を敵にも適用したものだろうと。

 

 それは正解だった。

 

 配下の胞子を失ったフィルルの素のステータスは上級職程度のものしかない。胞子の補充も間に合わないあの状態で肉薄した状態のベヘモットの攻撃を避けることは不可能。

 

 それを可能にしたのは間違いなくフィルルの必殺スキル。クラウディアの予想が正しいとすれば…フィルルもまた、レヴィアタンを上回るステータスを手に入れていることになる。

 なぜなら【獣王】がその圧倒的ステータスを手に入れているのもレヴィアタンを対象とした《獣心憑依》によるものだからだ。

 

「あぶねえ、あぶねえ。あとちょっとで死ぬところだったぜ」

 

 この決闘のルールが【救命のブローチ】の破壊が目的だったとしても、フィルルの元のステータスと【獣王】の今のステータスを比較すれば、そのままデスぺナルティになっていてもおかしくはない。

 

 フィルルのいうことは正しかった。

 

「まあ、無事だったことだし、再開といこうぜ!」

 

 フィルルがそう言い、外套から胞子を再展開する。そうフィルルの必殺スキル【終劇は万雷の喝采と共に】と【輝く劇場の主役】、【光る劇場の脇役】が組み合わされば、そのステータスは”物理最強”といわれるベヘモットすら上回るものとなる。

 

 その状態のフィルルを止める術はベヘモットですらないだろう。

 

 だが、ここにいるのはベヘモットだけではない。

 

 その瞬間、【怪獣女王】がその牙を、その爪を胞子達に振る。その暴風に呑まれて呼び出した胞子はすぐに全滅した。

 フィルルを狙った攻撃の巻き添えでさえ、千体近くの胞子が死に絶えた。直接、【スポアエレメンタル】を狙われてしまってはこの結果は当然といえるだろう。

 

「チッ」

 

 胞子を再々展開しようとするフィルル。だが、今しがた攻撃を終えたレヴィアタンの肉体からベヘモットが飛び出してきた。

 

 虚を突かれた奇襲。

 

 それは【獣王】のスキル《獣心同調》によるもの。《獣心憑依》をしているモンスターの動きに干渉しなくなるスキル。それによって【獣王】の動きはレヴィアタンを無視して行うことができ、レヴィアタンの攻撃は【獣王】に当たることはない。

 

 これによってレヴィアタンをブラインドとした奇襲を可能とする。

  

 フィルルはその身を双剣で守ろうとするが、その双剣ごと肉体を切り裂かれる。それは【爪拳士】の奥義、《タイガー・スクラッチ》によるものである。それは自身の攻撃の後に、同じ威力を有した二枚の光刃による追撃を発生させるもの。

 

 ダメージを肩代わりさせる胞子がいないフィルルは三連刃によって双剣と肉体を切り裂かれる。大きなダメージではない。だが、それはダメージを受けていることに変わりはない。

 

 そう、必殺スキルでコピーしているのはあくまでもステータス上昇数値だけである。ステータスそのものではない。故に素のステータスで大幅に負けているフィルルでは【獣王】の攻撃を喰らってしまう。

 【軍神】と【獣王】ではそもそも基礎ステータスが違うのだ。ましてベヘモットはサブジョブで更にステータスをあげているのに対して、フィルルは【従魔師】などのジョブでステータスの上昇はないに等しい。

 

 まして、【獣王】は装備品でその攻撃力を上げている。純粋の近接戦闘ではフィルルが【獣王】に勝てる道理はない。

 

 だが、ダメージを負っているということは《絶空帝刻》の発動条件を満たす。そのカマイタチは【獣王】に目掛けて飛び、【獣王】はそれを無視した。

 

 受けたダメージの倍のダメージのカマイタチ。これを繰り返せば先に死ぬのは【獣王】になる。それでも【獣王】がカマイタチを問題なしとした理由は2つ。

 

 フィルルにダメージを与えたとはいえ、そのダメージ量は千にも満たない。その二倍といっても二千万を超えるステータスを持つ【獣王】には大したダメージソースにはならない。

 

 第二に、フィルルの必殺スキルの継続時間を考慮に入れた結果である。

 

 フィルルは通常、エンブリオのスキルのMP消費を配下のステータス上昇によって獲得したMPで賄っている。その配下を殲滅されてしまってはフィルルの必殺スキルの継続時間は極僅かなものとなる。

 

 そう、フィルルの必殺スキルを予測したクラウディアは、必殺スキルに伴うMP消費とそれを賄う手段にさえ的確に予測していた。

 そして、フィルルに対応する戦術を【獣王】に授けていた。

 

 レヴィアタンの巨体とステータスを活かした胞子の殲滅、ベヘモットのステータスとスキルを活かしたフィルルの行動制限。

 

 そう、その戦術とは圧倒的な攻撃力を用いた持久戦である。

 

 ◇

 

(…まずいな、これ)

 

 【獣王】との交戦を続けながら俺は戦況を確認する。

 

 【クリスタリヴ】によって生みだした胞子は【アンフィテアトルム】のスキルを適用する前に、すぐさまレヴィアタンによって殲滅される。

 俺自身は【獣王】とのクロスレンジのバトルのため、まともに動くことすらできない。

 

 このままじゃジリ貧だ。MPが切れてしまう。

 

 俺のMPはそこまで多くなく、【獣王】が獲得しているレヴィアタンのMPは0、つまり俺も【獣王】から獲得しているMPも0。このままじゃ、あと数分もしないうちにMPが切れる。

 

 戦況を打開するための新たな札が必要となる。

 

「やっぱりよ。二対一は卑怯だと思うんだよな、俺」

『ほざけ、何が二対一だ!』

 

 レヴィアタンは生みだされた三千の胞子を瞬時に殲滅しながら返答する。それによって俺はまた窮地に陥る。だが、レヴィアタンもまた気が気でないだろう。千体でも討ち洩らせば、そのまま俺の逆転劇が始まるからだ。…俺としては是非そうしてもらいたいんだけどな。

 

「まあまあ。だから俺も強力な助っ人を呼ばせてもらうぜ」

 

 その瞬間、俺は【獣王】の前から消え失せる。

 

 今この瞬間だけは俺は【獣王】の速度を上回る。【武双勲章 シノギタチ】の《武双極化》の対象を【天翔駆甲 クィスヤッコ】に切り替えたからだ。

 

 俺は【獣王】からもレヴィアタンからも見えない位置に移動する。強化された《天駆》は空中を駆け、【獣王】すら上回る速度でそれを可能とする。

 

 そして俺は瞬時に《武双極化》の対象を【クリスタリヴ】に切り替える。散々練習した戦闘中の《武双極化》の瞬時切り替え。今この時にミスるわけにはいかない。

 俺は三千体の【スポアエレメンタル】を生みだす。だがこのままではレヴィアタンに見つかり、胞子を殲滅される今までと同じ流れとなるだろう。

 

 だが、そうはならない。

 この胞子達はすぐに消滅するからだ。

 俺はあるアクセサリーを取り出し、《武双極化》の対象をそのアクセサリーに切り替え、

 

「《天地海闢(メテロ)》」

 

 そのスキル名を発する。 

 

 その言葉と同時、周囲に漂っていた三千の胞子は消え失せ、代わりに海洋生物を彷彿とさせる一人の亜人が立っていた。

 

 


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