"軍団最強”の男   作:いまげ
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久々なので変な所があるかもしれませんが、それでも良ければどうぞ。


After Story
After Story ”竜頭蛇尾”


 現在、<Infinite Dendrogram>ではアルター王国とドライフ皇国との戦争、後に第一次騎鋼戦争と呼ばれる戦争イベント(・・・・・・)においてドライフ側が勝利したという熱が広がっていた。

 

 サービス開始から一年を超えて、漸く行われた超大型イベントである、戦争。

 

 その当事国となったアルター王国とドライフ王国は戦争を経てその形を大きく変えようとしていた。あるいは変わらざるを得なかったのかもしれない。

 

 アルター王国の変化は文字通り、敗戦国としての変化。戦争において国王が死に、ティアンの最強戦力である【天騎士】と【大賢者】が失われた。何より大きいのはアルター王国中で広がるマスターへの不信である。

 戦争に参加しなかった王国のマスター、何より<アルター王国三巨頭>の評判は地に落ちたといっていいだろう。グローリア事件において、国の窮地を救った<超級>とはいえそれは仕方のないことかもしれない。むしろ、<超級>だからこその失望もあるだろう。

 

 敵国の<超級>が王国の大地を踏み鳴らし、多くの兵を殲滅し、国王を惨殺したというのに…

 

 この国の<超級>は戦おうとすらしなかった…

 

 そんな絶望と怨嗟が広がれば、国から民が流れるというものだろう。特にカルディナへの人材流出は凄まじかった。戦争でのカルディナの介入はこの国をギリギリのところで救った。この国の<超級>がしてくれなかったことをカルディナはしてくれた。そんな国へ行く人が増えるのは当然といえた。

 

 無論、<超級>にも事情はあり、また、数は少ないが王国のマスターも戦争には参加しているという事実もある。そのことを理解しているものは無闇にマスターへの不信となったりはしない。

 

 だが、そうではないものが多数いるのもまた事実。そしてその者たちは決して少数派ではないのだ。

 

 そう、今、王国は絶望の底にいた。

 

 では、王国を絶望の底に落とした皇国は?

 

 決まっている。

 

 戦勝国もまた絶望の底(・・・・)だった。

 

 国王を殺したとはいえ、勝利条件である王都制圧は叶わなかった。この戦争で決着をつけるとマスターを大判振る舞いで雇い入れた戦争費用。その戦果が『旧ルニングス領』の獲得だけではとても皇国の飢餓は解決できない。 何より、カルディナの介入が問題である。戦争の勝利目前での介入、皇王が手を打ち、あのフリーの<超級>を動かしてくれていなければ、この国が更なる窮地に陥っていたことは想像に難くない。

 

 その<超級>もまた、次はどう動くかはわからない。こちらの敵に回る可能性もゼロではないのだ。そうなれば、もう片方もこちらに牙を剥く可能性が高い。

 

 また、アルター王国もまだ死んだわけではない。次は<超級>がそろって牙を剥くかもしれない。或いは…アルターとカルディナが手を組み、戦争を仕掛けてくる可能性もある。

 そうなれば待っているのは本当の地獄だ。

 

 そうならないために、今は勝利の熱に酔うのではなく、次の戦争に備えなくてはならない。

 だが、皇国が備えるべきは戦争ではなく…

 

 ◇

 

「最近、フィルル君を見ないけどどうしたんだい?」

「試験勉強があるそうだよ。日頃、勉強をしていないからヤバイっていってたネェ」

「へえ、学生だったんだねぇ、彼」

 

 ここは皇国最大のクラン<叡智の三角>の本拠地である。そして、その中心部、つまりクランオーナーであるMrフランクリンの部屋である。

 そこには白衣の男と白骨の女が談笑していた。皇国執行部にある諦観と焦燥はこの部屋には、このクランには存在しない。

 

 この二人はフィルルを通して知り合った。一人はモンスターと機械<マジンギア>を生産する者、一人は怨念とアンデットを生産する者。同じ生産者ということで気があったのだろう。リアルでの鬱憤をこの世界に歪んだカタチで持ち込んでいるというのも理由の一つであろう。

 

 それにしてもこの二人口調が良く似ている。

 

「しかし、キミのエンブリオには興味がつきないねぇ」

 

 フランクリンがふと口にする。

 

「それはアポストルがってことかい?」

 

 ノスフェラの思考も当然である。なにせヨモツヒラサカのカテゴリーはアポストルというレアカテゴリーである。ノスフェラ自身自分以外でアポストルのカテゴリーは一人しか知らない。他のレアカテゴリーであるメイデンは意外と見かけるというのにだ。

 

 だが、フランクリンの興味はそこには無かった。

 

「それもないわけじゃないけどねぇ。一番はやっぱりその能力かな」

「能力?」

 

 【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】の能力は怨念の生成と操作である。確かに特異な能力ではあるし、それが<超級エンブリオ>の出力で行われるのは驚嘆の一言だろう。

 だが、それは他の<超級エンブリオ>も、否、<超級>でなくても<上級エンブリオ>であれば皆特異な能力を持つ。目の前にいるフランクリンのエンブリオ【パンデモニウム】も<超級エンブリオ>ではないとはいえ、そのモンスターの生産能力は破格である。なにせ、戦争で猛威を振るい、敵の首級を討つくらいなのだ。

 

「私が着眼したのはね、怨念を使役するという点だよ」

「怨念の使役?」

「怨念を生みだし、怨念を強化し、怨念を転生させる。優れた能力だねぇ」

 

 確かに優れた能力ではある。だが、ここまでフランクリンが食いつくほどなのか?

 その疑問に答えるようにフランクリンは口を開く。

 

「その技術があれば、<マジンギア>のMP問題は解決するかもしれない」

「…なるほどネェ」

 

 フランクリンが、否<叡智の三角>の最高傑作は何かと問われれば、百人が百人が<マジンギア>と答えるだろう。人型機動兵器【マーシャルⅡ】は亜竜クラスの戦闘力を持ち、量産可能な兵器。機械甲冑であった【マーシャル】の先に存在する、初の人型機動兵器としての<マジンギア>。それを開発したのが他ならぬ、フランクリンと<叡智の三角>なのだ。だが、その<マジンギア>にも弱点は存在する。

 

「<マジンギア>に限らずドライフの機械技術はMPの消費を前提にしている。これを怨念で代用できれば長時間の戦闘行動や強力な兵装の使用も簡単になる。それが怨念動力構想だねぇ」

「ああなるほど。《デッドリーミキサー》に着想を得たのか」

「あれは怨念を破壊力、つまりは物理的なエネルギーに変換して叩きつける荒業だけどねぇ。怨念を動力にするにはこれをもっと小規模に、かつ繊細にやれなければならない。そして、それを君ならできるんじゃないかい?」

「…」

 

 ノスフェラはフランクリンの仮設に思考を巡らせ、その考えを否定する。

 

「無理だろうネェ。私自身は【屍骸王】、屍骸の制作に特化しすぎてて怨念は管轄外。ヨモにしたってスキルで怨念を使役しているわけだから、スキルにないことはできない。動力に、なんてことはネェ」

「怨念に特化している君たちならいけると思ったけど、厳しいか」

「それならば、【冥王】か【死霊王】なんかに頼んだ方がいいネェ。そっちは私と違って怨念にも精通した超級職だし」

「なるほど、考えてお…ン?」

 

 その瞬間、フランクリンが目線を宙に向ける。その視線の先にはパネルが写っていた。それはフランクリンが国中にばらまいている監視映像だ。UBMを即座に見つけ対応するための備えである。そしてそのモニターには山が写っていた。

 

「この山がどうかしたのかい?」

「ああ君にはこれが山に見えるんだねぇ」

「?山じゃないのかい」

「山だったら…どうして動いている(・・・・・)んだろうねぇ」

 

 それはある国の一部の人間には見慣れた光景かもしれない。山が動くなどという光景は。

 なぜならばそれを為せる<超級>がいるからだ。自身の魔力によって山を使役する《山岳人形》。”魔法最強”と呼ばれる【地神】のオリジナル魔法スキル。

 

 だが、今回の光景はそれとは違う。なぜならその山はだれかに使役されているわけではなく、自分の意思で動くれっきとしたモンスターなのだから。

 

 ◇

 

 二人はフランクリンの用意した亜音速飛行型モンスターにて現場に直行する。もし、モンスターでこちらに敵意があるのであればすぐに対応しなければならないからだ。

 

「しかし、あなたまでくる必要はなかったんじゃないかネェ?【大教授】が前線に行くのってナンセンスだと思うけど」

「そんなことはないさ。この()で見ることに意味はある」

「…なるほど。しかし、あの山がホントにモンスターなのかい?」

 

 ノスフェラは未だにあれがモンスターだとは信じられなかった。なぜならあれをモンスターと仮定した場合、そのサイズは富士山に匹敵する。そんな巨体なモンスターいるわけがないし、いたとしてもなぜ誰も知らないのかという話になる。

 

「モンスターに間違いないさ。しかし、あんなものが今この瞬間に動き出したというのは作為的なものを感じるねぇ」

「戦争で勝利した皇国に対して<SUBM>を投下したのネェ。仕事をしないことで有名なここの運営が」

 

 現在、<SUBM>が投下済みの国はノスフェラが知る限り、グランバロアとアルターだけ。今この瞬間に、ドライフに<SUBM>が投下されたとしても不思議はない。

 

「あれは<SUBM>ではない。それに近しい存在ではあるんだろうけど、神話級のUBMだ。君たちが戦った、【アヴァシンハ】や【ネトラプレシス】と同格な存在だろうねぇ」

「…レベル100に到達した神話級UBMか」

 

 それの脅威をノスフェラは身を持って体感している。それならばあのサイズも考えられないことは無い。さらに言えば…

 

「あれはそれほど驚異的な存在ではない可能性もある」

「へえ。その心は?」

「神話級UBMとはいえリソースには限界がある。あれほどの体格とそれを動かす筋力。それだけでリソースを使い果たしていてもおかしくはない」

「確かに迫りくる速度も鈍重だしねぇ。その可能性は高そう」

 

 山の動く速度はAGIで言えば100にも満たない速度。それならば本来脅威にはなりえない。

 

「でも、どう見てもあれ、皇都に向かっているんだよねぇ」

「どれだけ鈍間だろうと山に踏み潰されたら、皇都は終わりだネェ」

「何としても食い止めないとねぇ」

 

 フランクリンとノスフェラはモンスターの打倒を決意する。しかし、それと同時に疑問も覚えていた。

 

 まっすぐ、皇都に向かうUBM。それは他でもない<SUBM>の特徴である。だが、あの存在が<SUBM>ではないことは他でもないフランクリンが知っている。

 同時にフィルルが倒した【メテロ】のことを想起する。あれも<SUBM>でこそなかったが、それに類する存在だった。そんな存在が北海に現れたのだ。

 

 <SUBM>が如きモンスターが二体、何者かの作為によって皇国に現れている。だというのに未だ、皇国には<SUBM>は投下されていない。

 

 そこから考えられることは…

 

(<SUBM>は既に皇国に投下されていて、それは秘密裏に対処されている?おあつらえ向きに”一”は欠番だしねぇ。<SUBM>の透過目的はおそらく<超級>への進化の促進。それができなかった皇国にはそれに準ずる存在が次々投入されている、ということなのかしら)

 

 その読みは正しく、ある管理AIの心中を言い当てていた。

 

「ホントにこれがモンスターなの?」

 

 ノスフェラは思わず口から言葉を発していた。それほどまでに圧巻な光景であった。目の前に存在する山がUBMなどということは。

 

「だけど、やるしかないねぇ。《叡智の解析眼》を使っているけど、どうにも読み込みが遅い。敵が神話級UBMだから?それとも単純にデカすぎるから?」

「先手必勝だネェ。私の読み通りならあれは大した防御機構も持ちわせていないはず。私の最高火力で吹き飛ばせば部位欠損かコア破壊でそのまま討伐できる可能性はある」

「こんな巨大な存在をどうやって?」

「勿論必殺スキルで」

 

 その瞬間、ノスフェラの左手から玉座が現れた。彼女がスキルを使う体勢に入ったのだ。

 

「君の最高火力っていうと、あれを蘇らせるわけだねぇ」

「暴走の可能性もあるけど…あれだけ的が大きいんだもの、当たるでしょ」

「こっちに来ないことを祈るばかりだ」

「少しでも離れておくことをおすすめするよ」

 

 その言葉に従うようにフランクリンはノスフェラから距離をとる。そしてノスフェラはアイテムボックスから10の【怨念のクリスタル】と白色のクリスタルを取り出し、

 

「《穢土の浄魂、浄土の穢魂(ヨモツ)反転するは我が境界にて(ヒラサカ)》」

 

 【怨念のクリスタル】は砕け散り、白色のクリスタルからは白き魂が抜け出る。怨念と白き魂が混ざり合い一つのカタチを成していく。竜のカタチを。

 

『《怨・終極!!!》』

 

 怨念で作られた竜から放たれるのは暗黒の極光。【光竜王 ドラグシャイン】のスキルを怨念で強化した一撃。例え、神話級UBMであろうとその肉体を灼き切るだろう。

 

 怨念の竜が制限時間を迎え、霧散する。そしてその極光を喰らったはずの山は変わらずそこにあり続けた。表面は幾何か削れたかもしれない。しかし、それだけ莫大な肉体を持つソイツからすればまさしく薄皮一枚斬られた程度であろう。

 

「馬鹿な!どうして…」

 

 ノスフェラの慟哭も当然である。あの極光を受けてその程度のダメージで済むはずがないのだ。あるとすれば、特殊な防御機構を持っていたか、だがそれもリソースの問題が…

 

「引くよ、ノスフェラ。相手が悪い」

「読み切れたの?」

「ああ。あのUBMの名前は【山竜王 ドラグマウンテン】、レベル100の神話級UBMさ」

「…【山竜王】。そう言うことか。何も特殊な防御機構ってわけじゃない。他の【竜王】達も持っているスキル、《竜王気》」

「あの巨体が生みだす《竜王気》は他の奴より減衰効果が強いみたいだけどねぇ。特に他のスキルは持っていなかったし」

 

 踵を返しながら、戦況を確認する二人。

 

「でもここで引いてどうする?あれを倒せなければ…」

「倒せるよ。あれが【竜王】だと知れたのはよかった。私のエンブリオなら竜特攻を持った自爆魔法モンスターや《竜王気》を貫通できる魔法を持ったモンスターを創り出せる」

「そうか、《改胎神所》なら…」

「アイツが鈍足で助かったよ。被害が出るまでまだだいぶ掛かる。そしてその時間があれば、十分モンスターの製造は間に合う。何より、的は大きいからねぇ、絨毯爆撃で終わりだよ」

「お金がかかりそうな話だネェ」

「宰相に出させるから無問題だねぇ」

 

 それは既に勝利を確信した者たちの会話であった。だが、それは油断に他ならない。敵というのはどこに潜んでいるかわからないからだ。

 

 ◇

 

「私は一応、リアルでフィルルに連絡しておくよ」 

「そうかい。まあ出番はないと思うけど、いたらいたで困るモノではないしねぇ」

「すぐ戻るよ」

 

 そう言ってノスフェラはログアウトした。フランクリンはノスフェラを待ちながら、先ほど見た【山竜王】のデータを読み返す。

 

【山竜王 ドラグマウンテン】

 レベル100

 HP:3776240000

 MP:7624

 SP:7624

 STR:37762

 AGI:77

 END:77624

 DEX:762

 LUC:37

 

「数値も十分化け物だねぇ。HPに至っては37億か。更にこれに《竜王気》もあるからねぇ。相当性能を尖らせないとダメージが与えられないか?…【パンデモニウム】が<超級エンブリオ>だったなら容易いんだろうけど。ああは言ったけど、フィルルか【獣王】はいた方がいいかねぇ」

 

 その思考は本拠地に戻ってからするべきだったかもしれない。フランクリンにしては珍しく、外敵に対する備えを一切せずに出歩いているのだから…

 

「…ん?」

 

 気づいた時には遅かった。装備していた【救命のブローチ】は砕かれ、自身の首からは大量の血液が噴水のごとく飛び出していた。

 

 フランクリンが後ろを振り向くとそこには首切りを為したと思われる凶刃を持った人間が立っていた。

 

「戦争ではよくもやってくれたな。これはその仕返しだ」

 

 フランクリンはその男の顔に見覚えはなかったが、おそらく自身が作ったモンスターに喰われて死んだマスターの一人だろうと考えた。その左手にはマスターを示す紋章があったからだ。だが、フランクリンはもうその顔を忘れない。

 

(【大教授】である私を暗殺しようっていうのに顔もステータスも隠さないだなんて、馬鹿な子…。ゼッタイニユルサナイ)

 

 《叡智の観察眼》で凶行を為したマスターのステータスを確認しながら、フランクリンは光の粒となって消えていった。

 

「駄目だネェ。やっぱり、フィルルは試験勉強で忙しいって…」

 

「…」

 

「フランクリン?」

 

 ◇

 

 ノスフェラがフランクリンが何者かの手によってデスぺナルティに陥っていると知ったのはそのあとのことだった。

 デスぺナルティとなったフランクリンは三日はこっちに戻ってこられない。戻ってきてそのあと、【山竜王】に特化したモンスター軍団を作る、それでは皇都襲来には間に合わない。

 

「フィルルがダメとなると…噂の【獣王】に対処をお願いするかネェ。…大惨事になりそうだ」

 

 ノスフェラの推測は正しい。【獣王】と【山竜王】がやりあえば、例え【山竜王】を討伐できたとしてもその戦禍で皇都襲来と変わらない大惨事になる可能性が高い。それでも、一応、【獣王】の窓口である皇王には連絡しておかなければならないだろう。

 

「試してはいないけど…あれを使えれば穏便に解決できる、か?」

 

 ノスフェラが考えたのは最近得た怨念のことである。何しろコストが重すぎて試運転すらできていない。だが、うまくいけば、これ以上皇国の地を荒らすことなく仕留めることが可能かもしれない。

 

「試すなら速いほうがいい…か」

 

 ノスフェラはフランクリンの使っていた飛行型モンスターに乗り、再び【山竜王】の元へと向かう。

 

「ヨモ。【怨念のクリスタル】の貯蔵は十分?」

『丁度使い切る予定です』

「良かった。【怨念のクリスタル】が足りませんでした、ではお話にならないからネェ」

 

 ノスフェラは玉座に腰掛け、その必殺スキルを使う時を刻一刻と待っている。自分の想像通りに事が進むことを。

 

「いた」

 

 【山竜王】を眼前に捉え、ノスフェラはアイテムボックスを握り砕く。その瞬間、ノスフェラの周囲から莫大な怨念が溢れ出す。当然だ。なぜならそのアイテムボックスの中には百の【怨念のクリスタル】が入っていたからだ。

 

 それほどの怨念が、ノスフェラの出した茶色のクリスタルから飛び出した魂と混ざりあい、異形のカタチを作り上げる。

 そしてその異形は拳を振るうでも、声をあげるでもなく、ただ立ち尽くして…10秒という長すぎる時間のあとに霧散していった。

 

「失敗…したのかな」

『……』

 

 【山竜王】は変わらず、歩みを続けるその巨体で鈍重に進むだけだが、その歩みを止めることは誰にもできはしない。だが、不意に【山竜王】の動きが鈍る。まるで自身の身体を動かす力が半減したような、自身の速度が半減したような、生命力が半減したような感覚があった。

 

『いいえ、ノスフェラ様。成功です!!!』

「…よしっ!!!」

 

 ノスフェラが呼び出した怨念は【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】である。特典武具にならず、【天地海闢 メテロ】に討伐されたことでその怨念は北海を漂い、ノスフェラに回収された。

 そして、それを基に発動させたスキルは【ネトラプレシス】の最終奥義とも言うべきスキル、《頽廃怨地》をヨモの怨念によって狂化したモノ。

 

 自身の死をトリガーとして発動し、自身に死を与えたモノを永久に呪う最恐のスキル。元より、怨念は生前多用していたスキルや死の間際に使ったスキルを再現する傾向があり、怨念となっていることで、自身の死というトリガーは満たしている。後はその対象がランダム対象になっているのだ。

 

 つまり、ノスフェラの賭けとは【ネトラプレシス】を呼び出せるかどうか、《頽廃怨地》を使うかどうか、それが【山竜王】に適用されるかどうかというところにあった。

 だが、今ノスフェラはその賭けに勝ち、【山竜王】を永久に呪うことに成功したのだ。

 

 あとは【山竜王】を倒せるステータスになるまで待つだけだが、それは厳しいだろう。いくら【髄骸】でも【山竜王】相手に時間稼ぎはできない。このまま【山竜王】が歩みを止めるまで皇国の大地は踏み潰されて消えていく…

 

「なんだよ、時間稼ぎと足止めなら任せとけ!」

 

 そこにはすべてを理解したかのような顔で胞子を展開する一人の男がいた。”軍団最強”の男がだ。

 

 その男の言葉通り、幾何の時が流れて、

 

「時間は稼いでやったぜ。止めは…お前が決めろノスフェラ」

 

 右の親指を挙げながら、止めの合図を出す。

 

『《転念怨遷》』

 

 それは怨念を生みだすスキル。ヨモが行うそれは最高品質で純度の高い【怨念のクリスタル】を生みだす。そしてそこから放たれるスキルは…

 

「《デッドリー・ミキサー》」

 

 純黒の螺旋。

 

 それは伝説級のモンスターですら一撃で屠る破壊のエネルギー。

 

 まして神話級の”竜”ならいざ知らず、純竜級以下の”蛇”にまで堕ちた【山竜王】に耐えられる道理はなく、そのHPを全損させて消えていった。

 

 ◇

 

【<UBM>【山竜王 ドラグマウンテン】が討伐されました】

 

【MVPを選出します】

 

【【ノスフェラ・トゥ】がMVPに選出されました】

 

【【ノスフェラ・トゥ】にMVP特典【山竜王完全遺骸 ドラグマウンテン】を贈与します】

 

「…まったく、試験勉強はどうしたんだい?フィルル」

「ああ。飽きたからフケてきた」

「…まったく、いやホント全く」

「だって難しいだもん」

「…今度、教えてあげるよ、勉強」

「ああ、よろしく頼むぜ、先生!」

 

 そして、彼らはまた動きだす。現実と虚構の世界を行き来しながら。

 

「そう言えば…特典素材を得たけど、山みたいなデカイモンスターをどうやってアンデットにすればいいのかネェ」

 

 そして、極々、当たり前の疑問に行きついた。 

 




やっぱり、ノスフェラはヒロイン。はっきり分かんだね。

一人不穏な人がいたけど(フラなんとか)







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