"軍団最強”の男   作:いまげ

50 / 59
短編です

ちなみに作者は喫煙者ではないよ


After Story ”弱肉強食”

□??? 【■■■】メビウス・セブンスター

 

「…ふう」

 

 煙草を弄ぶ。

 

 白煙が生まれる。

 

 空中に消える。

 

 料理と酒を肴に俺は一服していた。

 これは昔からの俺のルーチンみたいなもんだ。大きな仕事の前にはいつもこうして気持ちを整える。現実世界の癖だったはずだが、このゲームの中でも同じことをしている。

 

 いや、現実世界ではもう長いことできていないか…

 

 それが急に可笑しくなってしまって、咳き込んでしまった。

 

 周りの視線が俺に集まる。

 だが、その視線も心地いい。

 

 煙草を吸って咳き込んだ俺を、”若い”と笑う視線であって、煙草を忌避してる視線ではないからだ。

 

 現実世界じゃ煙草を吸うことすらままならない。年々、俺たち喫煙者の居場所はなくなっていく。

 街中で煙草を吸おうものなら殺人者と断じられる。自宅でも、色々な規約やら契約条件やらで煙草を吸うことはできない。

 

 喫煙者という弱者は非喫煙者という圧倒的強者にとって喰われたのだ。

 

 今俺が煙草を吸える空間はこの<Infinite Dendrogram>しかない。そう、俺は真に”自由”に喫煙できる世界を求めて、このゲームを始めた。

 

 チュートリアルで俺が最初に発した言葉は”この世界で喫煙は自由か?”だったか…

 

 まあ、そんな俺から生まれるエンブリオはやはりというか煙草型だった。能力に関しては疑問が付き纏うが、だからこそ今俺はここにいる。

 

 そう、今から行うのは…”最強殺し”

 

 ”軍団最強”と呼ばれるフィルル・ルルル・ルルレットへのPKだ。

 

 ◇

 

 今回の仕事は俺の所属クランから回ってきたものじゃない。そもそも、俺のクランはそういう仕事は請け負っていないし、縛りが強いわけじゃない。たまにあるオーナーの頼みごとを聞くだけだ。

 

 それであれ(・・)だけの見返りがもらえる。国家に所属していないクランでこれほど規模が大きいのは、そんな理由もあるんだろう。

 だから【死商王】のような裏切り者が出るんだろうが…、まあオーナーは特に気にしてなかったな。

 

 …思考が揺れている。

 

 やはり最強を相手にすることに緊張しているのか。

 

 今回の依頼は俺個人に回ってきたもの。依頼主は…隠していたがカルディナの手のモノだろうな。そういうのは見たらわかる。

 なぜ、カルディナが”軍団最強”を突け狙うかまではわからない。そもそも、カルディナには子飼いの<超級>がいるはず。なんで俺に仕事が周ってくるかね。<超級>を動かすことに問題があるのか…、それとも<超級>でも倒せないと見たか…どちらにしても、議会が直接絡んでいるわけではなさそうだ。奴らならもっと上手く(・・・)やる。

 

 さらに言えば、俺がPKに成功したとしてなんの意味もないはずだ。”軍団最強”は指名手配されているわけじゃないから”監獄”には…いや、カルディナでは指名手配を喰らっていたな。それ関係の仇か?…面倒ごとに巻き込まれている気しかしないな。

 

 だが、一度仕事を受けた以上はやりきるしかない。こちらにも事情がある。それに、どうやら俺と【軍神】との相性はいいみたいだからな。

 

 ◇

 

「なあ、アンタ、フィルル・ルルル・ルルレットだろ?」

 

 俺は同じ店内で食事をしていた【軍神】に声をかけた。周りにはいつもの連れ(【屍骸王】)はいない。チャンスは今しかない。

 

「そうだけど、どうした?」

 

 【軍神】は特に気にした様子もなく、俺と応対する。俺は煙を吐きながら会話を続ける。この煙がこの空間に充満するように。

 

「実は俺、アンタをPKするよう依頼を受けたんだけどよ、なんか心当たりあるか?」

 

 いきなりの俺の質問に【軍神】は驚愕の表情を浮かべた後、すぐに返答を返した。

 

「ヒトチガイデス」

 

 …嘘付け。さっき、認めてだろうがよ。それにこっちは分かってるんだよ。

 

「そうか、まあ人違いでもいいや。別にマスターを殺しても犯罪じゃない。”軍団最強”じゃないアンタを殺しても問題はないよなあ」

 

 俺のあからさまな煽りを前に【軍神】は困惑したような表情を見せた。

 

「…はあ、アンタ何がしたいの?俺をPKしたいなら闇討ちでもなんでも方法はあるだろうに、目の前でそんなことやられたらあきれて勝負する気も失せるってもんだよ」

 

 どうやらさっきの驚愕の表情はまさか、目の前で自分の実情をバラす馬鹿がいるとはという驚きだったんだろう。まあ、俺も同じことされたら、そう思うな。

 

「なんだよ、つれねえな。俺はもう殺る気満々だっていうのに」

 

 そう言いながら、俺は右手に長剣を握る。

 

「…そこだよ。だったら最初から刺せばいい。だっていうのにアンタは格好ばかりで欠片も殺気がない。それで俺を倒せる気か」

「殺せるさ」

 

 俺は長剣を【軍神】の心臓に突きたてる。周りの客は漸く俺たちのやり取りに気が付いたのか、クモの子を散らすように逃げ去っていった。

 

「…どうやら、頭だけじゃなく情報も足りていないようだな」

 

 心臓を一突きされたはずの【軍神】は何もなかったようにこちらを見てくる。そして、奴の足元からは何かが転がってきた。それは身体を両断されたかのような無残な虎の死体だった。

 

「虎丸が死んだ。罪を償え」

 

 その言葉と共に、奴の外套が輝き、そして、…何も起こらなかった。

 

「…あ?」

 

 今度こそ、【軍神】からは驚愕の声が漏れる。

 そして、俺は長剣に仕掛けれたトラップを発動する。スキルによって刀身は爆発し、【軍神】の肉体を内部から破壊する。

 

「うらァァァ!」

 

 【軍神】は身を守るかのように両手に双剣を装備した。やはり生きていたか。だが、これで【ブローチ】は砕けたはずだ。畳みかけるように、俺は【煙芸王】のスキルによって周囲に漂う煙を亜竜級の獣へと変換する。

 

「《鳥獣戯煙》」

 

 それは見た目の派手さはないが、空中に漂う煙を生物に変化させる技芸。煙芸を極めた【煙芸師】の頂点、【煙芸王】のスキルである。

 

「てめえ、超級職だったのか…」

 

 【軍神】が今頃気づいたかのような表情をする。まあ当然だな。俺は道化を演じていたし、俺の煙は情報認識阻害を持たせることすらできる。【軍神】には俺が下級職のルーキーにしか見えなかったはずだ。

 あえて、道化を演じることで相手の警戒を逆に下げ、PKの難易度を下げたのだ。

 

「気づいたところでもう遅い。貴様がいくら”軍団最強”と嘯いたところで殺す手段は無数にある」

 

 ◇

 

 フィルル・ルルル・ルルレットを”軍団最強”足らしめているのは、神話級特典武具【三源輝套 クリスタリヴ】である。<超級エンブリオに>よる莫大なステータス強化も、強力無比な【軍神】のスキルも、最強のイレギュラーの召喚も【クリスタリヴ】を基点に行われる。

 逆に言えば、【クリスタリヴ】の《エレメンタル・プロダクション》さえ防げればフィルルの戦闘力は著しく落ちる。無論、神話級特典武具故に、破壊やスキル無効といった手段は難しい。

 

 だが、メビウス・セブンスターはそれを可能にするエンブリオを持っていた。その銘は【薄命煙 タマテバコ】という。その能力は対生物に特化した煙を生みだすアームズ型のエンブリオである。

 そのスキル、《エンド・スモーク》は煙を吸ったものの元々のHPを減少させ、HPが0となったものを即座に抹殺する呪煙。第六形態となった今では元々のHPを600削ることができる。

 

 対して、【クリスタリヴ】によって生みだされる【スポアエレメンタル】の元々のHPは100。故に《エンド・スモーク》が充満するこの空間では、生みだされた【スポアエレメンタル】は他のスキルの効果を受ける暇すらなく消え失せるのだ。

 

 そう、【薄命煙 タマテバコ】は奇しくも対”軍団最強”に特化したエンブリオだった。

 

 ◇

 

「…良く持つな」

 

 俺から出た言葉は素直な驚嘆だった。”軍団最強”は【スポアエレメンタル】さえ封じてしまえば後は《鳥獣戯煙》で殺せると踏んでいたが…今もギリギリで命をつないでいた。

 

 《鳥獣戯煙》によって生みだされたモンスターは亜竜級のスタータスを得る。また、その躰は煙でできているため、物理攻撃では煙を散らすことしかできない。更にただの煙ではなく《エンド・スモーク》を圧縮して生みだされているため、その爪牙は相手を傷つければ、即座にその元々のHPを3000は削るだろう。

 

 【タマテバコ】と【煙芸王】のシナジーは凄まじく、戦う術を失った【軍神】では即座に死に失せるしかないと思っていた。しかし、現実はこうして生き延びている。

 

 本来であれば、勝ち目のない持久戦など意味はなさない。もしかしたら奴にはこの状況をひっくり返せる秘策があるのかもしれない。

 …いやない。

 アイツが他に取り得る手段が他にないことはこの双眼が()っている。 

 

「厄介な能力だなー」

 

 ターゲットが口を開いた。…時間稼ぎのつもりか?

 

「対生物に特化した煙とそれを自由自在に操るジョブスキル全く厄介な組み合わせだ。まさか、【スポアエレメンタル】を生みだした瞬間に消されるとは思ってなかったぜ。似た経験がない訳じゃないが…」

 

 能力を見破られている。これは…警戒を強めるべきか?今この瞬間、口を開いたということは状況の一転を狙っているはず…

 

「ちなみにその似た状況っていうのは生みだした胞子たちが即座に殴り殺されるっていう地獄絵図でな」

「そん時は俺は巧みな話術で隙を作ったわけだが…」

「あんたには厳しいかなー」

「そういや、あん時やられた胞子の数っていくらくらいかなー」

 

 …先ほどの俺のように道化でも演じているのか?

 

「ちなみに今、アンタが殺した胞子の数はいくつかわかる?」

 

「…」

 

 俺が殺した胞子の数…だと?そんなもの奴の生みだした胞子の数の三千に決まって…いや、奴が召喚しても無駄だとわかった上で召喚を続けていればその数は…

 

「答えは自分で確かめるといいぜ」

「にゃー」

 

 声の主は…奴の《ライフリンク》用のアンデット。この目ではあれの情報は()れない。まさか、あのアンデットにこの状況を打開できるだけのスキルが…

 

【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

 ◇

 

「…ッ!」

 

 現実世界に戻ってきた。

 まともに煙草も吸えない窮屈な現実に。

 

「失敗…したか」

 

 ”最強殺し”

 そう易々と成功するものではないとわかっていたが、心残りもある。綱渡りのような作戦はすべてうまくいっていた。だというのに最後の最後でしてやられた訳だ。やはりあのアンデットは特殊なスキルを持ち合わせていたのだろう。

 

 奴の発言を信じるならば…こちらの殺害数によってダメージを引き上げる闇属性攻撃の一種か?

 

 相手のジョブや装備の詳細と違って、モンスターの詳細を()る術の無い俺にとっては確信の持てない推測交じりとなってしまう。

 ああそう言えば、デスぺナになってしまったから、またオーナーの厄介にならないと…

 それにしても今回の依頼主はいったい…

 

 …ふと目をやるとそこには煙草の箱があった。

 勿論、この部屋は禁煙である。吸うとなれば、また数を減らしている喫煙エリアに出向かなければならない。いつもはその面倒を嫌って、デンドロの世界で煙草を吸うのだが、デスぺナとなってしまっているから、そうもいかない。

 

 …まあいい。たまには現実世界で思うままに煙草を吸おう。例え失敗だったとしても、仕事のあとの一服は至福のひとときなのだから…

 




弱肉叫蝕(じゃくにくきょうしょく)

 虎丸の保有するスキル。闇属性超音波攻撃。相手の自身のパーティメンバーの殺害数によって威力が上昇する。アンデット故に、呪怨系統と闇属性との相性がよかったために生みだせたスキル。フィルルを思って生みだしたスキルであるため、フィルルとのシナジーは強力。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。