アニメ化記念投稿です。
久々なので寛大な目で見守りください。
Xross Superior その1
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大海に浮かぶ巨大な戦艦。その大きさは俗に言う300メテル級戦艦と形容されるものに等しい。
だが、その姿をよく見てみれば決してそれがまともな戦艦ではないことに気づく。その戦艦の外壁や竜の頭を模した船頭は生々しい肉体をして脈打っていた。いやそれも間違っている。脈を打ってはいないし、まして生々しい肉体でもない。
それは屍肉でできていた。
それがなおも生きていると錯覚するような動きをしているのは他でもない、その戦艦の如き竜の所有者である【屍骸王】ノスフェラ・トゥの能力である。
そんな戦艦の正体は【屍骸王】が保有する複数の奥義と自身のエンブリオ【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】、そして神話級UBM【山竜王 ドラグマウンテン】のMVP特典を駆使して作られた最高傑作【屍山竜骸】である。
神話級特典素材となった【山竜王】の遺骸を【屍骸王】のスキルで加工し、【浄穢境界】の能力で稼働させる。他の誰にもできないノスフェラ・トゥ渾身の一作。
戦艦の外壁は鋼鉄の如き筋肉でできており、神話級金属以上の防御性能を有している。海洋に潜むモンスターが攻撃をしても傷一つつかないことからも、その堅牢さが伺える。
そして戦艦の内部には人の居住するスペースが存在する。戦艦といってもその実態は巨大なアンデットモンスター。その内部の居住スペースとはつまり、アンデットの腹の中ということなのだが、そこに住んでいる者たちはそんなことを気にしている様子はない。
一人は制作者本人であるノスフェラ・トゥ。そしてこの世界で《軍団最強》と呼ばれている最上位の<超級>フィルル・ルルル・ルルレットである。
「しかし、こいつはほんとにすごいな。この戦艦が元はあの山だって知ったら多くの人間が驚くぞ」
「驚くことはないネェ。生産系統の超級職はその分野に限れば、まさに神業としか言えない作品を多く残している。まして、その素材が神話級UBMのMVP特典となればなおさらだ」
居住スペース内で会話をする二人の<超級>が話題に話題にしているのは、乗り込んでいる戦艦についてである。彼らが手にした多くの資産をつぎ込んで内装した居住スペースは、戦艦にあるまじき豪華客船の部屋と見間違えるほどだった。
今も巨大なソファに身体を預け、お菓子をつまみながら会話をしている。ただの戦艦であればとてもできないことだった。
「船酔いもしないし、どうなってるんだコイツは?特殊なスキルでも使っているのか?」
「別に特殊なスキルは使っていないさ。コイツは巨体な上に、その質量は体格に見合ったもの以上にある。単純に揺れにくいのサァ」
「まーなんにしろ、船酔いしないってのは最高だ。これで旅も楽になるってもんだ」
彼らの船旅はつい先日始まった。
この二人は今、この山の如き戦艦によって大陸を移動しようとしている。彼らが向かう先は新たな地平、<天地>である。
彼らが戦艦を用いて大海を移動しているのは、今までメインの拠点にしていた西方三国から離れ文字通りの新たな天地を求めていたためである。
《軍団最強》である彼に言わせれば、せっかく七か国あるのだから全ての国を回ってみたいという少年らしい展望と、日本人であるならば、一度は天地に足を踏み入れたいという願望が混ざった結果だった。
ちなみにそれを聞いた【屍骸王】の反応は「ヘェー、フィルルって日本人なんだ、へえー」みたいな反応をしていた。
「東方の国に行くには中央大陸を突破する方法もあったんだが…」
「まあフィルルはカルディナで指名手配されているから厳しいだろうネェ」
「なーんで指名手配されちゃったかなー。俺なんかした?」
「…他国の軍事行動を妨害したら、どうあれ指名手配されると思うけど」
フィルルのネジの抜けた問いかけに対して、至極当たり前のことをいうノスフェラ。フィルルもそれは十分に分かっているはずなのだが…
「えー。あれ俺そんなに悪いことしたかなー。俺が偶然、散歩していたらカルディナの奴らが突っかかってきたから相手しただけなんだけどなー」
すっとぼけ回答をするフィルル。無論、ただの散歩ではなく明確な軍事行動妨害である。
「少なくとも、そんな幼稚な言い訳が通じないからカルディナで指名手配されてるんじゃないかネェ」
会話の通り、フィルルはアルター王国とドライフ皇国による第一次騎鋼戦争と呼ばれる、<Infinite Dendrogram>初の戦争イベントに横やりを入れようとした第三国のカルディナの妨害をした。
ドライフ皇国の現国王ラインハルトの依頼のためにそのような行動を起こしたのだ。その報酬としてフィルルは皇国から破格の報酬をもらっているが、それが今の現状と見合っているかといえば、難しいところだろう。
現状、フィルルはカルディナで指名手配されることとなり、中央大陸では表立って歩くことをためらわれる有様になっている。指名手配されて以降、カルディナに雇われたと思われるPKに襲われ続けてきたからである。
無論、フィルルの強さを考えればそれらを無視して、中央大陸を強行突破することも可能だろう。だがその結果、カルディナ最強のクラン<セフィロト>の介入があれば話は変わってくる。
<超級>の一人や二人なら何とかする自信はフィルルにもあったが、複数の<超級>が絶え間なく襲ってくるとなれば話が別となし、まして、自身と同様に<最強>の名を冠する<魔法最強>ファトゥムを相手にすれば、地形を大きく変える大惨事になりかねないことは想像に容易い。
<セフィロト>の介入がない間にどうにかして大海を経由し、大陸を迂回するルートを模索していたのだ。しかし、フィルルが船酔いに極端に弱いというリアルから持ち込んだ体質のせいで長い間足踏みをしていた。
だが、それもノスフェラの尽力によってフィルルでも船酔いの恐れがない戦艦型のアンデットの作成に成功したため、四海に飛び込んでいる。
「最近、色々な厄介事に巻き込まれたからなー。わざわざゲームのなかでまで面倒を起こすのはこりごりだ」
「…自分から突っ込んでいってたような気がするけどネェ」
「しばらくは観光でもして疲れた俺の心を癒すのサー」
適当な相槌をしながらもフィルルはこのクルーズを楽しんでいた。
彼を世界派、遊戯派で簡単にくくることはできないが、それでもゲームとしてこの世界を楽しんでいる。以前のように面倒なゴタゴタを起こすのも、起こされるのもごめん被りたいという意思がありありと見えた。
「まあ、海洋クルーズみたいなものだ。楽しむといいよ」
「UBMに絡まれる程度なら笑い話で済むんだけどなー。人が関わるとろくなことにならん」
「UBMネェ。メテロ以来、神話級はおろか逸話級UBMにさえ出会えていない。まあ、本来そういうものらしいけど」
UBMに関して、ノスフェラの言通りである。UBMはその名の通りユニークモンスターなのである。そもそも出会うことすら難しい。サービス当初から<Infinite Dendrogram>をプレイしているフィルルがこれまでに出会ったUBMは10体を超える。これが多いか少ないかはともかく、討伐しMVPになった数はその半分以下である。
<最強>と呼ばれるフィルルですらこうなのだ。UBMには出会うことすら難しく、討伐者に、そして、特典武具を得ることは難しい。
フィルルにしても、いままでUBMに出会い過ぎたところもある。波の寄り返しではないが、現在UBMに出会えないのも無理からぬことだろう。
「まあ、大海には未知のUBMがたくさんいるらしいからネェ。戦えるといいね、UBM」
ノスフェラの優しい言葉と微笑みのあと【屍山竜骸】は轟沈した。
戦艦が轟沈しました。
ということでこのシリーズ、主人公はフィルルじゃないです。
ご了承ください。