"軍団最強”の男   作:いまげ

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もうそろそろ…


Xross Superior その5

 ◇

 

 煙を身に纏った男が海中要塞を駆ける。彼の周りに警備の機械兵が襲い掛かった来ることはなかった。

 なぜなら、彼は他者からの認識を阻害するジョブスキル《煙隠れ》を使っているからである。

 

「機械兵やあの<超級>はロジャーさんが対処してくれているか…。今の内に目的を遂げねば」

 

 メビウスはユテンから与えられた眼を用いて周囲を透視しながら身の危険を確認しつつ、予め聞いていた話を思いだしていた。

 

「【死商王】に奪われた要塞を攻めると聞いた時は、ついにマルスに罰を与えるのかと思ったが…むしろ殺すなとはな。…”裏”のプラント、本当にあるのならば、何としてでも破壊せねば」

 

 クランオーナーであるユテンの言うことが確かならば、最早一刻の猶予もない。目的物を破壊すると意思を再度固めようとした瞬間、メビウスの眼は自身に迫る危険をいち早く察知した。

 

「《鳥獣戯煙・薄竜》」

 

 メビウスは【煙芸王】のスキルを使い、周囲の煙を天竜のカタチに凝縮していく。そして、その竜を自身の身体に纏わせるように展開する。

 

 メビウスはそれ以上、何かをすることはなく直進を続ける。相手が何をしようと問題ないことが分かっているからだ。

 

 直後、超音速で飛来する天使が薄竜に接触した感覚があったが、何事もなかったかのように薄竜はそこに存在しづづけた。

 

「この眼でも捉えるので精一杯。それに認識阻害をかけた俺に気づくとは…侮れん。やはり、”将軍最速”の名は伊達ではないか」

 

 しかし、その言葉とは裏腹に、メビウスは【天将軍】セイヴァ―へと高らかに宣言した。

 

「今の俺とアンタでは俺に軍配が上がる。さっさと引いた方が身のためだぞ」

 

 ◇

 

 メビウスがそう発言したのには理由がある。

 

 一番大きい理由は地理的条件である。

 この狭い要塞の通路ではセイヴァ―は神話級天使を召喚できない。単純にサイズの問題で召喚した途端に、周りの通路を破壊して術者本人が瓦礫の山に呑まれてしまう。

 

 仮にその問題を解決しても、そもそも召喚できるのかという疑問が残る。

 セイヴァ―は本日、既に神話級天使を一度召喚している。それはセイヴァ―にとって大変心をすり減らすことだ。

 彼女のエンブリオは祈りの間のみ、術者に流れる時間を加速させる。逆に言えば、セイヴァ―にとって、体感時間はまったく変化していないのである。

 

 天使の召喚に三日三晩の祈りが必要であれば、彼女は実際にそれと同じ体感時間祈りを捧げる必要があり、神話級天使の召喚でもそれは同じである。長時間の祈りはそれだけでセイヴァ―の負担になり得る。

 

 それを一日に二度も行うことは、幼い彼女のリアルを鑑みても決して行っていい行為ではない。

 

 故に、既に神話級天使の召喚という彼女の”最強の切り札”は既に使えない。

 

 そして、通常の超音速天使たちはその脆弱すぎるHPが幸いして、彼のエンブリオで生みだされた薄竜を突破することはできない。

 

 薄竜は接触した相手のHPを即座に5000も削る。そして、【天将軍】が生みだす超音速天使軍団はAGIこそ五桁を超えるが、HPは四桁しかなくその数値は3000すら下回る。

 

そう、セイヴァーの持ち札では薄竜を身に纏ったメビウスを突破することはできないのだ。

 

 更にはメビウスには相手の位置を把握できる眼がある。狭い要塞内での防衛戦では、セイヴァーの得意とする物陰に隠れながらの天使召喚は不可能に近かった。 

 

 そして今、メビウスはお互いに視認できる距離までセイヴァ―に接近した。

 

 ◇

 

 メビウスは自身の身を守る薄竜のは別に、もう一体攻撃用の薄竜を作り出した。

薄竜の爪牙ならば、例え超級職といえど、ステータスの伸びの低い【将軍】であるセイヴァーのHPを瞬く間に削る自信があったのだ。

 

 薄竜は“軍団最強”に破れた後に生み出した、新しい力。そのステータスは純竜級に匹敵する。【将軍】では真っ向勝負になった時点でほぼ価値が確定するほどの能力。故にメビウスは勝利を確信していた。

 

 次の瞬間、薄竜ごと自らの右肩が撃ち抜かれるまでは。

 

「やはり、銃の扱いは慣れない。脳天を撃ち抜いたつもりだったけど…【銃士】かなにかとっておくべきだったわね」

 

 右手に構えた銃に弾を込めながらジョブ構成について考えをまとめるセイヴァー。

 

「まあ、それは貴方を倒してから考えるとしましょうか」

「薄竜!」

 

 自身の身を守る薄竜に乗り込み、セイヴァーから距離をとるメビウス。

 それに対して、弾丸を撃ちこんでいくセイヴァー。

 薄竜を巧みに動かし、その弾丸を掻い潜っていくメビウス。

 

「あの銃は情報になかった…。新たに得た特典武具か」

 

 その推測は正しい。

 強敵に負けて新たな力を欲したのはメビウスだけでなくセイヴァーも同じ。彼女は海中に潜んでいた古代伝説級UBM【魚換弾鮫 オファリンガ】を倒し、【換鮫砲 オファリンガ】を得ている。

 

 その能力は配下のモンスターを弾丸に変えて撃ち出すというもの。そして、産み出される弾丸は素材となったモンスターの特徴を引き継ぐ。

 

 故に超音速天使を素材に作られた弾丸は、高いアンデット特攻と超音速を越える速度をもつ。アンデット特攻は今のメビウスには影響がないにしても、超音速の弾丸は危険極まりないものだった。

 

 超級職とはいえ、【煙芸王】は決して戦闘職ではない。そのステータスはカンストした前衛職にも見劣りするほどだ。それをユテンから得た邪眼にてある程度カバーしているが、純粋なステータス差で追い込まれつつある。

 これが、ただのモンスターならば、薄竜の守りでまだ生き残りの目があったが、弾丸となっていることで、【タマテバコ】の能力範囲外となってしまっている。

 如何に薄竜が飛行能力を持った純竜といえど、逃げ切れるものではない。自身の利になると思っていた通路の狭さが、逆に自身の脱出口の少なさを如実に表していた。

 

「く、そ、がっ!」

 

 遂にその弾丸がメビウスの左手を撃ち抜いた。その手には彼のエンブリオがあり、【タマテバコ】は左手ごと砕け散った。

 それは薄煙の消失を意味し、それを基に模られていた薄竜はカタチを保てなくなり、騎乗していたメビウスは床に落下してしまう。そして、四肢の欠損により、メビウスの近い未来のデスペナルティが確定していた。

 

「チェックメイトですね、今度こそ脳天を撃ち抜きます」

「本懐を成し遂げられず、ここで詰み、か。後はロジャーさんに…」

 

 瞬間、メビウスとセイヴァ―の周りに胞子が充満した。

 

「何、これ?」

 

 セイヴァ―の困惑した声が響く。それもそのはず、ここに侵入したのは、《ゴルゴネイオン》のロジャーとメビウスの二人だけのはず。それ以外の人間なぞいるはずがない。モンスターだとしてもただのモンスターであれば、即座に機械兵が制圧するはずである。

 これほどの量の胞子型モンスターが不意に現れるなどということはありえないのだ。

 

「まさか…」

 

 メビウスの驚愕した声が掻き消える。ここにあの男がいるはずがない。その思いから発せられた言葉であった。

 

 だが、目の前に水晶の如き輝きを放つ外套を纏った男が現れたのでは、最早疑うことはない。

 あの男が来たのだと。

 ”軍団最強”の男が来たのだと。

 

「まさか、こんなところで…”将軍最速”と”軍団最強”の戦いがみれるとは…」

 

 ◇

 

 セイヴァ―の取った行動は迅速だった。

 

 彼女は目の前の男が何者かは知らなかったが、【死商王】より、侵入者は即座に抹殺するように言われている。何者だろうと容赦する理由は存在しなかった。

 

 【換鮫砲 オファリンガ】に超音速天使の弾丸を詰め、引き金を引く。

 

 音の数倍の速度で放出される弾丸を男は避けることさえしなかった。そして、着弾した弾丸に対して何の感慨も持たず、男は言葉を述べる。

 

「さっきこの辺でっかい戦艦がいただろ?あれに攻撃したの、だれ?」

 

 攻撃されたことなど意にも介さず、男は質問のみを投げかける。だが、セイヴァ―はその質問を無視し、弾丸を討ち続けるが一切のダメージを与えられていない。

 

「まさか、ENDが高すぎて弾丸でダメージを与えることすらできていないのか…」

「どっかで見たような奴もいるな。ま、お前じゃねーだろ。そんな火力はおまえにはねーしな」

 

 目の前の男はまるで銃で撃たれていないかのように、ユルイ表情で会話を続けていた。それが無性にセイヴァ―を苛立たせる。

 

「戦艦といったな。あれを撃ち落としたのはこの私だ!あれの主は【怨念のクリスタル】を大陸中にばらまく悪逆の徒だ!故に、天に変わり、私が罰を与えたのだ!」

 

 セイヴァ―が興奮のままに、男を煽るように口調を荒げる。自身を無視したような態度に嫌気がさしたのである。

 

 それを聞いた男は右手で頭を掻きながら、こういった。

 

「そっか。で、ここは?」

「…」

 

 彼女の激昂を聞いて尚、ユルイ表情を変えない男にセイヴァ―は呆気にとられていた。

 

「ここは【死商王】の居城。知っているかは知らんが【死商王】というのはその女の上司だ」

 

 そんな彼女の代わりに男の問いにメビウスが答える。質問に答えないことで、男の不興を買いたくなかったからだ。

 

 だが、その返答は間違いだった。

 

「なら、潰すわ」

 

 男は自身の行動指針を述べた。

 

「ま、待ってくれ!」

 

 メビウスはそれを止めようとする。今、【死商王】を殺されてしまっては大変なことになる。そう伝えようとした矢先、

 

「やってみなさい!!」

 

 セイヴァ―が【換鮫砲 オファリンガ】に弾丸を込める。それは今までの天使の弾丸とは違う。

 

 彼女は虎の子の神話級天使の弾丸を詰めたのだ。

 

 本来、【天将軍】のスキルで召喚された天使は、召喚後30分で消滅してしまう。だが、【オファリンガ】の能力で、弾丸へと変換した際はその制限はなくなり、発射されるまで残り続ける。そして、それは神話級天使でも同じである。 

 

 つまり、予め神話級天使を召喚し弾丸に換えておくことで、彼女は精神的疲れや地理的制約を無視して、”最速”の切り札をどのような場でも自由に使うことができる。

 

 そして、今こそ、”最速”の弾丸が放つとき。

 

 神話級天使のAGIは200万を超える。そして、それを基に作られた弾丸はその倍以上の速度を誇る。

 

 音の五百倍に匹敵する超々々音速弾。

 

 放たれた弾丸はこの世の誰にも避けることは叶わず、衝突することで発生するダメージは今までの比ではなく、男の身体を容易く貫くだろう。

 

 男の身体が四裂爆散する姿を夢想しながら、セイヴァ―はその引き金を引く。

 

【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

 セイヴァ―が引き金を引いたと認識した瞬間、彼女の肉体は跡形もなく消飛んでいた。彼女は自身がデスぺナになったことにさえ気づかない速度で切り裂かれていた。

 

 ”将軍最速”と”軍団最強”の勝負は、その名に恥じぬ”最速”にして“最強”の一撃を以て、決着となった。




主人公じゃない人、参戦。
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