"軍団最強”の男   作:いまげ

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主人公?いいえ、ただのラスボスです。


Xross Superior その6

 ◇

 

 海中要塞が戦禍の渦に巻き込まれている中、その元凶とも言える二人は、たった二人で対話を続けていた。

 他でもない【発掘王】と【死商王】の二人である。

 

「あーあ、こんなに大事にしちゃってー。僕は別に君をどうこうするつもりはないのになー」

「抜かせ、安全地帯から高みの見物を決め込む風見鶏め。すぐにでもその顔を絶望に歪ませてやる」

 

 【発掘王】は淡々とした表情で、対して【死商王】は苛々を隠そうともしないで悪態を吐き続ける。

 

「まあそもそも君が僕の見つけた発掘物ごとクランを抜け出さなければ良かっただけの話なのにねー」

「黙れ、貴様に私の気持ちが分かって…」

「<超級>コンプレックスもそこまでいくと滑稽だよ、マルス君」

 

 その一言は【死商王】の心を無造作に切裂いた。

 

「いつまでも<超級>になれないからって、あまり突飛な行動にでるもんじゃない。

 見つかったこの要塞と君のエンブリオとの相性は確かにいいものだ。

 如何に準超級の君といえど、要塞込みで考えれば、<超級>に匹敵するかもしれない。

 でも、それだけだよ。

 君自身が<超級>になったわけじゃないんだから…」

 

 あまりにも無神経に心を切り刻んでいくユテンの言葉に、マルスは表情を醜悪に歪めて激昂した。

 

「黙れ、貴様に何が分かる。

 俺はリアルでも金持ちなんだ!

 成功者なんだ!

 ナンバーワンなんだ!

 俺が一日でどれくらいの金を稼ぐかわかるか?

 孤児院の維持だの、環境保全活動だの下らん慈善事業に金を回して尚、有り余るほどの金だ。

 お前らにそれができるか?

 できないだろうお前らには!だが!俺にはできる!

 

 だというのに、この世界では俺は第六止まり。

 いくらレベルをあげても、エンブリオは進化の兆候すら見せない。

 挙句の果てに貴様のような能無しの人でなしが<超級>で俺を従えるだと、ふざけるな!

 だから、奪ってやったんだよ。

 お前の<超級エンブリオ>の力で得た要塞を俺のものにするためになあぁ!」

 

 その言葉を聞きながら、ユテンは今起きている問題の解決策を思案していた。

 より多くの情報を手に入れられるエンブリオを持っているが故に、現在と自分とが疎かになる。

 ユテンが人でなしで揶揄される所以であった。

 

「【死商王】マルス。今は君の力が必要だ。今までのことは水に流して僕に力を貸してほしい」

「どの口が…」

「そうか、てめえが【死商王】か」

 

 二人だけの空間に忽然と一人の男が現れた。

 

「潰すわ」

 

 絶対死の宣言と共に。

 

 ◇

 

 マルスの行動は速かった。

 自身のアイテムボックスから機械兵を《即時放出》したのだ。そこから放出されるのはただの機械兵ではない。自身のエンブリオによって極限までチューニングされた機体たちだ。

 

 マルスのエンブリオ【弩級工廠 アレス】のTYPEはアドバンス・フォートレス。有する性質は寄生型工廠である。

 既にある工場や要塞に寄生することでより性能の言い武具や兵器を生産し、更には寄生主をも乗っ取ることすら可能。その能力を以ってこの海中要塞を乗っ取り、限界以上の性能を持った機械兵を生産することができるのだ。

 

 故に今彼が率いているのは、警備にあたらせたり取引に使うような安物ではない究極の兵隊たちである。

 その機械兵達は純竜級に匹敵するステータスを持ち、装備した特殊兵器を換算すれば、伝説級モンスターにも引けをとらない性能を持つ。

 

 それが百体。

 例え<超級>だろうと問題なく倒せると踏んでいた彼の最高戦力は…

 男の呼び出した3000の胞子に粉々に破壊された。

 

「消えろ…」

 

 男の宣言と共に胞子達は発光し、それぞれが膨大なオーラを放出した。それを寸分違わず、【死商王】を狙っており、そのどれもが【死商王】に当たることはなかった。

 ”無窮”と呼ばれる、全身鎧の男が身を挺してそれを庇ったからである。

 

『すまないが、この男はまだ(・・)殺させるわけにはいかん』

「そいつは無理な相談だな」

「気をつけたほうがいい、ロジャー君。その男は”軍団最強”だ」

『”軍団最強”か。”無窮”、ロジャー・デモン。推して参る』

 

 今ここに始まるのは”軍団最強”対”無窮”、<超級>の中でも最上位と噂される男同士の<超級激突>であった。

 

 ◇

 

 ロジャーは”軍団最強”のことをある程度知っていた。他ならぬ同じクランメンバーのメビウスが勝負を挑み、敗れたこともある。

 そのことから、メビウスからある程度情報をもらっていた。

 

 曰く、伝説級に匹敵する三千の胞子を率いる【軍神】である。

 曰く、本人は双剣を得物としている【双剣聖】である。 

 曰く、詳細不明の一撃死スキルを備えた猫型アンデットを所持している。

 

 だが、今のところ目の前の男には双剣も猫型アンデットもない。手を抜いているのか、それとも別の理由があるのか…

 

 少なくとも、敵が全力でないというのはこちらに利がある。やりたくもない【死商王】の防衛だが、失ってはこちらが困るのだ。もしもの時の制御装置がなくなる。

 

「お前、スポアのオーラ攻撃防いだか、やるな。で、それいつまでできんの?」

 

 その言葉を放った瞬間、再び胞子達が発光しオーラ攻撃を放つ。今度は【死商王】ではなく、ロジャー自身へと。

 

 それに対して、ロジャーは特に防御スキルを発動することなくその身で攻撃を受けきった。それでも、その全身鎧は傷一つなく光沢を放っていた。

 

「やるな。少なくとも耐久力は【メテロ】並ってことだ」

 

 ロジャーが身に纏っている全身鎧は<超級エンブリオ>である【収極技鎧 ベンケイ】。

 その能力から鎧の耐久力は神話級金属すら比較にならない値となっている。更にはパッシブで発動するダメージ軽減、減算スキルもある。3000体の胞子のオーラ攻撃でもまともにダメージを与えられるものではない。

 

「じゃあ、スピードはどうかな」

 

 瞬間、目の前の男がこの部屋に忽然と現れたときと同様に、忽然と姿を消した。

 

 ロジャーは即座に【武塵器 クレイブス】を発動させる。その能力は空気中の極微量の塵から武器を錬成する。【クレイブス】を用いて、短い槍を生みだし、自身の背後への突き刺した。

 槍は男がいつの間にか手にしていた双剣によって阻まれる。いや、双剣の閃きが槍によって防がれたのだ。

 

 男は双剣を構え直し、即座に連撃に移る。その一撃、一撃が上級エンブリオの必殺スキルと同等の威力があるといわれても疑いようのない力の暴力。

 

 それをロジャーは巧みな槍捌きでいなしていく。剣の腹をなでるようにして斬撃の軌道を変えていく。正に神ががった腕前であった。

 

「すごいなお前。AGIは俺の半分もないっていうのに、俺の斬撃を無効化し続けるだなんてよ!」

 

 先ほどまでの適当さはどこへやら、男の頬は綻び、紅潮を増している。全力を出して戦えるのが何よりも楽しいというように。

 

『抜かせ、こちらは既に手一杯だ』

「じゃあ試してみるか!」

 

 その言葉を証明するかの如く、男の動きは変わった。

 ただ攻めるだけではない。

 周囲に展開している胞子を戦いに組み込んだ。

 

 伝説級に匹敵するステータスを持つ胞子といえど、突撃にしろ、オーラ攻撃にしろ、本来であればロジャーが纏う全身鎧の守りを突破できない。だが、三千の胞子の群れの動きはそれだけで相手の動きを阻害する。

 

 ロジャーは相手の動きを読んで先読みし、相手の攻撃を回避している。それが羽虫が永遠と周囲を漂い集中力を奪うような環境下で同じことができるかと問われれば、それは無理に等しい。

 

「ほら、気を抜くな!」

『…ッ!』

 

 とうとう男の双剣がロジャーの鎧を捉えた。

 切っ先は鎧と接触して火花を散らし、だが、それだけだった。

 ただ振るわれただけの斬撃でも相当の威力を持つ。それを以ってしても鎧には傷一つついていなかった。

 

「…硬すぎるな。魔法だけでなく、物理もほとんど無効か。【双剣聖】のアクティブスキルでないと突破は無理か?」

 

 自身の攻撃を防いだ鎧の強度に驚嘆しつつ、対応策を考える”軍団最強”。それは刹那に近い思考だったが、その隙をロジャーは見逃さない。

 

『《エクスプロード・スティンガー》!』

 

 ロジャーは戦いの最中に相手のステータスの十二分に悟っていた。相手のSTRもAGIも六桁に到達している。ならばそのENDも六桁に近いものであることは想像に難くない。

 ならば、その防御を突破するにはこちらもアクティブスキルを持って貫く他に術は無い。

 

 即座に発動可能なスキルの中で最大な威力を持つ【爆裂槍士】の奥義であるならば、確実に敵の身体を貫き、まして、致命部位に当てることができれば、そのまま勝利することが可能。

 

 ロジャーの思惑通り、放った槍は男の心臓を貫く。更にスキルの効果によって、槍が爆発し、敵を体内から破壊する。

 如何に”軍団最強”と呼ばれる男でもこれで詰み、そう思った ロジャーの肉体を衝撃が襲った。それは強固な守りを誇っているはずの【ベンケイ】の守りを容易く切り裂いた。

 

「危なかったな、お前。もう少し威力の高いスキルだったら死んでたぜ、さっきのアイツみたいにな」

 

 男は何でもないような口調でとんでもないことを言いだした。

 

 ロジャーは知る由もなかったかが、”将軍最速”は自身の最強の一撃を完全に無効化されたうえで、その一撃を返されてデスぺナとなっている。

 

 なぜなら、男はジョブスキルで自身へのダメージを配下のモンスターに肩代わりさせ、その上で、そのダメージに対するカウンター攻撃を行う特典武具を持っている。

 

 この組みあわせはチートと呼ばれるにふさわしく、自身へのダメージを完全に無力化しながら、カウンターを放ち相手を追い立てるという極悪なもの。

 この戦術を破れるものはほとんどおらず、唯一の糸口であろう配下モンスターを減らすという手段も、即座に配下の召喚・展開が可能とする特典武具を持つこの男には効果は薄い。

 

 男はロジャーが先ほど戦った【超弓武者】と同じ無敵の能力を持つ<超級>だった。

 

 ◇

 

『今日は随分と理不尽防御な奴に出会う日だ』

「理不尽防御か。俺もそう思うぜ」

 

 男は自分の能力がおかしくなったのか大仰な様子で笑い始めた。

 

「最近は、その理不尽防御すら普通にぶち抜いてくる奴ばっかりだったからな。冷静になれば勝負にすらならんよなこれ」

『そうでもないさ』

 

 男は何か勘違いをしている。

 ロジャーでは男に傷一つつけられないとそう考えているのか?

 

 それは甘い考えだ。

 なぜなら彼が”無窮”と呼ばれる由縁、その真髄を男はまだ理解していないからだ。

 

『アンタは”軍団最強”と呼ばれている。ということはアンタの能力は大なり小なり、《軍団》スキルを基盤にしている。ダメージを庇ったのは<ライフリンク>と同様なスキルと考えれば、俺にはアンタの攻略法があるぜ』

「ほう…。それは一体?」

『簡易ステータスを見てみろ。そこに答えがある』

 

 男が言われた通り、自身の簡易ステータスに目を通すと、衝撃の事実に顔が呆然としていた。それも仕方のないことだろう。なぜなら、男のジョブレベルは要塞突入前より下がっていたのだから。

  




ラスボスの能力やべーわ。

配下のモンスター殺さないとダメージ通らない上にカウンター仕掛けてくるぞ(アカン)

配下のモンスターを殺すと最終奥義に巻き込まれるぞ(ニッコリ)

殺したはずのモンスターは即時補充されて復活するぞ(無慈悲)

こんなラスボスに誰がした(私です)

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