"軍団最強”の男   作:いまげ

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やっぱり最後は主人公(ラスボス)にがんばってもらいますかね


Xross Superior その8

 ◇

 

 最強クラスの<超級激突>を見届けていたもう一人の<超級>、【発掘王】ユテンはその結末を見て、破顔する。

 

「やっぱり”万視”なんて言われていても見えない景色、見えない結末がある。

 だからこそ、面白い。そうは思わないかい、【メデューサ】」

 

 【発掘王】は傍らに佇む黒髪の美女に声をかける。

 だが、よく見ればそれは髪ではなく、その一本一本が黒蛇の類であることが見て取れ、彼女が尋常な人間でないことが見て取れる。

 

 そう、彼女こそが【発掘王】のエンブリオである【邪眼怪蛇 メデューサ】である。《邪眼変性》などというスキルを持つエンブリオが【メデューサ】と称されるのは中々に皮肉である。

 

 絶世の美女が、その美しさに嫉妬した神によって、石化の邪眼を持つ怪物に変えられてしまい、遂には悪として英雄に討たれてしまうのだから。

 

「思いません。貴方がロジャーとメビウスを向かわせたのはこの事態を避ける為でした。であれば、この悲劇は嘆くべきです」

「そうかなー、そうかも」

「だから”人でなし”と揶揄されるのですよ」

 

 【メデューサ】の指摘にもさして気を留めた様子もない自身の主に溜息をはいてしまう。

 

「仕方ない。【軍神】にも説明するかなー」

「最初からそうしておけば…」

「まあいいじゃない」

 

 そうして【発掘王】は【メデューサ】の能力によって得た《邪眼》を輝かせながら、一人嗤う。

 

「きっと最後にはハッピーエンドだよ」

 

 ◇

 

 【死商王】が突如乱入した機械兵に殺され消え失せた。

 

 それは戦いをしていたロジャー、フィルル双方に戦いを止めさせるほどの衝撃を与えた。

 

『まさか、もう稼働していたのか。唯一コントロールできる【死商王】を真っ先に殺すとは。プランC、作戦通り、この要塞の全破壊を実行する』

 

 ロジャーは自身の立っていた床に向かって《エクスプロード・スティンガー》を放ち、要塞の地下深くに潜っていく。

 その場には戦い相手であるフィルルが一人で残された。

 

「え?どういうこと?」

「それは僕が説明しようかなー」

 

 <超級激突>を口を閉じて見守っていた男が口を開き事の顛末を説明する。

 

「ここはそもそも先々期文明時代の要塞だったんだよ。

 無人人型兵器を量産するねー。

 でもそれは”表”のプラント。

 もう一つ”裏”のプラントがあったんだ。

 君は化身という言葉を聞いたことはあるかい?

 まあ簡単に言ってしまえば、先々期文明を滅ぼした尋常ならざる敵さ。

 それに対抗するために作られたのがその”裏”のプラントってわけさー。

 でも”裏”のプラントは今の今まで存在を秘匿されていてね、僕のクランでも情報をつかんだのはつい最近さー。

 その頃にはこの要塞は【死商王】に取られていたから、対応策として今回の突入作戦を行ったんだ。

 

 まだ稼働していないのであれば、”裏”のプラントを探し出し、それを破壊する。”表”の方は有用だから手を付けずにね。これがプランA。 

 

 もし稼働していれば【死商王】にそのプラントを制御してもらう。

 あの人のエンブリオは有能でねー。”表”のプラントをそうしたように”裏”のプラントも寄生制御できる可能性があったんだよ。

 だから、【死商王】を生かしておいて、もしもの時に切り札にする。【死商王】の手駒が増えることにもなるから、あくまで破壊が目的だけど、稼働していたらその可能性が低くなりそうだったからね。で、それがプランB。

 

 そして、【死商王】が死に絶え、”裏”のプラントが稼働していた場合、”表”も”裏”も含めてこの要塞の全てを破壊する。それがプランCってわけさ」

 

「説明サンクス、じゃあおれが邪魔しちゃった形になるのか?」

 

 【発掘王】の説明に耳を傾けていたフィルルは、自分が彼らの邪魔をしてしまったのかと少し後悔していた。

 

「売られた喧嘩を買った末のことだからねー。僕たちもそこまで文句は言えないさ。その分、僕たちに恨みを持たないでともいいたいけどねー。実害も出ているようだし。」

 

 【発掘王】の言う通り、この戦いのせいでフィルルにも実害が出ている。【軍神】のジョブレベルの低下だ。だが、そのことについて文句を言うつもりはなかった。

 

「じゃあ、おあいこだな。しかし、そんなにヤバイもんなのか、”裏”のプラントは」

「今、君の目の前にいる機械兵、それが答えだ」

 

 【死商王】を殺害した後、沈黙していた機械兵に目を向ける。その瞬間、機械兵から音声が発せられる。

 

『確認、侵入者による当プラントの破壊行為。解答、全侵入者の抹殺。実行、バトルオーダー』

 

 機械兵が両手に鎌を構え、超音速機動で接近した。そして、フィルルはそれを双剣で切り捨てる。四肢をバラバラにされた機械兵は本当の意味で沈黙した。

 

「そこまで脅威じゃなさそうだが?」

「それは君が”軍団最強”だからだねー。多くの人は超音速機動で【鎌神】に迫られたらそれだけで終わりだよ」

「それもそうか…。まて今の機械兵が【鎌神】だと?無人兵器じゃなかったのか?」

 

 無人人型兵器がジョブに就く。まして超級職、それもその分野で隔絶した才覚を要求されるといわれている【神】に就くとはどういうことなのか。

 

「ああ勘違いさせてしまったね。厳密にはジョブに就いてはいないさ。あの機械兵はね、【鎌神】に就いた人間のすべてをインストールしているんだよ」

「【鎌神】のすべて…だと」

「その身に宿したステータスも、【神】に至る才覚も、超級職のスキルさえもね」

「…」

「本来、亜竜級に過ぎない素体に母体のステータス、技能、スキルをインストールさせて超級職を量産する。まるで冒涜の化身だよ」

 

 あまりにとんでもない事実の披露にフィルルの思考は驚愕の一色に染められていた。だが、その思考はすぐに戦闘モードに切り替わる。先ほど倒した機械兵と全く同じ姿をした機械兵が10体攻め込んできたからだ。

 

「チッ!超級職の量産か。面倒なことだぜ」

 

 フィルルは再び、双剣を以って機械兵を破壊しようとする。だが、その一撃を機械兵は防いだ。まるでその行動は既に知っているというふうに。

 

「こいつ…強くなってやがるのか!」

「そうじゃないよ。機械兵は母体を完全にインストールするため、強くなることは決してないんだ。君の攻撃が防がれたのは、最初の機体が受けた攻撃に対する対応策を演算して全機に反映させているからさ」

「インチキ効果もいい加減にしろ!!」

 

 それでは、敵は戦えば戦うほど強くなっているのと全く変わらない。フィルルは双剣のみではなく、胞子達を巧みに動かし戦闘を継続していく。

 

「確かにインチキ効果だけど、これでも本来の運用からは外れているんですよねー」

「何?」

「所詮、戦闘系超級職を量産したところで、多くは伝説級UBMにすら劣り、命を擲ったとしても神話級UBMに手傷を負わせるのがせいいっぱい。それじゃあ、化身には届かない」

「…化身ってのはそんなにやばいのか」

 

 侵入してきた10の機械兵を倒しつつ、どんどんスケールの大きくなっていく話にフィルルはついていけなくなってきていた。

 

「ですが、生産系統超級職ならば話は別さ。彼らが作った至高の作品の中には化身にも届きうるものがいくつか存在していたんだ。…或いはこのプラントを作ったものがそうだったのかもしれない」

「…」

「自身の記憶と技能とスキルとをインストールした存在を量産できれば化身にも対抗できる。そんな狂気にも怨念がこの要塞を今稼働させているのさ」

 

 ”裏”のプラントの詳細を聞き続けてながらも、フィルルは機械兵を屠ることをやめない。どんどん動きがよくなっていく機械兵への対処はなるほど”軍団最強”と呼ばれる彼でも難儀するものであった。

 

 そして、機械兵に変化が訪れたのは動きだけでなく、その口調もだった。

 

『要請、戦力の補充。理由、敵個体の戦力甚大。不可、プラントの…領地の守護。わ、たしが守る…んだ。打倒、侵入、侵略者。私の故郷は、やら、せ、ない。天地の他の領主からも、それに雇われた<マスター>からも。理由、だって、私は姫、あの故郷が大好きだから』

 

 機械兵の明確な変化にフィルルは両の目を大きく開いた。

 

「記憶のインストールまで始まったか。これはいよいよ、母体が危ないかな」

 

「ちょって待て。

 このプラント開発者の量産が目的なんだろ。

 なんで、今そいつが量産されていない?

 なぜ、先々期文明のこいつが<マスター>の存在を知っている?

 なぜ、量産される機械兵は【鎌神】なんだ?」

 

「それはね、インストール元の母体が、自らの領地を救うための力を欲した今代の【鎌神】だったからさ」

 

 ◇

 

 ロジャー・デモンは要塞の地下を目指していた。この要塞の全破壊、それを行うにしても被害は最小限に収めたかったからだ。

 

 ”裏”のプラントが稼働しているということは犠牲となった者がいるはずである。惜しくも、機械兵達のインストール元のなる者が。

 そして、機械兵の武器から察するに、それは【鎌神】華刈姫。ユテンから予め聞いていた情報によれば、天地のある地方領主の娘。

 

 それが犠牲となっているのであれば、可能ならば救いたかった。なにせ、彼女は本当にただの被害者だからだ。まして、自分は仕方ないとはいえ、その護衛主である【超弓武者】を屠っていた。相手が<マスター>であるシュバルツはまだしも、ティアンである華刈姫を巻き込んでしまうのは避けていた。

 

 そのため、シュバルツを倒した後、身を隠している彼女に気づいたが手を出さなかったのだ。それがかえってこのような結果を生んでしまったのだから面目次第もない。

 

 だが、彼はもう一度彼女に謝罪せねばならないことを既に悟っていた。

 

 目の前に襲来した30を超える機械兵を前にして、彼は特典武具で生成した弓矢を構えた。  

 

『《ヴォ―パル・デスサイズ》』

 

 機械兵が放ったスキルは【鎌神】の奥義。

 距離を無視して相手の首を刈りとる、空間転移防御無視致命攻撃。

 それが30の軌跡を描く。

 

 当然、ロジャーの首は胴体から切り離され、無残にもその中身を晒す。何も入っていない空洞を。

 

 彼は落ちた兜には目もくれず、残酷な判断を降さざるを得なかった。

 

 もう間に合わない。

 

 プラントごと彼女の命を奪うしかないと。

 

 【鎌神】の奥義すらも使いこなす機械兵の軍団。それは今この瞬間も量産され続けている。

 後手に回り、本来の目的を見失えば、なに一つ成し遂げられなくなる。

 

『《一射捧魂》』

 

 それは【超弓武者】の最終奥義であるはず究極の一矢。彼はそれを展開する機械兵にそして、地下に存在するであろうプラントに向けて乱射した。

 

 ロジャーが【超弓武者】の最終奥義が使える理由は【ベンケイ】のスキルにある。

 武蔵坊弁慶が武芸者と戦い、彼らの武器を自らの武器にした逸話をモチーフしたスキル、《千技収集》である。

 その能力は《レベルドレイン》した相手のジョブスキルを低確率でランダムラーニングするというモノ。その効果によってロジャーはシュバルツが有していた《一射捧魂》を得たのだ。

 

 神話級すらも穿つ一矢は、その反動に術者の肉体を破壊する。

 だが、既に肉体を失っているロジャーには破壊される肉体がない。更に全身鎧【ベンケイ】は必殺スキルによってその反動でも破壊されない強度となっていた。

 つまり、ロジャーはシュバルツと同様に《一射捧魂》を連続使用できるのだ。

 

『…【超弓武者】を馬鹿にしたが、同じ立場になってみてわかる。最終奥義が連発できるとなれば、一矢一矢が雑になる、その気持ちがな』

 

 ロジャーが放つ矢は機械兵を穿ち、壁を穿ち、地を穿つ。これが連射されれば”まもなく裏”のプラントなど破壊され尽くされるだろう。

 

 だが、ロジャーの心は穏やかではなかった。

 一人のティアンを犠牲にしてしまうことを。

 それも仕方のないことではある。

 彼の必殺スキルはもうすぐ効果が切れる。

 そうなれば彼はデスぺナルティとなってしまい、ログインするのは三日後になってしまう。

 この要塞が破壊しきれず放置されてしまえば、多くの世界に禍根を残すのは目に見えていた。

 

 故に、”無窮”の男は、華刈姫の救出をあきらめる。要塞の破壊に全てを費やすために。

 

 ◇

 

 要塞が揺れる。

 

 ”無窮”が放つ《一射捧魂》の影響だ。

 

 フィルルは機械兵を沈黙させ、ユテンから全てを聞いた後、走り出していた。

 

 迫りくる機械兵を切り捨て、暴風雨の如き、最終奥義の乱射すらも掻い潜り、男は地下へと潜る。

 

 それを見届けるのは一人の男。

 

 思いだされるのは先ほど彼が聞いた恥ずかしくなるようなセリフだ。

 

『つまり、囚われの姫が地下にいるんだろう。だったらやることは一つだけだ。昔から囚われの姫は助けられるものだって決まってるんだよ!』

 

『いいのかい。ロジャーはやるといったらやる男だ。この要塞を完全破壊するよ。その攻撃に巻き込まれれば君も無事じゃすまないだろうし、学習する機械兵もいるんだ。母胎を攫おうとする君への迎撃は苛烈極まるものになるだろうね』

 

『それがどうした。

 

 俺は”軍団最強”の男だぜ!』

 

 故に、”軍団最強”の男は駆ける。囚われの身となった姫を救うために。

 

 それは”万視”とさえ呼ばれる【発掘王】ユテンが本当に見たかった景色だったのかもしれない。

 

「言ったろ、【メデューサ】。最後にはハッピーエンドだって」

 

 その瞬間、【死商王】が簒奪した海中要塞は全機能を破壊され、完全に沈黙し、最後の輝きとして爆発した。

 

 ◇

 

 何も見えない黒の中。

 

 自然と呼び起こされるのは戦乱の記憶。

 

 我が領地を狙い、多くの戦士が血を流す。

 

 私はそれをなんとかしたくて武器をとった。

 

 才能があったのか【鎌神】という超級職も得ることができた。

 

 その力で賊やUBMを討ったのも一度や二度ではない。

 

 だが、それだけでは足りなかったのだ。

 

 攻めてくる賊や敵兵に<マスター>が増加したのだ。

 

 神話級金属を求めて我が領地を荒らす不届き者は後を絶たない。

 

 個人戦闘型である私にとって守るべき領地は広すぎたのだ。

 

 ならば、より強い兵を数多く集めるしかない。

 

 そうして私は広域制圧型と呼ばれる力を望んだのだ。

 

 数の足りない個人戦闘型でもない。

 

 領地を諸共に滅ぼしてしまう広域殲滅でもない。

 

 我が領地を守る広域制圧の力を。

 

 …だが、その結果がこれだ。

 

 <超級>を雇ってまで、なれぬ交渉事に出向き、力を得ようとした結果がこれだ。

 

 天地の者にあるまじき醜態をさらし、囚われている。

 

 私では領地を守る資格など無い、そう天に告げられたようだった。

 

 景色だけでなく、自身の心までも黒に染まろうとしている。

 

 そう感じたとき水晶の如き光が黒を奪い尽くした。

 

「無事かい、お姫様」

 

 知らない男だった。知らない男が囚われた私を救いだしたのだ。

 

「あなたは…」

 

 問いを投げた。貴方は一体誰なのかと。

 

「俺はフィルル・ルルル・ルルレット。”軍団最強”の男さ」

 

 ”軍団最強”の男。広域制圧型の頂点。もしそうであるならば…

 

「私を、私の領地を救ってください!」

 

 懇願した。私の望みをかなえてくれるならと。

 

「いいぜ。人助けは<幻獣旅団>の教えだからな」

 

 そう言って、男は私を抱え、海中要塞を飛び出した。

 

 鋼鉄の檻を飛び越え、空色が私の心を覆った直後、下から朱色の衝撃が身を襲う。

 

 だが、彼の歩みは止まらない。

 

 その歩みは更なる<天地>へと向かっていた。

 

 

 




アニメ化記念に急いで書いたので所々粗だったり、矛盾点があるかもしれませんがご容赦ください。


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