"軍団最強”の男   作:いまげ

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6.アクシデント

□霊都アムニール 東の草原 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「相手にもヒーラーがいるとはどういことだ?」

「あくまで俺の予想ですけど…」

 

 そして俺はフルメタルさんに自分の推測を伝える。

 

 第三形態に到達したガネーシャの攻撃を幾度も受けてなお戦い続けるドルイドの耐久力は異常であること。

 ロゼが付与した【毒】状態がいつの間にか消えていること。

 

 その間もロゼとガネーシャのコンビがダメージを与え、ドリルマンがタンクとして攻撃をひきつける。今までと同じ攻撃パターンだ。そして、攻撃の隙をついてゆるりがドリルマンを回復する。

 

 彼らの動きが完璧にかみあっているからこそ戦いを優勢に進められている。

 

 それに対し、ドルイドは劣勢だ。しかも、劣勢だというのに拳を振るう以外に特殊な行動はしていない。

 

 ただ拳をふるっているだけ。自らのダメージを顧みずに殴るだけだ。

 その一撃はまともに受ければエンブリオの補正を受けたマスターといえども、一撃でデスぺナルティになるほどのもの。

 

 だが、その攻撃はドリルマンとゆるりのコンビネーションの壁が防ぐ。もはや三人だけでクエストクリアは見えたといってもいいほどである。 

 

 …しかしドルイドは倒れない。

  

 俺にはわかる。

 【従魔師】としてモンスターの考えが直感的にわかる。

 

 あいつはこれほどの劣勢になっても自分の勝ちを微塵も疑っていない。

 

 それはただ自分の力に自惚れているわけでもない。

 背中を任せられる仲間がいるからこその、信頼による確信だ。

 

 そこまでピースがそろえば、こっちのパーティーにゆるりという回復役がいるように、相手にも同様な存在がいるという想像は難しくない。

 

「「…」」

 

 二人は俺の憶測交じりの推論を聞いて黙っていた。

 

「…仮にフィルルと言う通りだったとして、そのヒーラーはどこにいる?」

「見たところ近くにほかのモンスターはいないようだけど…」

「だからそれを手分けして探す」

 

 俺はこれしかないというように自分の作戦を述べる。

 

「正気か?ここに来てパーティーを割るなんて」

「だがこのままじゃジリ貧だ。アイツのHPを削りきる前にこっちのアイテムが底をつく。そうなったらこの戦況は一瞬でひっくり返る」

 

 そもそも、俺たちが今回の討伐クエストを受けた理由は金のためだ。

 

 お金を稼ぐためにパーティーを組んで強いモンスターを倒す。

 ゆえに、お金を使い強敵に備えるという考えもなく、せいぜいアイテムを多く持って行こうという程度のものだ。備えは万全でなくアイテムも心もとない。

 

 【ブラック・ドルイド】単体が相手であればそれで勝てたかもしれない。

 

 しかし、いまは願望や過ぎたことをいってもしょうがない。

 

「…よし、フィガロとフィルルで手分けしてそのヒーラーを見つけ出し撃破しろ。俺はここに残り全体の指揮を続ける」

「「わかった」」

 

 そう言い、俺とフィガロはそれぞれヒーラーモンスターの探索に切り替えた。 

 

 ◇【闘士】フィガロ

 

 フルメタルからヒーラーモンスターの捜索と撃破を命じられ、モンスターを探していたフィガロは困惑していた。

 

 それはヒーラーモンスターの捜索というどうしたらいいかわからない命令をされたからではない(・・・・)

 

 フィガロはその命令に対し、目についたモンスターを片っ端からすべて撃破していけばいずれ正解にたどり着くだろうという脳筋というしかない思考をしていた。

 

 彼が困惑していた全く別のこと。

 

 自分の動きが先ほどまでとはまるで違っている(・・・・・・・・・)ことに困惑していた。

 より詳しく言うなら、いつもの自分の動き(・・・・・・)を取り戻したことに困惑していたのだ。

 

 先刻、ドルイドに対して放った一矢。普段の彼ならば容易くドルイドの眉間を射貫くことも、いやその眼球を破壊することさえ容易かっただろう。それを証明するように、今も走りながら放った矢で遠く離れたモンスターを射貫き絶命させた。

 

 それは彼のエンブリオの能力によるもの。

 彼のエンブリオの能力は装備品強化。未だ下級職の身なれどそのスキルを使えば、亜竜クラスにも大ダメージを与えることができる。

 

 無論エンブリオの能力だけではない。エンブリオの能力はあくまで装備品の強化。フィルルのエンブリオと違い、フィガロ本人のステータスを強化するわけではない。

 

 いくら威力が上がった矢を持とうが、命中精度が高い弓を持とうが扱うものがその弓矢を扱うに足りえなければ宝の持ち腐れとなる。

 しかし、フィガロには強化された武具を扱うにふさわしいポテンシャルを持っている。

 

 ではなぜ、先ほどの一射を外したのか?なぜ今は力を万全に振るえるのか?

 その答えを未だフィガロは得ていない。

 

 だが、先ほどのミスを忘れたわけでもない。

 先ほどのミスを取り戻すために、パーティーのメンバーに迷惑をかけないために、何よりパーティーのみんなのためにも独り(・・)で周りの敵を殲滅する。

 

 そうして、彼はついに見つける。

 

「君があの子の仲間かな?」

 

 白いゴリラ型の亜竜級モンスター、【ホワイト・ドルイド】を。

 

 ◇

 

 【ブラック・ドルイド】と【ホワイト・ドルイド】

 二体の亜竜級モンスターはコンビを組んで狩りをしてこのエリアのボスとなっている。

 しかし、コンビといっても多くのものは【ブラック・ドルイド】の存在しか知らない。

 

 それは二体の特性と役割分担にある。

 

 【ブラック・ドルイド】は特殊な能力を持たない代わりにステータスに、特にSTR、ENDに秀でたモンスター。

 【ホワイト・ドルイド】は優れたステータスは一つを除き持たないが、特殊能力に秀でている。

 【ホワイト・ドルイド】の有する特殊能力は2つ。

 

 一つは回復能力。少ないMPで、即座に【ブラック・ドルイド】のHP、状態異常を回復させるもの。

 もうひとつは無線能力。【ブラック・ドルイド】を距離に関係なく認識し、回復能力を行使できるというもの。

 

 【ホワイト・ドルイド】が身を隠しながら回復を行い、【ブラック・ドルイド】が攻撃を行うことでドルイドコンビは無敵の存在としてこのエリアに君臨している。

 

 だが、無敵のコンビを倒す方法がないわけではない。身を隠している【ホワイト・ドルイド】を見つけ出し、先に撃破すればいいのだ。

 

 この攻略法に初見で気づけたフィルルは称賛に値するだろう。

 

 …あとの問題はそれを実行できるかどうかだけ。

 

 ◇

 

 フィガロに見つかった【ホワイト・ドルイド】の行動は迅速だった。

 その場からの逃走である。

 

 回復能力さえも少ないMPで行える【ホワイト・ドルイド】にとって唯一高いステータスはAGIである。

 今まで使うことのなかった、万が一敵に見つかった場合に敵から逃亡するための(AGI)がいま解き放たれたのだ。

 

 その速度にさすがのフィガロも面喰う。

 

 フィガロのエンブリオは装備品の性能を上昇させるものだが、それはつまり装備品を持っていなければ効果がないということである。

 <Infinite Dendrogram>を始めたばかりのフィガロは未だAGIを上昇させる装備を持っていない。

 

 

 結果として、【ホワイト・ドルイド】は容易にその場から消え失せ、左腕を射貫かれていた(・・・・・・・・)

 

 あまりの出来事に【ホワイト・ドルイド】は驚愕する。

 だが、それは不思議なことではない。

 

 【ホワイト・ドルイド】のAGIがフィガロのAGIを大いに上回るとしても、それはイコール攻撃を当てられないというわけではない。

 

 ただ、逃げるだけの相手をフィガロが逃がす道理はなかった。

 

  相手(フィガロ)は自分を殺しうる。

 

 生まれて初めての死の恐怖に【ホワイト・ドルイド】は錯乱したかのように走り出す。

 

 AGIの差で距離は確実に開いている。

 

 なのにフィガロから放たれる矢は確実に自分を捉えている。

 それどころか距離が離れれば離れるほど威力が上がっている。自分に回復能力を使っていなければ既に絶命していただろう。

 

 フィガロという強者から逃れるために【ホワイト・ドルイド】は懸命に走る。

 その行きつく先に何が待っているかもしれぬまま…

 

 ◇

 

 【ブラック・ドルイド】と戦っていたロゼは困惑した。いや戦っている相手の【ブラック・ドルイド】も驚愕していた。

 

 なぜなら、いきなり手負いの白いゴリラが現れたのだ。

 そう、【ホワイト・ドルイド】はフィガロから必死に逃げるあまり、【ブラック・ドルイド】のいる戦場まできてしまったのだ。

 

 その後ろには【ホワイト・ドルイド】をここまで追い詰めたであろうフィガロの姿もある。

  

 悪手(アクシデント)

 

 そういわざるを得ない状況だった。

 

 だが結果としてそれは妙手(・・)となった。

 

 …なぜならあれほど【ホワイト・ドルイド】の命を狙っていた矢が、そのプレッシャーが消え失せたからだ。

 

 だとすれば、やることは簡単だ。

 【ホワイト・ドルイド】は【ブラック・ドルイド】の回復を再開した。

 

「あいつは…フィルルの言っていたヒーラーか!」

 

 そう言ってフルメタルが【ホワイト・ドルイド】に攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、その拳は空を切る。それもそのはず、【ホワイト・ドルイド】のAGIはフルメタルの三倍以上。

 

「くそ!フィガロっ!援護を頼む!!」

「…う、うん」

 

 だが、フィガロから放たれる矢は先ほどまでとは雲泥の差だった。

 そのような矢に当たるほど【ホワイト・ドルイド】は落ちぶれていない。

 

 今のパーティーで【ホワイト・ドルイド】に攻撃を当てられるのはフィガロか≪魔物強化≫を受けた虎丸くらいだろう。

 しかし、虎丸はフィルルと共にあり、フィガロがある事情(・・・・)でまともに戦いに加われない現状、【ホワイト・ドルイド】を、そして【ブラック・ドルイド】を倒す術はなかった。

 

 何度かの攻撃を仕掛け、静かに戦況を把握したフルメタルの執った指揮もまた迅速だった。

 

「全員、撤退する」

 

 ◇

 

「…ごめん、僕があそこでもっとうまく動いていれば…」

「いや、フィガロが独りであいつをあそこまで追い詰めたんだろう?かなりの労力を使ったはずだ。そんな敵を倒し切れない俺の実力不足だ」

 

 撤退した後、リーダーのフルメタルは重い表情をしたフィガロを慰める。

 

「そーですよー。あいつらコンビを組んでいるなんてずっちーですー」

「ずっちーであるな」

「あんたたちだけのせいじゃない。モンスターが徒党を組むなんて考えれば想像できたことなのに…」

 

 それぞれのメンバーが思い思いに今回のクエストを振り返る。

 

「今回のクエストは俺の見通しが甘かった。だが、ひとりもデスぺナルティにならなったのは僥倖だ。今回のクエストを通して、それぞれの問題点が見つかったと思う。次回はそれを反省してまたパーティーを組もう」

 

「いや、一人行方不明だけどね」

「フィルルさんはどこにいったんですかー?」

「…まだモンスターを探しているのかも?」

「モンスターに殺されたのであるか?」

 

 そう、この場にフィルルの姿はなかった。

 

 【ホワイト・ドルイド】を探しにいったあと、戻ってこなかったのだ。同じパーティーメンバーだからクエストを破棄したことはわかっているはずだ。

 それでも、このギルドにすら戻ってきていないというのは不思議だった。理由があるとすれば、モンスターにやられたか…

 

「リアルの事情でログアウトしたのかもしれないな」

 

 フルメタルがなんでもないように言った。

 

 大事なクエストの途中とはいえ、リアルで何かあればそちらを優先して当然だ。<Infinite Dendrogram>はあくまでもゲームなのだから。

 

 フルメタル自身、他のゲームでクエストの途中にリアルの事情でログアウトすることは何度もあったため、特に不思議に思うことはなかった。

 

 そのような経験からリアルの事情には触れないのがゲームのルールだとさえ考えていた。

 

 フルメタルの言葉にそれもそうかと皆それぞれに納得し、また自分たちもそろそろログアウトの時間だということもあり、今回はこれで解散ということになった。

 

 だが、フィルルはモンスターにやられたわけでも、ログアウトしたわけでもない。

 

 ◇

 

「…ここは、どこだ?」

「にゃー?」

 

 もうひとつのアクシデント(・・・・・・・)に見舞われていたのだ。 

 

 




ということで、フィガロの苦いクエスト失敗話でした(妄想)
一応、原作再現だよ(Episode Superior Dance of Anima)

私の表現力不足やら展開が雑やら矛盾点やらで大変ですが,
そこは大目に見てください(Orz)

えっ?主人公?知らん、そんな事は俺の管轄外だ。


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