"軍団最強”の男   作:いまげ

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死闘編
9.帰還と再会と出会い


□セプータ 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「ふぅー、今日も疲れたなー」

「にゃー」

 

 今日もひと狩り終えてセプータへの帰路につく俺と虎丸。

 

 セプータに<アクシデントサークル>に飛ばされてから一か月、こちらの時間では三か月の月日が経った。今はセプータを本拠地として活動している。

 

 なにかしらのイベントを期待して霊都に戻らない道を選んだが、セプータで活動していることは正解だったといえるだろう。

 

 多くのティアンに出会い、この世界の情報を知り、強くなることができた。

 

 まず、虎丸が進化し、【タイガーキャット】から【亜竜(デミドラグ)獅虎(ライガー)】となった。ついに虎丸も亜竜級モンスターに進化したのだ。

 

 【亜竜(デミドラグ)獅虎(ライガー)】はステータスが高く、亜竜クラスでもトップクラスのステータスを誇るモンスター。さらに強力な物理攻撃スキルを習得する非常に優れたモンスターである。

 

 俺のバトルスタイルはパーティーメンバーへの強化スキルを基に俺自身のステータスをあげるというもの。

 

 俺の修得している強化スキルはいまのところ《魔物強化》と《獣心憑依》のみ。《魔物強化》は【従魔師】、《獣心憑依》は【獣戦士】のスキル。

 

 どちらのジョブも上級職に就き、スキルレベルが上がったことで上昇数値が大幅に増え、今はどちらも50%のステータス上昇が行える。ただし、上昇数値があがっても基になるのは従属モンスターのステータスのため、虎丸の進化は戦力向上に最も寄与している。

 

 さらに【喝采劇場 アンフィテアトルム】も進化し、上級エンブリオの仲間入りを果たした。進化によりMPのステータス補正がさらにあがり、新たなスキルを獲得した。

 

 新しく得たスキルは《光る(シャイン)劇場の脇役(バイプレイヤーズ)》。《輝く劇場の(シャイニング)主役(スター)》のアレンジ版である。

 

 俺はエンブリオの新たな固有スキルの性能から新たな従魔モンスターを増やそうと考えていた。元々のスキルからしてパーティーメンバーは多い方がいい。しかし、コルの合計レベルが500に到達したため、いまはレベル上げより、失われた【獣王】の転職条件を見つけることを優先するということもあり、ここ最近は俺と虎丸のコンビで戦っている。

 

 そのため、ステータス1万オーバー状態にもなれず、効率の良いレベル上げもできなくなったため、レベル上げのスピードも落ちている。しかし、コルとダッツァーにも事情はあるため仕方がない。

 

 今の状態ではステータス一千オーバーが限度で亜竜級のステータスだが、それでもセプータから霊都に帰る位のステータスはあるとダッツァーに言われている。

 

 一度、霊都に戻ってモンスター屋のおっさんのところで新しいモンスターを購入するか、あるいは道中で出会ったモンスターを直接テイムするいうのもいいかもしれない。おっさんにはとても世話になったし、虎丸のことも報告したい。

 

 …アイツらにも久々にあってみたいな。初めてパーティークエストを組んだメンバー。俺のせいでクエストが失敗したのだが、今となってはいい思い出だ。強くなった俺の姿を見せてやる。

  

 そう決意し、俺はセプータを発つことを決めた。

 

 ◇

 

「おい、見ろよ虎丸。あいつ…」

「にゃー」

 

 ダッツァーからもらった地図を用いて、セプータを発ち霊都に戻る俺と虎丸。その道すがらモンスターを狩りながら、あるいはテイムを試しながら進む。…残念ながら一件も成功しなかったが。

 

 そのため、想定していたよりも帰還に時間がかかり、セプータを発ってから既に数日が経っている。しかし、霊都はもうすぐそばだ。今は夜だが朝日が出る前には霊都にたどり着くだろう。

 

 このまま、道中のモンスターを無視して霊都に突っ走ってもよかったのだが、遠くに見えるモンスターを目にした瞬間、その考えを改めた。

 

 その黒いゴリラ型のモンスターを見たときに…

 

「虎丸。お前はもうひとりの方を頼む。お前の鼻ならアイツと似た匂いのドルイドを見つけられるだろう」

「にゃー」

 

 俺たちパーティーが前回、クエスト失敗したのが三か月前。三か月もあれば、多くのマスターはルーキーから上級エンブリオに進化あるいは上級職に就く。

 そうなれば、亜竜級モンスターであるドルイドたちは既に狩られている可能性がある。目の前のドルイドはあの時のドルイドとは違うかもしれないが、【ブラック・ドルイド】と【ホワイト・ドルイド】の戦術は既にわかっている。

 

 あの時とは違い、今の俺たちのステータスは奴ら同じ亜竜級だ。タネが割れていれば負ける相手ではない。

 

「いくぞ!」

 

 ◇

 

 フィルルはすぐに《輝く劇場の(シャイニング)主役(スター)》を発動し、【ブラック・ドルイド】に接近する。それと同時に虎丸は【ホワイト・ドルイド】の捜索を開始する。

 

 【ブラック・ドルイド】は物理攻撃に秀でた亜竜級モンスター。だが、その攻撃は単調で力に任せたところが大きい。ならばAGIで勝るフィルルに攻撃が当たることはない。

 

 今もドルイドの左拳を躱しながら、腹にリバーブローをくらわす。さらに相手の顎が浮いたところにアッパーを打ち込み、ダメージを稼いでいく。

 

 だが、そのダメージはすぐに回復してしまう。それは【ホワイト・ドルイド】の遠距離回復能力によるもの。つまり【ホワイト・ドルイド】を先に倒さなければ【ブラック・ドルイド】を倒すことはできない。

 

 【ブラック・ドルイド】はそのため、安心して戦い続けることができる。今受けた蹴りのダメージもすぐに回復…しない。なぜなら回復を担当する【ホワイト・ドルイド】はいま回復をできる状態ではないからだ。

 

 【ホワイト・ドルイド】は回復と逃げ足に特化したモンスター。しかし、《魔物強化》スキルを受けた虎丸のAGIは【ホワイト・ドルイド】のAGIを容易に上回る。いまも攻撃で【ホワイト・ドルイド】を追い詰めていく。

 

 その強力なステータスを持って行われる物理攻撃と純竜級モンスターとの戦闘経験からくる行動予知。虎丸は亜竜級モンスターでありながら、純竜級モンスターの領域に足を踏み込んでいた。 

 

 程無くして、【ブラック・ドルイド】とフィルルの戦闘の場に【ホワイト・ドルイド】と虎丸が現れる。それは虎丸が【ホワイト・ドルイド】を誘導したからである。ただ【ホワイト・ドルイド】を殺すのではなく、虎丸は主人の要望、つまり、モンスターをテイムするという目的を叶えるためだ。

 

 ドルイドコンビは絶望した。相棒(ブラック)が既に敵の攻撃で死に体であることを。相棒(ホワイト)が敵の手で弄ばれていたことを。

 

 唯一命の危険を覚えたあのとき(・・・・)でさえ、ここまでの絶望はなかった。謎の力を持った人間集団から運あって生き延び、闇夜に潜むことで生き残ることに特化し今日まで生き続けてきたというのに。

 

 …そういえば、こいつはあのときにいた人間ではないか?この獅虎もあの時の猫の面影が…

 

 その思考を切り裂くように絶望の発生源は口を開く。

 

「白と黒か。おもしろい。ここで死ぬか、俺の従属になるか、選ぶがいい」

 

 二匹の賢人は双頭を垂れた。

 

 ◇

 

「いやー、いいキメ台詞だったわー。『ここで死ぬか、俺の従属になるか、選ぶがいい』」

「にゃー」

「しかし、今にして思うとちょっと寒いか?」

「にゃー」

 

 そういいながら、俺は二匹のゴリラの体に手を触れながら魔力が通い合わせ、テイムは完了する。初めて自分の力のみでテイムに成功したということで変なテンションになっている俺。そしてそれに合わせる虎丸。

 

「よし、お前の名前はオセロ。【ブラック・ドルイド】のオセロ。そしてお前は【ホワイト・ドルイド】のリバーシだ」

「にゃー」

「「Guu」」

 

 名前を命名し、俺は新たに従属になったオセロとリバーシをジュエルに仕舞う。しかし、虎丸とオセロの反応からわかったことだが、こいつらまさかあの時のモンスターがそのまま生き延びていたとは…

 

「三か月もあってほかのマスターはこいつらを倒せなかったのか?」

「こいつらは狡猾だったからネェ」

「狡猾?こいつらが嘘だろ?」

「本当です。闇夜にのみ出没し、単独の敵のみと戦う不死身のモンスターとして有名でした」

「ほー。じゃあそいつらをテイムした俺ってすごくね」

「おめでトゥ」

「ハイ。見事なお手前でした」

「…いやお前ら誰だよ!」

 

 いつの間にか俺との会話を繰り広げていた二人に俺は突っ込みながら振り向く。

 そこには白髪の14歳くらいの男性と真っ白い骸骨がいた。…えっ骸骨?

 

「私は平坂四方都です」

「ワタシはノスフェラ・トゥだヨォ。ノスフェラと呼んでくれたまえヨォ」

 

 白髪の少年が四方都。白い骸骨がノスフェラね。それにしても…

 

「ノスフェラってアンデット型のガードナーなのか?」

「どーしてそう思うんだイィ?」

「ノスフェラトゥって名前。エンブリオは各地の逸話や神話を元に名前が決められるからな」

 

 ノスフェラトゥは「永遠の命を得ようとして失敗し、アンデッドになってしまった魔導師」の総称、もしくは「悠久の時を得るために自身をアンデッドへと変えた死人使い」の事を指す。昔やったゲームで出てきたぜ。

 

「だとしたらどうしますか?」

「…うらやましい」

「はい?」

 

 骸骨から甲高い声が聞こえた。驚いているようだが、だってそうだろ?

 

「ガードナーのエンブリオなんて羨ましい。しかもアンデットだと。レア度がかなり高いじゃないか!」

「…そうだね」

 

 今度は骸骨から困惑した様子で低い声の相槌が帰ってきた。

 それに対して四方都はこの状況が微笑ましいのか笑顔を浮かべていた。

 そして、虎丸はまた主人の「ガードナー病」が発症したとため息をついていた。

 

 ◆ 

 

 …逃げねば。

 あれから逃げねば。

 なぜあれがこちらに向かってくるかはわからぬ。

 あれにそもそも意思があるかどうかも。

 しかし、逃げねばやられる。

 あれは自分よりも二つ上の存在。

 戦えば、間違いなく餌にされる。

 自分の存在を持っていかれる。

 生き延びねば…

 

 




従魔GET&新キャラ登場

ドルイドたちは五話の時から成長しています。
ブラックは《筋力弾丸》というスキル、ホワイトは《闇夜隠形》というスキルを獲得しています。ブラックはSTRを利用した移動兼攻撃。ホワイトは夜に視認できなくなるというものです。
あとは作中の作戦で三か月の間生き延びました。

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