遊☆戯☆王ARC-V THE KING OF SPIRITS   作:Sepia

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プロローグ

 自由とは、なんと素敵な言葉なのだろうか。

 まず言葉の響きが美しい。

 何をするのも個人の自由だとするのならば、無限の可能性が広がっているということだ。

 

 幼いことに見る夢というものは、大抵現実に実現できないものばかり。

 それでも、どんな夢だって想像するだけなら自由だ。実現できるチャンスだってあるかもしれない。

 

 それはそれもすばらしいことなのだろう。

 それゆえに――――――――今、この社会はどうしてこうなってしまったのだろう、と誰もが思わざるを得なかった。

 

 始まりは自由競争社会の考えを実現した都市だった。

 どこまででも可能性が広がっているはずで、それゆえに大きな夢だって抱けたはずだった。

 小さな自分の店を持って、いつしか店を大きくしていく。

 経営者なら誰もがそんな夢をもっていた。それは素敵なことのはずだった。

 

 自由競争社会に生じる一つの問題点である、大きな格差が生じることは最初から分かっていたはずだったのだ。だから、社会のシステムとして、貧しい人間も裕福な人間も交流できる機会を積極的に設けていけばいいだけだった。人による善意で、社会はどうとでもよくなるはずだ。

 

 なのに、今の現実はあいにくとそうではない。

 

 今の社会はどうなっているかというと、かつて夢に描いた理想の都市の姿はない。

 人々が善意の心を忘れてしまったわけではなく、格差があることに心を痛めている人間だっている。

 しかしながら今人々の心にあるのは悪意でもない。

 

 単純に言えば、純粋な恐怖であった。

 

 いつか事情が失敗して、食べていくのも苦しい生活になるのではないかという心配ではない。

 それは将来への不安というものだ。恐怖とはまた別のものだろう。

 

 今の時代には、純粋な恐怖の象徴として組織が存在しているのだ。

 

 その組織の名は、ルナ。

 

 シティの中の格差が広がる中で生じたスラム街では、日々人は生きていくために必死に生きていかなければならない現状だ。犯罪に手を染めてまで生きるつもりはないという強い心を持った人だって、家族がいえば家族のために鬼にも悪魔にもなる。スラム街において生きていくためには力がある者に付き従って生きていくというのも、一つの選択肢になったのだ。

 

 治安やモラルが低下して、多くのデュエルギャングやデュエルマフィアが生まれる中、ある一つの組織がその最大勢力として恐怖の代名詞として君臨していた。

 

 それがデュエルギャング『ルナ』

 

 ただのデュエルチームならば、別になんでもなかっただろう。

 デュエルで勝つ。デュエルで負ける。

 どちらの結果になろうとも、デュエルとは本来楽しいものだ。

 人々はデュエルとともに生きてきた。

 正々堂々と、真っ向勝負で勝ち上がってきた人間に対しては、敬意と栄光を持って称えられるべきだろう。

 

 しかし、ルナは違う。

 ルナのデュエリストは真っ向とは言えなかった。

 ルナの人間と行ったデュエルは、すべてが現実のものとなった。

 

 炎属性のモンスターが召喚されれば、周囲を火の海にすることもあった。

 闇属性のモンスターのダイレクトアタックによってルナのデュエリストにデュエルで負けたデュエリストは、意識不明のままで病院で寝たきりとなっているケースも多々あったようだ。

 

 ルナとは、デュエルの結果を現実にするデュエリストの集団だったのだ。

 

 ルナはデュエルによるありのままの略奪と殺戮を繰り返して、都市の恐怖の象徴と言えるまでになったのだ。もちろん全く対抗しなかったわけじゃない。格差社会の中では日々の暮らしにも苦労する人間もいるが、羽振りのいいお金持ちもいる。だから、成功者たちの莫大な資金源を基盤としてより優れた警察組織だって作られた。

 

 それがセキュリティ。

 

 自警団から始まったものが、シティの組織となった。それはよかったのだが、ここで問題が起きる。セキュリティの資金源、つまりパトロンはトップスと呼ばれている金持ちしか住むことが許されない場所に暮らすことのできる成功者たちなのだ。彼らは、セキュリティに自分たちの警護を依頼した。

 

――――――そう。貧しい連中のことなんて、放っておいてもいいから自分たちを守れ。

 

 セキュリティとは、つまりトップスの住人がルナから自分たちのみの身を守るために作られた組織でしかなかったのだ。呼ばれている貧しい人々の生活なんて、最初から考慮されていなかったのだ。

 

 そして、ルナがシティの中心部にまでやってくることを恐れた富裕層たちは、セキュリティをシティの中心部に配置して、セキュリティを貧しいスラム街に配備することなどなくなっていった。

 

 こうなってしまったらもうどうしようもない。

 あとは悪化していくだけである。

 

 そんなふざけた話があってたまるか。そんな善意からスラム街に出向き、炊き出しなどを行っていた心優しいものたちもいたが、ルナの脅威を前に一人、また一人とスラム街を去っていく。誰だって自分の命が大事だ。万が一にでもルナと出くわしたら命が危ないのだ。かつてルナの鎮圧に向かったセキュリティの実行部隊、デュエルチェイサーズがルナによって壊滅的な被害を受けた瞬間から、攻勢にでるだけの余裕はセキュリティにないことがはっきりしてしまったのだ。

 

 そして、ルナが現れてもおかしくないスラム街は、いつしか『サテライト』を呼ばれるようになった。忘れた頃に現れ、デュエルによる二次被害で破壊されていくサテライト。そして、セキュリティに守られているためにルナの現れないトップス。格差は広がるばかりで、狭まることなんてなかった。その中で、『サテライト』に住むしかない貧しい人間をコモンズと呼ばれるようになっていた。

 

 そんな日々の中で、金になるとある鉱石が見つけられる。

 その結果、金の亡者たちは地面をどんどん堀進めていくことになる。

 

 当然、雇われているのは日々の金が欲しいコモンズたち。

 露天掘りのようにしてシティ周辺を堀進められていき、いつしかコモンズとトップスというだけの貧富の差には収まらなかった。

 

 シティの住人と、サテライトの住人というだけでも、天国と地獄。

 

 いつしか二つの間には、心の壁だけではなく、露天掘りで堀進められた町から見たら物理的な壁として差が存在していた。コモンズは、トップスを文字通り見上げて暮らすようになった。

 

 けれど、根本的には誰もが『ルナ』に日々脅えて暮らしていた。

 

 これは、そんな世界から始まる物語。

 英雄(遊星)のいない世界の物語。

 Arc-Vの物語。

 

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