遊☆戯☆王ARC-V THE KING OF SPIRITS   作:Sepia

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Duel4 神に背いた天使

 ミソラタウンは平和な町である。

 そこには「あくまでサテライトの中では」という一文がつくものの、場所によってはルナとの決戦の舞台となって、壊滅した町もあるという。それに比べれば、争い事がそうそう起きない町なんて平和そのものと言えるだろう。ユーゴなんては、波乱もない町なんてつまらないなんて言うが、それは本当ならば贅沢なことなのだろう。

 

 ある町では、日々デュエルギャングとデュエルチームが縄張り争いをしているという。

 朝起きて、朝ご飯を食べて、地域のみんなと協力しながら生きていくなんて、平和ボケともとれるだろうが、幸せなことだろう。

 

「結局余っちゃったわね。魚」

「うーん」

 

 リンがスィクルという名のチームの挑戦を受けている頃、ナギとユーゴが釣ってきた魚が多すぎて、結局食べきれなかった。

 冷蔵庫にしまおうにも、現状では入りきらない。

 なので、周りに分けていくことにした。

 交流会がてら、スィクルの人たちとの会談の場でも使ったものの、まだあまりが出たのだ。

 チームスィクルの人たちには、持って帰ってもらってもいいと提案したが、それは近所の人たちと食べるといいといわれた。

 

「クロウ兄さんでも遊びに来てくれたら、一緒にDホイールで持って帰っても貰えばいいんだけどね」

「クロウ?あいつ最近配達の仕事で忙しいし、そんな余裕はないだろ」

「じゃあ、やっぱりボクたちで周囲におすそ分けに行こうか。お姉ちゃんは帰ってきてから持って行ってもらうのも、なんか申し訳ないし」

「そうね。先生も仕事帰りで作業を増やされたくはないでしょう」

 

 ナギたちが暮らしている場所は教会である。

 しかし、そのくせしてDホイールの駆動音はするわ、デュエルの客は多いわで、騒音として迷惑をかけることがある。というか、大抵迷惑をかけている。エルはここを自分の仕事場に改造したし、まともに祈りをささげるための場所とは言えない状態なのだ。

 

 そのためお隣さんにはいつも申し訳ないことをしているという自覚はある。

 ささやかな賄賂というわけではないが、気持ち程度に品物を持っていくのも構わないだろう。

 

「じゃあボクは、院長先生のところに持っていうよ」

「お。ハジメのじいさんのとこか?」

 

 ナギやユーゴが暮らす孤児院の院長は、エルとなる。

 それゆえに、院長といえばエルのことを言う。

 

 しかし、エルの弟のナギからしたら、別の人物を指す。

 エルの前に院長を務めていた、ハジメという名前のおじいさんだ。

 もともとハジメの孫娘が院長の座に就くはずだったのだが、当の本人がその気がない上に、エルが希望したこともあって、今はエルが院長となっているのだ。

 

 エル自身破天荒な部分もあるために、ハジメからしたら大丈夫かと気にかかっているらしい。

 その報告もかねて定期的に挨拶に行っている。

 ナギ自身お年寄りと話をするのが好きなため、仲は良好である。 

 

「ユーゴくんはどうする?一緒にくる」

「……いや、今日はやめとくよ。ハジメのじいさんの家はここから徒歩だと距離があるし、それなら残りの分をリンと手分けして回るさ。オマエはじいさんのところでゆっくりしてこいよ」

「そう?じゃあ行ってくるね」

「おう!行ってこい!」

 

 ハジメの家は、普段寝泊まりしている教会からそこまで遠くはない。

 徒歩で片道ほんの40分くらいのものだ。

 

 あたりを見回しても、他の住宅なんて全く見られないような場所に、ポツンとハジメの家はある。

 ハジメの仕事は鍛冶師。

 今ではもう老後を穏やかに過ごしてもいいような年代だが、今でも若い者には負けないと踏ん張っている。

 鍛冶の仕事場も兼任しているため、人里離れた場所にあるのだ。

 

 近くにあるのは、共同墓地くらい。

 これでは、いちいち買い物するのも面倒だ。

 

「院長せんせーッ!いらっしゃいますかーッ!」

 

 ナギの声が響き渡る。

 しばらく待っていると、ガラッ!と扉を開けてハジメの姿が見えた。

 

「お。おぉ。ナギちゃんか。よくきたのぅ」

「院長先生もお元気そうでなによりです」

 

 ナギは11歳。

 ハジメは70歳。

 

 二人の年齢から言って、お爺ちゃんと孫のような間柄であった。

 ハジメには孫がいるのだが、彼女はエルと同年代である。しかし、彼女は仕事としてミソラタウンを離れていることが多く、いつもハジメと一緒に暮らしているというわけではない。ナギからしたら優しい人たちには違いないのだ。

 

「おすそわけをもってきましたー!」

「おぉ。ありがとうナギちゃん」

「最近なにか変わったことでもありましたか?」

「そうじゃ。ナギちゃん。ちょうどいいところにきてくれたのぅ」

「何か問題でもありました?今お姉ちゃんが外に出向いているところですが、帰ってきたらすぐに連絡を入れるようにした方がいいですか?」

 

 ナギは11歳。

 やれることはなんでもやっているつもりなのだが、どうしてもエルのほうが頼もしいのだ。

 ナギにできることといえば、力仕事くらいだ。

 王様が力を貸してくれれば、翌日の筋肉痛覚悟でDホイールだって持ち上げられる。

 

「ナギ。おぬしは精霊の声が聞こえるんだったな。だから、墓地を掃除したりしてたといっておったのぅ」

「えぇ。しばらく掃除にはいってなかったですね。これから行ってきましょうか?」

「そのことなんだが、この付近の共同墓地があるじゃろう。そこで、最近夜になると変な声がするのじゃ」

「……変な声?例えばどのような」

「そうじゃのう……騒いでいる、というか、一人の声ではなく、何か集団でもいると思えば、人影一つ見当たらない。どうかちょっと確かめて見てくれんかのぅ」

「分かりました」

 

 現実的な可能性を考えてみる。

 もし、夜中に墓場でデュエルチームでも入り浸るようになったとしよう。

 

 これは人の手によるものだから、案外すんなり解決できる。

 うるさければ魂たちも安らかには眠れない。

 そう話をすればわかってもらえるだろう。

 

 もしわかってもらえず、一人で手に負えそうになければ、ユーゴあたりを誘って二人で殴り込みに行こう。

 それでなんとかなるはずだ。

 

 ほかに考えられる可能性としては、カードの精霊たちが騒いでいるというものだろうか。

 カードの精霊の声が聞こえる人間は少なく、ナギ自身が知っているのは自分以外に一人しかいない。

 けど、精霊自身が言葉を伝えようと思えば手段はあるらしい。

 弱い力しかなくても、数が集まれば全体としての意思として亡霊のような声が響くこともあるのだ。

 

「どう思う?」

『……どうもこうも、考える必要はない。行ってみればすべて判明する。今の時点であーだこーだ考える必要性は皆無だ』

「それもそうだね」

 

 王様の言うように、ナギならば見ればどのケースなのかはっきりする。

 ナギは気楽な気持ちで日が落ちるのを待ってから、ハジメに言われた共同墓地へと向かった。

 そこで見たものは、

 

「なに……これ……」

 

 共同墓地に置かれている墓の一つ一つが、青白く発行していたのだ。

 よく見ようと近づいていくと、墓地に入ろうとした時点で気づく。

 墓地全体が何やら薄い壁のようなもので覆われている。

 薄い壁、と判断したのは、先の景色が見通せるからだ。

 

 コンクリートの壁の様に一面に色がついているのではなく、ビニール袋のような青がかかった透明色。

 しかし、手で押してみてもびくともしない。

 ゴムでも触ったかのようにぶよん、という手の感触があるだけだ。

 

『ほぅ。久々に見たな』

「王様?これが何か知っているの?」

『なぁに。これは精霊の力の一種だ。人払いの意味でも使われることがある』 

「え、じゃあこれ、悪いもの?」

『それはわからない。力を使うからやらないだけで、こんなこと、やろうと思えば俺様だってできる』

「王様はその気になれば割となんでもできるよね……」

 

 カードの精霊というが、その中でも力関係というものはあるらしい。

 カードに限らず、大切にされたものには魂が宿るという言葉があるが、王様はナギのデッキの中でも最強のカード。

 精霊としての性能も、それなりには強いらしい。

 

 それなりに、なんて表現をするのは、ナギがトップクラスの精霊がどの程度のものかを知らないからだ。

 

 ほかに出会ったことがある精霊の大半が成仏しかけの存在であったり、会話はできても願いばかり言う他力本願な奴だったりするため、比較対象としていまいち強さの実感がないのだ。

 

「でも、精霊の力ってことは……」

『この中にいるのは、間違いなく精霊が絡む奴だろうな。目的など知らんがな』

 

 誰かとデュエルをしていて、邪魔されたくないから結界みないなものを張ったのか。

 それとも何か秘密の作業でもやっているのか。

 

「王様、行ける?」

『俺様の力で、入りこめはするぞ。ナギ。お前の好きにするがいい』

 

 デュエルの力は、なにも幸福はだけではない。

 世の中にはデュエルさえなければ幸せに暮らせたと主張する人間もいるだろう。

 そして、デュエルにより人を不幸に陥れる人たちだっている。

 

 その象徴として、デュエルマフィアやデュエルギャング、さらにはルナまでいる。

 

 この先に入り込めたとして、どのような人と出会うかは分からない。

 やめておけばよかったと後悔するかもしれない。

 それでも、

 

「行くよ、王様。エル・アーネストの弟が、あなたを王を仰いでいる人間が、その程度で弱気になるわけがない」

『もう一度言う。好きにするといい』

 

 ナギは後退という選択肢はなかった。

 そのまま突き進むと、今度は壁なんてなかったかのように通り抜けた。

 しばらく歩くと、共同墓地の中心部ともいえる場所で、ローブを被った人間がいることに気付く。

 

 向こうは気が付いていないようだったので、ナギの方から声をかけた。

 

「もしもし」

「ひゃいッ!!」

 

 ナギの声を聴いて、どうやらびっくりしたような声があがる。

 そして、振り向くと同時にあわててローブを取り払ったことにより、素顔が明らかになった。

 

(お姉ちゃんよりも、ちょっと年上かな?)

 

 紫色のローブを羽織っている、大人の女性がそこにはいた。

 エルは孤児院では院長と呼ばれているが、その実まだ20歳にもなっていない未成年だ。

 

 サテライトと呼ばれている地域では、十代は立派な労働力の一つでもあるが、それでも一部門を仕切る人間としては若い方になるだろう。目の前の女性は、少なくとも20歳は越えていると思った。けど、20代前半だろう。どこか、幼さというものが顔立ちに見て取れる。

 

「え、ど、どうしてここに?びっくりさせないようにって、ちょっと墓地全体の存在を薄くしていたのに!結界まで張ったのに!」

「……あなたこそ、こんなところで何をしているんですか?」

「わ、わたしですか?わたしは少し、ここの墓地の除霊を行っていました。そんなことよりも、あなたまだ子供じゃないですか!こんな時間にこんなところにいて、家族の方が心配しますよ!早く帰るべきです!」

 

 真っ先に、家族のことを心配するこの人は悪い人ではなさそうだと、ナギは思った。

 サテライトは基本的にはスラム街。

 ここミソラタウンが比較的平和なだけであって、人さらいも起きる場所だ。

 

 デュエルギャングのボスになる!なんて夢を抱いている子供だっている場所なのだ。

 ナギだって実際に誘拐されたこともある。

 その時はエルがデッキ片手に殴り込みをかけに行って、最後は誘拐犯が真っ青な顔色で命乞いをしていた。

 あの時は自分が情けなくなて随分とへこんだものだ。

 

 悪い人ならば家族が心配しているのではないか、なんて真っ先に気にかけたりはしないので、そう気を張ることはなさそうだとナギは考える。

 

『…………』

 

 けれど、王様の意見はどうやら違ったらしい。

 王様はナギの隣に、はっきりと見える形で姿を見せる。

 

「王様?」

 

 しかし、それはナギだからはっきりと見えるだけ。

 たとえユーゴやリンが見ても、何も変わらないように見えるだろう。

 エルもデュエリストとしては特殊な部類に入るが、精霊なんて見えてはいない。

 

 事実、目の前の女性も王様のことなんて見えていないようだった。

 

「?」

 

 ナギが口にした言葉が誰に向けられているものか、いまいちピンときていない。

 それどころか、この人は幻覚でも見ているのではないだろうか、大丈夫かと心配そうな視線を向けてきた。

 だからナギは、取り繕ったかのように現状を口にする。

 この程度の反応は慣れっこなのだ。

 

「ボクは最近、この墓地が騒がしいって聞いたから様子を見に来たんですよ」

「あー、それは……、たぶん、私が原因ですね。私が見るに見かねて、ここ最近はずっと除霊作業を行ってましたから。きっと霊たちも、帰るべき場所を見つけようと騒いでいたのでしょう」

『…………』

 

 ナギとの会話においても、視線も一瞬でも王様の方には動かない。

 ずっと、彼女の意識はナギの方に向いたままだ。

 

『…………』

「王様。さっきからどうしたの?」

 

 ナギは隣に実体化した(ように見えている)王様の方を向いて、何かあったのかと話しかける。

 すると、王様は気になってるということを述べた。

 

『……いや、いないな』

「誰が?」

『あいつのデッキに、精霊はいない』

「それがどうかしたの?お姉ちゃん目当てで挑戦にやってきたデュエリストは沢山いたけど、ボク以外で王様を見たことがあるのは、結局今までで一人だけだよ。見えないのが普通なんじゃない?」

『確かに、それが普通だ。だが考えてもみろ。普通の人間が、除霊なんてできるわけがない』

「デュエリストだったらできるんじゃない?」

『デュエリストにも種類があるだろう』

「たしかに」

 

 ナギだって今までに除霊を行ったこともある。

 けど、それはナギ一人でできることではない。

 ナギ一人でやれることといえば、せいぜいお墓にお供え物をすることぐらいだ。

 

 本格的な除霊となると、王様の力を借りる必要がある。

 そう、アンデットの王である、ワイトキングの力が必要だ。

 

『だが、こうして俺様が存在を強めてみても、俺様の姿が見えているわけではなさそうだ。ただ……俺様の存在をうすうす感じてはいそうだな』

 

 王様はカードの精霊だ。

 そのため、実体化という形で出てくることもある。

 その場合、ナギからしたら目の前にいるのだから、視線も必然的にそちらに向く。

 

 しかし、それは他人からしたら幽霊と会話しているようにしか見えないのだ。

 おかげさまで電波扱いされる。

 

「あのー、ひょっとして、あなたはギフトデュエリストだったりします?」

「……あぁ、なんか久々に聞いた言葉です」

「違うんですか?」

「違うといえば違う気がしますね。大して気にしないで下さい」

「?よくわから理ませんが、隣に精霊がいるんですね」

「カードの精霊のことを知っているんですか?」

「もちろんです。私自身、カードの精霊に友人がいますからね。普段は一緒ではないんですが、ちょっと力を分けてもらったこともあるんですよ」

 

 強力なカードの精霊なら、デュエル中でなくとも、誰もに姿が見えるように現れることができる。

 この女性は、王様が見えていないながらも存在は認識している事実から推察するに、自力で姿を見せた精霊と友人だったのだろう。

 

「それにしても、王様ですか?わたしには見えていませんが、そう呼ぶということは仲がいいんですね」

「興味があります?」

「もちろん。デュエリストと精霊の関係といっても、いろいろありますから。中には、心まで完全に精霊にとりつかれているというデュエリストもいました」

「なにそれ怖い」

『まぁ、なかにはそんな奴もいるわな。俺様のように、純粋に対話が成立するタイプはそうそういない。ほとんどは、意思を伝えることができても、会話まではいかないだろう』

「じゃあ王様はすごいんだね」

『当然だ。俺様はアンデットの王。ワイトキングだ。そこらの雑魚とは一緒にするな』

「…………?」

 

 ワイトキングの声はナギにしか届かない。

 それゆえに、女性にとっては会話がとぎれとぎれでついていけなくなってしまう。

 

「あ、ごめんなさい。決して無視するつもりはなかったんですよ。つい、癖で……」

「いえいえ。気にしないでくださいね。でも、ちょっとお願いしていいですか?」

「なんでしょう」

「デュエルしませんか?精霊を見れるデュエリストなんて、そうそう出会えませんからね」

「いいですよ。ボクは、ナギ。ナギ・アーネストといいます」

「ドロシー・マーベルです。よろしくお願いしますね」

「「デュエルッ!!」

 

 ナギ・アーネスト LP8000 VS ドロシー LP8000

 

 ドロシー・マーベル。

 彼女の名前を聞いた瞬間、どこかで聞き覚えがあるような気がした。

 ちょっと考えて思い出せなかったので、考えるのはやめでデュエルに集中することにした。

 

「どちらが先行で行きますか?」

「ボクはどちらでもいいですよ。ドロシーさんの好きな方をどうぞ」

「そうですねー。じゃあコイントスします。表出たら私が先攻でいかせてもらいますね。そらッ!……裏でした。ナギさん、あなたが先攻です」

「ボクのターン。ボクはモンスターをセット。そして、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

ナギ

LP8000

HAND:2

MAIN:裏守備モンスター一体

REVERSE:2

 

 ナギの基本戦術は、基本的に打点を挙げて殴るというもの。

 先攻で高い攻撃力のモンスターを出すよりは、守りを選択した。

 

「では私のターンですね。ドローします」

 

ドロシー

LP8000

HAND:5 → 6

 

「では私もモンスターをセットして、カードを二枚セットしてターンエンドです」

 

 守りを固めてきたナギに対して、ドロシーが行ったこともまたカードをセットするのみであった。

 現時点では互いに、互いのデッキがどのようなものであるのかが全く判断がつかない。

 

ドロシー

LP8000

HAND:3

MIAN:裏守備モンスター一体

REVERS:2

 

「ボクのターン」

 

ナギ

LP8000

HAND:2→3

MAIN:裏守備モンスター一体

REVERSE:2

 

 カードをドローしたナギは、様子見していても仕方がないので、自分から打って出ることにした。

 

「ボクはセットしたモンスターを反転召喚!」

「あら、かわいい羊さんですね」

「そうでしょう!そうでしょうとも!」

 

 ナギが反転召喚したモンスターはスケープ・ゴースト。

 夜眠れないときには羊を数えればいいとされるが、実際に亡霊のように空を漂う羊を見ると、どのような反応を示すのだろうか。かわいい、というドロシーのような反応が正しいとナギは主張するが、リン相手に出したらナギのモンスターの中では比較的マシなだけという評価を受けていた。解せぬ。

 

「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が四匹!ボクは四体まで羊を出す!」

 

《スケープ・ゴースト》

リバース・チューナー・効果モンスター

星1/闇属性/アンデット族/攻 0/守 0

(1):このカードがリバースした場合に発動できる。

自分フィールドに「黒羊トークン」(アンデット族・闇・星1・攻/守0)を任意の数だけ特殊召喚する。

 

「なんだか眠たくなりそうですね」

「さらにボクはデッキの一番上のカードを、九尾の狐を墓地へと送ることで、手札からアームズ・ホールを発動する。このターン通常召喚できない代わりに、デッキの装備魔法一枚を手札に加える。ボクはデッキの団結の力を手札に加えるよ」

 

 団結の力は自分フィールドのモンスターの数に応じて攻撃力をあげる装備魔法。

 ナギのフィールドにいるモンスターは5体。

 よって、今発動したら団結によるパワーアップは4000。

 

(団結して殴ってもいいけど、せっかくいいものが墓地にいったんだ)

 

 しかし、今フィールドにいるモンスターの攻撃力は全員0。

 戦いは数だとはいえ、雑魚が団結してもささいなものとなる。

 

「そして、ボクは羊一匹と、スケープ・ゴーストをリリースすることで、墓地の九尾の狐の効果を発動する。墓地からこいつを特殊召喚だ。さぁ出ておいて!」

「フォオオオオオッ!!」

 

 ゆえに、ナギは強力な攻撃力を持つモンスターを復活させることとした。

 九本の尻尾を持つ狐。

 狐といえばかわいらしペットを連想する人が大半だろうが、あいにくと九尾の狐は邪悪な笑みを浮かべていた。そもそも、アンデットなんて基本そんなものだ。

 

 ナギからしたら、よくよく見れば愛らしいという感想なのだが、リンは邪悪なオーラしか感じないといった。

 悲しい。

 

「さらにボクは、手札から団結の力を発動!」

 

 団結の力は、自分のモンスターの数×800の値能力があがる装備魔法。

 今ナギのフィールドにいるのは、墓地から復活した狐が一体に、羊が3体。

 よって、能力値は800×4=3200アップする。

 九尾の狐の元々の攻撃力と合わせて、5400。

 

「狐でセットモンスターに攻撃だ!墓地からよみがえった狐は、貫通能力を持っているッ!これで大ダメージを与えます!」

「あなたが攻撃を宣言したこの瞬間、私はリバースカードを発動します。罠カード、メタバースッ!」

「確かそのカードは、フィールド魔法を発動させるというものッ!」

「よくご存じですね。メタバースの効果により、デッキのフィールド魔法を発動するか手札に加えることができます。私は、デッキに存在している天空の聖域を発動しますッ!」

 

 フィールド魔法の発動と同時に、ソリットビジョンによって周囲の景色一帯が切り替わる。

 墓場という今いる場所から、どこか空の上の、神様でも見ているかのような雲の上。

 その中に神殿が立ち並んだ。

 ナギとドロシーは、その神殿の大広間に立っていた。

 

「聖域が展開している限り、天使族モンスターの戦闘で発生するそのコントローラーへの戦闘ダメージは0となります」

「……まずい。根本的にボクの得意分野とかみあわない」

 

 いくら攻撃力をあげて殴ったとしても、戦闘ダメージを与えられなければ意味がない。

 天使族モンスターを全滅させていればダメージは通るのだが、そう簡単に全滅させてはくれないだろう。

 ナギの基本スタイルは、一瞬のスキをついて火力で殴るスタイルなのだ。

 面倒なことになったと思った。

 

「フィールド魔法が展開しても戦闘は続行されますが、九尾の狐の貫通ダメージはうけません。さらに、戦闘で破壊されたのはコーリング・ノヴァです。このカードが戦闘で破壊されたとき、デッキから攻撃力1500以下の天使族・光属性モンスター1体を特殊召喚することができます。さらに、フィールドに「天空の聖域」が存在する場合の追加効果として、リクルートの対象には「天空騎士パーシアス」1体を追加することができます。よって、私は天空騎士パーシアスをデッキから特殊召喚します!」

「ボクはこれでターンエンドです」

 

ナギ

LP8000

HAND:2

MAIN:九尾の狐(ATK2200)WITH 団結の力(800×4=3200)=5400

   黒羊トークン(DEF0)×3

REVERSE:2

 

「それでは、私の番ですね」

 

ドロシー

LP8000

HAND:3 → 4

FIELD:天空の聖域

MIAN:天空騎士パーシアス(ATK1900)

REVERS:1

 

 次はドロシーのターン。

 ドロシーはカードを引いた後、迷わずにバトルへと入った。

 

「バトルです!パーシアスで羊さんを攻撃です!パーシアスは貫通能力を持っています」

「へ?ぎゃあああああああああ!!」

 

ナギ

LP8000 → LP6100

 

「そして、相手に戦闘ダメージを与えたときに一枚ドローできます!」

 

ドロシー

HAND:4 → 5

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンドです」

「うぅ……なんか最近、こんなのばっかなような気がする」

 

 ナギのモンスターは基本、守備力が小さいものが多い。

 ユーゴやリンのような身内相手だとそれがばれているため、貫通ダメージを狙ってくることが多いのだ。

 この前だって、ライフの大半が貫通ダメージで消えていった。

 

「だ、大丈夫ですか!」

「大丈夫です!心配しないでくださいッ!」

 

ドロシー

LP8000

HAND:3

FIELD:天空の聖域

MIAN:天空騎士パーシアス(ATK1900)

REVERS:3

 

ナギ

LP6100

HAND:2

MAIN:九尾の狐(ATK2200)WITH団結の力(800×3=2400)=4600

   黒羊トークン(DEF0)×2

REVERSE:2

 

 相手に気を使わせるようでは、一人前のデュエリストを名乗ることはできまい。

 ナギは気を取り直して、デッキからカードをドローする。

 

ナギ

HAND:2→ 3

 

「ボクは狐でパーシアスを攻撃ッ!」

 

 九尾の狐が尾を束ね、一つの火の玉を作り出す。

 

「グラッジ・オブ・ナインッ!!」

 

 その火の玉は、太陽のように直視できないほどの輝きを持ち始めた。

 使用者のナギですら手で陽射しを遮ろうとするなか、ドロシーは太陽から目を全く離さなかった。

 そして、ちら、とドロシーは手札を公開する。

 ナギは確認できなかったが、そこにはオネスト、と書かれていた。

 

 ナギが現状を把握したのは、太陽が離散してパーシアスが狐を切り裂いた後であった。

 

ナギ LP6100 → LP4200

 

「ぐあああああああああああああああ!!!」

「私はパーシアスが戦闘ダメージを与えたことで、私は一枚ドローしますね」

「ど、どうぞ」

 

ドロシー

HAND:3 → 2(オネスト使用) →3(パーシアスのドロー)

 

「……ゲゲゲッ!だ、だけど、九尾の狐は破壊されたときに尻尾を分身として切り落とすことで亡霊をこの世にとどめることができる!狐トークン2体を守備表示で特殊召喚!」

 

 スムーズに反撃を行ってくるドロシーに対し、ナギは冷や汗が出てきていることに気が付いた。

 

(この人、すごく強い人だ。たぶん、まだ全然本気じゃないんだろうな)

 

 ドロシーさんは、今までのナギのデュエルに対して、すべて微笑ましいものをみるとうにして対応している。焦りなど、全く見せていない。

 ナギは、自身の姉が、エル・アーネストこそが最強のデュエリストだとは思っている。

 けど、弟は姉の実力を正確に図ることはできていない。

 

 エルが出稼ぎと称してどこかのチームに出向いていた時代も、その時はナギは一緒についてはいかなかったから、エルのデュエルを見ていないからだ。けど、一つ言えることはある。

 

 ――――――――今、ボクはお姉ちゃんの足元にも届いていないんだろうなぁ

 

 大好きな家族に届くだけの力をつけるためにも、どんな相手だろうと臆せず戦う必要があった。

 ドロシーさんは、自分よりも強いデュエリストだということを自覚しながらも、ナギは自然を笑みが出てきていることに気が付いた。だってそうだろう。ドロシーさんが強ければ強いほど、自分はエルに近づける機会を得る。

 

「どうかしました?」

 

 急に微笑むボクのことを、ドロシーさんは気持ち悪いと思うだろうか。

 きっと思うだろう。

 

「ドロシーさん。ボクは、あなたの本気を見たいです。なので、無理にでも引きづりだして見せます」

 

 ユーゴのような同世代とのデュエルではない、大人とのデュエル。

 試されているのだと、思わなくてはどうする。

 相手を慌てさせるほどのものでなくては、どうする。

 

「そして、メインフィズ2へと移行します。ボクはこのターンまだ通常召喚を行っていません!」

「なにを出すんでしょうか」

「ボクは手札のワイトを通常召喚ッ!」

「……はい?」

 

 この局面で出てきたモンスターはワイト。攻撃力300。守備力200。

 低レベルの貧弱ステータスモンスター。

 

「ワイト?どうしてここで?」

「ボクにはまだ手札が一枚残っている。そして、フィールドには羊二匹と、尻尾が二つ残っている。トークンは通常モンスターとして扱い、羊はレベル1、尻尾はレベル2として扱われる。よって、ボクのフィールドには5体のレベル2以下モンスターがそろったことになる」

「……通常モンスターの数で効果が決まるカード、ですか?」

「そうです!ボクは魔法カード、弱肉一色を発動します。自分フィールド上にレベル2以下の通常モンスターが表側表示で5体存在する時に発動する事ができるカードで、お互いのプレイヤーは手札を全て捨て、レベル2以下の通常モンスターを除くフィールド上に存在するカードを全て破壊される!」

 

 フィールドに存在しているワイトが雄たけびをあげる。

 その叫びは、フィールドに存在していくカードを破壊していった。

 ナギの残っている手札や、フィールドにセットしていたカードも破壊される。

 それでも、トータルで見れば損ではない。

 

 ナギの場には雑魚とは5体のモンスターが残るが、それ以外の互いの手札とセットカードが消えるのだから。ワイトの雄たけびは天空に存在していた聖域を粉砕し、元の夜の墓場へと景色を戻した。

 

「リバースカードオープン!禁じられた聖衣!パーシアスを対象に発動します!」

 

《禁じられた聖衣》

速攻魔法

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

ターン終了時までそのモンスターは、攻撃力が600ダウンし、効果の対象にならず、効果では破壊されない。

 

「この効果によって、私のパーシアスは破壊されませんッ」

「ッ!ボクはワイトと羊一匹をリリースして、墓地に存在する狐を特殊召喚するッ!ターンエンドです」

 

ナギ

LP4200

HAND:0

MIAN:九尾の狐(ATK2200)

    羊トークン(DEF0)

狐トークン(DEF500)×2

 

ドロシー

LP8000

HAND:0

MIAN:天空騎士パーシアス(ATK1900)

 

「それじゃ、わたしのターンですね」

 

 互いの手札は0枚。

 セットしている魔法・罠カードはない。 

 ナギのフィールドには狐が存在し、ドロシーのフィールドにはパーシアスが存在する。

 互いのフィールドのカード大した差がない以上、これからはドローによって戦況が大きく変わる。

 

「ドロー」

 

 それがわかっているはずなのに、ドロシーは特に迷うこともなく、祈ることもなく、自然にデッキかあらカードを引いた。

 

ドロシー

LP8000

HAND:0→1

MAIN:天空騎士パーシアス(ATK1900)

 

「私はパーシアス進化させます。天空勇士エンジェルブレイブネオパーシアス手札から特殊召喚しますね!」

 

天空勇士(エンジェルブレイブ)ネオパーシアス》

効果モンスター

星7/光属性/天使族/攻2300/守2000

(1):このカードは自分フィールドの「天空騎士パーシアス」1体をリリースして手札から特殊召喚できる。

(2):フィールドに「天空の聖域」が存在し、自分のLPが相手より多い場合、このカードの攻撃力・守備力はその差の数値分アップする。

(3):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(4):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

 ナギの目の前に出てきたのは、パーシアスを一回りごつくしたような天使だった。

 一目で同じ系統のモンスターだと判断出来た。

 

「パーシアスの進化体?けど、攻撃力は2300なら大して変わっていない!とうことは、何か恐ろしい能力が……」

「そんなものはありませんよ?天空の聖域があれば、私のライフが上回っている限り、それだけ攻撃力が上がっていただけです。弱肉一色で聖域は消えていますから、差は攻撃力が400上がっているくらいですね」

「危なかった。さっき破壊できなきゃ負けていた……ん?待てよ?ということは」

 

 進化したパーシアスは、狐の攻撃力を上回っている。

 フィールドの最大攻撃力というアドバンテージは消えたわけだが、ナギが問題視したのはそこではなかった。

 

 パーシアスの効果をそのまま受け継ぐ進化体。

 そうなると当然、貫通能力も受け継いでいるということだ。

 

「それじゃ、ネオパーシアスで羊さんを攻撃しますね」

「やっぱりぃぃぃいいいいいいいいいい――――――――――グへェッ!?」

「い、今変な声が出ましたよ!?」

「……気にしないでください」

 

 ナギLP4300 → 2000

 

「そ、そうですか?それじゃ、私は戦闘ダメージを与えたことで、パーシアスの効果でドローさせてもらいますね」

「ど、どうぞ」

「……これを引きましたか」

「ドロシーさん?」

「いえ、なんでもないです。私はカードを一枚セットしてターンエンドです」

 

ドロシー

LP8000

HAND:0

MIAN:天空勇士エンジェルブレイブネオパーシアス (ATK2300)

REVERSE:1

 

ナギ

HP2000

HAND:0

MAIN:九尾の狐ATK2200

   狐トークン(DEF500)×2

 

「ボクのターン、ドローッ!手札から魔法発動、強制転移ッ!」

 

 強制転移は互いのプレイヤーが自分自身のフィールドから一体のモンスターを選択し、コントロールを移すカード。ナギは選択肢があるものの、ドロシーは一体にしかフィールドにいたいため、選択肢なんてない。

 

「それじゃ、ネオパーシアスを差し上げますね」

「ボクは、ドロシーさんに狐トークンを渡す!」

 

 狐トークンを守備表示のまま渡したものの、問題はない。

 だって、

 

「ネオパーシアスで攻撃!ネオパーシアスは貫通能力を持っているッ!」

 

 ネオパーシアスも、墓地からよみがえった狐も、貫通能力を持っている。

 

ドロシー LP8000 → LP6200

 

「ネオパーシアスが戦闘ダメージを与えたことで、一枚ドローする。そして、狐でダイレクトアタック!」

「あらら。ダメージを受けてしまいましたね」

 

ドロシー

LP6200 → LP4000

 

「ボクがカードをセットして、ターンエンド」

 

ナギ

LP2000

HAND:0

MAIN:天空勇士エンジェルブレイブネオパーシアス (2300)

   九尾の狐(ATK2200)

REVERSE:1

 

 これで、ドロシーの場のカードは、伏せたカードが一枚だけ。

 モンスターは存在しない。

 

 対し、ナギのフィールドには奪ったネオパーシアスと、九尾の狐が存在する。

 しかも九尾の狐は破壊されると怨念としてトークンを残していく。

 

 フィールドのアドバンテージ自体はナギの方にある。

 あるのだが、

 

(……なんだろう。このまま勝てる気がしない)

 

 どうも、ナギは嫌な予感がしてきた。

 単純に考えて、ドロシーが何をしても、手札一枚からではどうにもできないはずなのに、ドローしてそのままターンエンドをするとは思えなかったのだ。

 

『あいつのデッキの本性が出てくるかもな』

 

 そんな中、ナギの思考を呼んだかのようにして、彼のデッキのワイトキングが語り掛けてくる。

 

「王様?」

『おかしいとは思っていた。神に仕える光の天使。そんなカードを操るやつが、こんな墓場で供養なんてするものかとな』

「それは変なの?うちのお姉ちゃんはなんちゃってシスターだから例外かもしれないけどさ、聖職者といったら祈りをささげる人たちでしょ?この世にとどまる怨念を浄化しようとしても変ではないと思うけどなぁ」

『そこじゃない。意識すべきは、そこに怨念側の意思がどうあるかだ。神に仕える天使や女神という連中は、自分たちこそがただしく、それ以外は神に歯向かう不届きものだと考える節がある。いちいち、意見をを尊重せず、問答無用で消しかかってくる奴らだ。だが、あいつはどうも、そうではない気がする。それに、なんか変なカードも使っていたしな』

「変なカードなんて使っていたっけ……?ん、そういえば……」

 

 デュエリストとデッキというものは、どうも切り離せない。

 デッキはデュエリストの心を表したものでもある。

 心と合わないものを使おうとしても、答えてくれない。

 

 ナギはエルの昔のデッキをもらっているからこそ、よくわかる。

 

 PSY(サイ)フレームというデッキがある。

 かつて、エルが使っていたデッキ。

 エルはかつて自分が使っていたデッキを、心機一転と称してそのまま弟に渡したのだ。

 

 そのデッキを使いこなすことができれば、昔のエルと同等の実力があるといえるだろう。

 しかし、ナギには使いこなすことができなかったのだ。

 デッキを信じていないわけではないのだ。

 

 エルの名前がかかったようなデュエルで、姉の力にすがりたいときには力を貸してくれた。

 デッキが答えてくれた。

 

 しかし、どうも自分の力だとは思えなかった。

 

 そのままナギが使ってみたこともあったが、どうにもしっくりと来なかったのだ。

 一部デッキに入ってもいるが、メインのギミックはエルのものはなく、別の形に落ち着いた。

 

 それゆえに知っている。

 人によっては、これじゃないとダメというような、デッキとデュエリストとの間には相性が存在する。

 

 カードはデュエリストの気持ちに答えてはくれるが、デュエリストが自然に力を発揮できるのは自分のデッキだ。それは性格であったり、境遇であったり、抱いている感情で決まる。

 

 それを踏まえた上でドロシーが今まで使用したカードの中で、一つ異質なものがあるとすれば、

 

「……禁じられた聖典?」

『あぁ、あれは、神に逆らった者のカード。正直光の天使を操るやつが使うようなカードじゃない』

「そうなると、ドロシーさんのデッキは……」

『おそらく、デッキの本質は、光の天使ではないのだろう』

 

 王の言葉を受け、ナギはドロシーを見た。

 ドロシーはちょうど、カードをドローしたところだった。

 

「……そうきますか」

「…………」

「ナギさん」

「なんですか」

「あなた、カードが人の思いにこたえることがある。そう思ったことはありますか?」

「当然です」

 

 聞かれるまでもないことだった。ナギは、カードの精霊の声が聞ける。

 すべてのカードが精霊として出てこれるカードではないが、それでも、知っているのが一人だけでも十分だった。

 

「なら」

 

 ドロシーはナギの答えに満足したのか、意思を明確にした。

 

「カードの意思には、デュエリストは応えなければいけませんね」

『くるぞ、ナギ。あいつのデッキの本性が……』

 

 ワイトキングの言葉を聞くまでもなく、ナギの身体が全身から気をつけろと叫んでいる。

 

「いいカードを引いたのですか?」

「えぇ。もちろん。正直言いましょう。今回のデュエルでは、私自身はデッキに呼びかけてはいませんでした。そのうえでこれが来るということは、デッキが負けたくはないといっているということなのでしょう。なので、負けるわけにはいかなくなりました。全力をもって、デッキに応えるために勝ちにいきます!私はドローしたこのカードを、堕天使の戒壇を発動しますッ!」

 

《堕天使の戒壇》

通常魔法

「堕天使の戒壇」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の墓地の「堕天使」モンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。

 

「堕……天使?」

「私は墓地に存在する堕天使スペルビアをその効果で守備表示で特殊召喚します。さらに、スベルビアは墓地からよびがえった時、墓地の天使を復活させます!出てきなさい!堕天使テスカトポリカッ!」

 

 堕天使スペルビア (DEF2400)

 堕天使テスカトポリカ(ATK2800)

 

 ドロシーのフィールドに出てきたモンスターは、パーシアスとは打って変わって、光というにはおぞましい漆黒の翼を持つ天使たちであった。堕天使とは、神に背いたことで天界を追われた者たちのことを言う。光の天使というよりは、闇に染まった元天使というべき姿がそこにはあった。

 

(弱肉一色で、手札から墓地へと捨てられていたモンスターたちか!)

 

 現時点でフィールドの最大攻撃力は、ドロシーの堕天使テスカトポリカの2800。

 この時点でドロシーが優位に立った。

 

(さて、ボクの伏せカードはここで使うべきか……?)

 

 ナギのフィールドに残っている伏せカードは、つり天井。

 フィールドに4体以上のモンスターが存在するとき、そのすべてを破壊する罠カード。

 

 今ナギのフィールドには九尾の狐とパーシアス、そしてドロシーの場には堕天使が二体存在している。

 発動条件は満たしている。

 

(……釣り天井はモンスターを敵味方関係なく一掃する。ボクのモンスターも破壊されるけど、九尾の狐は破壊されたら怨霊を残していく)

 

 そして、次のターンに、墓地の狐はナギのモンスター二体をリリースして、復活できる。

 怨霊二体をリリースして、狐は完全復活する。

 ただ、問題は、

 

(ドロシーさんが残している、あの罠カード……)

 

 ドロシーの手札はすでにない。

 堕天使二体のうち、一体の効果はすでに判明している。

 つり天井を破壊した瞬間、次のターンに何をドローしようが問題ないナギが優位になる。しかし、

 

(ドロシーさんは、勝ちに行くと言った。なら、あの罠にもきっと何か仕掛けてくるに違いない!)

 

 つり天井は、フリーチェーンだ。

 どのタイミングでも発動できる。

 なら、ドロシーの罠に割り込む形で発動させてもいいだろうと思った。

 

「行きますよ!」

「さぁ、来てください!全力をもって迎え撃ちましょう!」

 

 しかし、それは発動条件を満たしていればの話である。

 

「私はフィールドに存在している堕天使スペルビアを墓地へと送ることで、リバースカードオープン!魅惑の堕天使を発動します!」

「ここで大型モンスターをリリース!?」

 

《魅惑の堕天使》

通常罠

「魅惑の堕天使」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):手札及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、「堕天使」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

相手フィールドの表側表示モンスター1体を選び、エンドフェイズまでコントロールを得る。

 

 フィールドのモンスターの数が三体になったことで、ナギの目論見が外れた。

 しかも、まだ罠の効果は発動したばかりで、効果も適用されていない。

 

「魅惑の堕天使は、相手のモンスターをこのターンの間だけ倫理観を狂わせ、魅惑におぼれさせることができます!よって、九尾の狐を堕天させます!」

「グルルル……」

「まさか怨念の塊みたいなモンスターがさらに混乱するなんて……よくわからないもんだ」

「バトルです!堕天使テスカトポリカで攻撃です!」

 

 堕天使テスカトポリカATK2800 VS 天空勇士エンジェルブレイブネオパーシアス (ATK2300)

 

ナギ

LP2000 → 1500

 

「ぐゥ……」

「これで、あなたのフィールドにはモンスターはいません!九尾の狐でダイレクトアタックです!」

「グルルル、グォオオオオオオッ!!」

 

 ナギのライフは1500。九尾の狐の攻撃をそのまま受けたら、ナギは負ける。

 そして、ナギの手札はなく、唯一の伏せカードは発動条件を満たしていない。

 けれど、

 

「ボクは墓地から罠カードを除外することで、その効果を発動する!」

 

 そのままは終わらなかった。

 弱肉一色の効果でドロシーの堕天使たちが墓地へと言っていたように、ナギのカードだって墓地へと言っていたのだ。

 

「罠カード、もののけの()くう(ほこら)から、墓地のアンデットを現世へと通じる道を作る!」

 

《もののけの()くう(ほこら)

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外し、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。

 

 蘇らせるモンスターは、弱肉一色で手札から墓地へと捨てたモンスター。

 

「こい!ゴブリンゾンビッ!」

「キシャッ!」

 

《ゴブリンゾンビ》

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻1100/守1050

 

(ゴブリンゾンビはフィールドから墓地に行ったときに真価が発揮されるモンスター。効果が無効となって呼び出されても、墓地は別だ)

 

 九尾の狐は貫通能力を持っているため、ゴブリンゾンビの攻撃表示で出した。

 その値は1100。

 決して高いとは言えないが、ナギの今のライフは1500。

 攻撃を受けても、ライフは400残る。

 

(このターン攻撃して来たら、墓地に行ったときの効果で守備力1200以下のアンデットをデッキから手札に呼べる。反撃は十分にできる!)

 

 もっとも、それだけではドロシーのライフ6200はすべて削りきれない。

 次のターンでナギが勝てるかどうかは、次のドローで何を引くかだろう。

 そう思った。

 

 けれど、ドロシーも確信したいたのだ。

 

「このデュエル、もらいました!」

 

 ナギがドロシーのリソースを考慮していたように、ドロシーだってナギが打ってくるであろう手を考えていたのだ。

 

「私はここで、1000のライフを代償とすることで、堕天使テスカトポリカの効果を発動します!」

「バトルフェイズで発動する効果!?」

「私の堕天使たちの何人かは、ライフと引き換えに自分の墓地の堕天使魔法、罠カードの効果を適用することができます!」

「……まさか」

「そうです!魅惑の堕天使の効果を適用します!」

 

 ドロシー LP4000→LP3000

 

 魅惑の堕天使の効果は、発動ターンの間だけ、相手モンスターを堕天させるというもの。

 

「ゴブリンゾンビのコントロールを、いただきます!」

「……まいったなぁ」

「そして、私は墓地に存在している魅惑の堕天使をデッキに戻します」

 

 九尾の狐の攻撃を止める手段はない。

 これは負けだ。

 

「……王様、ごめんなさい。負けたよ」

『仕方ないさ。ナギ、お前はもっと、広い世界を知るべきだ。エルが最強と思うはいい。俺様を最強と信じるのもいい。だが、それはほかに強いやつがいることを否定はしない』

「そうだね」

 

王に勝利をささげられなかったことを悔やむナギであったが、その様子をみていドロシーが微笑んだ。

 

「本当に精霊と仲良しなんですね」

「変なことですか?」

「いいえ。むしろ安心しました。精霊に力を与えられたギフトデュエリストは、最後は悲劇をたどることが多いですから。どうやらあなたは違うみたいです」

 

ギフトデュエリスト?

ドロシーも少し口にしたが、そんな言葉はナギは知らない。聞いたこともない。

それは一体何なのかと聞こうとしたが、その前に九尾の狐が尻尾に怨念を宿す方が早かった。

 

ドロシー相手に質問する時間はなかった。

けど、自分が一言口にする時間くらいはあるだろう。

 

「王様」

『なんだ』

「強い人はたくさんいるね。ボクももっと、強くならなきゃね」

『そうしてくれ。俺様が安心して見てられるやつになってくれ』

「うん」

 

 そして、ナギは九尾の狐の炎の直撃を受けて気絶した。

 けれど、その表情は穏やかであった。

 

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