遊☆戯☆王ARC-V THE KING OF SPIRITS   作:Sepia

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Duel5 堕天使の聖典

「……ン、んん?……ん?あれ、ここどこだろう?」

 

 ナギ・アーネストは目を覚ました。

 今はいつだろうかと考えるよりも先に、あたたかなお日様の陽射しが窓から差し込んできた。

 そうか朝かぁと考えて、朝ぁ!?と飛び起きる。その時点になってようやく自分が布団で寝ていることに気が付いた。はて、昨日の夜の最後の記憶はなんだったかと思い出す。

 

(あ、そうか。昨日は確かドロシーさんとデュエルして……)

 

 先代の孤児院の院長であるハジメのおじいちゃんに頼まれて、墓場の様子を見に行って、ドロシーさんと出会った。その後せっかくの機会ということでデュエルをした。その後は、

 

(うん、その後からの記憶がさっぱりとないや)

 

 全く覚えていない。

 この状況から推測するに、どこかに拉致されたというわけではなさそうだ。

 

 拉致なんて発想が真っ先に出てくるのは自分でも悲しいが、サテライトはルナの脅威からデュエルマフィアやギャングが発達した場所でもある。すなわち、人さらいなんてことも平気で起こりえるほど治安が悪い。ナギ自身デュエルギャングに拉致された経験もあるのが笑えない。あの時は大惨事になった。さんざん大騒ぎした後、大笑いしているのはお姉ちゃんくらいのものだった。

 

(お姉ちゃんがしばらく仕事でミソラタウンからいなくなっていてよかった)

 

 ハジメのおじいちゃんの家に行くことはユーゴには伝えてある。ハジメのお爺ちゃんの家に泊まることは今までにも多々あったし、今回もそうだろうと楽観視するだろう。けれど徒歩40分は行こうと思えば行けるものの、気軽に行こうとは思わない。

 

 けれどDホイールがあれば話は別だ。

 ちょっと様子を見に来て、ナギがいないことに気付いて、大事にしていたかもしれない。

 

「やってしまったなぁ」

 

 ナギは姉に心配はかけたくないのだ。

 姉にかかるであろう苦労は取り除いてやりたい。

 幸せになってほしい。

 エルも自分に対して似たようなことを考えているのは知っているので、知られなくてよかったと思った。

 

『よぅ。目覚めたか』

 

 すると、聞きなれた落ち着いた声が聞こえてきた。 

 ナギのデッキに宿る精霊である。知らない場所にいるので、この声が安心する。

 アンデットからの呼び声であるのに、まだボクは生きているという実感が持てる。

 

 

「おはよう王様」

『おぅ』

「ここ、どこ?」

『昨日会ったデュエリストの家だ。ミソラタウンの中だぞ』

 

 知っている景色があるだろうかと、窓を開けて顔を出そうとしたときに、ちょうどドロシーが様子を見にきた。彼女はナギが起きていることに気が付くと、心の底から安堵したように笑顔を浮かべた。

 

 

「ナギさん!おはおうございます!」

「昨日はご迷惑をかけました……申し訳なかったですよ……」

「そんなことは気にしないでください。起きてくれてよかったです。これから朝食にしようと思うので、一緒にどうですか」

「……そうですね。では、おことばに甘えます」

 

 ドロシーに連れられて部屋を移動する。

 豪華な食事があった……というわけではないが、昨日会ったばかりの人からの親切でいただくものだ。

 どんなものでもうれしかった。 

 

「いただきます!」

「遠慮しなくてもいいですよ。わたしは断食生活慣れてますし!」

 

 瞬間的に、箸をおいた。

 

「え?やっぱりやめましょうか!?ドロシーさんこそちゃんと食べましょう!なんなら後でボクたちの家に来てください!ごちそうしますから!ボクが魚を捌きますから!最近塩焼きを覚えたんですよ!」

「大丈夫です!そこまで貧乏はしてないですよ!あ、でもいざとなったら食べに行きますね。じゃあ私はみそ煮のやり方でも教えましょうか?」

「ぜひおねがいします」

 

 普段のナギだったらエルが心配しているかもしれないとすぐに断っていたかもしれないが、ドロシーが相手なので聞きたいこともあったのだ。それゆえに、純粋に提案してくれたのはうれしかった。うれしかったのだが、本当にもらっていいものなのかと別の意味で心配になった。今度お礼の品に何か食べ物を持ってくることにしよう。冷蔵庫とリンちゃんと帰ったら相談しよう。

 

 

「ドロシーさん。昨日のデュエルの途中でお聞きしたかったことをお尋ねしてもいいですか?」

「なんでしょうか」

「ドロシーさんはギフトデュエリストについて詳しいんですか」

 

 昨日のデュエルでドロシーは、ナギのことをギフトデュエリストなのかと聞いた。

 

 ギフトデュエリストとは日頃は聞きなれない言葉であるが、ナギにとっては意味を持つ言葉だ。

 

 ユーゴやリンがギフトデュエリストという言葉を聞いても、何それを答えるだけだろう。

 その反応が一般的なのだ。

 

 二人が無理だということはなく、精霊と関わらない限りはまず聞くことがない言葉だからである。

 

 ギフトは贈り物を意味する。

 そして、神様からの贈り物のことを才能という。

 

 精霊の力を使える、という才能のことをギフトと称し、その力をもつデュエリストをギフトデュエリストという……らしい。

 

 らしい、なんて他人事のような反応なのは、ナギ自身にその自覚がほとんどないからだ。

 ギフトデュエリストといえる存在を、大して知らないのだ。

 

(ボクが知ってるといえるギフトデュエリストって、あの子だけだからなぁ)

 

 精霊の声が聞こえるという発言をする人間には、ナギは今までにも何人かと出会ったことはある。

 しかし、あくまでもナギの知り合いという立場ではなかった。

 出会っただけで人となりなんて知らないやつがほとんどだ。

 

 唯一、友達ともいえる存在だったギフトデュエリストは、自分が天才デュエリストだなんて言われていたそうだが、本人は才能があるなんて微塵も思いもしないような人だった。近所を回れば見つかるくらい気軽に会える存在ではないのだ。絶対数として、どれだけいるのかわからない。シティ中を探し回っても、100人はまず見つからない。10人いるかいないかだと思っている。

 

(ボクが昔にやらかしたことを考えれば、お姉ちゃんに聞くなんて恥知らずもいいところだ。そもそも、ギフトデュエリストの中でもそんな名前がついているって知っているやつほとんどいないんじゃないかなぁ)

 

 精霊のことは見えるやつは探せば見つかるかもしれないが、ギフトデュエリストという名称で呼ばれていることを知らないやつが大半だとナギは考えている。王様(ワイトキング)がいうには、精霊の中でも対話できるタイプはそうはいないらしい。そこらの連中と一緒にしないでほしいというのは、王様の弁である。精霊が見えても、会話ができないので、単なる愛玩動物のように思っているやつもいるのだろう。王様がいうには、ナギは一般的なギフトデュエリストからは外れているらしいが、ナギがその一般的な奴を知らないのだ。ドロシーさんは知っているのだろうか。

 

 

「わたし自身には精霊を見る力はありません。けど、精霊に友人がいるんですよ。ギフトデュエリストの持つ精霊はデッキに眠っていますが、精霊自身の力で実体化することもできます。その時に出会ったんです」

「精霊にお友達が?」

「えぇ。今は真尾(マオ)という名前でいろんなところを見て回っているそうです」

 

 

 精霊が自力で実体化できるとは知っていた。

 精霊はそもそも、人間以上に多芸なのだ。

 ただ、自力での実体化はデメリットが大きいからやりたくないと王様は言っていたことがあることを覚えている。

 

 

「ドロシーさんのデッキにはいませんよね?」

「えぇ。あの方は誰かのデッキにいる精霊というわけではありませんでした。あの人はデュエリストの力を借りず、自力で精霊世界からやってきたそうです」

 

『………』

 

「そして、わたしにいろいろと教えてくれました。その中に、ギフトデュエリストという存在もいることを教えてもらったんですよ」

 

「ん?ということは、ドロシーさんは他のギフトデュエリストを知っているわけではないのですか?」

「今覚えば、あの人はそうだったのだろうという心当たりがある人は見たことがあります。けどその程度しか知りません。だから、ナギさんを見たときにはびっくりしました」

 

 ナギがドロシーのことをギフトデュエリストというものを知っている存在だとして話がしてみたかったように、ドロシーからしても、実物のギフトデュエリストを話をしたかった、ということだろう。

 

「私が墓場に結界を張っていたのを覚えてます?」

「はい。あれは精霊の力と王様から聞いたので、何が来たのかとビックリしましたよ」

「あれは、私が出会った精霊から授かった力の一部なんですよ。ギフトデュエリストと精霊は本来一蓮托生であり、上下関係はありません。相棒です。ですから、大抵の場合、精霊は願いをギフトデュエリストにかなえてもらう報酬として、力を貸すことが多いみたいです。私の場合、遠回りに精霊から力を授かっていますので、私も一応ギフトデュエリストになるのでしょうが、それを名乗るレベルではないようですね」

 

『そらそうだ。デッキに精霊がいないのに、力を与えようとしたらどうしても力が落ちる。なるほどな。俺様を視認できない程度に能力が弱体化して中途半端な形となっていても無理はないか』

 

 ナギにとってはそのあたりのシステムは理解が及ばないものの、ワイトキングからしたら納得のいくものだったらしい。王は精霊の力を使いつつ、本人に自分が視認でいていないというちぐはぐさが気になっていたようであったらしい。

 

「ところで、ナギさんもギフトデュエリストなら王様からの何か願いや使命があるのですか?」

「いいえ。王様はとくには何も……」

『俺様のやりたいことといっても、なぁ。そもそも俺様は大してナギに力渡してない……』

 

 屍たちの王(ワイトキング)はその能力の特性として、仲間がそろうことによって加速的に能力が強くなっていく。

 

 王様と出会ったばかりのころは何もできなかったのだが、デッキにワイトが増えていくたびに可能なことが累乗のごとく増加した。今ではナギに少し力を貸す程度のこと、なんてことはないのだ。しかし、ナギ自身王様をカードとしてデュエルで使うことはあっても、精霊としての力を必要とする場合がないのだ。あくまで、平和に生きている分に関してはであるが。

 

 

「ドロシーさんは何か頼まれたんですか?」

「えぇ、友人の頼みですからね。わたしはカードショップをやろうと思います」

「え?」

「カードショップをやろうと思います」

「ど、どこでですか?」

「もちろんこのミソラタウンを考えています」

「……」

「このミソラタウンを考えています。」

「聞こえなかったわけではないんですよドロシーさん……」

 

 呆然とするナギに対して聞こえなかったと判断したのかドロシーは反芻させるものの、ナギが呆然とした原因はもちろん難聴ではないのだ。

 

「正気ですか?」

 

 ミソラタウンは平和な町である。

 だがそれはサテライトでは、という前提がつく。

 

 事実だけを述べるとしよう。

 ミソラタウンとは、町の未開発を引き換えに安全を確率した町であるのだ。

 

 工業がさかんな町では金目のものが開発される。そしてそれを目当てに多くの人間が集まるのだ。 

 そこにはいい人も集まるし、悪い人も集まる。

 

 対し、ミソラタウンは産物もないので人が集まらない町なのだ。

 

 エルだって、孤児院の院長をやっているが、そもそもこの孤児院の運営のもととなる資金はミソラタウンで手にしているものではない。エルが昔一緒にデュエルチームをやっていた仲間たちと強引に企業化させて、その資金をもとにやっているのだ。エルが仕事としてミソラタウンから出ていっているのはそのためである。

 

 

「この町でやっても儲かるとは思えませんよ」

 

 

 強いカード。弱いカード。

 

 その違いは確かに存在する。

 

 使い道のないカードは存在しないのといえたとしても、弱いカードは存在しないというデュエリストはいない。誰だって、デュエリストならば自分のデッキこそが最強であると信じて戦うものだからだ。

 

 当然、強いカードは高価な値段で取引されるし、弱いカードなんて最悪捨てられる。

 

 このミソラタウンで強いカードの販売をしたところで、買うだけの余裕があるやつはいない。

 弱いカードは取り扱ったところで儲けは出ない。詰みである。

 

 カードショップを経営したところで、食べていくことができる気はしないのだ。

 

「ドロシーさんほどのデュエリストなら、シティで活躍できるでしょう。いえ、トップスに行くことだってできるでしょう」

 

 サテライトとシティの間には大きな壁がある。

 それは精神的なものでもあるし、物理的なものでもある。

 

 大きな壁を越えなければ、サテライトの人間はシティに行くことすらできない。

 そしてシティに入れたとしても、日頃の生活が苦しければ、仕事を求めて最下層の区域に行かされる。

 

 しかし、デュエルが強ければまた話は別だ。

 ルナの存在が過激化するとともに、シティは強いデュエリストを求めている。

 

 デュエルが強ければ、シティでの立場は盤石である。

 護衛という形でトップスへと招かれることだってある。

 

 一度デュエルしたからこその感覚だが、ドロシーは自分とのデュエルで全力を出していない。

 

 まじめにはやったのだろうが、絶対に勝つというだけの気迫がまるでなかった。

 

 その気になればもっと強いのだろう。 

 それゆえにカードショップという方向に行ったことが理解できず、ドロシーさんは何を考えているのだろうかと思案していたら、アドバイスが念話という形で飛んできた。

 

 

(ナギィ。オマエ、わからないのか。全く、お前はダメだなぁ)

(王様!まさか王様は理解しているというの!王様は頭が空っぽなのに!)

(馬鹿を言うな。俺様は筋肉はないが、それでもそこらの連中よりはパワーを出せるんだ。つまり骨で筋肉を代用できる。そして、頭が本来筋肉でできているのだとしたら、頭も骨で代用できるとわからないか?よって、パワーが出せる俺様は頭がいい)

(な、なるほど!)

(教えてほしいか?)

(是非に!)

(いいか。話のポイントはここだ。まず、ドロシーは金を稼ぐ必要なんてないのさ)

(どうして?)

(今のお前とエルと同じだよ。金を稼ぐ奴が別にいるのさ)

(……!わかったよ!王様!)

(よし、俺様達の察しのいいところを突き付けてやるのだ!)

 

 

 相棒のアドバイスを受けて、ナギは一つの結論に達する。

 ドロシーには、生活費を稼ぐ人が別にいるのだろう。

 ナギの場合はエル。彼女は実の姉だ。

 

 ナギ自身、なんとか商売でできることはないかなと工夫を考える年齢でしかないが、ドロシーは外見から判断してエルよりも少し年上程度だろう。つまり、20歳前後。20歳前後にもなって、生計を親兄弟に頼るということはないだろう。そうなると最も考えられる可能性は、

 

「ド、ドロシーさん!ご結婚おめでとうございます!」

 

 ドロシーさんは結婚するのだろう。または、すでに結婚しているのだろう。

 そして、このミソラタウンを拠点とする新婚夫婦として暮らしていくつもりなのだろう。

 

 ボクの完璧な推理に、ドロシーさんはぽかんとしていた。

 

「旦那さんはどちらですか?好きなものはありますか?お姉ちゃんと二人でまた挨拶に来るので、できたら旦那さんがいる時間を教えてください!」

「ま、待ってください!どうしてそうなったんですか!?」

「必然の流れです」

「違いますよ!勘違いです!私はまだ独身で、まだ……まだ……うぅう」

 

 ナギの声を否定する声が徐々に自虐的になっていく。

 あれ、しくじったのかとその時点でようやく気が付いた。

 

(バカな!俺様の推理は完ぺきだったはずだ!一体どこで狂ったというのだ!)

 

 相棒の動揺する声が聞こえてくるが、ドロシーの手前言わないことにした。

 ナギ自身王様の頭がからっぽである可能性を考えたくなかった。

 

「わたしはこれまでデュエル一筋で、ずっとデュエルばかりやっていたからなぁ……」

 

 遠い目をしドロシーをなんとかフォローしようにも、そのフォローはナギの最愛の姉に対してもぶっささるような気がしたので何も言えなかった。

 

(ボクがいなければ、お姉ちゃんもボクを育てるという重荷もないし、あれだけ素敵な人なんだからとっくに彼氏見つけて結婚してるだろうなぁ)

 

 そして、ナギの目も死んでいった。

 二人とも無言になった。

 

「「…………はぁ」」

『……あれ?どうした、お前たち。おーい!』

 

 ひとまず先に我に返った王様は、ナギの心を冷やしてみた。

 優秀な精霊は精神干渉をすることもできるのである。

 

「寒気がするッ!はっ!ド、ドロシーさんのデッキのモンスター、格好いいと思います!特にあの黒い天使たちが!」

「あぁ……わたしの堕天使ですか」

 

 なんとか話題を変えることにする。その仮定で気になっていたことを聞いてみることにした。

 

「ドロシーさんは本来のデッキは堕天使なんですか?デュエルの前半と後半で戦い方が違っていた気がしますけど」

 

 ナギとのデュエルでドロシーが使用したモンスターは、前半で光の天使の使者。後半が闇の天使。

 

 天使族というくくりでデッキを組んでいることは疑問には値しないが、対峙してみて、随分と毛色が異なるものだと感じた。ナギも多くのアンデットを使うものの、最終的に行きつくには王様だ。ドロシーにとっての王様は、堕天使たちなのかと考えたのだ。

 

「実は、昔にデッキを変えたことがあるんですよ。それが堕天使です。光の天使たちがまだ入っているのは、昔のデッキの名残ですね。本当なら堕天使だけでデッキを作れるんですけど、どうにも思い出があるせいか外せないんですよ」

 

 困ったものですね、とドロシーは微笑んだ。

 

 デュエリストの腕は精神状態を大きな影響を及ぼす。

 自分に合うデッキ、合わないデッキは存在する。

 

 心境の変化でデッキが変わったというのなら、きっと今のドロシーに一番合うのは堕天使のみで戦うことなんだろう。

 

 けれどそうせずに、昔のこともひきづったまま戦うことにしたドロシーに対して大したものだとナギは思う。デッキとしては弱くなっても、デュエリストとしての精神によって時にはデッキパワーを凌駕する。

 

 カードに対する愛情が深い人なのだと、ナギは思った。

 

 それからご飯を一緒に食べながら、ドロシーさんの大体の人となりを理解する。

 カードだって使ってもらいたいのだから、その主を探す手伝いをする。それが今のドロシーの目的だ。

 

「ドロシーさん。よかったら、ボクも……」

 

 そんなドロシーの目的に協力したいとは思い、そのことを申し出ると、彼女は喜んでくれた。

 

「ありがとう。ナギさん」

「具体的な行動について、とりあえずはお姉ちゃんが帰ってきてから、また考えるとしますよ」

 

 しかし、悲しいことに、ナギには行動力がない。

 11歳でできることが大したことがないのだ。

 王様の力を借りるにしても、やれることは肉体労働くらい。

 根本的なことは何一つとして解決していない。

 

 初手で姉に相談するという現実に泣けてきた。

 

「お姉さんはどんな人なんですか?」

「このミソラタウンの事実上の顔役に近い人です。きっと力になってくれますよ」

「お名前は?」

「エル・アーネストといいます」

「エル?……エル?あれ、どこかで聞いたことがあるような気も……あれ?」

 

 エルは今でこそこのミソラタウンを拠点として生活しているが、昔はデュエルチームで活躍していたのだ。本人が言うには自分はそこそこ強かったらしいので、名前が少しは売れているのだろう。ドロシーさんが聞いたことがあっても疑問はない。

 

「んー?」

 

 しばらく考えていたようであるが、どうにもダメそうである。

 どのみち、名前が分かったところで会ってみないことには始まらないのでいいとしようか。

 

「ではドロシーさん。お姉ちゃんが帰ってきたら、また二人であいさつに向かいますね。一晩泊めていただいた礼ありますし」

「それじゃ送っていきますよ」

 

 ドロシーは玄関にでると、Dホイールを引っ張り出してきた。

 Dホイールを持つデュエリストは一定の力を持つ証。

 ドロシーが持っているのは当然かと思う一方で、やはりうらやましいと思った。

 

 いつか自分のDホイールを持てる日が、来るのだろうか。

 いつか、自分に自信を持てる日が来るのだろうか。

 

「それでは行くますよ。しっかりとつかまってくださいね」

「はい!」

「それと道案内お願いします。まだちょっとこの辺りについてはよくわかってませんから」

 

 ナギとドロシーが向かう先は、ナギやユーゴが普段住んでいる教会……ではなく、ハジメの家である。

 ハジメの依頼で墓地へ言ったはいいものの、そこから報告などしていなかったため、心配しているだろう。顔を見せて安心させてあげよう。

 

 しばらくDホイールで静かに移動していると、途中に昨日ドロシーと出会った墓地が見えた。

 

「実は、最初はデュエルギャングでも居座っているのかと思っていたんですよ。ドロシーさんでよかったです」

「そ、そんな風に思われていたんですか!?あ、そういえばどうしましょう。除霊の途中だったんですけど……」

「それについては、ボクが何とかしておきますよ。得意分野なので」

「それじゃあよろしくお願いしますね!」

 

 まぁ、仕方ないか。やってやるかという王様の反応を見て微笑んでいると、轟音が鳴り出した。

 急なことだったので、ビビッて後部座席からドロシーの身体を強く抱きしめてしまう。

 

「ひゃう!」

「ご、ごめんなさいドロシーさん!」

「ナ、ナギさん!しっかりつかまっていてください!行きますよ!」

 

 ドロシーはアクセルを強く踏み、Dホイールが加速する。

 

「え?ドロシーさん?」

「今の音は爆発音に近いです!何かあった可能性がありますから飛ばしていきます!」

 

 そして、行きついた先はハジメの家。

 ハジメの家は、仕事場の鍛冶場の近くに存在しているので、周囲に他の家はない。

 

 だからこそ、家の状態がすぐにわかった。

 

 ハジメの家の壁に、ヒビが入っていたのだ。

 

「院長先生!」

 

 そして、ハジメは外壁に叩き付けれたかのように倒れていた。

 

「先生!しっかりしてください!院長先生!」

「……おぉ。ナギか。帰ってきたのはうれしいが、逃げるのじゃ……」

「先生!」

 

 ハジメはもう70を過ぎている初老の男性だ。

 仕事も引退し、あとは趣味の時間に生きるような人物だ。

 激しい運動なんてできるはずもない。重症なのは見て取れた。

 

「おじいさんにこんなことをしたのはあたなですか!」

「……」

 

 そして、ハジメを壁に叩き付けたのであろう人物見て、ドロシーが声を挙げる。

 そこには生気のない20代くらいの男性がいた。

 

「こんなおじいさんを相手にして、恥ずかしいとは思わないんですか!」

「……千秋(ちあき)を出せ」

「へ?師匠?」

 

 千秋(ちあき)というのは、ハジメの孫娘だ。

 

 考古学を専攻しており、ナギにもよく教えてくれている。

 ナギは千秋の語る歴史の話が好きだったことや、使用するデッキも近いところがあるので、名実ともにナギの師匠と呼んで慕っている。千秋はエルと同性代だということもあって、なぎのことをかわいがってくれていた。

 

 

「どうして師匠が……」

「もう一度言う。千秋を出せ」

「院長先生。これはいったい……」

「さぁな。じゃがわかることは、あの娘はまた変なことに巻き込まれてそうだということだ―――――――ウッ!」

「院長先生!」

 

 ナギが肩を貸すが、ハジメはまだふらついている。

 早く寝かせてあげないといけないと思うが、状況がそうはさせてくれない。

 

「しらばっくれるなら、もう一度見せてやる」

 

 そういうと、目の前の男はカードを取り出した。

 

「……まずい!逃げるのじゃナギ!」

 

 そして、すべてを薙ぎ払うかのような暴風が吹き渡った。

 近くにあった森の木が折れる。少し遠くの墓の墓標が倒れる。そして目の前のナギたちは、二人そろって風に飛ばされようとして、

 

 ―――――――――バサッ!

 

 黒い羽が、すべてを遮った。

 ドロシーの堕天使が、現界していたのだ。

 

 現界しているのは堕天使だけではない。

 ナギの相棒(ワイトキング)もまた、現界してナギとハジメの二人を背中か二人を支えていた。

 

「お、王様」

(ナギ。相手は精霊だと思え)

「はい?精霊?」

(あぁ、厳密には、精霊の力を感じるが、どうも本体の力を感じない。おそらく、精霊に操られているか、力にとりつかれたか、そのどちらかだろう。いや、人間かどうかもあやしいな。人形かもしれない。死体を操っ五るのかもしれない)

「じゃ、じゃあ院長先生は……」

「どのみち、あいつの力をもろに受けてしまったということだろう」

 

 ワイトキングの言葉を前に、ナギは目の前の男に立ち向かおうとする。

 一歩踏み出そうとしたら、そのまえにドロシーの手によって静止された。

 

「ドロシーさん?」

「この人は私が相手をします」

「でも、ドロシーさん!相手は精霊ですよ!」

「私も、精霊とは縁がある。戦えないことはありません。あなたは早く、おじいさんを手当てをしてあげてください!私には、おじいさんのことを知らないあなたのほうが、私がやるよりも安心できるはずです!」

「でも……」

 

 戸惑うナギに対して、ドロシーは言った。

 

「大丈夫。こう見えても私、そこそこ強いんですよ」

 

 昨日デュエルをしてわかっている。

 ドロシーが勝てない相手に、今のナギは勝てはしない。

 

(そういうことだ。いくぞ、ナギ)

 

 ワイトキングはドロシーを一瞥すると、ナギをハジメをそれぞれ片手でかかえて飛び去って行った。

 そして、それを追おうとする男に対し、どこにいくつもりかと冷たい目でドロシーは問う。

 

「まさか、戦意のある相手を無視したりはしないですよね?」

 

 二人の間にしばしの沈黙が流れ、として無言のまま戦いがスタートする。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

??? LP8000 VS ドロシー LP8000

 

 

「俺の先行だ。フィールド魔法、フューチャー・ヴィジョンを発動する」

 

 

《フューチャー・ヴィジョン》

 

フィールド魔法

 

このカードがフィールド上に存在する限り、自分または相手がモンスターの召喚に成功した時、そのモンスター1体を選択してゲームから除外する。

召喚したモンスターのコントローラーから見て次の自分のスタンバイフェイズ時、この効果で除外したモンスターを表側攻撃表示でフィールド上に戻す。

 

「この効果によって、通常召喚したモンスターは互いに次の自身のスタンバイフェイズまで除外されることとなる」

 

「……強制的にタイムラグを生じされるフィールド魔法ですか」

 

 

 通常召喚を起点にして動いていくデッキというものは多い。

 このフィールド魔法によってワンタイムのタイムラグが、生じていく。

 デッキによってはそのラグは致命的なものとなってしまう。

 

「俺は神獣王バルバロスを通常召喚。こいつはレベル8のモンスターだが、リリースなしでも妥協して通常召喚することができる。そしてこの瞬間、バルバロスは未来へと跳ぶ。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

???

LP8000

HAND:2

FIELD:フューチャー・ビジョン

REVERSE:1

Exclusion:神獣王バルバロス

 

 強制的に召喚したモンスターが未来へと跳ぶ。

 そんな状況は、味方によってはドロシーの優位である。

 通常召喚しなければいいだけなのだ。

 

「私のターンッ!行きますよ!私は手札のヘカテリスを墓地に捨てることで、その効果を発動します!デッキから永続魔法、神の居城-ヴァルハラを加えます。そして、私は神の聖域を起動させます。さぁ、出て来なさい!」

 

 永続魔法が起動する。

 神が存在し、神に仕えた天使たちが待機している城が出現する。

 

 神の居城ーヴァルハラはこの効果は自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動と処理ができる効果がある。その内容は、

 

「居城から1ターンに1度、自分メインフェイズに聖域(手札)から天使族モンスター1体を降ろすことができます!居城から地上へと堕ちてきなさい!堕天使アスモディウスッ!」

 

 ドロシーも遠慮はない。

 最初から全力で、叩き潰すつもりでやる。

 

「アスモディウスは一ターンに一度、デッキから仲間を墓地へと堕ろすことができます!堕天使スペルビアを墓地へと堕ちさせます!」

 

 特殊召喚したモンスターは未来へと送られない。

 今のフィールドはがら空きだ。この機を逃すまいと、ドロシーは先制攻撃を仕掛けた。

 

「攻撃です!」

 

 アスモディウスの攻撃力は3000。

 アスモディウスはその黒き羽を剣のような鋭さをもって、敵に向かっていった。しかし、その途中にアスモディウスの目の前に爆弾が出現する。

 

「罠発動、万能地雷グレイモヤ。相手の攻撃力の一番高いモンスターを粉砕する」

「…………甘い!」

 

 爆弾によって、黒い煙が巻き起こる。

 視界が遮られる一瞬で、黒い羽が男に向かって飛んで行った。

 

「!?」

 

???

LP8000 → LP6200

 

「……?」

「わたしの堕天使をなめないでくださいね。そこらにいるような優しい慈愛に満ちた者たちではないのです。むしろ、堕天使とは神に背いてでも一念を果たそうとする人たち!意思の強さは並大抵のものではないですよ!」

 

 煙が晴れると、ドロシーのモンスターは二体へと増えていた。

 

「増殖?」

「いいえ。単に、両翼を引きちぎっただけです。そして、翼から生まれた怨念が、再び天使の姿を形作っているだけです。アスモディウスが分かれた姿。アスモトークンとディウストークン。先ほどの言い撃破アスモのもの。次はディウストークンで攻撃します!行きなさい!」

「ぐ!」

 

???

LP6200 → LP5000

 

「私は、カードをカードを二枚セットしてターンエンドです!」

 

ドロシー

LP8000

HAND:2

MAIN:アスモトークン(ATK1800):効果では破壊されない。

   ディウストークン(ATK1200):戦闘では破壊されない。

REVERSE:2

TABLE MAGIC:神の居城ーヴァルハラ

 

 

???

LP5000

 

 

「俺のターン。ドロー!この瞬間、フューチャー・ビジョンの効果により、バルバロスが戻ってくる」

 

HAND:HAND:1→2

MAIN:神獣王バルバロス(ATK3000)

 

「神の名を持つ獣の王ですか……いいでしょう!わたしの堕天使の相手にとっては不足なし!」

 

 むしろ、神の名前を持つモンスターが相手でデッキが喜んでいるのをドロシーは感じ取った。

 

「さらに、可変機械獣ガンナードラゴンを通常召喚。通常召喚したこのモンスタはまた未来へと送られる。バルバロスでアスモトークンを攻撃」

「……この程度、まだまた様子見に過ぎないですよ」

 

ドロシー 

LP8000 → 6800

 

「ターンエンド」

 

???

LP5000

HAND:1

MAIN:神獣王バルバロス(ATK3000)

EXCLUSION:可変機械獣ガンナードラゴン

FIELD:1 フューチャー・ビジョン

 

「では次は私のターン」

 

ドロシー 

LP6800

HAND:2 → 3

MAIN:ディウストークン(ATK1200):戦闘では破壊されない。

REVERSE:2

TABLE MAGIC:神の居城ーヴァルハラ

 

「ドロー」

 

 ドロシーはドローしたカードを見つつ、相手のデッキについて分析する。

 

(先ほどのターンまででいうと、相手のデッキは力を封印されているモンスター中心のデッキ)

 

 正確には、召喚した時に能力に制限がかかってしまうモンスターメインのデッキ。

 フューチャー・ビジョンによって未来に飛ばすことで、そのデメリットを消しているのだろう。

 

(私の伏せたカードの一枚は、天罰。手札一枚を捨てて、効果モンスターの効果発動を無効にして破壊するカウンター罠。けど、相手がモンスター効果を発動して使う類のデッキではなさそうね。効果を使うときはないかもしれないわね。まぁいいわ)

 

「どのみち、ご老人に無礼を働く無礼者は上から叩き潰します!天使モンスターであるディウストークンを神への貢物として、聖域(手札)から堕ちてきなさい。堕天使ディザイア!」

「ザァアアアアアア!!!!」

「ディザイアは天使一体をリリースして通常召喚できる能力があります!」

 

 ディザイアとは欲望を意味する。

 欲望に従い、神からの追放を受けた天使が降臨した。

 

「だが、通常召喚したモンスターは未来へと送られる!」

「神の摂理に歯向かうことは、得意分野です!手札から速攻魔法、禁じられた聖槍を発動します!」

 

《禁じられた聖槍》

 

速攻魔法

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が800ダウンし、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない

 

「これでディザイアは現在に残ります!」

 

 堕天使ディザイア ATL3000 → ATK2200

 

 

「さらに、堕天使ディザイアは自身の攻撃力を1000下げることによって、相手フィールドのモンスター一体を墓地へと送ることができます!消えなさい!神の使途の獣の王!」

 

 堕天使ディザイアATK2200 → ATK1200

 

「場が空きました!堕天使ディザイアでダイレクトアタックです!」

「……」

 

???

LP5000 → LP3800

 

「ターンエンド。そして、聖なる槍の効果は消え、ディザイアは800の攻撃力を取り戻します」

 

ドロシー

LP6800

HAND:1

MIAN:堕天使ディザイア(ATK2000)

REVERSE:2

 

 

「俺のターン」

「……ドロー!」

 

 

 次は相手のターン……なのだが、ドロシーはその様子を見て疑問を感じる。

 状況は決して不利ではない。

 

 むしろドロシーがデュエル開始時からずっと優位にデュエルを進めている。

 だからこそ気付いた疑問だ。

 

(あの人、顔色が全く変わっていない……顔色が悪かったのは最初からだけど、こうも変化がないものなの?)

 

 デュエルで不利な状況になれば、大抵の人間はアクションを起こす。

 それがプラスのものであっても、マイナスのものであってもだ。

 

 自分のデッキを信じてドローする場合にも、決意が宿る。

 

(あの人からは何も感じない)

 

 だからこそ、淡々とデュエルを進める相手が、本当に感情を持っているのかとすら思う。

 フィールドに攻撃力2800のガンナー・ドラゴンが帰還して、その機械の龍を見る。

 

 当然無表情である機械の龍の姿が今相手をしているデュエリストそのもののようにすら見えた。

 

???

LP3800

HAND:1→2

MAIN:ガンナー・ドラゴン ATK(2800)

FIELD:1 :フューチャー・ビジョン

 

「いけ。ガンナードラゴン。ディザイアを攻撃だ」

 

 ガンナードラゴンは背中から鋸を出現させ、高速回転させて切りかかってくる。

 無言で実行されるその動作が、自分の意思のなさを示しているかのようだった。

 

「リバースカードを発動します!速攻魔法、禁じられた聖杯!ディザイアよ、聖杯の力をもって、本来の強欲さを取り戻しなさい」

 

 夢というものは原動力である。夢を叶える。夢が破れる。

 どちらにせよ夢を失うことは原動力を失うことを意味している。

 堕天使ディザイアという天使は、自分の願望をかなえるとともに気力を失っていく天使であった。

 

 その天使が、聖杯によってかつての夢を見た。

 

「グォオオオオオオオオオオ!!」

 

 堕天使ディザイアATK2000 → 3400

 

 もともとの秘めたる欲望を取り戻すことで、力を取り戻した堕天使が迎撃にはいる。

 そのまま機械の龍を粉砕すると、ドロシーは信じていた。

 

「手札から速攻魔法発動。リミッター解除」

「!?」

 

 リミッター解除。

 その魔法が公開された瞬間に、ドロシーは自分の不利を悟った。

 

 リミッター解除は自分の機械を暴走させて、己のスペックを強引に引きずり出すという魔法。

 機械には感情がないので、己の身体を無視した力を無理やりなら出せるのだ。 

 

 ガンナードラゴン ATK5600 VS 堕天使ディザイア ATK3400

 

「ぐゥ……」

 

ドロシー

LP6800→LP4400

 

 秘めたる欲望では届かない。

 

 堕天使は身体を真っ二つにされて、現世から消え去った。

 けど、それは相手も変わらない。

 

 過剰な力を引き出したものの末路なんて、自滅以外にはないのだ。

 

「ですが、あなたのガンナードラゴンも自滅します」

 

 リミッター解除。

 その効果を受けたモンスターは、エンドフェイズに破壊される。

 

「……ターンエンド」

 

???

LP3800

HAND1

MAIN:

FIELD:1 フューチャー・ビジョン

REVERSE:0

 

「私のターン。ドロー!」

 

ドロシー

LP4400

HAND:1 → 2

MIAN:

REVERSE:1

 

 

「……」

 

 ドロシーはカードを引きつつも、やはり得体のしれないものに対する見方をやめられない。

 

(私が追い込んでいる。それは間違いない)

 

 相手の場のモンスターはいない。

伏せカードもない。

場にある者といえばせいぜいフューチャー・ビジョンくらい。

それも、神の居城から直接天使を堕ろすことができる今はそこまでの脅威とは思わない。

 

(あと、ライフは3800。攻撃力を4000以上出されたら負けるという状況なのに、この変化のなさは何?)

 

 不気味に思えど、やることは変わらない。

 

「私は永続魔法の効果により、手札から堕天使ゼラートを降臨させます!」

 

ゼラートは、かつて神の聖域を求めて旅をしていた戦士の成れの果て。

神の力を手にする前から優秀な戦士だった彼は、神の力を手にしたことで高い攻撃力を持つ。

その値、2800。

 

「ゼラートでダイレクトアタックです!」

 

???

LP3800 → LP1000

 

「さらに、カードを一枚伏せてターンエンドです」

 

ドロシー

LP4400

HAND:0

MAIN:堕天使ゼラート(ATK2800)

REVERSE:2

TABLE MAGIC:神の居城―ヴァルハラ

 

「俺のターン」

 

???

LP1000

HAND:2

 

「俺は手札から強欲で金満な壺を発動する」

「私の知らない壺!?」

 

《強欲で金満な壺》

通常魔法

(1):自分メインフェイズ1開始時に、自分のEXデッキの

裏側表示のカード3枚または6枚をランダムに裏側表示で除外して発動できる。

除外したカード3枚につき1枚、自分はデッキからドローする。

このカードの発動後、ターン終了時まで自分はカードの効果でドローできない。

 

「この効果によって、エクストラデッキからランダムに6枚除外して、カードを二枚ドローする」

 

???

LP1000

HAND:1→3

 

「俺は墓地の獣戦士族モンスターと機械族モンスターを1体ずつ除外して、獣神機王じゅうしんきおうバルバロスUrウル手札から特殊召喚する。俺はガンナードラゴンとバルバロスを除外する」

「神の使徒の一体ですか」

 

出てきたのは攻撃力3800の大型モンスター。

けれどドロシーにとってはそこまでの脅威ではなかった。

 

 

「神への反逆者たちばかりを扱う私が、神の使徒のカードの効果を知らないと思ってますか!バルバロスUrはその攻撃力の代償として、相手にダメージを与えることはできないモンスターです!」

「手札からフィールド魔法、チキンレースを発動する」

 

《チキンレース》

フィールド魔法

(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、

相手よりLPが少ないプレイヤーが受ける全てのダメージは0になる。

(2):お互いのプレイヤーは1ターンに1度、

自分メインフェイズに1000LPを払って以下の効果から1つを選択して発動できる。

この効果の発動に対して、お互いは魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。

●デッキから1枚ドローする。

●このカードを破壊する。

●相手は1000LP回復する。

 

 

「チキンレース?」

 

 チキンレースとは度胸試しの一種のこと。

2台の自動車が同時に壁や崖に向かって突撃し、先にブレーキを掛けた方が臆病者(チキン)とされるゲームだ。

 

「たしかそのカードは、1000のライフで三つの効果のうちのどれかを起動するというもの。あなたのライフは1000。効果を使う余裕はない。そうなると、狙いは……フューチャー・ビジョンを消すことね」

「Urをリリースする」

「!?」

「そして、偉大魔獣ガーゼットを通常召喚する」

 

《偉大グレート魔獣まじゅう ガーゼット》

 

効果モンスター

星6/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げたモンスター1体の元々の攻撃力を倍にした数値になる。

 

「こいつはアドバンス召喚のためにリリースしたモンスターの倍の攻撃力を持つ」

 

偉大魔獣ガーゼット ATK7600

 

ガーゼットの攻撃力は7600。

そして、今のドロシーのライフは4400。

つまり、攻撃力が3200以下のモンスターと戦闘を行い、そのダメージを受けたらドロシーが負ける。

そしてドロシーの場には攻撃力が3000以上のモンスターはいない。

 

 この魔獣はきっと、どんなものでも取り込めるキメラ。

 黒い翼の天使を使うとはいえ、ドロシーもまた女。

 このキメラは直視していたい外見ではなかった。

 

「これで俺の勝ちだ」

「……あなた、勝利を目の前にしても表情が変わらないのね」

「話を聞く気はない。バトルだ」

 

 

 キメラの右腕が膨れ上がり、ゼラートに殴りかかってくる。

 この一撃を受けた段階で、ドロシーのライフは尽きる。

 伏せカードの一枚は使い物にならない。そんな状況だが、伏せカードは二枚あるのだ。

 

 

「俺の勝ちだ!」

「ダメージ計算時、リバースカードオープン、禁じられた聖典を発動!」

 

 

《禁じられた聖典》

速攻魔法

(1):お互いのモンスターが戦闘を行うダメージ計算時に発動できる。

ダメージステップ終了時まで、このカード以外のフィールドのカードの効果は無効化され、その戦闘のダメージ計算は元々の攻撃力・守備力で行う。

 

 

「互いの効果を発動したことにより、あなたのガーゼットの攻撃力が0となる」

「!?」

「そして、このカード以外のカードの効果はこの戦闘の間まで消える。つまり、チキンレースの効果も消えて、ダメージはあなたに通る!さぁわたしの堕天使よ、叩きのめしなさい」

 

 ダメージ計算時のタイミングで発動できるカードは限られている。

 聖典に対する反撃をくらうこともなく、堕天使は向かってきた魔獣の翼をへし折った。

 

「ぐぅううううううううううううう!?」

 

 そして、その勢いのまま相手のデュエリストを吹き飛ばした。 

 そのままドロシーは相手につかみかかった。 

 

「さぁ、いいなさい!あなたは一体何!? どうしておじいさんを襲ったの!?」

 

 ドロシーは詰め寄るが、相手は何も言わない。

 胸倉を締め付けようしたら、その瞬間に身体が崩れていく。

 

「!? あなたまさか……」

「………お見事」

「あなた、どこの配下?野良の精霊ってわけじゃないんでしょう!まさかルナ?違うわよね?」

 

 返答はなかった。

 体が崩れていく目の前のデュエリストに対し、ドロシーができることはない。

 

「………あぁ、デュエルで消えるのか。よかった」

「待って!わたしはドロシー!あなたを倒したデュエリスト!覚えておきなさい!」

「……あぁ。ありがとう。負けたものが、勝者に何も言わないのは不公平だ」

 

 そういって。目の前のデュエリストはドロシーだけに聞こえる声でつぶやいた。

 

 

「―――――――――――だ」

「!?」

 

 伝えることは伝えたと、そのまま彼は灰となって消えていった。

 チリとなり、風が吹くと跡形もなくなってしまう。

 ドロシーはそんなデュエリストの最後に、何を思ったのかは自分でもよくわからなかった。

 けれど、ただ一言つぶやいた。

 

「……物騒な世の中になったものね」

 

 

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