装甲悪鬼村正『遺産編』   作:烈火信仁

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プロローグ及び秘密の部屋

プロローグ

 

かつて、空を支配した2つの劔があった。

 

一つは大和の空で、もう1つは独逸の空で、共に恐れられ、共に称えられ、そして共に祖国の敗戦によって歴史の闇に消えていった。

 

歴史の闇に消えた筈の2つの劔。しかし消えてはいなかった。先世で空を駆け抜けた2

つの劔は再び歴史に現れる。

 

1組の少年少女の手によって。

 

 

第一話

 

大和の空は今日も碧い。だがそこに少年が望む光景が再現されることない。

 

「まあ、仕方ないか。大戦時じゃあるまいしね 」

 

そう言って少年は目線を窓の外から教室内に移す。

 

彼、剣崎達也を含めた31名のクラスメイト達は現在中間試験の真っ最中なのである。

 

科目は数学、達也が最も苦手とする科目である。そのため早々に問題を解くことを放棄して窓の外に意識を向けていたわけなのだ。

 

正直に言って達也は学校の勉学に積極的に取り組む気持ちにはなれずにいた。なにしろ先の大戦から10数年。いまだGHQ及び裏切り者たる六波羅軍の支配下にある大和国では、高校卒業後の進路といたって限られているからだ。

 

まして、達也の夢などまず実現不可能に近いといえる。

 

「よし、試験終了、用紙を回収するぞ!」

 

チャイム音が鳴ると同時に担任の鈴川が、全員の答案用紙を回収していく。

 

「おい、剣崎......お前、せめて1問くらい解いたらどうだ? 」

あきれ声で言う鈴川に達也は首を振って応えた。

 

「今の大和じゃあ勉強しても将来が見えないじゃあないですか?六波羅にGHQ.....それに最近じゃ『銀星号』.....これでやる気おこせっていわれても....... 」

 

「む.....まあ確かにそれはそうかもしれんが、それでも社会人としてやっていくためには、高校卒業資格がいるだろう?このままの調子だと本気で留年確定になってしまうぞ? 」

 

「それ言われると反論できない.......」

 

そう言って、達也は改めて教室内を見渡した。

 

クラスの同級生たちは、新田雄飛初めとした幼馴染4人、いわゆる4バカを含めて、やりきったという感じで机に顔をうずめている。

 

高校卒業に現時点では特に未練のない、達也と違いクラスの生徒の大半は、その大小の差はあれどこの先の進路について夢や希望を持っている。

 

それが達也にはまぶしくもあり、遠くもあり、そして寂しかった。

 

 

大和国が大和帝国であった時代、大和には内地に展開し、国土防衛を担っていたいわゆる六波羅軍や大陸向け、つまりロシア帝国への備えとされる大宰府軍のほかに当然ながら様々な軍集団が存在した。

 

達也が尊敬する大和帝国が誇るエース、坂井次郎海軍中尉が所属していたいわゆる南方軍もその一つである。石油資源が乏しい大和は先の大戦時、蘭印、ネーデルランド大公国が植民地として支配していたインドネシアに侵攻し、世界が驚愕したスピードで現地の蘭軍を撃破し、これを占領した。

 

軍の主力は後には明らかに戦力不足となるも当時のアジア地区では無敵を誇った戦車部隊、アジアでは随一の装備で固めた歩兵部隊、そして陸海軍共に保持し、当時技術的にアジア諸国には所有することは不可能とされた劔の量産タイプ、いわゆる『数打』。これらの装備を揃え、大和軍は破竹の勢いで大英連邦やネーデルランドの支配地域を次々に陥落させていった。

 

装備不足な上に本国を統合独逸連邦に抑えられている蘭軍はともかく、当時欧州随一にして世界的に見ても唯一と言ってよい超大国であった大英帝国の軍までもが初戦において各地で大和軍に敗退したというのは歴史的大事件と言えただろう。

 

そんな大和軍の快進撃を支えた多くの兵士たちの中に南方方面軍海上竜騎兵部隊に属する坂井もいた。

 

達也はそんな坂井の大ファンであった。坂井は戦後まで生き残り、『高空の侍』を初めとするいくつかの著作を世に出した。その内容は要約すれば坂井自身の戦闘録であるわけだが、そのリアルな戦闘の描写は、戦争を知らない多くの『戦後世代』を引きつけた。

 

いや『戦争を知らない』というのは少し語弊があるかもしれない、より正確に言うなら『戦場を知らない』というべきだろうか。先の大戦時に現在高校に在籍する年齢である達也たちの世代が現役兵士となる道理はない。戦争末期には『学徒動員』と称して学生も多くが徴兵されて前線へ赴いたが、それでもまだ達也たちは幼すぎた。

 

そんな世代に生まれた達也にとって『戦争』言い換えれば『戦い』に対する嫌悪感や恐怖と言った感情はほとんどないに等しい。達也たちの世代にとっては戦争をその人生の初期にわずかに体験はしているものの『生きた記憶』として残っていることはほとんどないために、実際にその時代を生きて経験した大人たちと違い、そういった感情を抱けないのである。

 

「どうか劔で空が飛べますように、どうか劔で空が飛べますように、どうか劔で空が飛べますように!」

 

そんな達也は学校の帰り道にある碧空神社に寄って柏手を叩いていた。この碧空神社はかの坂井次郎が終戦まで戦いで生かしてくれたことを神に感謝し、戦後に建立したことでその筋には有名な神社だった。

 

だがそれだけが達也が毎日ここに通い詰めている理由ではない。かれがここに来ているのはこの神社に隠されたある秘密の為である。

 

「さて、願頼みも済んだし.......いつもの御開帳に行きますか! 」

 

そういって彼は本堂の陰に隠れるように後方に建つ宝物庫に足を向けた。

この宝物庫、素人の達也でも解錠可能なレベルの南京錠で施錠されているのである。

 

坂井の遺品か何かが入れてあるに違いないという予想の元、素人覚えの解錠スキルで挑んだ達也はいとも簡単に、あまりにもあっけなく宝物庫の中に忍び込むことができた。

 

果たして宝物庫の中に、達也が予想した物品はなかった。だが『それ以上』のものが宝物庫の中、正確に言えば宝物庫の地下に隠されていたのである。

 

いつものように宝物庫の中に入った達也は、宝物庫の奥で足を止め、突然地面を思いっきり踏み鳴らす。するとまるで忍者屋敷の反転する壁よろしく床がくるりと上向きに反転し、持ち上がった。

 

「っと!」

 

持ち上がった床を慌てて支えながら、達也はゆっくりと慎重に、出現した地下への入り口へ身体を潜り込ませていく。

 

やがて完全に地下へ身体を潜り込ませた達也は力を抜き、床はゆっくりと元の位置に戻っていく、そして達也が完全に力を抜き、地面も音を立ててしまり、後には開いた痕跡すら残らぬいつもの床があるだけだった。

 

 

「相変わらず暗いな......マッチに火をつけて.......」

 

宝物庫の地下室で達也は持参してきているマッチに火をつけ、それで地下室に明かりをもたらすべく設置されている蝋燭代の蝋燭に順に火をつけていく。やがてすっかり明るくなった地下室の蝋燭の灯りが達也のお目当てのものを照らし出した。

 

「さて、ご開帳だね 」

 

達也は満面に笑みを浮かべて呟いた。

 

「今日も来ちゃったけど仕方ないよね。だって90式竜騎兵.......いや坂井次郎専用機、『零』をこんなに近くで見れるとこなんて、この秘密の部屋しかないんだから 」

 

 

 

 

 

オリジナル劔、及び登場人物紹介

 

『零』

かつて大和帝国海軍劔部隊のエース、坂井三郎が纏った当時の日本軍の主力数打『90式竜騎兵』の改装型の劔。機体の装甲を犠牲にしての高速機動と独自の改良による圧倒的な航続距離を有している。大戦末期に仕手であった坂井の手によってとある神社の中に隠され、見た目が旧式数内であったこともありGHQによる劔狩りからも逃れた。

 

 

『剣崎達也』

GHQによる暫定統治が続く大和で暮らす平凡な男子高校生。戦記好きであり、大和海軍劔部隊のエースであった坂井次郎の大ファンであり、彼の著書『高空の侍』をいつも携帯している。

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